白痴 4

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坂口安吾の小説。

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問題文

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(きちがいは30ぜんごで、ははおやがあり、)

気違いは三十前後で、母親があり、

(256のにょうぼうがあった。)

二十五六の女房があった。

(ははおやだけはしょうきのにんげんのぶるいに)

母親だけは正気の人間の部類に

(ぞくしているはずだというはなしであったが、)

属している筈だという話であったが、

(きょうどのひすてりいで、)

強度のヒステリイで、

(はいきゅうにふふくがあるとはだしでちょうかいへのりこんでくる)

配給に不服があると跣足で町会へ乗込んでくる

(ちょうないゆいいつのじょけつであり、)

町内唯一の女傑であり、

(きちがいのにょうぼうははくちであった。)

気違いの女房は白痴であった。

(あるさちおおきとしのこと、)

ある幸多き年のこと、

(きちがいがほっしんしてしろしょうぞくにみをかため)

気違いが発心して白装束に身をかため

(しこくへんろにたびだったが、)

四国遍路に旅立ったが、

(そのときしこくのどこかしらではくちのおんなといきとうごうし、)

そのとき四国のどこかしらで白痴の女と意気投合し、

(へんろみやげににょうぼうをつれてもどってきた。)

遍路みやげに女房をつれて戻ってきた。

(きちがいはふうさいどうどうたるこうだんしであり、)

気違いは風采堂々たる好男子であり、

(はくちのにょうぼうはこれもしかるべきいえがらの)

白痴の女房はこれも然るべき家柄の

(しかるべきむすめのようなひんのよさで、)

然るべき娘のような品の良さで、

(めのほそぼそとうっとうしい、)

眼の細々とうっとうしい、

(うりざねがおのこふうのにんぎょうかのうめんのようなうつくしいかおだちで、)

瓜実顔の古風の人形か能面のような美しい顔立ちで、

(ふたりならべてながめただけでは、びなんびじょ、)

二人並べて眺めただけでは、美男美女、

(それもそうとうきょうようしんえんなこういっついとしかみうけられない。)

それも相当教養深遠な好一対としか見受けられない。

など

(きちがいはどのつよいきんがんきょうをかけ、)

気違いは度の強い近眼鏡をかけ、

(つねにばんかんのどくしょにつかれたような)

常に万巻の読書に疲れたような

(うれわしげなかおをしていた。)

憂わしげな顔をしていた。

(あるひこのろじでぼうくうえんしゅうがあって)

ある日この路地で防空演習があって

(おかみさんたちがかつやくしていると、)

オカミさん達が活躍していると、

(きながしすがたでげたげたわらいながらけんぶつしていたのがこのおとこで、)

着流し姿でゲタゲタ笑いながら見物していたのがこの男で、

(そのうちにわかにぼうくうふくそうにきかえてあらわれて)

そのうち俄に防空服装に着かえて現れて

(ひとりのばけつをひったくったかとおもうと、)

一人のバケツをひったくったかと思うと、

(えいとか、やーとか、ほーほーという)

エイとか、ヤーとか、ホーホーという

(すうしゅるいのきみょうなこえをかけて)

数種類の奇妙な声をかけて

(みずをくみみずをなげ、)

水を汲み水を投げ、

(はしごをかけてへいにのぼり、)

梯子をかけて塀に登り、

(やねのうえからごうれいをかけ、)

屋根の上から号令をかけ、

(やがていちじょうのえんぜつ(くんじ)をはじめた。)

やがて一場の演説(訓辞)を始めた。

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