「人間椅子」江戸川乱歩
関連タイピング
-
プレイ回数10万歌詞200打
-
プレイ回数4212かな314打
-
プレイ回数96万長文かな1008打
-
プレイ回数3.2万歌詞1030打
-
プレイ回数4.8万長文かな316打
-
プレイ回数1.1万313打
-
プレイ回数882歌詞1260打
-
プレイ回数809歌詞かな200打
問題文
(よしこは、まいあさ、おっとのとうちょうをみおくってしまうと、それはいつもじゅうじをすぎるのだが、)
佳子は、毎朝、夫の登庁を見送って了うと、それはいつも十時を過ぎるのだが、
(やっとじぶんのからだになって、ようかんのほうの、おっとときょうようのしょさいへ、とじこもるのが)
やっと自分のからだになって、洋館の方の、夫と共用の書斎へ、とじ籠もるのが
(れいになっていた。そこで、かのじょはいま、kざっしのぞうだいごうにのせるための、ながいそうさくに)
例になっていた。そこで、彼女は今、K雑誌の増大号にのせる為の、長い創作に
(とりかかっているのだった。)
とりかかっているのだった。
(うつくしいけいしゅうさっかとしてのかのじょは、このごろでは、がいむしょうしょきかんであるふくんのかげを)
美しい閨秀作家としての彼女は、此の頃では、外務省書記官である夫君の影を
(うすくおもわせるほども、ゆうめいになっていた。かのじょのところへは、まいにちのように)
薄く思わせる程も、有名になっていた。彼女の所へは、毎日の様に
(みちのすうはいしゃからのてがみが、いくつうとなくやってきた。)
未知の崇拝者からの手紙が、幾通となくやって来た。
(けさとても、かのじょは、しょさいのつくえのまえにすわると、しごとにとりかかるまえに、まず、)
今朝とても、彼女は、書斎の机の前に坐ると、仕事にとりかかる前に、先ず、
(それらのみちのひとびとからのてがみに、めをとおさねばならなかった。)
それらの未知の人々からの手紙に、目を通さねばならなかった。
(それはいずれも、きまりきったように、つまらぬもんくのものばかりであったが、)
それは何れも、極り切った様に、つまらぬ文句のものばかりであったが、
(かのじょは、おんなのやさしいこころづかいから、どのようなてがみであろうとも、)
彼女は、女の優しい心遣いから、どの様な手紙であろうとも、
(じぶんにあてられたものは、ともかくも、ひととおりはよんでみることにしていた。)
自分に宛られたものは、兎も角も、一通りは読んで見ることにしていた。
(かんたんなものからさきにして、につうのふうしょと、いちようのはがきとをみてしまうと、)
簡単なものから先にして、二通の封書と、一葉のはがきとを見て了うと、
(あとにはかさだかいげんこうらしいっつうがのこった。べつだんつうちのてがみは)
あとにはかさ高い原稿らしい一通が残った。別段通知の手紙は
(もらっていないけれど、そうして、とつぜんげんこうをおくってくるれいは、)
貰っていないけれど、そうして、突然原稿を送って来る例は、
(これまでにしても、よくあることだった。それは、おおくのばあい、ながながしく)
これまでにしても、よくあることだった。それは、多くの場合、長々しく
(たいくつきわまるしろものであったけれど、かのじょはともかくも、ひょうだいだけでもみておこうと、)
退屈極る代物であったけれど、彼女は兎も角も、表題丈でも見て置こうと、
(ふうをきって、なかのかみたばをとりだしてみた。)
封を切って、中の紙束を取出してみた。
(それは、おもったとおり、げんこうようしをとじたものであった。が、どうしたことか、)
それは、思った通り、原稿用紙を綴じたものであった。が、どうしたことか、
(ひょうだいもしょめいもなく、とつぜん「おくさま」という、よびかけのことばではじまって)
表題も署名もなく、突然「奥様」という、呼びかけの言葉で始まって
(いるのだった。はてな、では、やっぱりてがみなのかしら、そうおもって、なにげなく)
いるのだった。ハテナ、では、やっぱり手紙なのかしら、そう思って、何気なく
(にぎょうさんぎょうとめをはしらせていくうちに、かのじょは、そこから、なんとなくいじょうな、)
二行三行と目を走らせて行く内に、彼女は、そこから、何となく異常な、
(みょうにきみわるいものをよかんした。そして、もちまえのこうきしんが、かのじょをして、)
妙に気味悪いものを予感した。そして、持前の好奇心が、彼女をして、