黒死館事件44

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小栗虫太郎の作品です。
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1 ぷぷ 5732 A 5.8 97.4% 795.6 4684 123 64 2024/04/28

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問題文

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(はたたろうは、ゆいごんしょのないようにはきわめてあさくふれたのみで、さいどしずこにつづいて、)

旗太郎は、遺言書の内容にはきわめて浅く触れたのみで、再度鎮子に続いて、

(こくしかんじんとくゆうのびょうてきしんりをきょうちょうするのだった。そうしてちんじゅつをおわると、)

黒死館人特有の病的心理を強調するのだった。そうして陳述を終ると、

(さびしそうにえしゃくしてから、とぐちのほうへあゆんでいった。ところが、かれのゆくてに)

淋しそうに会釈してから、戸口の方へ歩んで行った。ところが、彼の行く手に

(あたって、いようなものがまちかまえていたのである。というのは、とびらのきわまでくると)

当って、異様なものが待ち構えていたのである。と云うのは、扉の際まで来ると

(なぜかそのばでくぎづけされたようにたちすくんでしまい、そこからさきへはいっぽも)

何故かその場で釘付けされたように立ち竦んでしまい、そこから先へは一歩も

(すすめなくなってしまった。それは、たんじゅんなきょうふともことなって、ひどくふくざつな)

進めなくなってしまった。それは、単純な恐怖とも異なって、ひどく複雑な

(かんじょうがどうさのうえにあらわれていた。ひだりてをのっぶにかけたままで、かたうでをだらりと)

感情が動作の上に現われていた。左手を把手にかけたままで、片腕をダラリと

(たらし、りょうめをぶきみにすえてぜんぽうをぎょうししているのだった。あきらかにかれは、)

垂らし、両眼を不気味に据えて前方を凝視しているのだった。明らかに彼は、

(なにごとかとびらのかなたに、きふすべきことをいしきしているらしい。がやがて、はたたろうは)

何事か扉の彼方に、忌怖すべきことを意識しているらしい。がやがて、旗太郎は

(がんめんをびりりとどちょうさせて、みにくいぞうおのそうをあらわした。そして、)

顔面をビリリと怒張させて、醜い憎悪の相を現わした。そして、

(ひっつれたよなこえをぜんぽうになげた。く、くりヴぉふふじん......あなたは)

痙つれたよな声を前方に投げた。「ク、クリヴォフ夫人......貴女は」

(そういったとたんに、どあがそとがわからひかれた。そして、ふたりのばとらーが)

そう云った途端に、扉が外側から引かれた。そして、二人の召使が

(しきいのりょうがわにたつとみるまに、そのあいだから、おりが・くりヴぉふふじんのはんしんが、)

閾の両側に立つと見る間に、その間から、オリガ・クリヴォフ夫人の半身が、

(ごうがんないげんにみちたたいどであらわれた。かのじょは、てんでたかいえりのついた)

傲岸な威厳に充ちた態度で現われた。彼女は、貂で高い襟のついた

(ふぇんしんぐ・けみせっとのようなきいろいじゃけっとのうえに、びろーどのくろーくをはおっていて、)

剣術着のような黄色い短衣の上に、天鵞絨の袖無外套を羽織っていて、

(みぎてにもうもくのおりおんとおりヴぁれすはく 1578 1654。)

右手に盲目のオリオンとオリヴァレス伯(一五八七―一六四五。

(すぺいんふぃりっぷよんせいちょうのさいしょう のじょうもんがかしらぼりにされている、ごうしゃな)

西班牙フィリップ四世朝の宰相)の定紋が冠彫にされている、豪奢な

(きゃのにすちっく・けーんをついていた。そのくろときとのたいしょうが、かのじょのあかげにきょうれつなしきかんを)

講典杖をついていた。その黒と黄との対照が、彼女の赤毛に強烈な色感を

(あたえて、ぜんしんが、ほのおのようなげきじょうてきなものにつつまれているかのかんじが)

与えて、全身が、焔のような激情的なものに包まれているかの感じが

(するのだった。とうはつをむぞうさにかきあげて、みみたぶがとうぶとよんじゅうごどいじょうも)

するのだった。頭髪を無雑作に掻き上げて、耳朶が頭部と四十五度以上も

など

(はなれていて、そのじょうたんが、まるでしゅんれつなせいかくそのもののようにとがっている。)

離れていて、その上端が、まるで峻烈な性格そのもののように尖っている。

(ややはえぎわのぬけあがったひたいはまゆゆみがたかく、はいいろのめがいようなそこびかりをたたえていて)

やや生え際の抜け上った額は眉弓が高く、灰色の眼が異様な底光りを湛えていて

(がんていのしんけいがろしゅつしたかとおもわれるようなするどいぎょうしだった。そして、)

眼底の神経が露出したかと思われるような鋭い凝視だった。そして、

(かんこつからしたがだんがいじょうをなしているところをみると、そのぶぶんのひょうしゅつが)

顴骨から下が断崖状をなしている所を見ると、その部分の表出が

(けわしいけいかくてきなもののようにおもわれ、またまっすぐにすいかしたはなばしらにも、)

険しい圭角的なもののように思われ、また真直に垂下した鼻梁にも、

(それがびよくよりもながくたれているところに、なんとなくかくさくてきな)

それが鼻翼よりも長く垂れている所に、なんとなく画策的な

(ひみつっぽいかんじがするのだった。はたたろうはすれちがいざまに、かたぐちからみかえして、)

秘密っぽい感じがするのだった。旗太郎は摺れ違いざまに、肩口から見返して、

(おりがさん、ごあんしんください。なにもかも、おききのとおりですから)

「オリガさん、御安心下さい。何もかも、お聴きのとおりですから」

(ようくわかりました とくりヴぉふふじんはおうようにはんめでうなずき、)

「ようく判りました」とクリヴォフ夫人は鷹揚に半眼で頷き、

(きどったみぶるいをしてこたえた。ですけどはたたろうさん、かりにもしわたくしのほうがさきに)

気取った身振をして答えた。「ですけど旗太郎さん、仮りにもし私の方が先に

(よばれたのでしたら、そのばあいのこともおかんがえあそばせな。きっとあなただって、)

呼ばれたのでしたら、その場合の事もお考え遊ばせな。きっと貴方だって、

(わたくしどもとどうようなこうどうにでられるにきまってますわ くりヴぉふふじんがわたくしどもと)

私どもと同様な行動に出られるにきまってますわ」クリヴォフ夫人が私どもと

(ふくすうをつかったのに、ちょっといようなかんじがしたけれども、そのりゆうはしゅんごに)

複数を使ったのに、ちょっと異様な感じがしたけれども、その理由は瞬後に

(はんめいするにいたった。とびらぎわにたっていたのはかのじょひとりだけではなく、つづいて)

判明するに至った。扉際に立っていたのは彼女一人だけではなく、続いて

(がりばるだ・せれなふじん、おっとかーる・れヴぇずしがあらわれたからだった。)

ガリバルダ・セレナ夫人、オットカール・レヴェズ氏が現われたからだった。

(せれなふじんは、けなみのすぐれたせんとばーなーどどっぐのくさりをにぎっていて、すべてが)

セレナ夫人は、毛並の優れた聖バーナード犬の鎖を握っていて、すべてが

(しんちょうといいようぼうといい、くりヴぉふふじんとはまったくたいせきてきなかんをなしていた。)

身長と云い容貌と云い、クリヴォフ夫人とは全く対蹠的な観をなしていた。

(あんりょくしょくのすかーとにばんどでふちどりされたぼでぃすをつけ、それにひじまでひろがっている)

暗緑色のスカートに縁紐で縁取りされた胸衣をつけ、それに肱まで拡がっている

(しろいりんねるのからー、あたまにあうぐすちんにそうがかぶるようなじゅんぱくのかーちーふを)

白いリンネルの襟布、頭にアウグスチン尼僧が被るような純白の頭布を

(いただいている。だれしもそのゆうがなすがたをみたら、このふじんが、ろむぶろーぞに)

頂いている。誰しもその優雅な姿を見たら、この婦人が、ロムブローゾに

(げきじょうせいはんざいのまちとしてきされたところの、みなみいたりーぶりんでっししのうまれとは)

激情性犯罪の市と指摘されたところの、南伊太利ブリンデッシ市の生れとは

(きづかぬであろう。れヴぇずしはふろっくにはいいろのとらうざー、それに)

気づかぬであろう。レヴェズ氏はフロックに灰色のトラウザー、それに

(ういんぐからーをつけ、いちばんさいごにきょたいをゆすってあらわれたが、さっきれいはいどうで)

翼形カラーをつけ、一番最後に巨体を揺って現われたが、先刻礼拝堂で

(えんぼうしたときとはことなり、こうきんせつしてながめたところのかんじは、むしろおうのうてきで、)

遠望した時とは異なり、こう近接して眺めたところの感じは、むしろ懊悩的で、

(いっけんこころのどこかによくしされているものでもあるかのような、ひどくいんうつげな)

一見心のどこかに抑止されているものでもあるかのような、ひどく陰鬱気な

(そうぼうをしたちゅうろうしんしだった。そして、このさんにんは、まるでせいさんさいのぎょうれつみたいに)

相貌をした中老紳士だった。そして、この三人は、まるで聖餐祭の行列みたいに

(のたりのたりとあゆみはいってくるのだった。おそらくこのこうけいは、もしこのとき、)

ノタリノタリと歩み入って来るのだった。恐らくこの光景は、もしこの時、

(つるねーのくだったとろむぱのおとがおこってらいでぃんぐ・てぃんぱにぃがうちならされ、)

綴織の下った長管喇叭の音が起って筒長太鼓が打ち鳴らされ、

(せいひつをほうずるぎじょうかんのこえがきかれたなら、ちょうどそれが、)

静蹕を報ずる儀仗官の声が聴かれたなら、ちょうどそれが、

(じゅうはっせいきヴゅるってむべるくかけるんてんあたりの、こぢんまりしたきゅうていせいかつを)

十八世紀ヴュルッテムベルクかケルンテン辺りの、小ぢんまりした宮廷生活を

(ほうふつたらしめるものであろうし、またはんめんには、したがえたばとらーのかずに、かれらの)

髣髴たらしめるものであろうし、また反面には、従えた召使の数に、彼らの

(びょうてきなきょうふがうかがえるのだった。さらに、いまはたたろうとのあいだにかわされた)

病的な恐怖が窺えるのだった。さらに、いま旗太郎との間に交された

(しゅうあくなだんまりとうをかんがえると、そこになにやら、はんざいどうきでもおもわせるような、)

醜悪な黙闘を考えると、そこに何やら、犯罪動機でも思わせるような、

(くろずんだみずがゆらぎながれるといったきがしないでもなかった。けれども、なにより)

黝んだ水が揺ぎ流れるといった気がしないでもなかった。けれども、なにより

(このさんにんには、さいしょからさいしょうてきにもぎぎをさしはさむよちはなかったのである。)

この三人には、最初から採証的にも疑義を差し挾む余地はなかったのである。

(やがて、くりヴぉふふじんはのりみずのまえにたつと、けーんのさきでてーぶるをたたき、)

やがて、クリヴォフ夫人は法水の前に立つと、杖の先で卓子を叩き、

(めいずるようなきついこわねでいった。わたくしどもは、していただきたいことがあって)

命ずるような強い声音で云った。「私どもは、して頂きたい事があって

(まいったのですが というとなんでしょうか。とにかくおかけください のりみずが)

まいったのですが」「と云うと何でしょうか。とにかくお掛け下さい」法水が

(ちょっとたじろぎをみせたのは、かのじょのめいれいてきなごちょうではなかった。とおみで)

ちょっと躊躇ぎを見せたのは、彼女の命令的な語調ではなかった。遠見で

(ほるばいんの、まーがれっと・わいやっとへんりーはっせいのでんきしゃ、)

ホルバインの、「マーガレット・ワイヤット(ヘンリー八世の伝記者、

(たます・わいやっときょうのいもうと のぞう ににているとおもわれたくりヴぉふふじんのかおが)

タマス・ワイヤット卿の妹)の像」に似ていると思われたクリヴォフ夫人の顔が

(ちかづいてみると、まるでほうそうあとのようなみにくいそばかすだったからである。じつは、)

近づいてみると、まるで種痘痕のような醜い雀斑だったからである。「実は、

(てれーずのにんぎょうをたきすてていただきたいのです とくりヴぉふふじんが)

テレーズの人形を焚き捨てて頂きたいのです」とクリヴォフ夫人が

(きっぱりいいきると、くましろはびっくりしてさけんだ。)

キッパリ云い切ると、熊城は吃驚して叫んだ。

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