あの世から便りをする話1　海野十三

(あかるさしかない。そういうようないろいろはなしをしまして、そのしゅごじんと)

明るさしかない。そういうようないろいろ話をしまして、その守護神と

(いうものにたのめば、だいたいどんなことでもしてくれる。じぶんがいまあなたに)

いうものに頼めば、大体どんなことでもして呉れる。自分が今あなたに

(いっているのも、そのしゅごじんのゆるしをうけて、またそのしゅごじんのひごによって)

言って居るのも、その守護神の許しを受けて、又その守護神の庇護に依って

(あなたにいっているのだというようなはなしをして、けっきょくわたしのともだちは、)

あなたに言って居るのだというような話をして、結局私の友達は、

(みらいのせかいがあることをよくしることができたが、そのみらいの)

未来の世界があることをよく知ることが出来たが、その未来の

(せかいなるものにはいっこうどうもかがくしゃがはたらいていないようにおもえた。)

世界なるものには一向どうも科学者が働いていないように思えた。

(じぶんのいまこのよでやっているかがくというものは、けっきょくどうもむだな)

自分の現在この世でやっている科学というものは、結局どうも無駄な

(ものである。むこうのよのなかへいってやるかがくこそ、もっともさいごてきなものである。)

ものである。向うの世の中へ行ってやる科学こそ、最も最後的なものである。

(それからさいくんとぜんごろくじっかいもはなしをしたでしょうか、わたしもいっしょにいけと)

それから細君と前後六十回も話をしたでしょうか、私も一緒に行けと

(いわれたんですが、ついにわたしはいかなかった。ともだちはわたしをなじっていうことに、)

言われたんですが、遂に私は行かなかった。友達は私を詰問って言うことに、

(きみもさいくんをなくしているくせに、なんというさいくんふこうだ。ぜひともさいくんをよんで)

君も細君を亡くしているくせに、何という細君不孝だ。是非共細君を呼んで

(しんでるというじかくをおこさしたり、そのたいろいろやってやらないと、)

死んでるという自覚を起さしたり、その他いろいろやってやらないと、

(しんださいくんはうかばれないぞ、としかるのです。そのうちにともだちはついに)

死んだ細君は浮ばれないぞ、と叱るのです。その中に友達は遂に

(じさつをしました。さっそくわたくしどももいきましたが、ちばのかつうらのごんげんどうのあるやまの)

自殺をしました。早速私共も行きましたが、千葉の勝浦の権現堂のある山の

(てっぺんでしんでいました。そこはしんださいくんとしりあいになったとうじ、よくりょうにんが)

頂上で死んでいました。其処は死んだ細君と知合になった当時、能く両人が

(さんぽしたところだそうで、しかもしんだのは、かれのみならず、ふたりのあいだにできた、)

散歩した所だそうで、而も死んだのは、彼のみならず、夫婦の間に出来た、

(たったひとりのこどももころしてしんだ。さてそのしご、ともだちのいしょというのが、)

たった一人の子供も殺して死んだ。さてその死後、友達の遺書というのが、

(わたしともうひとりのやはりかがくしゃのともだちにのこされていました。そのいしょでかれの)

私ともう一人の矢張り科学者の友達に遺されていました。その遺書で彼の

(しんだじじょうがもっともはっきりしているのですが、「みなわたしをひきとめてくれた)

死んだ事情が最もハッキリして居るのですが、「皆私を引止めて呉れた

(けれども、じぶんはかがくしゃとしてしをえらぶのがいちばんよいとおもったんでしぬ。)

けれども、自分は科学者として死を選ぶのが一番善いと思ったんで死ぬ。

(あのよでおおいにかがくのためにふんとうして、しんれいかがくもけんきゅうし、きみたちに)

あの世で大いに科学のために奮闘して、心霊科学も研究し、君達に

(よびかけるから、きみたちもなんならはやくきたらどうか」こういうことが)

呼びかけるから、君達も何なら早く来たらどうか」こういう事が

(かいてありました。わたくしどもひじょうにぼうぜんとしまして、かがくてきにもっともそんけいすべき)

書いてありました。私共非常に呆然としまして、科学的に最も尊敬すべき

(ともだちが、かがくてきにしんれいというものをしんじてしんだ。これはわたくしどもあたまがわるいから、)

友達が、科学的に心霊というものを信じて死んだ。これは私共頭が悪いから、

(かれからいくらせつめいされても、やはりあのよのあるということが)

彼からいくら説明されても、矢張りあの世の在るということが

(わからないのだろう。とにかくかれがいきついたかどうか、さがしてみようじゃないか)

分らないのだろう。とにかく彼が行き着いたかどうか、探して見ようじゃないか

(というぎが、われわれなかまにおこったのです。こんどはにんずうがだいぶおおくなって、)

という議が、吾々仲間に起ったのです。今度は人数が大分多くなって、

(じゅうにんばかりのどうしがそのしんれいけんきゅうかいへいってともだちをよびだしてもらったんです。)

十人ばかりの同志がその心霊研究会へ行って友達を呼び出して貰ったんです。