【タイピング文庫】太宰治「走れメロス3」
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問題文
(せりぬんてぃうす、わたしははしったのだ。きみをあざむくつもりは、みじんもなかった。)
セリヌンティウス、私は走ったのだ。君を欺くつもりは、みじんも無かった。
(しんじてくれ!わたしはいそぎにいそいでここまできたのだ。だくりゅうをとっぱした。)
信じてくれ!私は急ぎに急いでここまで来たのだ。濁流を突破した。
(さんぞくのかこみからも、するりとぬけていっきにとうげをかけおりてきたのだ。わたしだから、)
山賊の囲みからも、するりと抜けて一気に峠を駈け降りて来たのだ。私だから、
(できたのだよ。ああ、このうえ、わたしにのぞみたまうな。ほっておいてくれ。どうでも、)
出来たのだよ。ああ、この上、私に望み給うな。放って置いてくれ。どうでも、
(いいのだ。わたしはまけたのだ。だらしがない。わらってくれ。おうはわたしに、ちょっと)
いいのだ。私は負けたのだ。だらしが無い。笑ってくれ。王は私に、ちょっと
(おくれてこい、とみみうちした。おくれたら、みがわりをころして、わたしをたすけてくれる)
おくれて来い、と耳打ちした。おくれたら、身代りを殺して、私を助けてくれる
(とやくそくした。わたしはおうのひれつをにくんだ。けれども、いまになってみると、わたしはおうの)
と約束した。私は王の卑劣を憎んだ。けれども、今になってみると、私は王の
(いうままになっている。わたしは、おくれていくだろう。おうは、ひとりがてんしてわたしを)
言うままになっている。私は、おくれて行くだろう。王は、ひとり合点して私を
(わらい、そうしてこともなくわたしをほうめんするだろう。そうなったら、わたしは、)
笑い、そうして事も無く私を放免するだろう。そうなったら、私は、
(しぬよりつらい。わたしは、えいえんにうらぎりものだ。ちじょうでもっとも、ふめいよのじんしゅだ。)
死ぬよりつらい。私は、永遠に裏切者だ。地上で最も、不名誉の人種だ。
(せりぬんてぃうすよ、わたしもしぬぞ。きみといっしょにしなせてくれ。きみだけは)
セリヌンティウスよ、私も死ぬぞ。君と一緒に死なせてくれ。君だけは
(わたしをしんじてくれるにちがいない。いや、それもわたしの、ひとりよがりか?ああ、)
私を信じてくれるにちがい無い。いや、それも私の、ひとりよがりか?ああ、
(もういっそ、あくとくものとしていきのびてやろうか。むらにはわたしのいえがある。ひつじもいる)
もういっそ、悪徳者として生き伸びてやろうか。村には私の家が在る。羊も居る
(いもうとふうふは、まさかわたしをむらからおいだすようなことはしないだろう。せいぎだの、)
妹夫婦は、まさか私を村から追い出すような事はしないだろう。正義だの、
(しんじつだの、あいだの、かんがえてみれば、くだらない。ひとをころしてじぶんがいきる。)
信実だの、愛だの、考えてみれば、くだらない。人を殺して自分が生きる。
(それがにんげんせかいのじょうほうではなかったか。ああ、なにもかも、ばかばかしい。)
それが人間世界の定法ではなかったか。ああ、何もかも、ばかばかしい。
(わたしは、みにくいうらぎりものだ。どうとも、かってにするがよい。やんぬるかな。)
私は、醜い裏切り者だ。どうとも、勝手にするがよい。やんぬる哉。
(ししをなげだして、うとうと、まどろんでしまった。ふとみみに、せんせん、)
――四肢を投げ出して、うとうと、まどろんでしまった。ふと耳に、潺々、
(みずのながれるおとがきこえた。そっとあたまをもたげ、いきをのんでみみをすました。)
水の流れる音が聞えた。そっと頭をもたげ、息を呑んで耳をすました。
(すぐあしもとで、みずがながれているらしい。よろよろおきあがって、みると、いわのさけめ)
すぐ足もとで、水が流れているらしい。よろよろ起き上って、見ると、岩の裂目
(からこんこんと、なにかちいさくささやきながらしみずがわきでているのである。そのいずみに)
から滾々と、何か小さく囁きながら清水が湧き出ているのである。その泉に
(すいこまれるようにめろすはみをかがめた。みずをりょうてですくって、ひとくちのんだ。)
吸い込まれるようにメロスは身をかがめた。水を両手で掬って、一くち飲んだ。
(ほうとながいためいきがでて、ゆめからさめたようなきがした。あるける。いこう。にくたいの)
ほうと長い溜息が出て、夢から覚めたような気がした。歩ける。行こう。肉体の
(ひろうかいふくとともに、わずかながらきぼうがうまれた。ぎむすいこうのきぼうである。)
疲労恢復と共に、わずかながら希望が生れた。義務遂行の希望である。
(わがみをころして、めいよをまもるきぼうである。しゃようはあかいひかりを、きぎのはにとうじ、)
わが身を殺して、名誉を守る希望である。斜陽は赤い光を、樹々の葉に投じ、
(はもえだももえるばかりにかがやいている。にちぼつまでには、まだまがある。わたしを、)
葉も枝も燃えるばかりに輝いている。日没までには、まだ間がある。私を、
(まっているひとがあるのだ。すこしもうたがわず、しずかにきたいしてくれているひとが)
待っている人があるのだ。少しも疑わず、静かに期待してくれている人が
(あるのだ。わたしは、しんじられている。わたしのいのちなぞは、もんだいではない。しんで)
あるのだ。私は、信じられている。私の命なぞは、問題ではない。死んで
(おわび、などときのいいことはいっていられぬ。わたしは、しんらいにむくいなければならぬ)
お詫び、などと気のいい事は言って居られぬ。私は、信頼に報いなければならぬ
(いまはただそのいちじだ。はしれ!めろす。わたしはしんらいされている。わたしはしんらい)
いまはただその一事だ。走れ!メロス。私は信頼されている。私は信頼
(されている。せんこくの、あのあくまのささやきは、あれはゆめだ。わるいゆめだ。)
されている。先刻の、あの悪魔の囁きは、あれは夢だ。悪い夢だ。
(わすれてしまえ。ごぞうがつかれているときは、ふいとあんなわるいゆめをみるものだ。)
忘れてしまえ。五臓が疲れているときは、ふいとあんな悪い夢を見るものだ。
(めろす、おまえのはじではない。やはり、おまえはしんのゆうしゃだ。ふたたびたって)
メロス、おまえの恥ではない。やはり、おまえは真の勇者だ。再び立って
(はしれるようになったではないか。ありがたい!わたしは、せいぎのしとしてしぬことが)
走れるようになったではないか。ありがたい!私は、正義の士として死ぬ事が
(できるぞ。ああ、ひがしずむ。ずんずんしずむ。まってくれ、ぜうすよ。わたしは)
出来るぞ。ああ、陽が沈む。ずんずん沈む。待ってくれ、ゼウスよ。私は
(うまれたときからしょうじきなおとこであった。しょうじきなおとこのままにしてしなせてください。)
生れた時から正直な男であった。正直な男のままにして死なせて下さい。
(みちいくひとをおしのけ、はねとばし、めろすはくろいかぜのようにはしった。)
路行く人を押しのけ、跳ねとばし、メロスは黒い風のように走った。
(のはらでしゅえんの、そのえんせきのまっただなかをかけぬけ、しゅえんのひとたちをぎょうてんさせ、)
野原で酒宴の、その宴席のまっただ中を駈け抜け、酒宴の人たちを仰天させ、
(いぬをけとばし、おがわをとびこえ、すこしずつしずんでゆくたいようのじゅうばいもはやくはしった。)
犬を蹴とばし、小川を飛び越え、少しずつ沈んでゆく太陽の十倍も早く走った。
(いちだんのたびびととさっとすれちがったしゅんかん、ふきつなかいわをこみみにはさんだ。)
一団の旅人と颯っとすれちがった瞬間、不吉な会話を小耳にはさんだ。
(いまごろは、あのおとこも、はりつけにかかっているよ。ああ、そのおとこ、そのおとこのため)
「いまごろは、あの男も、磔にかかっているよ。」ああ、その男、その男のため
(にわたしは、いまこんなにはしっているのだ。そのおとこをしなせてはならない。)
に私は、いまこんなに走っているのだ。その男を死なせてはならない。
(いそげ、めろす。おくれてはならぬ。あいとまことのちからを、いまこそしらせてやるがよい)
急げ、メロス。おくれてはならぬ。愛と誠の力を、いまこそ知らせてやるがよい
(ふうていなんかは、どうでもいい。めろすは、いまは、ほとんどらたいであった。)
風態なんかは、どうでもいい。メロスは、いまは、ほとんど裸体であった。
(こきゅうもできず、にど、さんど、くちからちがふきでた。みえる。はるかむこうにちいさく)
呼吸も出来ず、二度、三度、口から血が噴き出た。見える。はるか向うに小さく
(しらくすのしのとうろうがみえる。とうろうは、ゆうひをうけてきらきらひかっている。)
シラクスの市の塔楼が見える。塔楼は、夕陽を受けてきらきら光っている。
(ああ、めろすさま。うめくようなこえが、かぜとともにきこえた。だれだ。めろすは)
「ああ、メロス様。」うめくような声が、風と共に聞えた。「誰だ。」メロスは
(はしりながらたずねた。ふぃろすとらとすでございます。あなたのおともだち)
走りながら尋ねた。 「フィロストラトスでございます。貴方のお友達
(せりぬんてぃうすさまのでしでございます。そのわかいいしくも、めろすのあとに)
セリヌンティウス様の弟子でございます。」その若い石工も、メロスの後に
(ついてはしりながらさけんだ。もう、だめでございます。むだでございます。)
ついて走りながら叫んだ。「もう、駄目でございます。むだでございます。
(はしるのはやめてください。もう、あのかたをおたすけになることはできません。)
走るのはやめて下さい。もう、あの方をお助けになることは出来ません。」
(いや、まだひはしずまぬ。ちょうどいま、あのかたがしけいになるところです。)
「いや、まだ陽は沈まぬ。」 「ちょうど今、あの方が死刑になるところです。
(ああ、あなたはおそかった。おうらみもうします。ほんのすこし、もうちょっとでも、)
ああ、あなたは遅かった。おうらみ申します。ほんの少し、もうちょっとでも、
(はやかったなら!いや、まだひはしずまぬ。めろすはむねのはりさけるおもいで、)
早かったなら!」「いや、まだ陽は沈まぬ。」メロスは胸の張り裂ける思いで、
(あかくおおきいゆうひばかりをみつめていた。はしるよりほかはない。やめてください。)
赤く大きい夕陽ばかりを見つめていた。走るより他は無い。 「やめて下さい。
(はしるのは、やめてください。いまはごじぶんのおいのちがだいじです。あのかたは、あなたを)
走るのは、やめて下さい。いまはご自分のお命が大事です。あの方は、あなたを
(しんじておりました。けいじょうにひきだされても、へいきでいました。おうさまが、さんざん)
信じて居りました。刑場に引き出されても、平気でいました。王様が、さんざん
(あのかたをからかっても、めろすはきます、とだけこたえ、つよいしんねんをもちつづけて)
あの方をからかっても、メロスは来ます、とだけ答え、強い信念を持ちつづけて
(いるようすでございました。それだから、はしるのだ。しんじられているから)
いる様子でございました。」「それだから、走るのだ。信じられているから
(はしるのだ。まにあう、まにあわぬはもんだいでないのだ。ひとのいのちももんだいでないのだ。)
走るのだ。間に合う、間に合わぬは問題でないのだ。人の命も問題でないのだ。
(わたしは、なんだか、もっとおそろしくおおきいもののためにはしっているのだ。ついてこい!)
私は、なんだか、もっと恐ろしく大きい物の為に走っているのだ。ついて来い!
(ふぃろすとらとす。ああ、あなたはきがくるったか。それでは、うんと)
フィロストラトス。」「ああ、あなたは気が狂ったか。それでは、うんと
(はしるがいい。ひょっとしたら、まにあわぬものでもない。はしるがいい。)
走るがいい。ひょっとしたら、間に合わぬものでもない。走るがいい。」
(いうにやおよぶ。まだひはしずまぬ。さいごのしりょくをつくして、めろすははしった。)
言うにや及ぶ。まだ陽は沈まぬ。最後の死力を尽して、メロスは走った。
(めろすのあたまは、からっぽだ。なにひとつかんがえていない。ただ、わけのわからぬおおきな)
メロスの頭は、からっぽだ。何一つ考えていない。ただ、わけのわからぬ大きな
(ちからにひきずられてはしった。ひは、ゆらゆらちへいせんにぼっし、まさにさいごのいっぺんの)
力にひきずられて走った。陽は、ゆらゆら地平線に没し、まさに最後の一片の
(ざんこうも、きえようとしたとき、めろすはしっぷうのごとくけいじょうにとつにゅうした。まにあった。)
残光も、消えようとした時、メロスは疾風の如く刑場に突入した。間に合った。
(まて。そのひとをころしてはならぬ。めろすがかえってきた。やくそくのとおり、いま、)
「待て。その人を殺してはならぬ。メロスが帰って来た。約束のとおり、いま、
(かえってきた。とおおごえでけいじょうのぐんしゅうにむかってさけんだつもりであったが、)
帰って来た。」と大声で刑場の群衆にむかって叫んだつもりであったが、
(のどがつぶれてかれたこえがかすかにでたばかり、ぐんしゅうは、ひとりとしてかれのとうちゃくに)
喉がつぶれて嗄れた声が幽かに出たばかり、群衆は、ひとりとして彼の到着に
(きがつかない。すでにはりつけのはしらがたかだかとたてられ、なわをうたれたせりぬんてぃうす)
気がつかない。すでに磔の柱が高々と立てられ、縄を打たれたセリヌンティウス
(はじょじょにつりあげられてゆく。めろすはそれをもくげきしてさいごのゆう、せんこく、だくりゅう)
は徐々に釣り上げられてゆく。メロスはそれを目撃して最後の勇、先刻、濁流を
(およいだようにぐんしゅうをかきわけ、かきわけ、わたしだ、けいり!ころされるのは、わたしだ。)
泳いだように群衆を掻きわけ、掻きわけ、「私だ、刑吏!殺されるのは、私だ。
(めろすだ。かれをひとじちにしたわたしは、ここにいる!と、かすれたこえでせいいっぱいに)
メロスだ。彼を人質にした私は、ここにいる!」と、かすれた声で精一ぱいに
(さけびながら、ついにはりつけだいにのぼり、つりあげられてゆくとものりょうあしに、かじりついた。)
叫びながら、ついに磔台に昇り、釣り上げられてゆく友の両足に、齧りついた。
(ぐんしゅうは、どよめいた。あっぱれ。ゆるせ、とくちぐちにわめいた。せりぬんてぃうす)
群衆は、どよめいた。あっぱれ。ゆるせ、と口々にわめいた。セリヌンティウス
(のなわは、ほどかれたのである。せりぬんてぃうす。めろすはめになみだをうかべ)
の縄は、ほどかれたのである。 「セリヌンティウス。」メロスは眼に涙を浮べ
(ていった。わたしをなぐれ。ちからいpぱいにほおをなぐれ。わたしは、とちゅうでいちど、わるいゆめを)
て言った。「私を殴れ。ちから一ぱいに頬を殴れ。私は、途中で一度、悪い夢を
(みた。きみがもしわたしをなぐってくれなかったら、わたしはきみとほうようするしかくさえない)
見た。君が若し私を殴ってくれなかったら、私は君と抱擁する資格さえ無い
(のだ。なぐれ。せりぬんてぃうすは、すべてをさっしたようすでうなずき、けいじょういっぱい)
のだ。殴れ。」セリヌンティウスは、すべてを察した様子で首肯き、刑場一ぱい
(になりひびくほどおとたかくめろすのみぎほおをなぐった。なぐってからやさしくほほえみ、)
に鳴り響くほど音高くメロスの右頬を殴った。殴ってから優しく微笑み、
(めろす、わたしをなぐれ。おなじくらいおとたかくわたしのほおをなぐれ。わたしはこのみっかのあいだ、)
「メロス、私を殴れ。同じくらい音高く私の頬を殴れ。私はこの三日の間、
(たったいちどだけ、ちらときみをうたがった。うまれて、はじめてきみをうたがった。きみがわたしを)
たった一度だけ、ちらと君を疑った。生れて、はじめて君を疑った。君が私を
(なぐってくれなければ、わたしはきみとほうようできない。めろすはうでにうなりをつけて)
殴ってくれなければ、私は君と抱擁できない。」メロスは腕に唸りをつけて
(せりぬんてぃうすのほおをなぐった。ありがとう、ともよ。ふたりどうじにいい、)
セリヌンティウスの頬を殴った。 「ありがとう、友よ。」二人同時に言い、
(ひしとだきあい、それからうれしなきにおいおいこえをはなってないた。ぐんしゅうのなかから)
ひしと抱き合い、それから嬉し泣きにおいおい声を放って泣いた。群衆の中から
(も、きょきのこえがきこえた。ぼうくんでぃおにすは、ぐんしゅうのはいごからふたりのさまを、)
も、歔欷の声が聞えた。暴君ディオニスは、群衆の背後から二人の様を、
(まじまじとみつめていたが、やがてしずかにふたりにちかづき、かおをあからめて、)
まじまじと見つめていたが、やがて静かに二人に近づき、顔をあからめて、
(こういった。おまえらののぞみはかなったぞ。おまえらは、わしのこころに)
こう言った。「おまえらの望みは叶かなったぞ。おまえらは、わしの心に
(かったのだ。しんじつとは、けっしてくうきょなもうそうではなかった。どうか、わしをも)
勝ったのだ。信実とは、決して空虚な妄想ではなかった。どうか、わしをも
(なかまにいれてくれまいか。どうか、わしのねがいをききいれて、おまえらのなかまの)
仲間に入れてくれまいか。どうか、わしの願いを聞き入れて、おまえらの仲間の
(ひとりにしてほしい。どっとぐんしゅうのあいだに、かんせいがたった。ばんざい、おうさまばんざい。)
一人にしてほしい。」どっと群衆の間に、歓声が起った。「万歳、王様万歳。」
(ひとりのしょうじょが、ひのまんとをめろすにささげた。めろすは、まごついた。)
ひとりの少女が、緋のマントをメロスに捧げた。メロスは、まごついた。
(よきともは、きをきかせておしえてやった。めろす、きみは、まっぱだかじゃないか)
佳き友は、気をきかせて教えてやった。「メロス、君は、まっぱだかじゃないか
(はやくそのまんとをきるがいい。このかわいいむすめさんは、めろすのらたいを、)
早くそのマントを着るがいい。この可愛い娘さんは、メロスの裸体を、
(みんなにみられるのが、たまらなくくちおしいのだ。ゆうしゃは、ひどくせきめんした。)
皆に見られるのが、たまらなく口惜しいのだ。」勇者は、ひどく赤面した。