黒死館事件62
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問題文
(いち、よにんのいこくがくじんについて)
一、四人の異国楽人について
(ひがいしゃだんねべるぐふじんいがいよにんが、いかなるりゆうのもとにようしょうのおりとらいしたか、)
被害者ダンネベルグ夫人以外四人が、いかなる理由の下に幼少の折渡来したか、
(また、そのふかかいきまるきかにゅうせきについては、いささかのきしもゆるされない。)
また、その不可解極まる帰化入籍については、いささかの窺視も許されない。
(いぜんてっぴのごとくにとざされている。)
依然鉄扉のごとくに鎖されている。
(に、こくしかんきおうのさんじけん)
二、黒死館既往の三事件
(おなじへやにおいてさんどにわたり、いずれもどうきふめいのじさつじけんにたいして、のりみずは)
同じ室において三度にわたり、いずれも動機不明の自殺事件に対して、法水は
(まったくかんさつをほうきしているようである。ことに、さくねんのさんてつじけんについては、)
まったく観察を放棄しているようである。ことに、昨年の算哲事件については、
(しんさいをどうかつするぐにはきょうしているけれども、はたしてかれのけんかいのごとく、)
真斎を恫喝する具には供しているけれども、はたして彼の見解のごとく、
(ほんじけんとはぜんぜんべっこのものであろうか。のりみずがこくしかんのとしょもくろくのなかから、)
本事件とは全然別個のものであろうか。法水が黒死館の図書目録の中から、
(うっずの おうけのいでん をひきだしたのは、そのこたんめいたれんぞくを、かれは)
ウッズの「王家の遺伝」を抽き出したのは、その古譚めいた連続を、彼は
(いでんがくてきにこうさつしようとするのではないか。)
遺伝学的に考察しようとするのではないか。
(さん、さんてつとこくしかんのけんせつぎしくろーど・でぃぐすびいのかんけい)
三、算哲と黒死館の建設技師クロード・ディグスビイの関係
(さんてつはやくぶつしつのなかに、でぃぐすびいよりあたえられるべくしてはたされなかった、)
算哲は薬物室の中に、ディグスビイより与えられるべくして果されなかった、
(あるやくぶつらしいものをまちもうけていた。そのいしを、いっぽんのこびんにのこしている。)
ある薬物らしいものを待ち設けていた。その意志を、一本の小瓶に残している。
(またのりみずは、かたふぁるこじゅうじかのかいどくよりして、でぃぐすびいにじゅそのいしを)
また法水は、棺龕十字架の解読よりして、ディグスビイに呪詛の意志を
(しょうめいしている。いじょうのにてんをそうごうすると、こくしかんのけんせつまえすでに、りょうしゃのあいだには)
証明している。以上の二点を綜合すると、黒死館の建設前すでに、両者の間には
(あるいようなかんけいがしょうじていたのではないだろうか。)
ある異様な関係が生じていたのではないだろうか。
(よん、さんてつとういちぐすじゅほう)
四、算哲とウイチグス呪法
(でぃぐすびいのせっけいを、さんてつはけんせつごごねんめにかいしゅうしている。そのとき、)
ディグスビイの設計を、算哲は建設後五年目に改修している。その時、
(でいはかせのいんけんとびらやくろかがみまほうのりろんをおうようしたこだいとけいしつのとびらが)
デイ博士の隠顕扉や黒鏡魔法の理論を応用した古代時計室の扉が
(うまれたのではないかとおもわれる。しかしながら、さんてつのいようなせいかくからおしても)
生れたのではないかと思われる。しかしながら、算哲の異様な性格から推しても
(とうていそれらちゅうせいいたんてきろうぎぶつが、じょうきのふたつにつきるとはしんぜられぬ。)
とうていそれ等中世異端的弄技物が、上記の二つに尽きるとは信ぜられぬ。
(そして、ぼつごちょくぜんにじゅほうしょをたいたことが、こんにちのふんきゅうこんらんにいんを)
そして、歿後直前に呪法書を焚いたことが、今日の紛糾混乱に因を
(およぼしているのではないかと、すいそくするがいかが?)
及ぼしているのではないかと、推測するがいかが?
(ご、じけんはっせいまえのふんいき)
五、事件発生前の雰囲気
(よにんのきかにゅうせき、ゆいごんしょのさくせいとつづいて、さんてつのじさつにほうちゃくすると、)
四人の帰化入籍、遺言書の作成と続いて、算哲の自殺に逢着すると、
(とつじょなまぐさいさぎりのようなくうきがみなぎりはじめた。そして、としがあらたまるとどうじに、)
突如腥い狭霧のような空気が漲りはじめた。そして、年が改まると同時に、
(そのくうきにいよいよけんあくのたびがくわわっていったといわれる。あながちそのげんいんが)
その空気にいよいよ険悪の度が加わっていったと云われる。あながちその原因が
(ゆいごんしょをめぐるせいしんてきかっとうのみであるとはおもわれぬではないか。)
遺言書を繞る精神的葛藤のみであるとは思われぬではないか。
(ろく、しんいしんもんかいのぜんご)
六、神意審問会の前後
(だんねべるぐふじんは、したいろうそくがてんぜられるとどうじに、さんてつとさけんでそっとうした。)
ダンネベルグ夫人は、死体蝋燭が点ぜられると同時に、算哲と叫んで卒倒した。
(また、そのおりえきすけは、りんしつのはりだしふちにいようなひとかげをもくげきしたという。けれども、)
また、その折易介は、隣室の張出縁に異様な人影を目撃したと云う。けれども、
(れっせきしゃちゅうには、だれひとりとしてへやをでたものはなかったのである。そして、)
列席者中には、誰一人として室を出たものはなかったのである。そして、
(そのちょっかにあたるちかには、じんたいけいせいのりほうをむししたにじょうのくつあとがしるされ、)
その直下に当る地下には、人体形成の理法を無視した二条の靴跡が印され、
(そのごうりゅうてんに、これもいかなるようとにきょうされたものがかいもくけんとうのつかない、)
その合流点に、これもいかなる用途に供されたものが皆目見当のつかない、
(しゃしんかんぱんのはへんがさんざいしていた。いじょうよっつのなぞはじかんてきにはきんせつしていても、)
写真乾板の破片が散在していた。以上四つの謎は時間的には近接していても、
(とうていしゅうそくしえべくもない。)
とうてい集束し得べくもない。
(なな、だんねべるぐじけん)
七、ダンネベルグ事件
(しこうとふりやぎのもんしょうをきざんだそうもん 。まさにちょうぜつてきちょうぼうである。しかものりみずは)
屍光と降矢木の紋章を刻んだ創紋――。まさに超絶的眺望である。しかも法水は
(そうもんのつくられたじかんがきんきんいち、にふんにすぎぬという。さらにかれのせつとして、)
創紋の作られた時間が僅々一、二分にすぎぬと云う。さらに彼の説として、
(そのふたつのげんしょうを、0.5のせいさんかり ほとんどどくぶつをふかのうにおもわせるていどの)
その二つの現象を、〇・五の青酸加里(ほとんど毒物を不可能に思わせる程度の
(やくりょう をふくんだおれんじが、ひがいしゃのこうちゅうにはいりこむまでのどうていにあてている。)
薬量)を含んだ洋橙が、被害者の口中に入り込むまでの道程に当てている。
(すなわち、ふかのうをかのうとさせるいみのほきょうさようであり、そのけっかのはっけんに)
すなわち、不可能を可能とさせる意味の補強作用であり、その結果の発顕に
(ほかならぬとすいだんしている。しかし、かれのかんさつあやまりなしとしても、それをしょうめいし)
ほかならぬと推断している。しかし、彼の観察誤りなしとしても、それを証明し
(はんにんをしてきすることは、ようするにかみわざではないか。しかも、かぞくのどうせいには、)
犯人を指摘することは、要するに神業ではないか。しかも、家族の動静には、
(いっけんのとっきするべきものもなく、おれんじのしゅつげんしたけいろもぜんぜんふめいである。)
一見の特記するべきものもなく、洋橙の出現した経路も全然不明である。
(てれーずのぜんまいにんぎょう 。だんまつまにだんねべるぐふじんは、このじゃれいしされている)
テレーズの弾条人形――。断末魔にダンネベルグ夫人は、この邪霊視されている
(さんてつふじんのなをしへんにとどめた。そして、げんばのしきもののしたには、にんぎょうのあしがたが、)
算哲夫人の名を紙片にとどめた。そして、現場の敷物の下には、人形の足型が、
(とびらをひらいたみずをふんでまざまざとしるされている。しかし、そのにんぎょうには)
扉を開いた水を踏んでまざまざと印されている。しかし、その人形には
(とくしゅなめいおんそうちがあって、つきそいのひとりくがしずこは、そのすずのようなおとを)
特種な鳴音装置があって、附添いの一人久我鎮子は、その鈴のような音を
(みみにしなかったとちんじゅつしているのだ。もちろんのりみずは、にんぎょうのおかれてあった)
耳にしなかったと陳述しているのだ。勿論法水は、人形の置かれてあった
(へやのじょうきょうにいちまつのぎねんをのこしているけれども、それはかれじしんにおいても)
室の状況に一抹の疑念を残しているけれども、それは彼自身においても
(かくじつのものではなく、すなわち、ひていとこうていとのさかいは、そのうつくしい)
確実のものではなく、すなわち、否定と肯定との境は、その美しい
(せんおんひとすじにおかれてあるといってもかごんではない。)
顫音一筋に置かれてあると云っても過言ではない。
(はち、もくしずのこうさつ)
八、黙示図の考察
(のりみずはそれをとくいたいしつずとすいていしているのは、めいさつである。なぜなら、)
法水はそれを特異体質図と推定しているのは、明察である。何故なら、
(じたいのじょうげりょうたんをはさまれているえきすけのずが、かれのしたいげんしょうにも)
自体の上下両端を挟まれている易介の図が、彼の死体現象にも
(あらわれているではないか。しかし、のぶこのそっとうしているかたちが、せれなふじんの)
現われているではないか。しかし、伸子の卒倒している形が、セレナ夫人の
(それをほうふつとさせるのは、なぜであろうか。またのりみずが、しょうけいもじからすいていして)
それを髣髴とさせるのは、何故であろうか。また法水が、象形文字から推定して
(もくしずにしられないはんようがあるとするのは、たといろんりてきであるにしても、)
黙示図に知られない半葉があるとするのは、仮令論理的であるにしても、
(すこぶるじつざいせいにとぼしく、けっきょくかれのきょうきてきさんぶつとかんがえるほかにない。)
すこぶる実在性に乏しく、結局彼の狂気的産物と考えるほかにない。
(じゅう、かわなべえきすけじけん)
十、川那部易介事件
(のりみずのしいんせんめいは、どうじにかっちゅうをきせしめたところに、はんにんのしょざいを)
法水の死因闡明は、同時に甲冑を着せしめたところに、犯人の所在を
(してきしている。それをじかんてきについきゅうすると、のぶこにのみありばいがない。)
指摘している。それを時間的に追及すると、伸子にのみ不在証明がない。
(しかものぶこは、そののどをえぐったよろいどおしをにぎってしっしんし、なお、きせきとしか)
しかも伸子は、その咽喉を抉った鎧通しを握って失神し、なお、奇蹟としか
(かんがえられないばいおんが、もてっとのさいごのいっせつにおいてはっせられている。それいがいに)
考えられない倍音が、経文歌の最後の一節において発せられている。それ以外に
(ぎもんのしょうてんとでもいいたいのは、はたしてはんにんが、えきすけをきょうはんしゃとして)
疑問の焦点とでも云いたいのは、はたして犯人が、易介を共犯者として
(さつがいしたかいなかであって、もちろんよういなすいだんをゆるさぬことはいうまでも)
殺害したか否かであって、勿論容易な推断を許さぬことは云うまでも
(ないのである。けっきょく、そのきょくせつふんきゅうきいをちょうぜつしたじょうきょうからおしても、しだいに)
ないのである。結局、その曲折紛糾奇異を超絶した状況から推しても、しだいに
(のぶこのしっしんをはんにんのきょくげいてきえんぎとするてんにそうごうされてゆくけれども、しかし、)
伸子の失神を犯人の曲芸的演技とする点に総合されてゆくけれども、しかし、
(こうへいなろんだんをくだすなれば、いぜんとしてかみたにのぶこは、ただひとりの、そして、)
公平な論断を下すなれば、依然として紙谷伸子は、ただ一人の、そして、
(もっともうたがわれてよいじんぶつであることはもちろんである。)
最も疑われてよい人物であることは勿論である。
(じゅういち、おしがねつたこがこだいとけいしつにゆうへいされていたこと)
十一、押鐘津多子が古代時計室に幽閉されていた事
(これこそ、まさしくきょうがくちゅうのきょうがくである。しかも、のりみずがしたいとして)
これこそ、まさしく驚愕中の驚愕である。しかも、法水が死体として
(すいそくしたものが、げしがたいぼうおんをほどこされてこんすいしていた。もちろん、かのじょが、なぜに)
推測したものが、解し難い防温を施されて昏睡していた。勿論、彼女が、何故に
(じたくをはなれてじっかにききょしていたか という、そのてんをついきゅうするひつようは)
自宅を離れて実家に起居していたか――という、その点を追及する必要は
(いうまでもないが、しかし、はんにんがつたこをさつがいしなかったてんに、のりみずは)
云うまでもないが、しかし、犯人が津多子を殺害しなかった点に、法水は
(きぐのねんをいだいてかんせいをよきしている。けれども、えきすけがしんいしんもんかいのさいちゅう)
危惧の念を抱いて陥穽を予期している。けれども、易介が神意審問会の最中
(りんしつのはりだしふちでもくげきしたひとかげというのは、ぜったいにつたこではない。なぜなら、)
隣室の張出縁で目撃した人影と云うのは、絶対に津多子ではない。何故なら、
(とうやはちじにじゅっぷんに、しんさいがこだいとけいしつのもじばんをまわして、てっぴを)
当夜八時二十分に、真斎が古代時計室の文字盤を廻して、鉄扉を
(とざしたからである。)
鎖したからである。
(じゅうに、とうやれいじはんくりヴぉふふじんのへやにちんにゅうしたといわれるじんぶつは?)
十二、当夜零時半クリヴォフ夫人の室に闖入したと云われる人物は?
(ここにえきすけのもくげきだん よいにはりだしふちへしゅつげんして、あのいかにもようかいめいた)
ここに易介の目撃談――宵に張出縁へ出現して、あのいかにも妖怪めいた
(ふかしてきじんぶつが、やはんくりヴぉふふじんのへやにもすがたをあらわしたのだった。)
不可視的人物が、夜半クリヴォフ夫人の室にも姿を現わしたのだった。
(ふじんのことばによれば、それはまさしくだんせいであって、しかもあらゆるとくちょうが、)
夫人の言によれば、それはまさしく男性であって、しかもあらゆる特徴が、
(しんちょうこそいにすれはたたろうをしてきしている。しかりとすれば、のぶこがかくせいのしゅんかんに)
身長こそ異にすれ旗太郎を指摘している。しかりとすれば、伸子が覚醒の瞬間に
(したためたじしょに、ふりやぎというせいをかぶせている。それを、ぐってんべるがーじけんに)
認めた自署に、降矢木という姓を冠せている。それを、グッテンベルガー事件に
(せんれいのあるせんざいいしきとかいしゃくすれば、のぶこをたおしたとするじるふぇのしょうたいには、)
先例のある潜在意識と解釈すれば、伸子を倒したとする風精の正体には、
(もっともはたたろうのすがたがのうこうである。そして、そのすいていが、のぶこのろしゅつてきなしっしんしたいと)
最も旗太郎の姿が濃厚である。そして、その推定が、伸子の露出的な失神姿体と
(どうちゃくするところに、このじけんさいだいのなんてんがひそんでいるのはあるまいか。)
撞着するところに、この事件最大の難点が潜んでいるのはあるまいか。
(じゅうさん、どうきにかんするこうさつ)
十三、動機に関する考察
(すべてが、いさんをめぐるじじょうにつきている。だいいちのようてんは、よにんのいこくじんの)
すべてが、遺産を繞る事情に尽きている。第一の要点は、四人の異国人の
(きかにゅうせきによって、はたたろうのはくしてきそうぞくがふかのうになったことである。つぎに、)
帰化入籍によって、旗太郎の白紙的相続が不可能になった事である。次に、
(はたたろういがいただひとりのけつえんが、すなわちおしがねつたこをじょがいしているてんに)
旗太郎以外ただ一人の血縁が、すなわち押鐘津多子を除外している点に
(ちゅうもくすべきであろう。したがって、はたたろういがいさんにんのがいじんのあいだには、すでに)
注目すべきであろう。したがって、旗太郎以外三人の外人の間には、すでに
(かいふくしがたいていどのそかくをしょうじているけれども、なによりこのひとつのおおきな)
回復し難い程度の疎隔を生じているけれども、何よりこの一つの大きな
(むじゅんだけは、どうすることもできない。すなわち、どうきをもつものには、げんしょうてきに)
矛盾だけは、どうすることも出来ない。すなわち、動機を持つ者には、現象的に
(けんぎとすべきものがなく、のぶこのごときはんにんをほうふつとさせるものには、そのはんたいに)
嫌疑とすべきものがなく、伸子のごとき犯人を髣髴とさせる者には、その反対に
(どうきのすんえいすらみいだされないのである。)
動機の寸影すら見出されないのである。