黒死館事件58
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問題文
(さいしょにふりやぎけのきゅうじちょうかわなべえきすけのしをはっけんした、そのぜんごのてんまつを)
――最初に降矢木家の給仕長川那部易介の死を発見した、その前後の顛末を
(がいじゅつしておこうとおもう。すなわち、ごごにじさんじゅっぷんそでろうかのつりぐそくのなかで、せいしきに)
概述しておこうと思う。すなわち、午後二時三十分拱廊の吊具足の中で、正式に
(かっちゅうをきしたすがたでちっそくし、しごいんこうぶに、にじょうの かん のようなかたちをしたせっそうを)
甲冑を着した姿で窒息し、死後咽喉部に、二条の「凵」のような形をした切創を
(うけ、ぜつめいしているのをはっけんされた。めいはくにしたいのしょちょうこうは、)
うけ、絶命しているのを発見された。明白に死体の諸徴候は、
(しごにじかんいないであることをしょうめいしているが、そのちっそくほうほうはかんまんに)
死後二時間以内である事を証明しているが、その窒息方法は緩慢に
(くわわっていったものらしく、けいろもぜんぜんふめいである。しかもおなじやといにんのひとりは、)
加わっていったものらしく、経路も全然不明である。しかも同じ傭人の一人は、
(いちじややすぎたころに、ひがいしゃがこうねつをはっしているのをしり、どうじに)
一時やや過ぎた頃に、被害者が高熱を発しているのを知り、同時に
(みゃくどうのあったこともたしかめたというのみならず、さらに、したいはっけんをさる)
脈動のあった事も確かめたと云うのみならず、さらに、死体発見を去る
(きんきんさんじゅっぷんいぜんのせいにじには、ひがいしゃのこきゅうをみみにしたという じつに)
僅々三十分以前の正二時には、被害者の呼吸を耳にしたと云う――実に
(きかいきわまるじじつをちんじゅつしたのである。よって、じょうじゅつのじじつにもとづき、ここに)
奇怪きわまる事実を陳述したのである。よって、上述の事実に基づき、ここに
(しけんをあきらかにしたいとおもう。ところで、さいしょにげんいんふめいのちっそくについては、)
私見を明らかにしたいと思う。ところで、最初に原因不明の窒息については、
(それをめかにしぇる・てぃむすとっと というよりも、きょうせんにあるきかいてきなあっぱくをがいぶから)
それを器械的胸腺死――と云うよりも、胸腺に或る器械的な圧迫を外部から
(くわえたものだとしゅちょうする、すなわちかわなべえきすけは、せいねんにたっしてもいぜんはついくした)
加えたものだと主張する、すなわち川那部易介は、成年に達しても依然発育した
(きょうせんをゆうする、いっしゅのとくいたいしつしゃにそういないのである。しかしてそのほうほうは、)
胸腺を有する、一種の特異体質者に相違ないのである。しかしてその方法は、
(くびわでけいどうみゃくをつよくきんばくしたためにのうひんけつをおこし、そのままけいどのもうろうじょうたいに)
頸輪で頸動脈を強く緊縛したために脳貧血を起し、そのまま軽度の朦朧状態に
(おちいったのと、よろいをよこむきにきさせたために、むないたのさいづいかんでつよくさこつじょうぶが)
陥ったのと、鎧を横向きに着させたために、胸板の才鎚環で強く鎖骨上部が
(あっぱくされ、そのあつりょくが、ひだりむめいじょうみゃくにくわわったのがしゅいんであろう。したがって、)
圧迫され、その圧力が、左無名静脈に加わったのが主因であろう。したがって、
(それにちゅうにゅうするきょうせんじょうみゃくにうっけつをきたし、さらに、それがきょうせんにもおよんで)
それに注入する胸腺静脈に鬱血をきたし、さらに、それが胸腺にも及んで
(うっけつひだいをおこしたので、とうぜんきかんをきょうさくし、ややちょうじかんにわたるぜんぞうてきな)
鬱血肥大を起したので、当然気管を狭搾し、やや長時間にわたる漸増的な
(ちっそくのけっか、しにいたらしめたものであるとおもう。しかしながら、かいぼうしょけんの)
窒息の結果、死に達らしめたものであると思う。しかしながら、解剖所見の
(はっぴょうをみるに、それにはきょうせんについてなんらしるされているところはない。)
発表を見るに、それには胸腺についてなんら記されているところはない。
(けれども、そうしてふもんにふせられているとはいいくだり、それらのじじつは、)
けれども、そうして不問に附せられているとは云い条、それ等の事実は、
(ふかしぎなるひがいしゃのこきゅうとじゅうだいなるいんがかんけいをゆうするものである。さらに、)
不可思議なる被害者の呼吸と重大なる因果関係を有するものである。さらに、
(そのようてんにげんきゅうすれば、なぜにそうそうたるほういがくしゃたちが、ふたつのきりきずがともに)
その要点に言及すれば、何故に鏘々たる法医学者達が、二つの切創がともに
(なかいじょうのけっかんではどうみゃくをさけ、じょうみゃくのみをきょうこうにかけてえぐっているのに)
中以上の血管では動脈を避け、静脈のみを胸腔にかけて抉っているのに
(きづかぬのであろうか。そこに、にんげんせいりのだいげんそくをてんぷくさせた、はんにんのきけいが)
気付かぬのであろうか。そこに、人間生理の大原則を顛覆させた、犯人の詭計が
(ひそんでいるのはもちろんのことである。ところで、かん のようなかたちに)
潜んでいるのは勿論のことである。ところで、「凵」のような形に
(えぐらねばならなかったせっそうのもくてきというのは、ほかでもない。ひだいしたきょうせんを)
抉らねばならなかった切創の目的と云うのは、ほかでもない。肥大した胸腺を
(せつだんしてしゅうしゅくせしめたばかりではなくて、しごどうみゃくしゅうしゅく しごただちにじょうみゃくを)
切断して収縮せしめたばかりではなくて、死後動脈収縮(死後ただちに静脈を
(せつだんしても、しゅっけつしはしないが、ややしばらくあとには、どうみゃくのしゅうしゅくによって、)
切断しても、出血しはしないが、ややしばらく後には、動脈の収縮によって、
(ぽんぷじょうにけつえきをじょうみゃくにおくり、りゅうけつせしむる。によってりゅうしゅつしたけつえきを)
喞筒状に血液を静脈に送り、流血せしむる。)によって流出した血液を
(きょうこうないにみたして、はいぞうをあっぱくしざんきをはきださしめたとしんずるのである しご)
胸腔内に充して、肺臓を圧迫し残気を吐き出さしめたと信ずるのである(死後
(ざんきのせつについては、わぐなー、まくどうがるなどのじっけんで、やくにじゅうりっぽういんちと)
残気の説については、ワグナー、マクドウガル等の実験で、約二十立方インチと
(けいさんされている 。つぎに、しごみゃくどうおよびこうねつについては、こうしゅ かいてん)
計算されている)。次に、死後脈動及び高熱については、絞首――廻転――
(ついらくとつづくにほんけいしきろくにおいても、そうとうのぶんけんがあるのみならず、)
墜落と続く日本刑死記録においても、相当の文献があるのみならず、
(はるとまんのめいちょ べりーど・あらいヴ いっさつだけでも、ゆうめいな)
ハルトマンの名著「生体埋葬」一冊だけでも、有名な
(てら・べるげんのきせき しんぞうふきんのまっさーじによって、しんおんをおこし、こうねつを)
テラ・ベルゲンの奇蹟(心臓附近のマッサージによって、心音を起し、高熱を
(はつせりというふぁれるすれーべんのふじん やはんがりーあすヴぁにの)
発せりと云うファレルスレーベンの婦人)や匈牙利アスヴァニの
(こうけいしたい じゅうごふんかんかいてんするがままにほうちしたるあとひきおろしてみると、そのご)
絞刑死体(十五分間廻転するがままに放置したる後引き下してみると、その後
(にじゅっぷんもみゃくどうとこうねつがつづいたという1815ねんびるばうあーきょうじゅのはっぴょう が)
二十分も脈動と高熱が続いたと云う一八一五年ビルバウアー教授の発表)が
(あげられているように、ちっそくしご、かいてんするかしてしたいにうんどうが)
挙げられているように、窒息死後、廻転するかして死体に運動が
(つづけられるばあいは、こうねつをはっしみゃくどうをおこすれいがかならずしもかいむではないのである。)
続けられる場合は、高熱を発し脈動を起す例が必ずしも皆無ではないのである。
(まさしくえきすけにおいても、ぜつめいごぐそくのかいてんが、したいはっけんのいちいんとして)
まさしく易介においても、絶命後具足の廻転が、死体発見の一因として
(しょうめいされているではないか。よって、じょうじゅつしたところをそうごうすれば、えきすけのしは)
証明されているではないか。よって、上述したところを綜合すれば、易介の死は
(いぜんごごいちじぜんごであって、かれがいかにしてかっちゅうをきしたかというてんにも、)
依然午後一時前後であって、彼がいかにして甲冑を着したかという点にも、
(きたじょうりゅうつりぐそくそうちゃくのほうなどのじんちゅうしんどくは、むろんこのばあいもんだいではない。)
北条流吊具足早着之法などの陣中心得は、無論この場合問題ではない。
(とうていたにんのちからをかりなければ、ひりきびょうじゃくのえきすけにはなしえないと)
とうてい他人の力を藉りなければ、非力病弱の易介にはなし得ないと
(すいだんされるのである。しかし、こんかいのはっぴょうが、ただたんにしいんのすいていにのみ)
推断されるのである。しかし、今回の発表が、ただ単に死因の推定にのみ
(とまっていて、なんらじけんのかいてんにしするところのないのは、そうさかんけいしゃとして)
止まっていて、なんら事件の開展に資するところのないのは、捜査関係者として
(こころからいかんのいをひょうしたいとおもう。のりみずのろうどくがおわると、つめられていたいきが)
心から遺憾の意を表したいと思う。法水の朗読が終ると、詰められていた息が
(いちどにはかれた。そして、こうふんをなげかわすようなこえでしばらく)
一度に吐かれた。そして、昂奮を投げ交すような声でしばらく
(そうぜんとなっていたが、やがてくましろが、けちらすようにしてきしゃたちを)
騒然となっていたが、やがて熊城が、蹴散らすようにして記者達を
(おいだしてしまうと、ふたたびいつものようなさんにんだけのせかいにもどった。のりみずは)
追い出してしまうと、再びいつものような三人だけの世界に戻った。法水は
(しばらくじっとかんがえていたが、まれらしくこうちょうをうかべたかおをあげていった。)
しばらく凝然と考えていたが、稀らしく紅潮を泛べた顔を上げて云った。
(ねえはぜくらくん、とうとうぼくは、あるひとつのけつろんにとうたつしたのだ。)
「ねえ支倉君、とうとう僕は、ある一つの結論に到達したのだ。
(もちろんがいほうてきだよ。ぜんぶのこうしきはとうていわかっちゃいないがね。しかし、ここの)
勿論外包的だよ。全部の公式はとうてい判っちゃいないがね。しかし、個々の
(できごとからでも、きょうつうしたふぁくたーをしることができたとしたら、どうだろう)
出来事からでも、共通した因数を知ることが出来たとしたら、どうだろう」
(とふたりのかおをさっとかすめた、きょうがくのいろにながしめをくれて、ところできみは、)
と二人の顔をサッと掠めた、驚愕の色に流眄をくれて、「ところで君は、
(このじけんのぎもんいちらんひょうをつくってくれたはずだったね。では、その)
この事件の疑問一覧表を作ってくれたはずだったね。では、その
(いっかじょういっかじょうのうえに、ぼくのせつをふえんさせてゆくことにしようじゃないか)
一箇条一箇条の上に、僕の説を敷衍させてゆくことにしようじゃないか」
(けんじがかたずをのみながら、かいちゅうのおぼえがきをとりだしたときだった。どあがひらいて、)
検事が固唾を嚥みながら、懐中の覚書を取り出した時だった。扉が開いて、
(ばとらーがいっつうのそくたつをのりみずにてわたしした。のりみずは、そのかくふうをひらいてないようを)
召使が一通の速達を法水に手渡しした。法水は、その角封を開いて内容を
(いちべつしたが、かくべつのひょうじょうもうかべずに、すぐむごんのままてーぶるのぜんぽうになげだした。)
一瞥したが、格別の表情も泛べずに、すぐ無言のまま卓上の前方に投げ出した。
(ところが、それにめをふれたけんじとくましろはたちまちどうにもならないせんりつに)
ところが、それに眼を触れた検事と熊城はたちまちどうにもならない戦慄に
(とらえられてしまった。みよ、ふぁうすとはかせからおくられたさんかいめの)
捉えられてしまった。見よ、ファウスト博士から送られた三回目の
(やぶみではないか!それには、いつものごそにっくもじで、つぎのぶんしょうが)
矢文ではないか!それには、いつものゴソニック文字で、次の文章が
(したためられてあった。)
認められてあった。
(salamander soll gluhen ざらまんだーよ、もえたけれ)
Salamander soll gluhen(火精よ、燃えたけれ)