人間失格【太宰治】

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投稿者投稿者ひきにーと。いいね6お気に入り登録
プレイ回数4323難易度(4.2) 3696打 長文 かな
太宰治の人間失格ノンストップで。
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順位 名前 スコア 称号 打鍵/秒 正誤率 時間(秒) 打鍵数 ミス 問題 日付
1 ヤス 7105 7.4 95.7% 496.4 3690 163 61 2024/10/31
2 まんまるまるこ 7033 7.2 96.7% 510.0 3712 125 61 2024/11/04
3 琥珀 6408 S 6.6 96.8% 566.3 3749 120 61 2024/12/07
4 りく 5916 A+ 6.0 97.5% 618.6 3756 96 61 2024/10/25
5 じゅーと 4519 C++ 4.6 97.4% 797.9 3704 98 61 2024/11/03

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問題文

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(わたしはそのおとこのしゃしんをさんようみたことがある)

私は、その男の写真を三葉、見たことがある。

(いちようはそのおとこのようねんじだいとでもいうべきであろうか)

一葉は、その男の、幼年時代、とでも言うべきであろうか、

(じゅっさいぜんごかとすいていされるころのしゃしんであって)

十歳前後かと推定される頃の写真であって、

(そのこどもがおおぜいのおんなのひとにとりかこまれそれはそのこどものあねたち)

その子供が大勢の女の人に取りかこまれ、(それは、その子供の姉たち、

(いもうとたちそれからいとこたちかとそうぞうされるていえんのいけのほとりに)

妹たち、それから、従姉妹たちかと想像される)庭園の池のほとりに、

(あらいしまのはかまをはいてたちくびをさんじゅうどほどひだりにかたむけみにくくわらっているしゃしんである)

荒い縞の袴をはいて立ち、首を三十度ほど左に傾け、醜く笑っている写真である

(みにくくけれどもにぶいひとたちつまりびしゅうなどにかんしんをもたぬひとたちは)

醜く?けれども、鈍い人たち(つまり、美醜などに関心を持たぬ人たち)は、

(おもしろくもなんともないようなかおをしてかわいいぼっちゃんですね)

面白くも何とも無いような顔をして、「可愛い坊ちゃんですね。」

(といいかげんなおせじをいってもまんざらからおせじにきこえないくらいの)

といい加減なお世辞を言っても、まんざら空お世辞に聞こえないくらいの、

(いわばつうぞくのかわいらしさ)

謂わば通俗の「可愛らしさ」

(みたいなかげもそのこどものえがおにないわけではないのだがしかしいささかでも)

みたいな影もその子供の笑顔に無いわけではないのだが、しかし、いささかでも

(びしゅうについてのくんれんをへてきたひとならひとめみてすぐ)

美醜に就いての訓練を経て来たひとなら、ひとめ見てすぐ、

(なんていやなこどもだとすこぶるふかいそうにつぶやき)

「なんて、嫌な子供だ。」と頗る不快そうに呟き、

(けむしでもはらいのけるときのようなてつきでそのしゃしんをほうりなげるかもしれない)

毛虫でも払いのける時のような手つきで、その写真をほうり投げるかも知れない

(まったくそのこどものえがおはよくみればみるほどなんともしれず)

まったく、その子供の笑顔は、よく見れば見るほど、何とも知れず、

(いやなうすきみわるいものがかんぜられてくるどだいそれはえがおではない)

イヤな薄気味悪いものが感ぜられてくる。どだい、それは、笑顔ではない。

(このこはすこしもわらってはいないのだそのしょうこにはこのこは)

この子は、少しも笑ってはいないのだ。その証拠には、この子は、

(りょうほうのこぶしをかたくにぎってたっているにんげんは)

両方のこぶしを固く握って立っている。人間は、

(こぶしをつよくにぎりながらわらえるものではないのであるさるださるのわらいがおだ)

こぶしを強く握りながら笑えるものでは無いのである。猿だ。猿の笑い顔だ。

(ただかおにみにくいしわをよせているだけなのであるしわくちゃぼっちゃん)

ただ、顔に醜いしわを寄せているだけなのである。「皺くちゃ坊ちゃん」

など

(とでもいいたくなるくらいのまことにきみょうなそうしてどこかけがらわしく)

とでも言いたくなるくらいの、まことに奇妙な、そうして、どこかけがらわしく

(へんにひとをむかむかさせるひょうじょうのしゃしんであったわたしはこれまで)

へんにひとをムカムカさせる表情の写真であった。私はこれまで、

(こんなふしぎなひょうじょうのこどもをみたことがいちどもなかった)

こんな不思議な表情の子供を見たことが、いちども無かった。

(だいにようのしゃしんのかおはこれはまたびっくりするくらいひどくへんぼうしていた。)

第二葉の写真の顔は、これはまた、びっくりするくらいひどく変貌していた。

(がくせいのすがたであるこうとうがっこうじだいのしゃしんかだいがくじだいのしゃしんか)

学生の姿である。高等学校時代の写真か、大学時代の写真か、

(はっきりしないけれどもとにかくおそろしくびぼうのがくせいであるしかし)

はっきりしないけれども、とにかく、おそろしく美貌の学生である。しかし、

(これもまたふしぎにもいきているにんげんのかんじはしなかったがくせいふくをきて)

これもまた、不思議にも、生きている人間の感じはしなかった。学生服を着て、

(むねのぽけっとからしろいはんけちをのぞかせとういすにこしをかけてあしをくみ)

胸のポケットから白いハンケチを覗かせ、籐椅子に腰をかけて足を組み、

(そうしてやはりわらっているこんどのえがおはしわくちゃのさるのわらいでなく)

そうして、やはり、笑っている。こんどの笑顔は、皺くちゃの猿の笑いでなく、

(かなりたくみなびしょうになってはいるがしかしにんげんのわらいとどこやらちがう)

かなり巧みな微笑になってはいるが、しかし、人間の笑いと、どこやら違う。

(ちのおもさとでもいおうかいのちのしぶさとでもいおうか)

血の重さ、とでも言おうか、命の渋さ、とでも言おうか、

(そのようなじゅうじつかんはすこしもなくそれこそとりのようではなく)

そのような充実感は少しも無く、それこそ、鳥のようではなく、

(うもうのようにかるくただはくしいちまいそうしてわらっているつまり)

羽毛のように軽く、ただ白紙一枚、そうして、笑っている。つまり、

(いちからじゅうまでつくりもののかんじなのであるきざといってもたりない)

一から十まで作り物の感じなのである。キザと言っても足りない。

(けいはくといってもたりないにやけといってもたりないおしゃれといっても)

軽薄と言っても足りない。ニヤケと言っても足りない。おしゃれと言っても、

(もちろんたりないしかもよくいているとやはりこのびぼうのがくせいにも)

もちろん足りない。しかも、よくいていると、やはりこの美貌の学生にも、

(どこかかいだんじみたきみわるいものがかんぜられてくるのであるわたしはこれまで)

どこか怪談じみた気味悪いものが感ぜられてくるのである。私はこれまで、

(こんなふしぎなびぼうのせいねんをみたことがいちどもなかった)

こんな不思議な美貌の青年を見たことが、いちども無かった。

(もういちようのしゃしんはもっともかいきなものであるまるでもうとしのころがわからない)

もう一葉の写真は、最も怪奇なものである。まるでもう、としの頃がわからない

(あたまはいくぶんしらがのようであるそれがひどくきたないへや)

頭はいくぶん白髪のようである。それが、ひどく汚い部屋

(へやのかべがさんかしょほどくずれおちているのがそのしゃしんにはっきりうつっている)

(部屋の壁が三箇所ほど崩れ落ちているのが、その写真にハッキリ写っている)

(のかたすみでちいさいひばちにりょうてをかざしこんどはわらっていない)

の片隅で、小さい火鉢に両手をかざし、こんどは笑っていない。

(どんなひょうじょうもないいわばすわってひばちにりょうてをかざしながら)

どんな表情も無い。謂わば、坐って火鉢に両手をかざしながら、

(しぜんにしんでいるようなまことにいまわしい)

自然に死んでいるような、まことにいまわしい、

(ふきつなにおいのするしゃしんであったきかいなのはそれだけではない)

不吉なにおいのする写真であった。奇怪なのは、それだけではない、

(そのしゃしんにはわりにかおがおおきくうつっていたのでわたしは)

その写真には、わりに顔が大きく写っていたので、私は、

(つくづくそのかおのこうぞうをしらべることができたのであるがひたいはへいぼん)

つくづくその顔の構造を調べることが出来たのであるが、額は平凡、

(がくのしわもへいぼんまゆもへいぼんめもへいぼんはなもくちもあごもああ)

額の皺も平凡、眉も平凡、眼も平凡、鼻も口も顎も、ああ、

(このかおにはひょうじょうがないばかりかいんしょうさえないとくちょうがないのだたとえば)

この顔には表情がないばかりか、印象さえ無い。特徴が無いのだ。たとえば、

(わたしがこのしゃしんをみてめをつぶるすでにわたしはこのかおをわすれている)

私がこの写真を見て、眼をつぶる、既に私はこの顔を忘れている。

(ちいさいひばちはおもいだすことができるけれどもそのへやのしゅじんこうのかおのいんしょうは)

小さい火鉢は思い出すことが出来るけれども、その部屋の主人公の顔の印象は、

(すっとむしょうしてどうしてもなんとしてもおもいだせないえにならないかおである)

すっと霧消して、どうしても、何としても思い出せない。画にならない顔である

(まんがにもなにもならないかおであるめをひらくあこんなかおだったのか)

漫画にも何もならない顔である。眼を開く、あ、こんな顔だったのか、

(おもいだしたというようなよろこびさえないきょくたんないいかたをすれば)

思い出した、というようなよろこびさえ無い。極端な言い方をすれば、

(めをひらいてそのしゃしんをふたたびみてもおもいだせないそうしてただもうふゆかい)

眼をひらいてその写真を再び見ても、思い出せない。そうして、ただもう不愉快

(いらいらしてついめをそむけたくなるいわゆるしそうというものにだって)

イライラして、つい眼をそむけたくなる。所謂「死相」というものにだって、

(もっとなにかひょうじょうなりいんしょうなりがあるだろうに)

もっと何か表情なり印象なりがあるだろうに、

(にんげんのからだにだばのくびでもくっつけたなら)

人間のからだに駄馬の首でもくっつけたなら、

(こんなかんじのものになるのであろうかとにかくどこということなく)

こんな感じのものになるのであろうか、とにかく、どこという事なく、

(みるものをしてぞっとさせいやなきもちにさせるのだわたしはこれまで)

見るものをして、ぞっとさせ、いやな気持ちにさせるのだ。私はこれまで、

(こんなふしぎなおとこのかおをみたことがやはりいちどもなかった)

こんな不思議な男の顔を見た事が、やはり、いちども無かった。

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