黒死館事件102
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問題文
(つまり、せんしゅだいのみずをつかって、かいだんかららっかさせたというのは、)
「つまり、洗手台の水を使って、階段から落下させたというのは、
(ゆかのほこりのうえについたあしあとをけすにあったのだよ。すると、どうしてもこんぽんの)
床の埃の上に附いた足跡を消すにあったのだよ。すると、どうしても根本の
(ぎぎというのは、このへやのめいん・すいっちをきったのと、それからどあにかぎをおろして)
疑義と云うのは、この室の本開閉器を切ったのと、それから扉に鍵を下して
(しつがいにでてから、くりヴぉふをさした そのひとりふたやくにあるというわけに)
室外に出てから、クリヴォフを刺したーーその一人二役にあるという訳に
(なるがね。しかし、どうあってもぼくには、れヴぇずがそんな、ぽるたーがいすとのやくを)
なるがね。しかし、どうあっても僕には、レヴェズがそんな、小悪魔の役を
(つとめたとはしんじられんよ。かならずそのかいとうは、きみがはっけんしたくれすとれっす・すとーん に)
勤めたとは信じられんよ。必ずその解答は、君が発見した紋章のない石ーーに
(あるにそういないのだ なるほど、めいさつにはちがいないが といったんはそっちょくに)
あるに相違ないのだ」「なるほど、明察には違いないが」といったんは率直に
(うなずいたがのりみずは、つづいてうきわしげにまたたいて、しかし、このさいのけねんというのは)
頷いたが法水は、続いて憂わしげに瞬いて、「しかし、この際の懸念と云うのは
(かえって、れヴぇずのしんりげきのほうにあるのだよ。といってまた、このへやのかぎの)
かえって、レヴェズの心理劇の方にあるのだよ。と云ってまた、この室の鍵の
(ゆくえが、あんがいみえなかったれヴぇずにかんけいがあるのかもわからんし・・・・・・)
行衛が、案外見えなかったレヴェズに関係があるのかもわからんし」
(とぱっぱっとはげしくたばこをくゆらしていたが、くましろのほうをむいて、とにかく、)
とパッパッと烈しく莨を燻らしていたが、熊城の方を向いて、「とにかく、
(はんにんがいつまでもみにつけているきづかいはないのだから、まずかぎのゆくえを)
犯人がいつまでも身につけている気遣いはないのだから、まず鍵の行衛を
(さがすことだ。それから、れヴぇずをみつけてつれてくることなんだ)
捜すことだ。それから、レヴェズを見つけて連れて来ることなんだ」
(ようやくあくむからかいほうされたようなきもちになって、もとのれいはいどうにもどると、)
ようやく悪夢から解放されたような気持になって、旧の礼拝堂に戻ると、
(そこにはふたたび、しゃんでりやのひかりがちっていた。そのしたで、ちょうしゅうはここかしこに)
そこには再び、装飾灯の燦光が散っていた。その下で、聴衆はここかしこに
(ちずてきなしゅうだんをつくってかたまっていたが、だんじょうのさんにんは、それぞれに)
地図的な集団を作って固まっていたが、壇上の三人は、それぞれに
(もといたいちからうごかされなかったので、それでなくてもふあんとゆうしゅうのために、)
旧いた位置から動かされなかったので、それでなくても不安と憂愁のために、
(おいつめられたけもののようにふるえおののいていた。くりヴぉふふじんのしたいは、)
追いつめられた獣のように顫え戦いていた。クリヴォフ夫人の死体は、
(かいだんのぜんぽうにほとんどていじがたをなしてよこたわっていた。それがうつむきにたおれ、)
階段の前方にほとんど丁字形をなして横たわっていた。それが俯向きに倒れ、
(りょううでをぜんぽうになげだしていて、せのひだりがわには、らんす・へっどらしいかんじょうのえが、)
両腕を前方に投げ出していて、背の左側には、槍尖らしい桿状の柄が、
(にょきりとぶきみにつったっていた。したいのかおには、ほとんどきょうふのあとは)
ニョキリと不気味に突っ立っていた。死体の顔には、ほとんど恐怖の跡は
(なかった。しかも、きみょうにあぶらぎっていて、しせんじのふしゅのせいでもあろうか、)
なかった。しかも、奇妙に脂ぎっていて、死戦時の浮腫のせいでもあろうか、
(いつもみるようにとげとげしいけいかくてきなそうぼうが、しにがおではよほど)
いつも見るように棘々しい圭角的な相貌が、死顔ではよほど
(かんわされているようにおもわれた。ほとんど、ひょうじょうをうしなっている。けれども、)
緩和されているように思われた。ほとんど、表情を失っている。けれども、
(その いっけん、やすらかなしのかげともおもわれるものは、どうじにまた、)
そのーー一見、安らかな死の影とも思われるものは、同時にまた、
(ふいのきょうがくがおこした、きょしんじょうたいともすいさつされるのだった。そして、したいのせくぼを)
不意の驚愕が起した、虚心状態とも推察されるのだった。そして、死体の背窪を
(いっぱいにおおうてぎょうけつしたちが、ゆびさしているてのかたちで、おおきなたまりをつくっていて、)
一杯に覆うて凝結した血が、指差している手の形で、大きな溜りを作っていて、
(なおうすきみわるいことには、そのしとうがだんじょうのうほうにむけられていた。)
なお薄気味悪いことには、その指頭が壇上の右方に向けられていた。
(が、それらのこうけいのなかで、もっともつよくむねをうってくるのは、そのさつじんじけんに)
が、それ等の光景の中で、最も強く胸を打ってくるのは、そのさつじん事件に
(ふさわしからぬたいしょうであった。らんす・へっどのねもとには、にじみでているしぼうがこんじきに)
適わしからぬ対照であった。槍尖の根元には、滲み出ている脂肪が金色に
(かがやいていて、それとかぺるまいすたーのしゅいろのうわぎとが、このさんじょうぜんたいをきわめて)
輝いていて、それと宮廷楽師の朱色の上衣とが、この惨状全体をきわめて
(はなやかにみせていたのである。のりみずはしさいにきょうきのえをちょうさしたが、それには)
華やかに見せていたのである。法水は仔細に兇器の柄を調査したが、それには
(しもんのあとはなかった。そして、えのねもとにはもんとふぇらっとけのもんしょうが)
指紋の跡はなかった。そして、柄の根元にはモントフェラット家の紋章が
(いこくされていて、ひきぬくとはたしてそれが、ふたまたにさきがわかれているかえんけいの)
鋳刻されていて、引き抜くとはたしてそれが、二叉に先が分れている火焔形の
(らんす・へっどだった。しかし、きょうこうのさいにあらわれたしぜんのいたずらは、もっともかんじんなぶぶんを)
槍尖だった。しかし、兇行の際に現われた自然の悪戯は、最も肝腎な部分を
(おおうてしまった。というのはだんじょうからそのいちまでのあいだに、いっこうちしずくが)
覆うてしまった。と云うのは壇上からその位置までの間に、いっこう血滴が
(はっけんされないことだった。いうまでもなく、そのげんいんというのは、はが)
発見されないことだった。云うまでもなく、その原因と云うのは、刃が
(すぐひきぬかれなかったというてんにあって、もちろんそれがために、しゅんかんのほうけつが)
すぐ引き抜かれなかったという点にあって、勿論それがために、瞬間の迸血が
(とぼしかったからである。しかし、それによって、なによりはんこうを)
乏しかったからである。しかし、それによって、なにより犯行を
(さいげんするにかいてはならない、れんさがたたれてしまった。つまり、)
再現するに欠いてはならない、連鎖が絶たれてしまった。つまり、
(くりヴぉふふじんがだんじょうのどのてんでさされ、そうしてまた、どういうけいろをへて)
クリヴォフ夫人が壇上のどの点で刺され、そうしてまた、どういう経路を経て
(ついらくした かというふたつのつながりを、もはやしりとくべくもないのだった。)
墜落したーーかという二つの絡りを、もはや知り得べくもないのだった。
(のりみずはけんしをおえると、ちょうしゅうをしつがいにだしてしまってから、かいだんを)
法水は検屍を終えると、聴衆を室外に出してしまってから、階段を
(あがっていった。すると、のぶこがまず、ゆめにうなされたようなこえでさけびたてた。)
上って行った。すると、伸子がまず、夢に魘されたような声で叫び立てた。
(あのふぁうすとはかせは、まだまだわたしをくるしめたりないのですわ。)
「あのファウスト博士は、まだまだ私を苦しめ足りないのですわ。
(さいしょこぼるとのふだを、わたしのつくえのなかにいれておいたばかりではございません。きょうも、)
最初地精の札を、私の机の中に入れて置いたばかりではございません。今日も、
(あのあくまはまたわたしをえらんで、ひとみごくうのさんにんのなかにくわえるんですもの とはいごに)
あの悪魔はまた私を択んで、人身御供の三人の中に加えるんですもの」と背後に
(まわしたりょうてで、はーぷのわくをかたくにぎりしめ、それをはげしくゆすぶった。)
廻した両手で、竪琴の枠を固く握りしめ、それを激しく揺すぶった。
(ねえ、のりみずさん、あなたは、くりヴぉふさまがえんそうだんのどこでさされたか、また、)
「ねえ、法水さん、貴方は、クリヴォフ様が演奏壇のどこで刺されたか、また、
(どっちのがわからころげおちたか おしりになりたいのでしょう。けれども、)
どっちの側から転げ落ちたかーーお知りになりたいのでしょう。けれども、
(ほんとうにわたし、なにもしらないのです。ただはーぷのわくをつかんで、じっといきを)
ほんとうに私、何も知らないのです。ただ竪琴の枠を掴んで、凝然と息を
(つめていたのでございますから、ねえはたたろうさま、せれなさま、あなたがたは、たぶん)
詰めていたのでございますから、ねえ旗太郎様、セレナ様、貴方がたは、たぶん
(それをごぞんじでいらっしゃいましょう いいえ、わたしがもし)
それを御存じでいらっしゃいましょう」「いいえ、私がもし
(ぐいでぃおん どるいどじゅきょうにあらわれた、あんしおんけいにつうじていたといわれる、)
グイディオン(ドルイド呪教に現われた、暗視隠形に通じていたと云われる、
(だいしんぴそう でしたら、あるいはしっていたかもしれませんわ とせれなふじんは、)
大神秘僧)でしたら、あるいは知っていたかもしれませんわ」とセレナ夫人は、
(おののきのなかにかすかなひにくをうかべた。すると、それにことばをそえて、はたたろうがのりみずに)
戦きの中に微かな皮肉を泛べた。すると、それに言葉を添えて、旗太郎が法水に
(いった。じじつそうなんです。あいにくぼくらには、こんちゅうやめくらがもちあわせて)
云った。「事実そうなんです。生憎僕等には、昆虫や盲者が持ち合わせて
(いるほど、くうかんにたいするかんかくがせいかくでないのですよ。それに、なにしろいしょうが)
いるほど、空間に対する感覚が正確でないのですよ。それに、なにしろ衣裳が
(おなじなものですからね。のぶこさんがまっちをすってかおをてらすまでは、)
同じなものですからね。伸子さんが燐寸を擦って顔を照らすまでは、
(いったいだれがたおされたのか、それさえもはっきりしていなかった)
いったい誰が斃されたのか、それさえも明瞭していなかった
(というくらいで・・・・・・。いやいっそ、なにもきこえず、きどうにもふれなかった)
というくらいで。いやいっそ、何も聴えず、気動にも触れなかった
(ともうしましょうか とじけんのしちゅえーしょんが、のりみずらにふりなのをさっしたとみえ、はやくも)
と申しましょうか」と事件の局状が、法水等に不利なのを察したと見え、早くも
(かれのひとみのなかを、あっするようなそんだいなものがうごいていった。ところでのりみずさん、)
彼の瞳の中を、圧するような尊大なものが動いていった。「ところで法水さん、
(いったいめいん・すいっちをきったのは、だれなんでしょうか。そのあざやかなはやがわりで、)
いったい本開閉器を切ったのは、誰なんでしょうか。その鮮かな早代りで、
(ひとりふたやくをやってのけたあくまというのは?なに、あくまですって!?いや、)
一人二役を演ってのけた悪魔というのは?」「なに、悪魔ですって!?いや、
(こくしかんというさいだんをやねにしている じんせいそのものが、すでに)
黒死館という祭壇を屋根にしているーー人生そのものが、すでに
(あくまてきなんじゃありませんか とがんぜんのそうじゅくじを、うすきみわるいほどみつめながら、)
悪魔的なんじゃありませんか」と眼前の早熟児を、薄気味悪いほど瞶めながら、
(のりみずはさいごのことばをとらえた。じつははたたろうさん、ぼくはきゅうはのそうさほうを)
法水は最後の言葉を捉えた。「実は旗太郎さん、僕は旧派の捜査法をーー
(つまり、にんげんのこころぼそいかんかくやきおくなどにしんぴょうをおくのを、せいこつとよんで)
つまり、人間の心細い感覚や記憶などに信憑を置くのを、聖骨と呼んで
(けいべつしているのですよ。ところが、きょうのじけんでは、もちゅありー・るーむのせんとぱとりっくを)
軽蔑しているのですよ。ところが、今日の事件では、殯室の聖パトリックを
(しゅごしんにして、ぼくはどるいどじゅそうとたたかわねばならなくなったのです。あなたは、)
守護神にして、僕はドルイド呪僧と闘わねばならなくなったのです。貴方は、
(あのあいるらんどのけっそうがでしるほう ににたぎょうれつをおこなうと、それがどるいどじゅそうを)
あの愛蘭土の傑僧がデシル法ーーに似た行列を行うと、それがドルイド呪僧を
(くちくして、あるまーのちがせいかされたというしじつをごぞんじでしょうか)
駆逐して、アルマーの地が聖化されたという史実を御存じでしょうか」
(うえーるすのあくまきょうどるいどのしゅうぎで、さいだんのしゅういをたいようのうんこうとどうように)
(註)ウエールスの悪魔教ドルイドの宗儀で、祭壇の周囲を太陽の運行と同様に
(すなわち、ひだりからみぎにまわるしゅうぞく。)
すなわち、左から右に廻る習俗。
(でしるほう!?それを、どうしてまたあなたが・・・・・・とおくしたようにおもてを)
「デシル法!?それを、どうしてまた貴方が」と臆したように面を
(くもらせたが、せれなふじんは、そうしたくちのしたからといかえした。ですけど、)
曇らせたが、セレナ夫人は、そうした口の下から問い返した。「ですけど、
(そうめいなせんとぱとりっくは、ふきょうのほうべんとして、あのひだりからみぎへまわるぎょうれつほうを)
聰明な聖パトリックは、布教の方便として、あの左から右へ廻る行列法を
(かりたのではございませんこと さよう、それがきょうのじけんでは、)
借りたのではございませんこと」「さよう、それが今日の事件では、
(てる・てーる・しむぼる だったのです。しかし、じゅじゅつのしむぼるをほかにうつすということは、)
もの云う表象ーーだったのです。しかし、呪術の表象を他に移すということは、
(じゅそうそれみずからをほろぼすことなんですよ のりみずは、いじわるげなかたえみをうかべて、)
呪僧それ自らを滅ぼすことなんですよ」と法水は、意地悪げな片笑を泛べて、
(いんせいないかくをこめたようなことばをいいきった。)
陰性な威嚇を罩めたような言葉を云い切った。