黒死館事件59
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問題文
(だいごへん だいさんのさんげき)
第五篇 第三の惨劇
(いち、はんにんのなは、りゅっつぇんやくのせんぼつしゃちゅうに)
一、犯人の名は、リュッツェン役の戦歿者中に
(salamander soll gluhen ざらまんだーよ、もえたけれ)
Salamander soll gluhen(火精よ、燃えたけれ)
(こくしかんをまっくろなつばさでおおうているめにみえないあっきが、みたびふぁうすとはかせを)
黒死館を真黒な翼で覆うている眼に見えない悪鬼が、三度ファウスト博士を
(きどってごぼうせいじゅもんのいっくをおくってきた。それには、なによりくましろが、)
気取って五芒星呪文の一句を送って来た。それには、なにより熊城が、
(まずいいようのないぶじょくをおぼえずにはいられなかった。じじつ、のこされた)
まず云いようのない侮辱を覚えずにはいられなかった。事実、残された
(よにんのかぞくはくましろのぶかによって、さながらごーとしきかっちゅうのように、みうごきも)
四人の家族は熊城の部下によって、さながらゴート式甲冑のように、身動きも
(できぬほどそうこうされているのである。それにもかかわらず、ふてききわまりない)
出来ぬほど装甲されているのである。それにもかかわらず、不敵きわまりない
(まにあっくなじっこうをせんげんして、だんねべるぐふじんとえきすけにつづく、さんかいめのさんげきを)
偏執狂的な実行を宣言して、ダンネベルグ夫人と易介に続く、三回目の惨劇を
(よこくしているのではないか。そうなると、くましろのつくりあげたにんげんのるいへきが、)
予告しているのではないか。そうなると、熊城の作り上げた人間の塁壁が、
(だいいちどうなってしまうのであろう。ほとんどはんざいのぞっこうをふかのうに)
第一どうなってしまうのであろう。ほとんど犯罪の続行を不可能に
(おもわせるほどのかんぺきなとりででさえも、はんにんにとっては、わずかれいしょうのちりに)
思わせるほどの完璧な砦でさえも、犯人にとっては、わずか冷笑の塵に
(すぎないではないか。のみならず、そういうふれればはめつをいみしている、)
すぎないではないか。のみならず、そういう触れれば破滅を意味している、
(けっていてきなきけんをおかしてまでもかんこうしようという、おそらくくるったのでなければ)
決定的な危険を冒してまでも敢行しようという、恐らく狂ったのでなければ
(いしにあらわせぬようなけつりょをしめしているのであるから、そのふてきさにどぎもを)
意志に表わせぬような決慮を示しているのであるから、その不敵さに度胆を
(ぬかれたかたちになってしまって、さんにんがしばらくのあいだこえをうばわれていたのも)
抜かれた形になってしまって、三人がしばらくの間声を奪われていたのも
(むりではなかった。そのひはなんにちめかのかいせいだった。なごやかなひざしが、へきめんを)
無理ではなかった。その日は何日目かの快晴だった。和やかな陽差が、壁面を
(かざっている ろんどんたいかのず のかほう ちょうどぶりくすとんふきんにおちていて)
飾っている「倫敦大火之図」の下方――ちょうどブリクストン附近に落ちていて
(それがしだいにてむずをこえて、いちめんにこくえんのみなぎる、きんぐすくろすのほうへ)
それがしだいにテムズを越えて、一面に黒煙の漲る、キングスクロスの方へ
(はいあがっていこうとしている。しかしそれにひきかえしつないのくうきは、うてば)
這い上って行こうとしている。しかしそれに引き換え室内の空気は、打てば
(かねのようにひびくかとおもわれるほどにきんちょうしきっていたが、のりみずはなにか)
金属のように響くかと思われるほどに緊張しきっていたが、法水は何か
(せいさんのあるらしいおももちで、ゆったりとめをとじもくそうにふけりながらも、たえず)
成算のあるらしい面持で、ゆったりと眼を瞑じ黙想に耽りながらも、絶えず
(びしょうをうかべどくざんきなうなずきをつづけていた。やがて、くましろがむりにりきみだしたような)
微笑を泛べ独算気な頷きを続けていた。やがて、熊城が無理に力味出したような
(こえをだした。ぼくはしんさいじゃないがね。うそののろしにはおどろかんよ。)
声を出した。「僕は真斎じゃないがね。虚妄の烽火には驚かんよ。
(あのむふんべつしゃのこうどうも、いよいよこれでしゅうそくさ。だってかんがえてみたまえ。)
あの無分別者の行動も、いよいよこれで終熄さ。だって考えて見給え。
(げんざいぼくのぶかは、あのよにんのしゅういをたてのようにかこんでいる。けれども、)
現在僕の部下は、あの四人の周囲を盾のように囲んでいる。けれども、
(そのはんめんのいみが、どうじにはんにんのこうどうきろくけいのやくもつとめていることに)
その反面の意味が、同時に犯人の行動記録計の役も勤めていることに
(なるんだぜ。ははははのりみずくん、なんというひにくだろう。もしかしたら、はんにんにも)
なるんだぜ。ハハハハ法水君、なんという皮肉だろう。もしかしたら、犯人にも
(ごえいをつけてないともかぎらんのだからね けんじはあいかわらずゆううつなかおで、)
護衛を附けてないとも限らんのだからね」検事は相変らず憂鬱な顔で、
(くましろのかしんにはんたいのけんかいをのべた。どうして、あのよにんをばらばらに)
熊城の過信に反対の見解を述べた。「どうして、あの四人をバラバラに
(はなしてみたところで、とうていこのさんげきはおわりそうもないよ。にんげんのちからでは、)
離してみたところで、とうていこの惨劇は終りそうもないよ。人間の力では、
(どうしてもとめることがふかのうのようなきがする。じじつぼくには、)
どうしても止めることが不可能のような気がする。事実僕には、
(まだだれかしられてないじんぶつが、こくしかんのどこかにひそんでいるようなきがして)
まだ誰か知られてない人物が、黒死館のどこかに潜んでいるような気がして
(ならないんだ するときみは、でぃぐすびいがらんぐーんでしんだのではない)
ならないんだ」「すると君は、ディグスビイが蘭貢で死んだのではない
(というのか くましろはめをみはって、からだをのりだした。とにかく、じょうだんは)
と云うのか」熊城は眼をみはって、身体を乗り出した。「とにかく、冗談は
(やめてもらおう。それほどさんてつのいがいがきになるのだったら、そのはっくつは、)
やめてもらおう。それほど算哲の遺骸が気になるのだったら、その発掘は、
(このじけんのおおづめがすんでからのことにしようじゃないか うん、)
この事件の大詰が済んでからのことにしようじゃないか」「うん、
(しんけいかもしれないが。けっしてしょうせつてきなくうそうじゃないよ。けっきょくこのしんぴてきな)
神経かもしれないが。けっして小説的な空想じゃないよ。結局この神秘的な
(じけんが、そこまでたどりついていきそうなきがするだけだけどもね とそれなりで)
事件が、そこまで辿り着いて行きそうな気がするだけだけどもね」とそれなりで
(けんじは、かれのうわごとめいたものをくちにはださなかったけれども、それにははいごから)
検事は、彼の譫妄めいたものを口には出さなかったけれども、それには背後から
(おいせまってくる、あくむのようなふしぎなちからがひそんでいた。わりあいむそうてきな)
追い迫って来る、悪夢のような不思議な力が潜んでいた。割合夢想的な
(のりみずでさえも、その でぃぐすびいのせいしいかんにかけたぎもんとさんてつの)
法水でさえも、その――ディグスビイの生死いかんにかけた疑問と算哲の
(いがいはっくつ というふたつのていだいからは、しゅんかんではあったが、)
遺骸発掘――という二つの提題からは、瞬間ではあったが、
(うずきあげてくるようなものをかんじたことはじじつだった。けんじはいすをぐいとうしろに)
疼き上げてくるようなものを感じたことは事実だった。検事は椅子をグイと後に
(たおして、なおもたんそくをつづけた。ああ、こんどはざらまんだーか!?すると、ぴすとるか)
倒して、なおも嘆息を続けた。「ああ、今度は火精か!?すると、拳銃か
(いしびやかい。それとも、ふるくさいすないどるじゅうかよんじゅうにぽんどほうでもむけようという)
石火矢かい。それとも、古臭いスナイドル銃か四十二磅砲でも向けようという
(すんぽうかね のりみずはそのときふいにまぶたをひらいて、そそのかしられたようにはんしんをてーぶるに)
寸法かね」法水はその時不意に瞼を開いて、唆られたように半身を卓上に
(のりだした。よんじゅうにぽんどのきゃのんほう!そうだはぜくらくん。しかし、きみがそれをいしきして)
乗り出した。「四十二磅の加農砲!そうだ支倉君。しかし、君がそれを意識して
(いったのなら、たいしたものだよ。こんどのざらまんだーには、けっしていままでのような)
云ったのなら、たいしたものだよ。今度の火精には、けっして今までのような
(いんけんもうろうたるものはないとおもうのだ。きっとはんにんのくらしっくごのみから、ろどまんの)
陰険朦朧たるものはないと思うのだ。きっと犯人の古典好みから、ロドマンの
(まるだまがひとでのようなはくえんをあげてさくれつするだろうよ ああ、あいかわらずごうそうな)
円弾が海盤車のような白煙を上げて炸裂するだろうよ」「ああ、相変らず豪壮な
(おぺれったかね。それなら、どうでもいいが とくましろはいったんいまいましそうに)
喜歌劇かね。それなら、どうでもいいが」と熊城はいったん忌々しそうに
(したうちしたが、すわりなおした。しかし、ろんきょのあるものなら、いちおうは)
舌打ちしたが、坐り直した。「しかし、論拠のあるものなら、一応は
(きかせてもらおう もちろんあるともさ のりみずはむぞうさにうなずいたが、そのかおには)
聴かせてもらおう」「勿論あるともさ」法水は無雑作に頷いたが、その顔には
(せいしきれないこうふんのいろがあらわれていた。というのは、こんどのざらまんだーだけに、)
制しきれない昂奮の色が現われていた。「と云うのは、今度の火精だけに、
(うんでぃね・じるふす とぜんれいのある、せいべつてんかんがおこなわれてないということなんだ。)
水精・風精――と前例のある、性別転換が行われてないという事なんだ。
(ところで、あのごぼうせいじゅもんにあらわれているよっつのせいれいだが、それぞれに)
ところで、あの五芒星呪文に現われている四つの精霊だが、それぞれに
(うんでぃね・じるふす・ざらまんだー・こぼると と、ぶっしつこうぞうのよんだいようそをだいひょうしている。)
水精・風精・火精・地精――と、物質構造の四大要素を代表している。
(いうまでもなく、ちゅうせいのぱらふぇりすとがかそうしていた、えれめんたりー・すぴりっとにはちがいない。)
云うまでもなく、中世の錬金道士が仮想していた、元素精霊には違いない。
(そしていままでは、うんでぃぬすととびらをひらいたみず、じるふすとばいおんえんそう といっただけの、)
そして今までは、水精と扉を開いた水、風神と倍音演奏――と云っただけの、
(いわばようそてきなふごうしかわかってはいなかったのだ。けれども、いったんそれに)
云わば要素的な符合しか判ってはいなかったのだ。けれども、いったんそれに
(せいべつてんかんのかいしゃくをくわえると、あのいかにもえるめちむすめいていたものが、)
性別転換の解釈を加えると、あのいかにも秘密教めいていたものが、
(たちどころにこうしきかされてしまうのだ。ねえくましろくん、うんでぃぬすとだんせいにかえなければ)
たちどころに公式化されてしまうのだ。ねえ熊城君、水精と男性に変えなければ
(どうしてあのどあをひらくことができなかったのだろうか。そこに、はんざいほうていしきの)
どうしてあの扉を開くことが出来なかったのだろうか。そこに、犯罪方程式の
(いちぶがせいみつなかたちですかしみえていたのを、ぼくらは、いままでなぜに)
一部が精密な形で透し見えていたのを、僕等は、今まで何故に
(みすごしていたのだろうか なにはんざいほうていしき!?のりみずのいがいなことばに、くましろは)
看過していたのだろうか」「なに犯罪方程式!?」法水の意外な言に、熊城は
(むねをはいだらけにしてさけんだ。けれども、だいたいがしんりなどというものは、)
胸を灰だらけにして叫んだ。けれども、だいたいが真理などと云うものは、
(おうおうに、けんきょうふかいこのうえなしのばーれすくにすぎないばあいがある。しかも、)
往々に、牽強附会この上なしの滑稽劇にすぎない場合がある。しかも、
(きまっていつも、それはへいぼんなかたちであしもとにおちているものではないか。つづいて、)
きまっていつも、それは平凡な形で足下に落ちているものではないか。続いて、
(のりみずがばくろしたそのいっそくめんというのが、いかにふたりを)
法水が曝露したその一側面と云うのが、いかに二人を
(あぜんたらしめたことか・・・・・・。)
唖然たらしめたことか……。