黒死館事件24
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問題文
(なんだあれは、かぞくのひとりがころされたというのに きょうは、このやかたのせっけいしゃ)
「何だあれは、家族の一人が殺されたと云うのに」「今日は、この館の設計者
(くろーど・でぃぐすびいのきさいびでして・・・・・・としんさいはくるしげなこきゅうのもとに)
クロード・ディグスビイの忌斎日でして……」と真斎は苦し気な呼吸の下に
(こたえた。やかたのこよみひょうのなかに、きこくのせんちゅうらんぐーんでみをなげた、でぃぐすびいの)
答えた。「館の暦表の中に、帰国の船中蘭貢で身を投げた、ディグスビイの
(ついおくがふくまれているのです なるほど、こえのないれきえむですね とのりみずは)
追憶が含まれているのです」「なるほど、声のない鎮魂楽ですね」と法水は
(こうこつとなっていった。なんだかじょん・すてーなーのさくふうににているような)
恍惚となって云った。「なんだかジョン・ステーナーの作風に似ているような
(きがする。はぜくらくん、ぼくはこのじけんであのくわるてっとのえんそうがきけようとは)
気がする。支倉君、僕はこの事件であの四重奏団の演奏が聴けようとは
(おもわなかったよ。さあ、れいはいどうへいってみよう そうして、しふくにしんさいのてあてを)
思わなかったよ。サア、礼拝堂へ行ってみよう」そうして、私服に真斎の手当を
(めいじて、このへやをさらしめると、きみはなぜ、さいごのいっぽというところでついきゅうを)
命じて、この室を去らしめると、「君は何故、最後の一歩と云うところで追求を
(ゆるめたのだ?とくましろはさっそくなじりかかったが、いがいにも、のりみずはばくしょうをあげて)
弛めたのだ?」と熊城はさっそく詰り掛ったが、意外にも、法水は爆笑を上げて
(すると、あれをほんきにしているのかい けんじもくましろも、とたんに)
「すると、あれを本気にしているのかい」検事も熊城も、途端に
(ちょうしょうされたことはさとったけれども、あれほどせいぜんたるじょうりに、)
嘲笑されたことは覚ったけれども、あれほど整然たる条理に、
(とうていそのままをしんずることはできなかった。のりみずはおかしさをたえるような)
とうていそのままを信ずることは出来なかった。法水は可笑しさを耐えるような
(かおで、つづいていった。じつをいうと、あれはぼくのいちばんいやなどうかつじんもんなんだよ。)
顔で、続いて云った。「実をいうと、あれは僕の一番厭な恫喝訊問なんだよ。
(しんさいをみたしゅんかんにちょっかんしたものがあったので、おうきゅうにくみあげたのだったけれど)
真斎を見た瞬間に直感したものがあったので、応急に組み上げたのだったけれど
(しんじつのもくてきといえば、じつはほかにあったのだ。ただしんさいよりも、せいしんてきにゆうえつな)
真実の目的と云えば、実はほかにあったのだ。ただ真斎よりも、精神的に優越な
(ちいをしめたい というそれだけのことなんだよ。このじけんをかいけつするためには)
地位を占めたい――というそれだけの事なんだよ。この事件を解決するためには
(まずあのがんめいなこうらをくだくひつようがあるのだ すると、とびらのくぼみは)
まずあの頑迷な甲羅を砕く必要があるのだ」「すると、扉の窪みは」
(ににがごさ。あれは、このとびらのいんけんなせいしつをてっけつしている。また、)
「二二が五さ。あれは、この扉の陰険な性質を剔刔している。また、
(それとどうじにみずのあともしょうめいしているんだ まさしくぎょうてんにあたいするぎゃくてんだった。)
それと同時に水の跡も証明しているんだ」まさしく仰天に価する逆転だった。
(ぐわんとのうてんをどやされたかのようにぼうぜんとなったふたりに、のりみずはさっそく)
グワンと脳天をドヤされたかのように茫然となった二人に、法水はさっそく
(せつめいをはじめた。みずでとびらをひらく。つまり、このとびらをかぎなくしてひらくためには、)
説明を始めた。「水で扉を開く。つまり、この扉を鍵なくして開くためには、
(みずがかくべからずものだったのだ。ところで、さいしょそれとるいすいさせたものを)
水が欠くべからずものだったのだ。ところで、最初それと類推させたものを
(はなすことにしよう。まーむずべりーきょうがあらわした じょん・でいはかせきせつ という)
話すことにしよう。マームズベリー卿が著した『ジョン・デイ博士鬼説』という
(こしょがある。それには、あのまほうはかせでいのきほうのかずかずがしるされているのだが、)
古書がある。それには、あの魔法博士デイの奇法の数々が記されているのだが、
(そのなかで、まーむずべりーきょうをきょうたんさせたいんけんとびらのきろくがのっていて、それが)
その中で、マームズベリー卿を驚嘆させた隠顕扉の記録が載っていて、それが
(ぼくに、みずでとびらをひらけ とおしえてくれたのだ。もちろんいっしゅのくりすちゃんさいえんすなんだが、)
僕に、水で扉を開け――と教えてくれたのだ。勿論一種の信仰療法なんだが、
(まずでいは、おこりかんじゃをつきそいといっしょにいっしつへいれ、かぎをつきそいにあたえてとびらを)
まずデイは、瘧患者を附添いといっしょに一室へ入れ、鍵を附添いに与えて扉を
(とざしめる。そして、やくいちじかんごにとびらをひらくと、かぎがおりているのにも)
鎖しめる。そして、約一時間後に扉を開くと、鍵が下りているのにも
(かかわらず、とびらはかせいのものでもあるかのように、すうっとひらかれてしまう。)
かかわらず、扉は化性のものでもあるかのように、スウッと開かれてしまう。
(そこででいはけつろんする つきがみのふぉーんはのがれたり と。ところが、)
そこでデイは結論する――憑神の半山羊人は遁れたり――と。ところが、
(まさしくとびらのふきんにはやぎのしゅうきがするので、それでかんじゃはせいしんてきに)
まさしく扉の附近には山羊の臭気がするので、それで患者は精神的に
(ちりょうされてしまうのだ。ねえくましろくん、そのやぎのしゅうきというもののなかに、)
治療されてしまうのだ。ねえ熊城君、その山羊の臭気というものの中に、
(でいのさじゅつがふくまれているのだよ。ところで、きみはたぶん、)
デイの詐術が含まれているのだよ。ところで、君はたぶん、
(らんぷれひとはいぐろめーたーにもあるとおりで、もうはつがしつどによって)
ランプレヒト湿度計にもあるとおりで、毛髪が湿度によって
(しんしゅくするばかりでなく、そのどがながさにひれいするじじつもしっているだろう。)
伸縮するばかりでなく、その度が長さに比例する事実も知っているだろう。
(そこで、こころみに、そのしんしゅくのりろんを、おとしがねのびみょうなうごきにおうようしてみたまえ。)
そこで、試みに、その伸縮の理論を、落し金の微妙な動きに応用して見給え。
(しってのとおり、ぜんまいでしようするおとしがねというのは、げんらい、)
知ってのとおり、弾条で使用する落し金というのは、元来、
(はーふ・ちむばあ しっくいかべのうえにきそくてきなきくばりであらけずりのもくざいをうちつける)
打附木材住宅(漆喰壁の上に規則的な木配りで荒削りの木材を打ち附ける
(えいこくじゅうはっせいきしょとうのけんちくようしき とくゆうのものといわれているのだが、だいたいが)
英国十八世紀初頭の建築様式)特有のものと云われているのだが、大体が
(ひらたいしんちゅうかんのはしにゆうりしているもので、そのかんのじょうげによって、してんにちかい)
平たい真鍮桿の端に遊離しているもので、その桿の上下によって、支点に近い
(かくたいのにへんにそいきとうするしかけになっている。そして、してんにちかづくほどきとうの)
角体の二辺に沿い起倒する仕掛になっている。そして、支点に近づくほど起倒の
(ないかくがちいさくなるということは、たぶんかんたんなりほうだからわかっているんだろう。)
内角が小さくなるということは、たぶん簡単な理法だから判っているんだろう。
(そこで、おとしがねのしてんにちかいいってんをむすんで、そのひもを、たおれたばあい)
そこで、落し金の支点に近い一点を結んで、その紐を、倒れた場合
(すいへいとなるようにはっておき、そのせんのちゅうしんとすれすれに、とうはつのたばでむすんだ)
水平となるように張っておき、その線の中心とすれすれに、頭髪の束で結んだ
(おもりをおいたとかていしよう。そして、かぎあなからゆをそそぎこむ。すると、とうぜん)
重錘を置いたと仮定しよう。そして、鍵穴から湯を注ぎ込む。すると、当然
(しつどがたかくなるから、もうはつがしんちょうして、おもりがひものうえにくわわってゆき、もちろんひもが)
湿度が高くなるから、毛髪が伸長して、重錘が紐の上に加わってゆき、勿論紐が
(ゆみなりになってしまう。したがって、そのちからがおとしがねのさいしょうないかくにさようして、)
弓状になってしまう。したがって、その力が落し金の最小内角に作用して、
(たおれたものがおきてしまうのだ。だから、でいのばあいは、それがひつじの)
倒れたものが起きてしまうのだ。だから、デイの場合は、それが羊の
(いばりだったろうとおもうのだがね。またこのとびらでは、せむしのめのりめんが、たぶん)
尿だったろうと思うのだがね。またこの扉では、傴僂の眼の裏面が、たぶん
(そのそうちにひつようなこけつだったので、そのうすいぶぶんが、ひんぱんにくりかえされる)
その装置に必要な刳穴だったので、その薄い部分が、頻繁に繰り返される
(かんしつのために、おうかんをおこしたにちがいないのだよ。つまり、そのしかけをつくったのが)
乾湿のために、凹陥を起したに違いないのだよ。つまり、その仕掛を作ったのが
(さんてつで、それをりようしてながいあいだでいりしていたじんぶつというのが、はんにんに)
算哲で、それを利用して永い間出入りしていた人物と云うのが、犯人に
(そうぞうされるんだ。どうだねはぜくらくん、これでさっきにんぎょうのへやで、はんにんがなぜいとと)
想像されるんだ。どうだね支倉君、これで先刻人形の室で、犯人が何故絲と
(にんぎょうのとりっくをのこしておいたのかわかるだろう。そとがわからのとりっくばかりを)
人形の技巧を遺して置いたのか判るだろう。外側からの技巧ばかりを
(せんさくしていたひには、このじけんはえいえんに、とびらひとつがとざしてしまうのだ。それに、)
詮索していた日には、この事件は永遠に、扉一つが鎖してしまうのだ。それに、
(そろそろこのへんから、ういちぐすじゅほうのふんいきがこくなってゆくようなきが)
そろそろこの辺から、ウイチグス呪法の雰囲気が濃くなってゆくような気が
(するじゃないか すると、にんぎょうはそのときのこぼれたみずをふんだということに)
するじゃないか」「すると、人形はその時の溢れた水を踏んだということに
(なるね とけんじは、ひきつれたようなこえをだした。もうあとは、あのすずのような)
なるね」と検事は、引きつれたような声を出した。「もう後は、あの鈴のような
(おとだけなんだ。これではんにんをともなったにんぎょうのそんざいは、いよいよかくていされたとみて)
音だけなんだ。これで犯人を伴った人形の存在は、いよいよ確定されたとみて
(さしつかえない。しかし、きみのしんけいがひらめくたびごとに、そのけっかが、きみのいこうとは)
差支えない。しかし、君の神経が閃くたびごとに、その結果が、君の意向とは
(はんたいのかたちであらわれてしまう。それは、いったいどうしたってことなんだい)
反対の形で現われてしまう。それは、いったいどうしたってことなんだい」
(うむ、ぼくにもどうもげせないんだ。まるで、わなのなかをあるいているような)
「ウム、僕にもどうも解せないんだ。まるで、穽の中を歩いているような
(きがするよ とのりみずにもさくらんしたようすがみえると、ぼくはそのてんがりょうほうに)
気がするよ」と法水にも錯乱した様子が見えると、「僕はその点が両方に
(つうじてやしないかとおもうよ。いまのしんさいのこんらんはどうだ。あれはけっして)
通じてやしないかと思うよ。今の真斎の混乱はどうだ。あれはけっして
(かんかしちゃならん とこれぞとばかりに、くましろがいった。ところがねえ と)
看過しちゃならん」とこれぞとばかりに、熊城がいった。「ところがねえ」と
(のりみずはくしょうして、じつは、ぼくのどうかつじんもんには、みょうなことばだが、いっしゅの)
法水は苦笑して、「実は、僕の恫喝訊問には、妙な言だが、一種の
(せいりごうもんとでもいうものがともなっている。それがあったので、はじめてあんな)
生理拷問とでも云うものが伴っている。それがあったので、初めてあんな
(すばらしいこうかがうまれたのだよ。ところで、にせいきあいるすしんがくはのごうそう)
素晴らしい効果が生れたのだよ。ところで、二世紀アイルス神学派の豪僧
(ふぃりれいうすは、こういうだんほうろんをのべている。にゅーま こきゅうのぎ は)
フィリレイウスは、こういう談法論を述べている。霊気(呼吸の義)は
(こきとともにたいがいにだっしゅつするものなれば、そのくうきょをうて と。また、)
呼気とともに体外に脱出するものなれば、その空虚を打て――と。また、
(ひゆにはかくぜつしたるものをえらべ と。まさにしげんだよ。だから、ぼくが)
比喩には隔絶したるものを択べ――と。まさに至言だよ。だから、僕が
(ないわくせいきどうはんけいをみりみくろんてきなさつじんじけんにむすびつけたというのも、)
内惑星軌道半径をミリミクロン的な殺人事件に結び付けたというのも、
(きゅうきょくのところは、きょうつうしたふぁくたーをよういにきづかれたくないからなんだ。)
究極のところは、共通した因数を容易に気づかれたくないからなんだ。
(そうじゃないか、えでぃんとんの すぺーす・たいむ・えんど・ぐれヴぃでぃしょんでもよんだひには、)
そうじゃないか、エディントンの『空間・時・及び引力』でも読んだ日には、
(そのなかのすうじに、てんでたいしょうてきなかんねんがなくなってしまう。それから、)
その中の数字に、てんで対称的な観念がなくなってしまう。それから、
(びねーのようなちゅうきのせいりてきしんりがくしゃでさえも、はいぞうがおちたさいのきんこうと、)
ビネーのような中期の生理的心理学者でさえも、肺臓が落ちた際の均衡と、
(そのしつりょうてきなゆたかさをのべている。むろんあのばあいぼくは、まさにいきを)
その質量的な豊かさを述べている。無論あの場合僕は、まさに呼気を
(ひこうとするさいにのみ、げきじょうてきなことばをふごうさせていったのだが、)
引こうとする際にのみ、激情的な言葉を符号させていったのだが、
(またそれとどうじに、もしやとおもったせいりてきなしょっくもねらっていたのだ。それは、)
またそれと同時に、もしやと思った生理的な衝撃も狙っていたのだ。それは、
(みゅーるまんちょくできというじぞくてきなこきゅうしょうがいなんだよ。みゅーるまんはそれを)
喉頭後筋畜搦という持続的な呼吸障害なんだよ。ミュールマンはそれを
(ろうねんのげんいん のなかで、きんしつこっかにともなうしょうどうしんりげんしょうとといている。)
『老年の原因』の中で、筋質骨化に伴う衝動心理現象と説いている。
(もちろんかんけつせいのものにはちがいないけれども、ろうれいしゃがいきをすいこむちゅうとでちょうせつを)
勿論間歇性のものには違いないけれども、老齢者が息を吸い込む中途で調節を
(うしなうと、げんにしんさいでみるとおりの、むざんなしょうじょうをはっするばあいがあるのだ。)
失うと、現に真斎で見るとおりの、無残な症状を発する場合があるのだ。
(だから、しんりてきにもきしつてきにも、ぼくはめったにあたらない、そのふたつのめを)
だから、心理的にも器質的にも、僕は滅多に当らない、その二つの目を
(ふりだしたというわけなんだよ。とにかくあんなまちがいだらけのせつなので、)
振り出したという訳なんだよ。とにかくあんな間違いだらけの説なので、
(いっさいあいてのしこうをぼうがいしようとしたのと、もうひとつはきょせいじゅつなんだ。)
いっさい相手の思考を妨害しようとしたのと、もう一つは去勢術なんだ。
(あのかきのからをひらいて、ぼくはぜひにもきかねばならないものがあるからだよ。)
あの蠣の殻を開いて、僕はぜひにも聴かねばならないものがあるからだよ。
(つまり、ぼくのけんぼうじゅっさくたるや、あるひとつのこういのぜんていにすぎないのだがね)
つまり、僕の権謀術策たるや、ある一つの行為の前提にすぎないのだがね」
(おどろいたまきあべりーだ。しかし、そういうのは?とけんじがいきおいこんで)
「驚いたマキアベリーだ。しかし、そう云うのは?」と検事が勢い込んで
(たずねると、のりみずはかすかにわらった。)
訊ねると、法水は微かに笑った。