心霊研究会の怪4(終) 海野十三

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心霊研究会の怪/海野十三 著
青空文庫より引用

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問題文

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(そのゆうじんは、にこやかなかおをわたしにむけて、かたった。)

その友人は、にこやかな顔を私に向けて、語った。

(「ぼくとぼうさいのたいだんじかんはいちじかんいじょうかかるのでね、しゅじはいちばんあとに)

『僕と亡妻の対談時間は一時間以上かかるのでね、主事は一番後に

(まわってくれという。だからはじまるのは、いつもよるのじゅうじごろになる。)

回ってくれという。だから始まるのは、いつも夜の十時頃になる。

(にかいのへやには、れいばいとぼくのふたりだけだ。ほんとにこころおきなく、しんみりと)

二階の部屋には、霊媒と僕の二人だけだ。ほんとに心おきなく、しんみりと

(たのしいたいだんができるのだ。つまはいろいろとおもいだして、よろこんだりなつかしがったり)

楽しい対談が出来るのだ。妻はいろいろと思い出して、喜んだり懐かしがったり

(ないたりする。ぼくはいまこうふくだよ」わたしはしつもんした。「そんなあまったるいはなしを)

泣いたりする。僕は今幸福だよ』私は質問した。『そんな甘ったるい話を

(つづけて、れいばいさんにはずかしくないのかい」するとかれはこたえた。)

続けて、霊媒さんに恥かしくないのかい』すると彼は応えた。

(「れいばいがいるなんて、そんないしきはないよ。ぼうさいとぼくとふたりきりのせかいなんだ。)

『霊媒が居るなんて、そんな意識はないよ。亡妻と僕と二人きりの世界なんだ。

(ふたりがどんなあまったるいはなしをしようと、きがねはまったくないんだ。だからつまも、)

二人がどんな甘ったるい話をしようと、気がねは全くないんだ。だから妻も、

(こうふんしてくると、ぼくのほうへもたれかかってくるよ」「それはたいへんだね。)

昂奮してくると、僕の方へ凭れかかって来るよ』『それはたいへんだね。

(れいばいがたおれて、めをさましやしないかい」「てをしっかりにぎりあっているから、)

霊媒が倒れて、目をさましやしないかい』『手をしっかり握り合っているから、

(そんなしんぱいはない」「ふーん、それはどうも」わたしは、れいばいとてをにぎりあって)

そんな心配はない』『ふーン、それはどうも』私は、霊媒と手を握り合って

(かたらうなどというしんれいじっけんがあることを、このときはじめてみみにしたのでおどろいた。)

語らうなどという心霊実験があることを、この時始めて耳にしたので愕いた。

(それにしても、このゆうじんのかわりに、わたしがそういうじょうきょうでもって、あぶらぎったおんなの)

それにしても、この友人の代りに、私がそういう状況でもって、脂ぎった女の

(れいばいとちょうちょうなんなんのじかんを、ほかにひとけのないよるのへやでつづけていたら、)

霊媒と喋々喃々の時間を、他に人気のない夜の部屋で続けていたら、

(ぞくじんらしいまちがいをしでかしたかもしれないとおもう。とにかく、そのゆうじんは、)

俗人らしい間違いをしでかしたかも知れないと思う。とにかく、その友人は、

(やがてじさつした。じさつするよ、とかれはわたしたちによこくしていた。しかしそれは)

やがて自殺した。自殺するよ、と彼は私たちに予告していた。しかしそれは

(にこにことじょうだんめいてかたられるので、だれもほんとうにしなかった。もしもそのとき、)

にこにこと冗談めいて語られるので、誰も本当にしなかった。もしもその時、

(もっとふかくゆうじんのかていのじじょうや、しんれいけんきゅうかいやれいばいとのかんけいをふかくしっていたら)

もっと深く友人の家庭の事情や、心霊研究会や霊媒との関係を深く知っていたら

(わたしたちはかれのけいかくがほんものだということをしって、けいかいしたことであろうが、)

私たちは彼の計画が本物だということを知って、警戒したことであろうが、

など

(そこはてぬかりがあった。じさつするすこしまえ、かれはいつもよりすこしおちつかない)

そこは手ぬかりがあった。自殺する少し前、彼はいつもより少し落着かない

(たいどで、わたしたちにいったことがある。「つまがね、あなたはなぜはやくこっちの)

態度で、私たちに言ったことがある。『妻がね、あなたはなぜ早くこっちの

(よにきてくださらないんですと、うらめしそうにいうんだ。つまは、いまではぼくを)

世に来て下さらないんですと、恨めしそうにいうんだ。妻は、今では僕を

(いっこくもそばからはなしたくないらしい。せっかくしんれいをよびだして、つまをすくったつもり)

一刻もそばから離したくないらしい。折角心霊を呼び出して、妻を救ったつもり

(だったが、いまはかえってつまをぼんのうにおいやることとなった。ぼくはせきにんをかんずるよ」)

だったが、今は反って妻を煩悩に追いやることとなった。僕は責任を感ずるよ』

(かれがじさつしたとき、ぼうさいのわすれがたみのじょじをみちづれにした。わたしたちは、)

彼が自殺したとき、亡妻の忘れがたみの女児を道伴れにした。私たちは、

(そのじさつのばしょであるちばけんのぼうかいがんへおもむいて、あわれなおやこしんじゅうのありさまをみた。)

その自殺の場所である千葉県の某海岸へ赴いて、哀れな親子心中の有様を見た。

(いたましいのは、そのじょじが、しょうにまひしょうであって、がくれいきをそうとうすぎているのに)

悼ましいのは、その女児が、小児麻痺症であって、学齢期を相当過ぎているのに

(とうこうをさせることもできず、しんるいじゅうでどうじょうしていたということを、そのとき)

登校をさせることも出来ず、親類中で同情していたということを、其の時

(はじめてしった。わたしたちには、そうはかたられず、ななさいのじょじがいるのみ)

始めて知った。私たちには、そうは語られず、七歳の女児がいるのみ

(しらされていた。かれがしんで、しんぶんにもおおきくきじがで、もちろん)

知らされていた。彼が死んで、新聞にも大きく記事が出、もちろん

(しんれいけんきゅうかいへもつたわった。わたしたちは、そのあと、そのかいへいってみた。)

心霊研究会へも伝わった。私たちは、その後、その会へ行ってみた。

(そのとき、れいばいにもあったが、かのじょはたいへんろうばいして、「わたしは、じっけんが)

そのとき、霊媒にも会ったが、彼女はたいへん狼狽して、『私は、実験が

(おわってから、あのかたに、いくどもごちゅういしたんです。どうかおまちがいを)

終ってから、あの方に、いくども御注意したんです。どうかお間違いを

(なさらないように。なくなったおくさんがどんなことをおっしゃろうと、あなたは)

なさらないように。亡くなった奥さんがどんなことを仰有ろうと、あなたは

(じさつなんかなすってはいけませんよと、こんこんとごちゅういしておいたんですがね」と)

自殺なんかなすってはいけませんよと、懇々と御注意しておいたんですがね』と

(ざんねんがった。かいのしゅじはしゅじで、しぶいかおをふりながら、「どうもわしたちの)

残念がった。会の主事は主事で、渋い顔を振りながら、『どうもわしたちの

(みていたところでは、あのかたはすこしふかいりしすぎておられるようじゃ、まちがいが)

見ていたところでは、あの方は少し深入りしすぎて居られるようじゃ、間違いが

(なければいいがなと、しんぱいしていたところへ、こんどのじけんです。)

なければいいがなと、心配していたところへ、こんどの事件です。

(おどろきました」と、じゅっかいした。ゆうじんのいしょには、「いずれつぎのせかいに)

おどろきました』と、述懐した。友人の遺書には、『いずれ次の世界に

(いったら、しんれいかがくをかくりつし、きみたちにたいしてつうしんをおこなうから、)

行ったら、心霊科学を確立し、君たちに対して通信を行うから、

(まっているように」ということであった。だが、かれのしご、もうじゅうごねんいじょうの)

待っているように』ということであった。だが、彼の死後、もう十五年以上の

(さいげつがながれたが、いまもってかれからのれいかいつうしんにせっしない。)

歳月が流れたが、今もって彼からの霊界通信に接しない。

(きんらい、しんれいけんきゅうがまたさかんになってきたというはなしをきく。こんどはやりだしたものは)

近来、心霊研究が又盛んになって来たという話を聞く。今度流行りだしたものは

(わたしがせんにけいけんしたものとは、またいろあいのかわったものであろうとおもう。)

私が先に経験したものとは、又色合の変ったものであろうと思う。

(わたしのようなせんがくひさいなものには、はたしてしんれいがそんざいするのやら、れいばいが)

私のような浅学非才な者には、果して心霊が存在するのやら、霊媒が

(ほんものかいんちきか、このいずれかわからない。しかしほんもののれいばいもときには)

本物かインチキか、このいずれか分らない。しかし本物の霊媒も時には

(しょうばいけがでてしっぽをだしたり、ぞくじんにもどったりするのではなかろうかとおもう。)

商売気が出て尻尾を出したり、俗人に戻ったりするのではなかろうかと思う。

(またしんれいのみせるぶつりかがくてきじっけんは、きまってあんしつでやることになっており、)

また心霊の見せる物理化学的実験は、決って暗室でやることになって居り、

(じっけんのおぜんだてもしんれいまたはれいばいのがわのみでようきゅうするが、これはほんとうにあかしをたてる)

実験のお膳立も心霊又は霊媒の側のみで要求するが、これは本当に証しを立てる

(つもりなら、はくちゅうのじっけんにしなくてはならず、じっけんのおぜんだてもりかがくしゃに)

つもりなら、白昼の実験にしなくてはならず、実験のお膳立も理化学者に

(まかせるのがよろしく、そうでなくてはほんかくてきのしんれいじっけんはかくりつするものでは)

委せるのがよろしく、そうでなくては本格的の心霊実験は確立するものでは

(ないとおもう。これらのてんが、いしはらじゅんはかせや、げんそんのぼうはかせたちに)

ないと思う。これらの点が、石原純博士や、現存の某博士たちに

(しんれいけんきゅうかいからてをひかせたこんぽんてきげんいんである。あたらしいしんれいけんきゅうは、)

心霊研究会から手を引かせた根本的原因である。新しい心霊研究は、

(どのほうこうへいく。どんなかたちでおめみえするか。きょうみはいぜんとしてそんざいするのだ。)

どの方向へ行く。どんな形でお目見得するか。興味は依然として存在するのだ。

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