「悪魔の紋章」2 江戸川乱歩

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江戸川乱歩の小説「悪魔の紋章」のタイピングです。
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1 haruf2 3594 D+ 3.6 98.4% 1126.1 4113 65 63 2024/04/20

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問題文

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(「おい、きじまくん、きじまくん、しっかりしろ、なだ。そいつのなをいうんだ」)

「オイ、木島君、木島君、しっかりしろ、名だ。そいつの名を云うんだ」

(いくらゆすぶっても、きじまのからだはくらげのようにてごたえがなかった。)

いくら揺すぶっても、木島の身体は水母のように手応えがなかった。

(かわいそうに、むなかたけんきゅうしつのわかきじょしゅきじまは、そうさじぎょうのぎせいとなって、)

可哀想に、宗像研究室の若き助手木島は、捜査事業の犠牲となって、

(ついにむざんのさいごをとげたのであった。 ごふんほどすると、)

遂に無残の最期をとげたのであった。 五分程すると、

(ふきんのいしがらいしんしたが、もはやみゃくはくもこどうもとまったきじまを、)

附近の医師が来診したが、最早や脈搏も鼓動も止った木島を、

(どうすることもできなかった。 まちかねたむなかたはかせがけんきゅうしつにかえって)

どうすることも出来なかった。 待ち兼ねた宗像博士が研究室に帰って

(きたのは、それからよんじゅっぷんほどのちであった。 はかせはみたところよんじゅうごろくさい、)

来たのは、それから四十分程のちであった。 博士は見たところ四十五六歳、

(くろぐろとしたとうはつをみみのあたりでふさのようにちぢらせ、ぴんとはねたちいさなくちひげ、)

黒々とした頭髪を耳の辺で房のように縮らせ、ピンとはねた小さな口髭、

(がくしゃくさくさんかくにかったこいあごひげ、なにごともみすかすわしのようにするどいめには、)

学者臭く三角に刈った濃い顎髭、何事も見透す鷲のように鋭い目には、

(くろべっこうぶちのろいどめがねをかけ、おおがらながっしりしたからだを、おりめただしい)

黒鼈甲縁のロイド眼鏡をかけ、大柄なガッシリした身体を、折り目正しい

(なつのもーにんぐにつつんで、すこしそりみになって、おおまたにほをはこぶところ、)

夏のモーニングに包んで、少し反り身になって、大股に歩を運ぶところ、

(いかにもていせいどいつじだいのいがくはかせというおもむきであった。)

如何にも帝政独逸時代の医学博士という趣であった。

(はかせはこいけじょしゅから、ことのしだいをききとると、いたましげにまなでしのなきがらを)

博士は小池助手から、事の次第を聞き取ると、痛ましげに愛弟子のなきがらを

(みおろしながら、 「じつにきのどくなことをした。きじまくんのいえへはしらせたかね」)

見おろしながら、 「実に気の毒なことをした。木島君の家へは知らせたかね」

(と、こいけじょしゅにたずねた。 「でんぽうをうちました。)

と、小池助手に訊ねた。 「電報を打ちました。

(やがてかけつけてくるでしょう。それからけいしちょうへもでんわしました。)

やがて駆けつけて来るでしょう。それから警視庁へも電話しました。

(なかむらさんおどろいてました。すぐくるということでした」)

中村さん驚いてました。すぐ来るということでした」

(「うん、なかむらくんもぼくも、かわでのじけんが、こんなことになろうとは、)

「ウン、中村君も僕も、川手の事件が、こんなことになろうとは、

(そうぞうもしていなかったからね。なかむらくんなんか、ひがいもうそうだろうって、)

想像もしていなかったからね。中村君なんか、被害妄想だろうって、

(とりあわなかったくらいだ。それが、きじまくんがこんなめにあうほどでは、)

取り合わなかったくらいだ。それが、木島君がこんな目に合う程では、

など

(よほどおおものらしいね」 「きじまくんは、なんだかひじょうにこわがっていました。)

余程大物らしいね」 「木島君は、何だか非常に怖がっていました。

(おそろしい、おそろしいといいつづけてしんでいきました」 「うん、そうだろう。)

恐ろしい、恐ろしいと言いつづけて死んで行きました」 「ウン、そうだろう。

(よこくしてさつじんをするくらいのやつだから、よほどきょうあくなはんにんにちがいない。)

予告して殺人をするくらいの奴だから、余程兇悪な犯人に違いない。

(こいけくん、ほかのじけんはほうっておいて、きょうからこのじけんにぜんりょくをつくそう。)

小池君、外の事件は放って置いて、今日からこの事件に全力を尽そう。

(きじまくんのかたきうちをしなけりゃならないからね」 はなしているところへ、)

木島君の敵討ちをしなけりゃならないからね」 話しているところへ、

(あわただしいくつおとがして、けいしちょうのなかむらそうさかかりちょうがはいってきた。)

慌しい靴音がして、警視庁の中村捜査係長が入って来た。

(ねずみいろのせびろすがたである。かれはきじまのしたいをみると、)

鼠色の背広姿である。彼は木島の死体を見ると、

(ぼうしをとってもくれいしたが、おどろきのひょうじょうをかくしもせず、)

帽子を取って黙礼したが、驚きの表情を隠しもせず、

(むなかたはかせをかえりみていった。 「こんなことになろうとはおもいもよらなかった。)

宗像博士を顧みて云った。 「こんなことになろうとは思いもよらなかった。

(ゆだんでした。あなたのぶかをこんなめにあわせて、じつになんとも)

油断でした。あなたの部下をこんな目に合わせて、実に何とも

(もうしわけありません」 「いや、それはおたがいです。ぼくだって、)

申訳ありません」 「イヤ、それはお互です。僕だって、

(これほどのあいてとおもえば、きじまくんひとりにまかせてなんぞ)

これ程の相手と思えば、木島君一人に任せてなんぞ

(おかなかったでしょうからね」 「でんわのはなしでは、きじまくんはなにか)

置かなかったでしょうからね」 「電話の話では、木島君は何か

(はんにんのてがかりをもってかえったということでしたが」)

犯人の手掛りを持って帰ったということでしたが」

(かかりちょうがこいけじょしゅをふりかえった。 「ええ、これです。このふうとうのなかにくわしくほうこくを)

係長が小池助手を振返った。 「エエ、これです。この封筒の中に詳しく報告を

(かいておいたといっていました」 こいけがおおですくのうえのれいのようふうとうを)

書いて置いたと云っていました」 小池が大デスクの上の例の洋封筒を

(とってさしだすのを、むなかたはかせがうけとって、うらおもてをしらべながらつぶやいた。)

取って差出すのを、宗像博士が受取って、裏表を調べながら呟いた。

(「おや、このふうとうはぎんざのあとらんちすのふうとうじゃないか。すると、きじまくんは)

「オヤ、この封筒は銀座のアトランチスの封筒じゃないか。すると、木島君は

(あのかふぇで、ようしとふうとうをかりて、これをかいたんだな」)

あのカフェで、用紙と封筒を借りて、これを書いたんだな」

(いかにも、ふうとうのすみに、かふぇ・あとらんちすのながいんさつされていた。)

如何にも、封筒の隅に、カフェ・アトランチスの名が印刷されていた。

(はかせはたくじょうのはさみをとって、ていねいにふうとうのはしをきると、あつぼったいしょかんせんを)

博士は卓上の鋏を取って、丁寧に封筒の端を切ると、厚ぼったい書翰箋を

(ぬきだして、ひらいてみた。 「おい、こいけくん、たしかにこれにちがいないね?)

抜き出して、開いて見た。 「オイ、小池君、確かにこれに違いないね?

(きみはなにかおもいちがいをしてやしないかね。それとも、きじまくんがたおれてから、だれか)

君は何か思い違いをしてやしないかね。それとも、木島君が倒れてから、誰か

(このへやへはいったものはなかったかね」 はかせがみょうなかおをして、)

この部屋へ入ったものはなかったかね」 博士が妙な顔をして、

(こいけじょしゅにただした。 「いいえ、ぼくはいっぽもこのへやをでませんでした。)

小池助手にただした。 「イイエ、僕は一歩もこの部屋を出ませんでした。

(だれもきたものなぞありません。どうかしたのですか。そのふうとうはたしかにきじまくんが)

誰も来たものなぞありません。どうかしたのですか。その封筒は確かに木島君が

(うちぽけっとからだして、そこへおいたままなんです」 「みたまえ、これだ」)

内ポケットから出して、そこへ置いたままなんです」 「見給え、これだ」

(はかせはようせんをなかむらかかりちょうとこいけじょしゅのまえにさしだして、ぱらぱらと)

博士は用箋を中村係長と小池助手の前に差出して、パラパラと

(めくってみせたが、ふしぎなことに、それはただのはくしのたばにすぎなかった。)

めくって見せたが、不思議なことに、それはただの白紙の束に過ぎなかった。

(もじなぞいちじもかいてはないのだ。 「へんだなあ、まさかきじまくんが、)

文字なぞ一字も書いてはないのだ。 「変だなア、まさか木島君が、

(はくしをふうとうにいれて、たいせつそうにもってくるわけはないが」)

白紙を封筒に入れて、大切そうに持って来る訳はないが」

(なかむらしが、きつねにつままれたようなかおをした。 むなかたはかせは、くちびるをかんで)

中村氏が、狐につままれたような顔をした。 宗像博士は、唇を噛んで

(しばらくだまっていたが、とつぜん、はくしのたばをかみくずかごになげいれると、)

暫く黙っていたが、突然、白紙の束を紙屑籠に投げ入れると、

(けっていてきなくちょうでいった。 「こいけくん、すぐあとらんちすへいって、)

決定的な口調で云った。 「小池君、すぐアトランチスへ行って、

(きじまくんがようしとふうとうをかりたあとで、だれかとはなしをしなかったか、おなじてーぶるに)

木島君が用紙と封筒を借りたあとで、誰かと話をしなかったか、同じテーブルに

(うろんなやつがいなかったかしらべてくれたまえ。そいつがはんにんか、すくなくともはんにんの)

胡乱な奴がいなかったか調べてくれ給え。そいつが犯人か、少くとも犯人の

(あいぼうにちがいない。きじまくんのゆだんしているすきに、ほうこくしょのはいったふうとうと、)

相棒に違いない。木島君の油断している隙に、報告書の入った封筒と、

(このはくしのふうとうとすりかえたんだ。どくをのませたのも、おなじやつかもしれない。)

この白紙の封筒とすり換えたんだ。毒を飲ませたのも、同じ奴かもしれない。

(できるだけしょうさいにしらべてくれたまえ」 「しょうちしました。しかし、もうひとつ、)

出来るだけ詳細に調べてくれ給え」 「承知しました。しかし、もう一つ、

(きじまくんがもってきたものがあるんです。したいのみぎてをごらんください。)

木島君が持って来たものがあるんです。死体の右手をごらん下さい。

(そこにつかんでいるものは、よほどたいせつなしょうこひんらしいんです。)

そこに掴んでいるものは、余程大切な証拠品らしいんです。

(・・・・・・では、ぼくしつれいします」 こいけじょしゅはてきぱきといいすてて、)

・・・・・・では、僕失礼します」 小池助手はテキパキと云い捨てて、

(ぼうしをつかむと、いきなりそとへとびだしていった。)

帽子を掴むと、いきなり外へ飛び出して行った。

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