人間失格【太宰治】5
一部不適切な表現があり公開することが難しくなりそうでしたので代理の文字を使いました。
順位 | 名前 | スコア | 称号 | 打鍵/秒 | 正誤率 | 時間(秒) | 打鍵数 | ミス | 問題 | 日付 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
1 | ヤス | 6629 | S+ | 7.0 | 93.8% | 427.2 | 3032 | 200 | 52 | 2024/10/31 |
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問題文
(じぶんがだまってもじもじしているのでちちはちょっとふきげんなかおになり)
自分が黙って、もじもじしているので、父はちょっと不機嫌な顔になり、
(やはりほんかあさくさのなかみせにおしょうがつのししまいのおしし)
「やはり、本か。浅草の仲店にお正月の獅子舞のお獅子、
(こどももがかぶってあそぶのにはてごろなおおきさのがうっていたけどほしくないか)
子供もがかぶって遊ぶのには手頃な大きさのが売っていたけど、欲しくないか。
(ほしくないかといわれるともうだめなんです)
欲しくないか、と言われると、もうダメなんです。
(おどけたへんじもなにもできやしないんですおどけやくしゃはかんぜんにらくだいでした)
お道化た返事も何も出来やしないんです。お道化役者は、完全に落第でした。
(ほんがいいでしょうちょうけいはまじめなかおをしていいましたそうか)
「本が、いいでしょう。」長兄はまじめな顔をして言いました。「そうか。」
(ちちはきょうざめがおにてちょうにかきとめもせずぱちとてちょうをとじました)
父は、興覚め顔に手帖に書きとめもせず、パチと手帖を閉じました。
(なんというしっぱいじぶんはちちをおこらせたちちのふくしゅうはきっと)
なんという失敗、自分は父を怒らせた、父の復讐は、きっと、
(おそるべきものにちがいないいまのうちになんとかしてとりかえしのつかぬものか)
おそるべきものに違いない、いまのうちに何とかして取りかえしのつかぬものか
(とそのよるふとんのなかでがたがたふるえながらかんがえそっとおきてきゃくまにいき)
とその夜、蒲団の中でがたがた震えながら考え、そっと起きて客間に行き、
(ちちがせんこくてちょうをしまいこんだはずのつくえのひきだしをあけててちょうをとりあげ)
父が先刻、手帖をしまい込んだ筈の机の引き出しをあけて、手帖を取り上げ、
(ぱらぱらめくっておみやげのちゅうもんきにゅうのかしょをみつけてちょうのえんぴつをなめて)
パラパラめくって、お土産の注文記入の個所を見つけ、手帖の鉛筆をなめて、
(ししまいとかいてねましたじぶんはそのししまいのおししを)
シシマイ、と書いて寝ました。自分はその獅子舞のお獅子を、
(ちっともほしくはなかったのですかえってほんのほうがいいくらいでした)
ちっとも欲しくはなかったのです。かえって、本のほうがいいくらいでした。
(けれどもじぶんは)
けれども、自分は、
(ちちがそのおししをじぶんにかってあたえたいのだということにきがつき)
父がそのお獅子を自分に買って与えたいのだという事に気がつき、
(ちちのそのいこうにげいごうしてちちのきげんをなおしたいばかりにしんや)
父のその意向に迎合して、父の機嫌を直したいばかりに、深夜、
(きゃくまにしのびこむというぼうけんをあえておかしたのでしたそうして)
客間に忍び込むという冒険を、敢えておかしたのでした。そうして、
(このじぶんのひじょうのしゅだんははたしておもいどおりのだいせいこうをもってむくいられました)
この自分の非常の手段は、果して思いどおりの大成功を以て報いられました。
(やがてちちはとうきょうからかえってきてははにおおごえでいっているのを)
やがて、父は東京から帰ってきて、母に大声で言っているのを、
(じぶんはこどもべやできいていましたなかみせのおもちゃやで)
自分は子供部屋で聞いていました。「仲店のおもちゃ屋で、
(このてちょうをひらいてみたらこれここにししまいとかいてあるこれは)
この手帖を開いてみたら、これ、ここに、シシマイ、と書いてある。これは、
(わたしのじではないはてなとくびをかしげておもいあたりましたこれは)
私の字ではない、はてな? と首をかしげて、思い当りました。これは、
(ようぞうのいたずらですよあいつはわたしがきいたときには)
葉蔵のいたずらですよ。あいつは、私が聞いた時には、
(にやにやしてだまっていたがあとで)
にやにやして黙っていたが、あとで、
(どうしてもおししがほしくてたまらなくなったんだねなんせどうもあれは)
どうしてもお獅子が欲しくてたまらなくなったんだね。何せ、どうも、あれは、
(かわったぼうずですからねしらんふりしてちゃんとかいてある)
変わった坊主ですからね。知らん振りして、ちゃんと書いてある。
(そんなにほしかったのならそういえばよいのにわたしは)
そんなに欲しかったのなら、そう言えばよいのに。私は、
(おもちゃやのみせさきでわらいましたよようぞうをはやくここへよびなさい)
おもちゃ屋の店先で笑いましたよ。葉蔵を早くここへ呼びなさい。」
(またいっぽうじぶんはげなんやげじょたちをようしつにあつめて)
また一方、自分は、下男や下女たちを洋室に集めて、
(げなんのひとりにめちゃくちゃにぴあののきいをたたかせいなかではありましたが)
下男のひとりに無茶苦茶にピアノのキイをたたかせ、(田舎ではありましたが、
(そのいえにはたいていのものがそろっていました)
その家には、たいていのものが、そろっていました)
(じぶんはそのでたらめのきょくにあわせていんでやんのおどりをおどってみせて)
自分はその出鱈目の曲に合わせて、インデヤンの踊りを踊って見せて、
(みなをおおわらいさせましたじけいはふらっしゅをたいて)
皆を大笑いさせました。次兄はフラッシュを焚いて、
(じぶんのいんでやんのおどりをさつえいしてそのしゃしんができたのをみるとじぶんのこしぬの)
自分のインデヤンの踊りを撮影して、その写真が出来たのを見ると、自分の腰布
(それはさらさのふろしきでしたのあわせめからちいさいおぴーがみえていたので)
(それは更紗の風呂敷でした)の合せ目から、小さいお●●●が見えていたので
(これがまたいえじゅうのおおわらいでしたじぶんにとって)
これがまた家中の大笑いでした。自分にとって、
(これまたいがいのせいこうというべきものだったかもしれませんじぶんはまいつき)
これまた意外の成功というべきものだったかも知れません。自分は毎月、
(しんかんのしょうねんざっしをじゅっさついじょうもとっていてまたそのほかにも)
新刊の少年雑誌を十冊以上も、とっていて、またその他にも、
(さまざまのほんをとうきょうからとりよせてだまってよんでいましたので)
さまざまの本を東京から取り寄せて黙って読んでいましたので、
(めちゃらくちゃらはかせだのまたなんじゃもんじゃはかせなどとは)
メチャラクチャラ博士だの、また、ナンジャモンジャ博士などとは、
(たいへんななじみでまたかいだんこうだんらくごえどこばなしなどのたぐいにも)
たいへんな馴染みで、また、怪談、講談、落語、江戸小咄などの類にも、
(かなりつうじていましたからひょうきんなことをまじめなかおをしていって)
かなり通じていましたから、剽軽な事をまじめな顔をして言って、
(いえのものたちをわらわせるのにはことをかきませんでしたしかしああがっこう)
家の者たちを笑わせるのには事を欠きませんでした。しかし、嗚呼、学校!
(じぶんはそこではそんけいされかけていたのですそんけいされるというかんねんもまた)
自分は、そこでは、尊敬されかけていたのです。尊敬されるという観念もまた、
(はなはだじぶんをおびえさせましたほとんどかんぜんにちかくひとをだましてそうして)
甚だ自分を、おびえさせました。ほとんど完全に近く人をだまして、そうして、
(あるひとりのぜんちぜんのうのものにみやぶられこっぱみじんにやられて)
或るひとりの全知全能の者に見破られ、木っ葉みじんにやられて、
(しぬるいじょうのあかはじをかかせられるそれがそんけいされても)
死ぬる以上の赤恥をかかせられる、それが、「尊敬され」ても、
(だれかひとりがしっているそうしてにんげんたちもやがて)
誰かひとりが知っている、そうして、人間たちも、やがて、
(そのひとりからおしえられてだまされてたことにきづいたとき)
そのひとりから教えられて、だまされてた事に気づいた時、
(そのときのにんげんたちのいかりふくしゅうはいったいまあどんなでしょうか)
その時の人間たちの怒り、復讐は、いったい、まあ、どんなでしょうか。
(そうぞうしてさえみのけがよだつようなここちがするのです)
想像してさえ、身の毛がよだつような心地がするのです。