黒死館事件41

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小栗虫太郎の作品です。
句読点以外の記号は省いています。
順位 名前 スコア 称号 打鍵/秒 正誤率 時間(秒) 打鍵数 ミス 問題 日付
1 ぷぷ 5477 B++ 5.7 95.5% 1013.8 5826 273 79 2024/04/26
2 ねね 3914 D++ 4.0 96.6% 1444.2 5853 200 79 2024/03/13

関連タイピング

問題文

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(だがぼくはやーヴぇきょうとでもりびぞく ゆだやきょうでさいしとなるいちぞく でも)

「だが僕は猶太教徒でも利未族(猶太教で祭司となる一族)でも

(ないのだからね。がんぜんにしおえーるのしるしをながめていても、それをもーぜみたいに、)

ないのだからね。眼前に死霊集会の標を眺めていても、それをモーゼみたいに、

(こわさねばならぬぎむはないとおもうよ そうすると くましろはつくようにいった。)

壊さねばならぬ義務はないと思うよ」「そうすると」熊城は衝くように云った。

(さっきのじゃくおんきごうのかいしゃくは、どうしたんだ?それなんだくましろくん、やはり、)

「先刻の弱音器記号の解釈は、どうしたんだ?」「それなんだ熊城君、やはり、

(ぼくのすいていがただしかったのだよ とのりみずは、よこじゅうじのきごうがもたらしたかいせつをはじめた。)

僕の推定が正しかったのだよ」と法水は、+の記号がもたらした解説を始めた。

(ぼくがよそうしたさんわくせいのれんけつは、まさしくあんじされているのだ。さいしょに、)

「僕が予想した三惑星の連結は、まさしく暗示されているのだ。最初に、

(ぼちじゅのはいちをみたまえ。あるぼなうといごのあすとろろじいでは、いちばんてまえのいとすぎと)

墓地樹の配置を見給え。アルボナウト以後の占星学では、一番手前の糸杉と

(いちじくとが、どせいともくせいのしょかんとされているし、むこうがわのちゅうおうにあるむねのきは、)

無花果とが、土星と木星の所管とされているし、向う側の中央にある合歓樹は、

(かせいのしむぼるになっているのだ。またそれを、まんどらごーら・おーれごにあ・あぶさんとと、)

火星の表徴になっているのだ。またそれを、曼陀羅華・矢車草・苦艾と、

(くさきるいでもあらわすことができるけれども・・・・・・いったいそのさんがいわくせいのしゅうごうに、)

草木類でも表わすことが出来るけれども……いったいその三外惑星の集合に、

(どういういみがあるかというと、もーるれんヴぁいでなどのぶらっくまじかる・あすとろろじいでは)

どういう意味があるかと云うと、モールレンヴァイデなどの黒呪術的占星学では

(それがへんしのしむぼるになっているのだ。ところできみたちは、じゅういっせいきどいつの)

それが変死の表徴になっているのだ。ところで君達は、十一世紀独逸の

(にっくすきょう むんめるこのすいしょうでにくじーという、きりすときょうとをひじょうにいみきらう)

ニックス教(ムンメル湖の水精でニクジーと云う、基督教徒を非常に忌み嫌う

(ようせいをれいはいするあくまきょう をしっているかね。あのあくまきょうだんにぞくしていた)

妖精を礼拝する悪魔教)を知っているかね。あの悪魔教団に属していた

(どくやくぎょうしゃのいちだんは、そのさんわくせいのしゅうごうを、かのこそう・へむろっく・ずるかまらの)

毒薬業者の一団は、その三惑星の集合を、纈草・毒人蔘・蜀羊泉の

(みくさであらわしていて、そのみっつをのきべにつるし、ひそかにどくやくのしょざいをあんじしていた)

三草で現わしていて、その三つを軒辺に吊し、秘かに毒薬の所在を暗示していた

(とつたえられている。それが、こうせいになってさんじゅのはにかえられたというのだが、)

と伝えられている。それが、後世になって三樹の葉に代えられたと云うのだが、

(さてそこで、そのさんぼんのきをつらねた、さんかくけいとまじわるものがなんだろうか?)

さてそこで、その三本の樹を連ねた、三角形と交わるものが何だろうか?」

(いち、かのこそう。おみなえし かのやくようしょくぶつで、てんかん、)

(註)(一)纈草。敗醤〔オミナエシ〕科の薬用植物で、癲癇、

(ひすてりーけいれんなどにとっこうあるため、がくしゃのほしといわれるもくせいのひょうちょうとす。)

ヒステリー痙攣等に特効あるため、学者の星と云われる木星の表徴とす。

など

(に へむろっく。さんけいかのどくそうにして、こにいんをたりょうにふくみ、さいしょうんどうしんけいが)

(二)毒人參。繖形科の毒草にして、コニインを多量に含み、最初運動神経が

(まひするため、ようじゅつしのほしとしょうされるどせいのひょうちょうとす。)

痲痺するため、妖術師の星と称される土星の表徴とす。

(さん ずるかまら。なすかのどうめいどくそうにして、そのはにはとくにそらにん、)

(三)蜀羊泉。茄科の同名毒草にして、その葉には特にソラニン、

(でゅるかまりんをふくむものなれば、しゃくねつかんをおぼえるとどうじにちゅうすうしんけいが)

デュルカマリンを含むものなれば、灼熱感を覚えると同時に中枢神経が

(たちどころにまひするため、かせいのひょうちょうとす。)

たちどころに痲痺するため、火星の表徴とす。

(あみがんどうのあかぐろいあかりが、うすくゆきのつもったせいぞうのいんえいをよこにたてにゆりうごかして、)

網龕灯の赭黒い灯が、薄く雪の積った聖像の陰影を横に縦に揺り動かして、

(なんともいえぬぶきみなせいどうをあたえる。また、そのひかりは、のりみずのびこうやこうくうを)

なんとも云えぬ不気味な生動を与える。また、その光は、法水の鼻孔や口腔を

(いようにかくだいしてみせて、いかにも、ちゅうせいいきょうせいしんをかたるにふさわしいがんぼうを)

異様に拡大して見せて、いかにも、中世異教精神を語るに適わしい顔貌を

(つくるのだった。しかし、くましろはふしんをとなえた。だが、くるみ・はたんきょう・)

作るのだった。しかし、熊城は不審を唱えた。「だが、胡桃・巴旦杏・

(あおき・いぼたのきのよんほんでは、けっきょくせいほうけいになってしまうぜ いや、それが)

桃葉珊瑚・水蝋木犀の四本では、結局正方形になってしまうぜ」「いや、それが

(さかななんだよ とのりみずはとっぴなげんをはいた。えじぷとのだいせんじゅつかねくたねぶすは、)

魚なんだよ」と法水は突飛な言を吐いた。「埃及の大占星家ネクタネブスは、

(まいとしにいるのはんらんをつげるぴすけすを、xのちゅうおうによこぼうがはいったかたちでなしに)

毎年ニイルの氾濫を告げる双魚座を、Xの中央に横棒が入った形でなしに

(ちょうほうけい/さんかくけいというきごうであらわしている。というのは、いまのきみのいった)

長方形/三角形という記号で表わしている。と云うのは、いまの君の云った

(せいほうけいが、いわゆるぺがすすのだいせいほうけいであって、ぺがすすのまるかぶのそとにせいに)

正方形が、いわゆる天馬星の大正方形であって、天馬座の鞍星の外二星に

(あんどろめだざのあるふぇらっつせいをむすびつけ、そうしてできるせいしかくけいを)

アンドロメダ座のアルフェラッツ星を結び付け、そうして出来る正四角形を

(さしているからなんだ。そして、このぷさるてりうむのすじぼりがとりあんぐるむとすれば、)

指しているからなんだ。そして、この三角琴の筋彫が三角座とすれば、

(そのちゅうおうにはさまれたせいぞうは、ぺがすすととりあんぐるむのあいだにある、ぴすけすでは)

その中央に挟まれた聖像は、天馬座と三角座の間にある、双魚座では

(ないだろうか。ところで、1524ねんにもそれがあって、とうじゆうめいな)

ないだろうか。ところで、一五二四年にもそれがあって、当時有名な

(こせいすうがくしゃすとっふれるがさいこうずいせつをたたえたというほどで、とにかくみっつの)

古星数学者ストッフレルが再洪水説を称えたと云うほどで、とにかく三つの

(がいわくせいがぴすけすとれんけつするというてんたいげんしょうは、だいきょうさいのちょうとされているのだ。)

外惑星が双魚座と連結するという天体現象は、大凶災の兆とされているのだ。

(しかし、きょうさいをじんいてきにつくろうとするのが、じゅそじゃないか。ともあれ、これを)

しかし、凶災を人為的に作ろうとするのが、呪詛じゃないか。ともあれ、これを

(みたまえ。じつは、さっきとしょしつでみたまくどうねるのぼんえいじてんに、みなれない)

見給え。実は、先刻図書室で見たマクドウネルの梵英辞典に、見なれない

(ぞうしょいんがおしてあった。しかし、いまかんがえると、それがでぃぐすびいの)

蔵書印が捺してあった。しかし、いま考えると、それがディグスビイの

(しるしらしいので、それからおすとたぶんこのかたふぁるこも、あのおとこのふしぎなしゅみと、)

印らしいので、それから推すとたぶんこの葬龕も、あの男の奇異な趣味と、

(びょうてきなせいかくをかたるものにそういないのだよ とのりみずが、せいぞうのぐるりにあるゆきを)

病的な性格を語るものに相違ないのだよ」と法水が、聖像の周囲にある雪を

(はらいのけると、たんてつのじゅうじかからうかびあがったいたましいぜんしんは、)

払い退けると、鍛鉄の十字架から浮かび上った痛ましい全身は、

(みるみるふしぎなへんかがあらわれていった。それは、あるいはかれがまほうを)

みるみる不思議な変化が現われていった。それは、あるいは彼が魔法を

(つかったのではないかとうたがわれたほどに、よもやにんげんのせかいにあろうとはおもわれぬ)

使ったのではないかと疑われたほどに、よもや人間の世界にあろうとは思われぬ

(きかいなふごうだった。たくしんのあたまからつまさきまでが、しろくぼんじらんがたで)

機械な符号だった。磔身の頭から爪尖までが、白く梵字ラン形で

(のこされてしまったからだ。しかし、のりみずはしずかに、せいぞうからへんかしたふかかいな)

残されてしまったからだ。しかし、法水は静かに、聖像から変化した不可解な

(きごうのことをときはじめた。ねえはぜくらくん、ぶらっくまじっくはいきょうときりすときょうをつなぐ)

記号の事を説きはじめた。「ねえ支倉君、黒呪術は異教と基督教を繋ぐ

(れんじふである とぼーどれーるがいうじゃないか。まさしくこれは、)

連字符である――とボードレールが云うじゃないか。まさしくこれは、

(ちょうぶくじゅごにつかうぼんごのらんのじなんだよ。また、さんかくことのxのちゅうおうより)

調伏呪語に使う梵語のランの字なんだよ。また、三角琴のXの中央より

(ややじょうほうによこぼうににたかたちは、あびちゃーらかのこくしょくさんかくろに、かいてはならぬ)

やや上方に横棒に似た形は、呪詛調伏の黒色三角炉に、欠いてはならぬ

(せきさいほうがたなのだ。ちるだーすの あんぎらす のなかに、ふくうけんじゃくしんぺんしんごんきょうの)

積柴法形なのだ。チルダースの『呪法僧』の中に、不空羂索神変真言教の

(かいしゃくがのっているが、それによると、ぼんじらんは、かだんにかてんをまねく)

解釈が載っているが、それによると、梵字ランは、火壇に火天を招く

(こんごうかだ。そのじひらをxのちゅうおうよりややじょうほうによこぼうのかたちにつんだしばのもとにおいて)

金剛火だ。その字片をXの中央よりやや上方に横棒の形に積んだ柴の下に置いて

(それにひをてんじ、しゅくら・やじゅる・ヴぇーだのじゅもんあむあぎぁなうぇいそわかをとなえると、)

それに火を点じ、白夜珠吠陀の呪文アムアギァナウェイソワカを唱えると、

(せんこのだいしし まはーばーらた のなかにあらわれるヴぁいしゅらヴぁなのよんだいきしょう)

千古の大史詩『摩訶婆羅多』の中に現われる毘沙門天の四大鬼将――

(げんだつばだいりきぐんしょう・たつちむーか・くばんだだいじんたいしょう・ほっぽうやくしゃきしょうの)

乾闥婆大刀軍将・大竜衆・鳩槃荼大臣大将・北方薬叉鬼将の

(ひそかにヴぃしゅらヴぁなのとうそつをだっしきたり、また、しし らーまーやな のなかにあらわれる)

秘かに毘沙門天の統率を脱し来り、また、史詩『羅摩衍那』の中に現われる

(らせつらーヴぁなも、じゅうのかしらをふりたて、あくぎゃくかてんとなってまねかれるというのだ。)

羅刹羅縛拏も、十の頭を振り立て、悪逆火天となって招かれると云うのだ。

(だから、ぼくがもしぶっきょうひみつぶんがくのたんできしゃだとしたら、まいよこのぼごうでは、)

だから、僕がもし仏教秘密文学の耽溺者だとしたら、毎夜この墓宕では、

(めにみえないふごうじゅじゅつのひがたかれていて、こくしかんのやぐらろうのうえをほうこうする、)

眼に見えない符号呪術の火が焚かれていて、黒死館の櫓楼の上を彷徨する、

(くろいいんぷうがある とけつろんしなければならないだろう。しかし、とうていぼくには)

黒い陰風がある――と結論しなければならないだろう。しかし、とうてい僕には

(それをいっぺんのしんれいぶんせきとしかかいしゃくできない。そして、でぃぐすびいという)

それを一片の心霊分析としか解釈できない。そして、ディグスビイという

(しんぴてきなせいかくをもつおとこが、せいぜんいだいていたいしである というすいだんだけに)

神秘的な性格を持つ男が、生前抱いていた意志である――という推断だけに

(とどめておきたいのだ。なぜならくましろくん、すでにぼくはきけんをさとって、しんりがくの)

止めておきたいのだ。何故なら熊城君、すでに僕は危険を悟って、心理学の

(ちょじゅつなどは、ろっじの れいもんど ぼるまんの でる・すこっちほーむ の)

著述などは、ロッジの『レイモンド』ボルマンの『蘇格蘭人ホーム』の

(かいていばんいごはよまないのだし、また、おかると・れびゅー のぜんさつをやきすてて)

改訂版以後は読まないのだし、また、『妖異評論』の全冊を焼き捨てて

(しまったほどだからね さいごにいたって、のりみずはてつのようなゆいぶつしゅぎしゃのほんりょうを)

しまったほどだからね」最後に至って、法水は鉄のような唯物主義者の本領を

(はっきした。けれども、かれのはりきったこうせんのようなしんけいにさわれるものは、)

発揮した。けれども、彼の張りきった紘線のような神経に触れるものは、

(たちどころに、そのばさらずるいすいのかべんとなってひらいてしまうのだ。)

たちどころに、その場去らず類推の花弁となって開いてしまうのだ。

(わずかひとつのじゃくおんききごうからでも、とうのやかたのひとびとにさえかおかたちすら)

わずか一つの弱音器記号からでも、当の館の人々にさえ顔相すら

(しられていない、こじんくろーど・でぃぐすびいのおどろくべきしんりを)

知られていない、故人クロード・ディグスビイの驚くべき心理を

(さらけだしたのであった。それから、のりみずらはぼちをでて、ふうせつのなかをほんかんのほうに)

曝け出したのであった。それから、法水等は墓地を出て、風雪の中を本館の方に

(あゆんでいったが、こうして、そうさはよるになるもぞっこうされて、いよいよ、)

歩んで行ったが、こうして、捜査は夜になるも続行されて、いよいよ、

(こくしかんにおけるしんぴのかくしんをなすといわれる、さんにんのいこくがくじんと)

黒死館における神秘の核心をなすと云われる、三人の異国楽人と

(たいけつすることになった。)

対決することになった。

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