人間失格【太宰治】4
順位 | 名前 | スコア | 称号 | 打鍵/秒 | 正誤率 | 時間(秒) | 打鍵数 | ミス | 問題 | 日付 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
1 | ヤス | 7285 | 光 | 7.6 | 95.6% | 430.6 | 3285 | 148 | 53 | 2024/10/31 |
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問題文
(またじぶんはにくしんたちになにかいわれて)
また自分は、肉親たちに何か言われて、
(くちごたえしたことはいちどもありませんでしたそのわずかなおこごとは)
口応えした事はいちども有りませんでした。そのわずかなおこごとは、
(じぶんにはへきれきのごとくつよくかんぜられくるうみたいになりくちごたえどころか)
自分には霹靂の如く強く感ぜられ、狂うみたいになり、口応えどころか、
(そのおこごとこそいわばばんせいいっけいのにんげんのしんりとかいうものにちがいない)
そのおこごとこそ、謂わば万世一系の人間の「真理」とかいうものに違いない、
(じぶんにはそのしんりをおこなうちからがないのだから)
自分にはその心理を行う力が無いのだから、
(もはやにんげんといっしょにすめないのではないかしらとおもいこんでしまうのでした)
もはや人間と一緒に住めないのではないかしら、と思いこんでしまうのでした。
(だからじぶんにはいいあらそいもじこべんかいもできないのでした)
だから自分には、言い争いも自己弁解もできないのでした。
(ひとからわるくいわれるといかにももっとも)
人から悪く言われると、いかにも、もっとも、
(じぶんがひどいおもいをしているようなきがしてきていつもそのこうげきをもくしてうけ)
自分がひどい思いをしているような気がして来て、いつもその攻撃を黙して受け
(ないしんくるうほどのきょうふをかんじましたそれはだれでもひとからひなんせられたり)
内心、狂うほどの恐怖を感じました。それは誰でも、人から非難せられたリ、
(おこられたりしていいきもちがするものではないかもしれませんが)
怒られたりして、いい気持がするものでは無いかも知れませんが、
(じぶんはおこっているにんげんのかおにししよりもわによりもりゅうよりも)
自分は怒っている人間の顔に、獅子よりも鰐よりも龍よりも、
(もっとおそろしいどうぶつのほんしょうをみるのですふだんは)
もっとおそろしい動物の本性を見るのです。ふだんは、
(そのほんしょうをかくしているようですけれどもなにかのきかいにたとえば)
その本性をかくしているようですけれども、何かの機会に、たとえば、
(うしがそうげんでおっとりしたかたちでねていてとつじょ)
牛が草原でおっとりした形で寝ていて、突如、
(しっぽでぴしっとはらのあぶをうちころすみたいにふいににんげんのおそろしいしょうたいを)
尻尾でピシッと腹の虻を打ち殺すみたいに、不意に人間のおそろしい正体を、
(いかりによってばくろするようすをみてじぶんはいつもかみのさかだつほどのせんりつをおぼえ)
怒りに依って暴露する様子を見て、自分はいつも髪の逆立つほどの戦慄を覚え、
(このほんしょうもまたにんげんのいきていくしかくのひとつなのかもしれないとおもえば)
この本性もまた人間の生きて行く資格の一つなのかも知れないと思えば、
(ほとんどじぶんにぜつぼうをかんじるのでしたじぶんにたいして)
ほとんど自分に絶望を感じるのでした。自分に対して、
(ふるいおののきまたにんげんとしてのじぶんのげんどうにみじんもじしんをもてず)
震いおののき、また、人間としての自分の言動に、みじんも自信を持てず、
(そうしてじぶんひとりのおうのうはむねのなかのこばこにひめそのゆううつなあヴぁすねすを)
そうして自分ひとりの懊悩は胸の中の小箱に秘め、その憂鬱、ナアヴァスネスを
(ひたかくしにかくしてひたすらむじゃきのらくてんせいをよそおい)
ひたかくしに隠して、ひたすら無邪気の楽天性を装い、
(じぶんはおどけたおへんじんとしてしだいにかんせいされていきましたなんでもいいから)
自分はお道化たお変人として、次第に完成されて行きました。何でもいいから、
(わらわせておればいいのだそうするとにんげんたちはじぶんがかれらのいわゆる)
笑わせておればいいのだ、そうすると、人間たちは、自分が彼等の所謂
(せいかつのそとにいてもあまりそれをきにしないのではないかしらとにかく)
「生活」の外にいても、あまりそれを気にしないのではないかしら、とにかく、
(かれらにんげんたちのめざわりになってはいけないじぶんはむだかぜだそらだ)
彼等人間たちの目障りになってはいけない、自分は無だ、風だ、空だ、
(というようなおもいばかりがつのりじぶんはおどけによってかぞくをわらわせまた)
というような思いばかりが募り、自分はお道化に依って家族を笑わせ、また、
(かぞくよりももっとふかかいでおそろしいげなんやげじょにまで)
家族よりも、もっと不可解でおそろしい下男や下女にまで
(ひっしのおどけのさーヴぃすをしたのですじぶんはなつに)
必死のお道化のサーヴィスをしたのです。自分は夏に、
(ゆかたのしたにあかいけいとのせえたーをきてろうかをあるきいえじゅうのものをわらわせました)
浴衣の下に赤い毛糸のセエターを着て廊下を歩き、家中の者を笑わせました。
(めったにわらわないちょうけいもそれをみてふきだしそれあようちゃん)
めったに笑わない長兄も、それを見て噴き出し、「それあ、葉ちゃん、
(にあわないとかわいくてたまらないようなくちょうでいいましたなに)
似合わない。」と、可愛くてたまらないような口調で言いました。なに、
(じぶんだってまなつにけいとのせえたーをきてあるくほどいくらなんでもそんな)
自分だって、真夏に毛糸のセエターを着て歩くほど、いくら何でも、そんな、
(あつささむさをしらぬおへんじんではありませんあねのれぎんすをりょううでにはめて)
暑さ寒さを知らぬお変人ではありません。姉の脚絆を両腕にはめて、
(ゆかたのそでぐちからのぞかせもってせえたーをきているようにみせかけていたのです)
浴衣の袖口から覗かせ、以てセエターを着ているように見せかけていたのです。
(じぶんのちちはとうきょうにようじのおおいひとでしたので)
自分の父は、東京に用事の多いひとでしたので、
(うえののさくらぎちょうにべっそうをもっていてつきのたいはんはとうきょうのそのべっそうでくらしていました)
上野の桜木町に別荘を持っていて、月の大半は東京のその別荘で暮していました
(そうしてかえるときにはかぞくのものたちまたしんせきのものたちにまで)
そうして帰る時には家族の者たち、また親戚の者たちにまで、
(じつにおびただしくおみやげをかってくるのがまあちちのしゅみみたいなものでした)
実におびただしくお土産を買って来るのが、まあ、父の趣味みたいなものでした
(いつかのちちのじょうきょうのぜんやちちはこどもたちをきゃくまにあつめこんどかえるときには)
いつかの父の上京の前夜、父は子供たちを客間に集め、こんど帰る時には、
(どんなおみやげがいいかひとりひとりにわらいながらたずね)
どんなお土産がいいか、一人一人に笑いながら尋ね、
(それにたいするこどもたちのこたえをいちいちてちょうにかきとめるのでしたちちが)
それに対する子供たちの答をいちいち手帖に書きとめるのでした。父が、
(こんなにこどもたちとしたしくするのはめずらしいことでしたようぞうは)
こんなに子供たちと親しくするのは、めずらしい事でした。「葉蔵は?」
(ときかれてじぶんはくちごもってしまいましたなにがほしいときかれると)
と聞かれて、自分は、口ごもってしまいました。何が欲しいと聞かれると、
(とたんになにもほしくなくなるのでしたどうでもいい)
とたんに、何も欲しくなくなるのでした。どうでもいい、
(どうせじぶんをたのしくさせてくれるものなんかないんだというおもいが)
どうせ自分を楽しくさせてくれるものなんか無いんだという思いが、
(ちらとうごくのですとどうじにひとからあたえられるものを)
ちらと動くのです。と、同時に、人から与えられるものを、
(どんなにじぶんのこのみにあわなくてもそれをこばむこともできませんでした)
どんなに自分の好みに合わなくても、それを拒む事も出来ませんでした。
(いやなことをいやといえずまたすきなこともおずおずとぬすむように)
イヤな事を、イヤと言えず、また、好きな事も、おずおずと盗むように、
(きわめてにがくあじわいそうしていいしれぬきょうふかんにもだえるのでしたつまり)
極めてにがく味い、そうして言い知れぬ恐怖感にもだえるのでした。つまり、
(じぶんにはにしゃせんいつのちからさえなかったのですこれがこうねんにいたり)
自分には、二者選一の力さえ無かったのです。これが、後年に到り、
(いよいよじぶんのいわゆるはじのおおいしょうがいの)
いよいよ自分の所謂「恥の多い生涯」の、
(じゅうだいなげんいんともなるせいへきのひとつだったようにおもわれます)
重大な原因ともなる性癖の一つだったように思われます。