【タイピング文庫】宮沢賢治「黄いろのトマト1」

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プレイ回数4710難易度(4.2) 5268打 長文 かな
独特の世界観にみちた作品を残した宮沢賢治の童話です。
仲良く果樹園で暮らしていた兄妹二人がある日、風に運ばれたいい音に誘われ街に出かける。そこで見つけたサーカスに入ろうとして、お金というものを理解していない二人は、畑にできていた黄いろのトマトを代わりに渡した。しかし、それは通用せず、ひどく咎められてしまう。
順位 名前 スコア 称号 打鍵/秒 正誤率 時間(秒) 打鍵数 ミス 問題 日付
1 minon 2154 F+ 2.4 90.1% 2215.2 5355 583 76 2024/02/26

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問題文

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(わたしのまちのはくぶつかんの、おおきながらすのとだなには、はくせいですがよんひきのはちすずめがいます。)

私の町の博物館の、大きなガラスの戸棚には、剥製ですが四疋の蜂雀がいます。

(いきてたときはみぃみぃとなきちょうのようにはなのみつをたべるあのちいさな)

生きてたときはミィミィとなき蝶のように花の蜜をたべるあの小さな

(かあいらしいはちすずめです。わたくしはそのよんひきのなかでいちばんうえのえだにとまって、)

かあいらしい蜂雀です。わたくしはその四疋の中でいちばん上の枝にとまって、

(はねをりょうほうひろげかけ、まっさおなそらにいまにもとびたちそうなのを、ことに)

羽を両方ひろげかけ、まっ青なそらにいまにもとび立ちそうなのを、ことに

(すきでした。それはめがあかくてつるつるしたろくしょういろのむねをもち、)

すきでした。それは眼が赤くてつるつるした緑青いろの胸をもち、

(そのりんとはったむねにはなみがたのうつくしいもんもありました。ちいさいときの)

そのりんと張った胸には波形のうつくしい紋もありました。小さいときの

(ことですが、あるあさはやく、わたしはがっこうにいくまえにこっそりちょっとがらすのまえに)

ことですが、ある朝早く、私は学校に行く前にこっそり一寸ガラスの前に

(たちましたら、そのはちすずめが、ぎんのはりのようなほそいきれいなこえで、にわかにわたしに)

立ちましたら、その蜂雀が、銀の針の様なほそいきれいな声で、にわかに私に

(いいました。おはよう。ぺむぺるというこはほんとうにいいこだったのに)

言いました。「お早う。ペムペルという子はほんとうにいい子だったのに

(かあいそうなことをした。そのときまどにはまだあついちゃいろのかーてんが)

かあいそうなことをした。」その時窓にはまだ厚い茶いろのカーテンが

(ひいてありましたのでへやのなかはちょうどびーるびんのかけらをのぞいたよう)

引いてありましたので室の中はちょうどビール瓶のかけらをのぞいたよう

(でした。ですからわたしもあいさつしました。おはよう。はちすずめ。ぺむぺるというひとが)

でした。ですから私も挨拶しました。「お早う。蜂雀。ペムペルという人が

(どうしたっての。はちすずめががらすのむこうでまたいいました。ええおはようよ。)

どうしたっての。」蜂雀がガラスの向うで又云いました。「ええお早うよ。

(いもうとのねりというこもほんとうにかあいらしいいいこだったのにかあいそう)

妹のネリという子もほんとうにかあいらしいいい子だったのにかあいそう

(だなあ。どうしたていうのはなしておくれ。するとはちすずめはちょっとくちあいて)

だなあ。」「どうしたていうの話しておくれ。」すると蜂雀はちょっと口あいて

(わらうようにしてまたいいました。はなしてあげるからおまえはかばんをゆかに)

わらうようにしてまた云いました。「話してあげるからおまえは鞄を床に

(おろしてそのうえにおすわり。わたしはほんのはいったかばんのうえにすわるのはちょっと)

おろしてその上にお座り。」私は本の入ったかばんの上に座るのは一寸

(こまりましたけれどもどうしてもそのおはなしをききたかったのでとうとうそのとおり)

困りましたけれどもどうしてもそのお話を聞きたかったのでとうとうその通り

(しました。するとはちすずめははなしました。ぺむぺるとねりはまいにちおとうさんや)

しました。すると蜂雀は話しました。「ペムペルとネリは毎日お父さんや

(おかあさんたちのはたらくそばであそんでいたよ)

お母さんたちの働くそばで遊んでいたよ 〔以下、一部の原稿なし〕

など

(そのときぼくもさようなら。さようなら。といってぺむぺるのうちの)

その時僕も 『さようなら。さようなら。』と云ってペムペルのうちの

(きれいなきやはなのあいだからまっすぐにおうちにかえった。それからもちろんこむぎも)

きれいな木や花の間からまっすぐにおうちにかえった。それから勿論小麦も

(ついた。ふたりでこむぎをこなにするときはぼくはいつでもみにいった。こむぎを)

搗いた。二人で小麦を粉にするときは僕はいつでも見に行った。小麦を

(こなにするひならぺむぺるはちぢれたかみからみじかいあさぎのちょっきから)

粉にする日ならペムペルはちぢれた髪からみじかい浅黄のチョッキから

(もめんのだぶだぶずぼんまでこなですっかりしろくなりながらあかいがらすのすいしゃばで)

木綿のだぶだぶずぼんまで粉ですっかり白くなりながら赤いガラスの水車場で

(ことことやっているだろう。ねりはそのこなをよんひゃくぐれんぐらいずつもめんのふくろに)

ことことやっているだろう。ネリはその粉を四百グレンぐらいずつ木綿の袋に

(つめこんだりつかれてぼんやりとぐちによりかかりはたけをながめていたりする)

つめ込んだりつかれてぼんやり戸口によりかかりはたけをながめていたりする

(そのときぼくはねりちゃん。あなたはむぐらはすきですかとからかったりして)

そのときぼくはネリちゃん。あなたはむぐらはすきですかとからかったりして

(とんだのだ。それからもちろんきゃべじもうえた。ふたりがきゃべじをとるときは)

飛んだのだ。それからもちろんキャベジも植えた。二人がキャベジを穫るときは

(ぼくはいつでもみにいった。ぺむぺるがきゃべじのふといねをきってそれをはたけに)

僕はいつでも見に行った。ペムペルがキャベジの太い根を截ってそれをはたけに

(ころがすと、ねりはりょうてでそれをもってみずいろにぬられたいちりんしゃにいれるのだ。)

ころがすと、ネリは両手でそれをもって水いろに塗られた一輪車に入れるのだ。

(そしてふたりはくるまをおしてきいろのがらすのなやにきゃべじをはこんだのだ。)

そして二人は車を押して黄色のガラスの納屋にキャベジを運んだのだ。

(あおいきゃべじがころがってるのはそれはずいぶんりっぱだよ。そしてふたりはたった)

青いキャベジがころがってるのはそれはずいぶん立派だよ。そして二人はたった

(ふたりだけずいぶんたのしくくらしていた。おとなはそこらにいなかったの。)

二人だけずいぶん楽しくくらしていた。」「おとなはそこらに居なかったの。」

(わたしはふとおもいついてそうたずねました。おとなはすこしもそこらあたりに)

わたしはふと思い付いてそうたずねました。「おとなはすこしもそこらあたりに

(いなかった。なぜならぺむぺるとねりのきょうだいのふたりはたったふたりだけずいぶん)

居なかった。なぜならペムペルとネリの兄妹の二人はたった二人だけずいぶん

(ゆかいにくらしてたから。けれどほんとうにかあいそうだ。ぺむぺるというこは)

愉快にくらしてたから。けれどほんとうにかあいそうだ。ペムペルという子は

(まったくいいこだったのにかあいそうなことをした。ねりというこはまったく)

全くいい子だったのにかあいそうなことをした。ネリという子は全く

(かあいらしいおんなのこだったのにかあいそうなことをした。はちすずめはにわかに)

かあいらしい女の子だったのにかあいそうなことをした。」蜂雀は俄かに

(だまってしまいました。わたしはもうまったくきがきでありませんでした。はちすずめは)

だまってしまいました。私はもう全く気が気でありませんでした。蜂雀は

(いよいよだまってがらすのむこうでしんとしています。わたしもしばらくはこらえて)

いよいよだまってガラスの向うでしんとしています。私もしばらくは耐えて

(ひざをりょうてでかかえてじっとしていましたけれどもあんまりはちすずめがいつまでも)

膝を両手で抱えてじっとしていましたけれどもあんまり蜂雀がいつまでも

(だまっているもんですからそれにそのだまりようといったらたとえいっぺん)

だまっているもんですからそれにそのだまりようと云ったらたとえ一ぺん

(しんだひとがにどとおはかからでてこようたってくちなんかきくもんかというように)

死んだ人が二度とお墓から出て来ようたって口なんか聞くもんかと云うように

(みえましたのでとうとうわたしはいたたまらなくなりました。わたしはたってがらすの)

見えましたのでとうとう私は居たたまらなくなりました。私は立ってガラスの

(まえにあるいていってりょうてをがらすにかけてなかのはちすずめにいいました。ね、はちすずめ、)

前に歩いて行って両手をガラスにかけて中の蜂雀に云いました。「ね、蜂雀、

(そのぺむぺるとねりちゃんとがそれからいったいどうなったの、どうしたっていうの)

そのペムペルとネリちゃんとがそれから一体どうなったの、どうしたって云うの

(ね、はちすずめ、はなしておくれ。けれどもはちすずめはやっぱりじっとそのほそい)

ね、蜂雀、話してお呉れ。」けれども蜂雀はやっぱりじっとその細い

(くちばしをとがらしたままむこうのしじゅうからのほうをみたっきりにどとわたしにこたえようとも)

くちばしを尖らしたまま向うの四十雀の方を見たっきり二度と私に答えようとも

(しませんでした。ね、はちすずめ、はなしておくれ。だめだいはんぶんぐらいいっておいて)

しませんでした。「ね、蜂雀、談してお呉れ。だめだい半分ぐらい云っておいて

(いけないったらはちすずめね。はなしておくれ。そら、さっきのつづきをさ。どうして)

いけないったら蜂雀ね。談してお呉れ。そら、さっきの続きをさ。どうして

(はなしてくれないの。がらすはわたしのいきですっかりくもりました。よんわのうつくしい)

話して呉れないの。」ガラスは私の息ですっかり曇りました。四羽の美しい

(はちすずめさえまるでぼんやりみえたのです。わたしはとうとうなきだしました。なぜって)

蜂雀さえまるでぼんやり見えたのです。私はとうとう泣きだしました。なぜって

(だいいちあのうつくしいはちすずめがたったいままできれいなぎんのいとのようなこえでわたしとはなしを)

第一あの美しい蜂雀がたった今まできれいな銀の糸のような声で私と話を

(していたのににわかにかたくしんだようになってそのめもすっかりくろいがらすだまかなにか)

していたのに俄かに硬く死んだようになってその眼もすっかり黒い硝子玉か何か

(になってしまいいつまでたってもしじゅうからばかりみているのです。おまけにいったい)

になってしまいいつまでたっても四十雀ばかり見ているのです。おまけに一体

(それさえほんとうにみているのかただめがそっちへむいてるようにみえるのか)

それさえほんとうに見ているのかただ眼がそっちへ向いてるように見えるのか

(すこしもわからないのでしょう。それにまたあんなかあいらしいひにやけた)

少しもわからないのでしょう。それにまたあんなかあいらしい日に焼けた

(ぺむぺるとねりのきょうだいがなにかたいへんかあいそうなめになったというのですもの)

ペムペルとネリの兄妹が何か大へんかあいそうな目になったというのですもの

(どうしてなかないでいられましょう。もうわたしはそのためならばいっしゅうかんでも)

どうして泣かないでいられましょう。もう私はその為ならば一週間でも

(なけたのです。するとにわかにわたしのみぎのかたがおもくなりました。そしてなんだか)

泣けたのです。すると俄かに私の右の肩が重くなりました。そして何だか

(あたたかいのです。びっくりしてふりかえってみましたらあのばんにんのおじいさんが)

暖いのです。びっくりして振りかえって見ましたらあの番人のおじいさんが

(しんぱいそうにしろいまゆをよせてわたしのかたにてをおいてたっているのです。そのばんにんの)

心配そうに白い眉を寄せて私の肩に手を置いて立っているのです。その番人の

(おじいさんがいいました。どうしてそんなにないているの。おなかでもいたいの)

おじいさんが云いました。「どうしてそんなに泣いて居るの。おなかでも痛いの

(かい。あさはやくからとりのがらすのまえにきてそんなにひどくなくもんでない。)

かい。朝早くから鳥のガラスの前に来てそんなにひどく泣くもんでない。」

(けれどもわたしはどうしてもまだなきやむことができませんでした。おじいさんは)

けれども私はどうしてもまだ泣きやむことができませんでした。おじいさんは

(またいいました。そんなにたかくないちゃいけない。まだいりぐちをあけるにいちじかんはん)

又云いました。「そんなに高く泣いちゃいけない。まだ入口を開けるに一時間半

(もまがあるのにおまえだけそっといれてやったのだ。それにそんなにたかくないて)

も間があるのにおまえだけそっと入れてやったのだ。それにそんなに高く泣いて

(おもてのほうへきこえたらみんなわたしにこしょうをいってくるんでないか。そんなにないて)

表の方へ聞えたらみんな私に故障を云って来るんでないか。そんなに泣いて

(いけないよ。どうしてそんなにないてんだ。わたしはやっといいました。)

いけないよ。どうしてそんなに泣いてんだ。」私はやっと云いました。

(だってはちすずめがもうわたしにはなさないんだものするとじいさんはたかくわらいました。)

「だって蜂雀がもう私に話さないんだもの」するとじいさんは高く笑いました。

(ああ、はちすずめがまたおまえになにかはなしたね。そしてにわかにだまりこんだね。そいつは)

「ああ、蜂雀が又おまえに何か話したね。そして俄かに黙り込んだね。そいつは

(いけない。このはちすずめはよくそのじゅつをやってひとをからかうんだ。よろしい。わたしが)

いけない。この蜂雀はよくその術をやって人をからかうんだ。よろしい。私が

(しかってやろう。ばんにんのおじいさんはがらすのまえにすすみました。おい。はちすずめ。)

叱ってやろう。」番人のおじいさんはガラスの前に進みました。「おい。蜂雀。

(きょうでなんどめだとおもう。てちょうへつけるよ。つけるよ。あんまりいけなけあ)

今日で何度目だと思う。手帳へつけるよ。つけるよ。あんまりいけなけあ

(しかたないからかんちょうさまへもうしあげてあいすらんどへおくっちまうよ。ええおい。)

仕方ないから館長様へ申し上げてアイスランドへ送っちまうよ。ええおい。

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