黒死館事件27

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小栗虫太郎の作品です。
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1 ぷぷ 6261 S 6.4 97.3% 895.3 5765 159 78 2024/04/24

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問題文

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(のりみずは、すぐえんろうのとびらをひらいてこうせんをいれてから、ひだりがわにたちならんでいる)

法水は、すぐ円廊の扉を開いて光線を入れてから、左側に立ち並んでいる

(つりぐそくのれつをみわたしはじめた。が、すぐに これだ といって、ちゅうおうのひとつを)

吊具足の列を見渡しはじめた。が、すぐに「これだ」と云って、中央の一つを

(ゆびさしした。そのひとつは、もえぎにおいのよろいで、それにくわがたごまいりつのかぶとをのせたほか、)

指差した。その一つは、萌黄匂の鎧で、それに鍬形五枚立の兜を載せたほか、

(びしゃもんしののりょうこて、こばかま、すねあて、まりぐつまでもつけたほんかくのむしゃしょうぞく。)

毘沙門篠の両籠罩、小袴、脛当、鞠沓までもつけた本格の武者装束。

(めんぶからいんこうにかけてのところは、のどわとくろぬりのもうあくなそうをしためんぼうで)

面部から咽喉にかけての所は、咽輪と黒漆の猛悪な相をした面当で

(かくされてあった。そして、せには、ぐんばいにちげつのちゅうおうになむにちりんましてんとしたためた)

隠されてあった。そして、背には、軍配日月の中央に南無日輪利摩支点と認めた

(ほろをおい、そのわきにりゅうこのはたさしものがはさんであった。しかし、そのいちれつのうちに)

母衣を負い、その脇に竜虎の旗差物が挟んであった。しかし、その一列のうちに

(ちゅうもくすべきげんしょうがあらわれていたというのは、そのもえぎにおいをちゅうしんにして、)

注目すべき現象が現われていたと云うのは、その萌黄匂を中心にして、

(さゆうのぜんぶがひとしくななめにむいているばかりではなく、そのよこむきになった)

左右の全部が等しく斜めに向いているばかりではなく、その横向きになった

(ほうこうが、かわるがわるひとつおきにいっちしていて、つまり、みぎ、ひだり、みぎというかぜに、)

方向が、交互一つ置きに一致していて、つまり、右、左、右という風に、

(いようなふごうがあらわれていることだった。のりみずがそのめんぼうをはずすと、そこにえきすけの)

異様な符合が現われている事だった。法水がその面当を外すと、そこに易介の

(せいさんなしそうがあらわれた。はたせるかな、のりみずのひぼんなとうしはてきちゅうしていたのだ。)

凄惨な死相が現われた。はたせるかな、法水の非凡な透視は的中していたのだ。

(のみならず、だんねべるぐふじんのしこうとかわりあって、このこびとのせむしは)

のみならず、ダンネンベルグ夫人の屍光と代り合って、この侏儒の傴僂は

(きかいせんばんにも、かっちゅうをちゃくしちゅうづりになってころされている。ああ、ここにもまた、)

奇怪千万にも、甲冑を着し宙吊りになって殺されている。ああ、ここにもまた、

(はんにんのけんらんたるそうしょくへきがあらわれているのだった。さいしょめにつけたのは、)

犯人の絢爛たる装飾癖が現われているのだった。最初眼につけたのは、

(いんこうにつけられているふたすじのきりきずだった。それをくわしくいうと、あわせたかたちが)

咽喉につけられている二条の切創だった。それを詳しく云うと、合わせた形が

(ちょうどにのじがたをしていて、そのいちは、こうじょうなんこつからきょうこつにかけての、)

ちょうど二の字形をしていて、その位置は、甲状軟骨から胸骨にかけての、

(いわゆるぜんけいぶであったが、そうけいがくさびがたをしているので、よろいどおしようのものと)

いわゆる前頸部であったが、創形が楔形をしているので、鎧通し様のものと

(すいだんされた。また、ふかさをつらねたけいじょうがかんがたをしているのもきようである。)

推断された。また、深さを連ねた形状が凵形をしているのも奇様である。

(うえのものは、さいしょきかんのひだりを、ろくせんちほどのふかさにさしてからとうをうかし、)

上のものは、最初気管の左を、六センチほどの深さに刺してから刀を浮かし、

など

(こんどはよこにあさいせっそうをいれてうかいしてゆき、みぎがわにくると、ふたたびそこへぐいと)

今度は横に浅い切創を入れて迂廻してゆき、右側にくると、再びそこへグイと

(さしこんでとうをひきぬいている。したのひとつもだいたいおなじかたちだが、)

刺し込んで刀を引き抜いている。下の一つもだいたい同じ形だが、

(そのほうこうだけはななめしたになっていて、そうていはきょうこうないにはいっていた。しかし、)

その方向だけは斜め下になっていて、創底は胸腔内に入っていた。しかし、

(いずれもだいけっかんやぞうきにはふれていず、しかも、たくみにきどうをさけているので、)

いずれも大血管や臓器には触れていず、しかも、巧みに気道を避けているので、

(もちろんそくしをおこすていどのものではないことはあきらかだった。それから、てんじょうとよろいの)

勿論即死を起す程度のものではないことは明らかだった。それから、天井と鎧の

(わたぬきとをむすんでいるふたすじのあさひもをきり、したいをよろいからとりはずしにかかると、)

綿貫とを結んでいる二条の麻紐を切り、死体を鎧から取り外しに掛ると、

(つづいていようなものがあらわれた。それまでは、ふしぜんなぶぶんがのどわのたれで)

続いて異様なものが現われた。それまでは、不自然な部分が咽輪の垂で

(かくされていたのでわからなかったのだが、ふしぎなことに、えきすけはよろいをよこに)

隠されていたので判らなかったのだが、不思議な事に、易介は鎧を横に

(きているのだった。すなわち、からだをいれるひだりわきのひきあいぐちのほうをはいごにして、)

着ているのだった。すなわち、身体を入れる左脇の引合口の方を背後にして、

(そこからはみだしたせなかのりゅうきを、ほろぼねのくりがたのなかにいれてある。そして、)

そこからはみ出した背中の瘤起を、幌骨の刳形の中に入れてある。そして、

(きずぐちからながれでたどすぐろいちは、こばかなからまりぐつのなかにまでしたたりおちていて、)

傷口から流れ出たドス黒い血は、小袴から鞠沓の中にまで滴り落ちていて、

(すでにたいおんはさり、こうちょくはかがくこつにはじまっていて、ゆうにしごにじかんは)

すでに体温は去り、硬直は下顎骨に始まっていて、優に死後二時間は

(けいかしているものとおもわれた。が、したいをひきだしてみると、)

経過しているものと思われた。が、死体を引き出してみると、

(がくぜんとさせたものがあった。というのは、ぜんしんにわたりちょめいなちっそくちょうこうが)

愕然とさせたものがあった。と云うのは、全身にわたり著明な窒息徴候が

(あらわれていることで、むざんなけいれんのあとがいたるところにゆきわたっているばかりではなく)

現われている事で、無残な痙攣の跡が到る処にゆきわたっているばかりではなく

(りょうめにも、はいせつぶつにも、りゅうけつのいろにも、まざまざとひとめでうなずけるものが)

両眼にも、排泄物にも、流血の色にも、まざまざと一目で頷けるものが

(のこされていた。のみならず、そのそうぼうはじつにむざんをきわめ、しとうじの)

残されていた。のみならず、その相貌は実に無残をきわめ、死闘時の

(はげしいくつうとおうのうとがうかがわれるのだった。が、しかし、きかんちゅうにも)

激しい苦痛と懊悩とが窺われるのだった。が、しかし、気管中にも

(せんそくしたらしいぶっしつははっけんされず、こうくうをへいそくしたけいせきもないばかりか、)

栓塞したらしい物質は発見されず、口腔を閉塞した形跡もないばかりか、

(さっこんややくさつしたこんせきはもちろんみいだされなかった。)

索痕や扼殺した痕跡は勿論見出されなかった。

(まさにらざれふ せんとあれきせいじいんのししゃ のさいげんじゃないか と、のりみずは)

「まさにラザレフ(聖アレキセイ寺院の死者)の再現じゃないか」と、法水は

(うめくようなこえをだした。このきずはしごにつけられているんだよ。それが、)

呻くような声を出した。「この傷は死後に付けられているんだよ。それが、

(とうをひきぬいただんめんもみてもわかるんだ。つうれいでは、さしこんだとたんにひきぬくと)

刀を引き抜いた断面も見ても判るんだ。通例では、刺し込んだ途端に引き抜くと

(けっかんのだんめんがしゅうしゅくしてしまうもんだが、これはだらりとしかいしている。それに、)

血管の断面が収縮してしまうもんだが、これはダラリと咨開している。それに、

(これほどけんちょなとくちょうをもった、ちっそくしたいをみたことはないよ。ざんにんれいこくをも)

これほど顕著な特徴をもった、窒息死体を見たことはないよ。残忍冷酷をも

(きわまっている。 おそらく、そうぞうをぜっしたおそろしいほうほうにちがいない。そして、)

きわまっている。――恐らく、想像を絶した怖ろしい方法に違いない。そして、

(ちっそくのげんいんをなしたものが、えきすけにはだんだんとせまっていったのだ それが、)

窒息の原因をなしたものが、易介には徐々と迫っていったのだ」「それが、

(どうしてわかるんだ?とくましろがふしんなかおをすると、のりみずはそのいんさんきわまる)

どうして判るんだ?」と熊城が不審な顔をすると、法水はその陰惨きわまる

(ないようをあきらかにした。つまり、しとうのじかんがちょうこうのたびにひれいするからなんだが)

内容を明らかにした。「つまり、死闘の時間が徴候の度に比例するからなんだが

(まさにこのしたいは、ほういがくにあたらしいれいだいをつくるとおもうね。だって、そのてんを)

まさにこの死体は、法医学に新しい例題を作ると思うね。だって、その点を

(かんがえたらどうしたって、えきすけがしだいにいきぐるしくなっていったとそうぞうするより)

考えたらどうしたって、易介がしだいに息苦しくなっていったと想像するより

(ほかにないじゃないか。たぶん、そのあいだえきすけはせいさんなどりょくをして、なんとかして)

ほかにないじゃないか。たぶん、その間易介は凄惨な努力をして、なんとかして

(しのくさりをたとうとしたにちがいないのだ。しかし、からだはよろいのじゅうりょうのためにかつりょくを)

死の鎖を断とうとしたに違いないのだ。しかし、身体は鎧の重量のために活力を

(うしなっている。もはやどうすることもできない。そうして、むなしくさいごのしゅんかんが)

失っている。もはやどうすることも出来ない。そうして、空しく最後の瞬間が

(くるのをまつうちに、たぶんようしょうきからげんざいまでのきおくが、でんこうのように)

来るのを待つうちに、たぶん幼少期から現在までの記憶が、電光のように

(ひらめいて、それが、つぎからつぎへとうつりかわっていったにちがいないのだよ。)

閃いて、それが、次から次へと移り変っていったに違いないのだよ。

(ねえくましろくん、じんせいのうちでこれほどひさんなじかんがあるだろうか。また、これほど)

ねえ熊城君、人生のうちでこれほど悲惨な時間があるだろうか。また、これほど

(しんこくなくつうをふくんだ、ざんにんなさつじんほうほうがまたとほかにあるだろうか)

深刻な苦痛を含んだ、残忍な殺人方法がまたと他にあるだろうか」

(さすがのくましろも、そのおもわずめをおおいたいようなこうけいをおもいおこして、ぶるっと)

さすがの熊城も、その思わず眼を覆いたいような光景を想起して、ブルッと

(みぶるいしたが、しかし、えきすけはじぶんからこのなかにはいったのだろうか。それとも)

身慄いしたが、「しかし、易介は自分からこの中に入ったのだろうか。それとも

(はんにんが......いや、それがわかればさつがいほうほうのかいけつもつくよ。だいいち、)

犯人が......」「いや、それが判れば殺害方法の解決もつくよ。第一、

(ひめいをあげなかったことがぎもんじゃないか とのりみずがあっさりいいのけると、)

悲鳴をあげなかったことが疑問じゃないか」と法水がアッサリ云い退けると、

(けんじはかぶとのじゅうりょうでぺしゃんこになっているしたいのあたまをゆびさして、かれのせつを)

検事は兜の重量でペシャンコになっている死体の頭顱を指差して、彼の説を

(もちだした。ぼくはなんだか、かぶとのじゅうりょうになにかかんけいがあるようなきがするんだ。)

持ち出した。「僕はなんだか、兜の重量に何か関係があるような気がするんだ。

(むろん、きずとちっそくのじゅんじょがてんとうしてりゃ、もんだいはないがね......)

無論、創と窒息の順序が顛倒してりゃ、問題はないがね......」

(そうなんだ のりみずはあいてのせつにうなずいたが、いっせつには、ずがいの)

「そうなんだ」法水は相手の説に頷いたが、「一説には、頭蓋の

(さんとりにじょうみゃくは、がいりょくをうけてからしばらくあとに、けっかんがはれつすると)

サントリニ静脈は、外力をうけてからしばらく後に、血管が破裂すると

(いうからね。そのときは、のうしつがあっぱくされるので、ちっそくにるいしたちょうこうが)

云うからね。その時は、脳室が圧迫されるので、窒息に類した徴候が

(あらわれるそうだよ。しかし、これほどけんちょなものじゃない。だいたい)

表われるそうだよ。しかし、これほど顕著なものじゃない。だいたい

(このしたいのは、そういったとんしてきなものではないのだよ。じわじわと)

この死体のは、そういった頓死的なものではないのだよ。じわじわと

(せまっていったのだ。だから、むしろちょくせつしいんには、のどわのほうにいみが)

迫っていったのだ。だから、むしろ直接死因には、咽輪の方に意味が

(ありそうじゃないか。むろんきかんをつぶすというほどじゃないが、そうとうけいぶの)

ありそうじゃないか。無論気管を潰すというほどじゃないが、相当頸部の

(だいけっかんはあっぱくされている。すると、えきすけがなぜひめいをあげなかったか)

大血管は圧迫されている。すると、易介がなぜ悲鳴を上げなかったか――

(わかるようなきがするじゃないか ふむ、というと いや、けっかは)

判るような気がするじゃないか」「フム、と云うと」「いや、結果は

(じゅうけつでなくて、はんたいにのうひんけつをおこすのだよ。おまけに、ぐりーじんげる)

充血でなくて、反対に脳貧血を起すのだよ。おまけに、グリージンゲル

(というひとは、それにてんかんようのけいれんをともなうともいっているんだ とのりみずは)

という人は、それに癲癇様の痙攣を伴うとも云っているんだ」と法水は

(なにげなさそうにこたえたけれども、なにやらぱらどっくすになやんでいるらしく、くじゅうな)

なにげなさそうに答えたけれども、なにやら逆説に悩んでいるらしく、苦渋な

(くらいかげがあらわれていた。くましろはけつろんをいった。)

暗い影が現われていた。熊城は結論を云った。

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