江戸川乱歩 幽霊-5-
順位 | 名前 | スコア | 称号 | 打鍵/秒 | 正誤率 | 時間(秒) | 打鍵数 | ミス | 問題 | 日付 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
1 | baru | 4227 | C | 4.8 | 89.3% | 1037.2 | 4981 | 596 | 78 | 2024/12/12 |
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問題文
(だが、しばらくもんどうをくりかえしているあいだに、それはまあなんというふしぎな)
だが、しばらく問答をくり返しているあいだに、それはまあなんという不思議な
(わじゅつであったか。せいねんはまるでまほうつかいのように、さしもにかたいひらたしの)
話術であったか。青年はまるで魔法使いのように、さしもに堅い平田氏の
(くちをなんなくひらかせてしまったのである。ひらたしがちょっとくちを)
口をなんなくひらかせてしまったのである。平田氏がちょっと口を
(すべらしたのがいとぐちだった。もしあいてがふつうのにんげんだったら、)
すべらしたのがいとぐちだった。もし相手が普通の人間だったら、
(なんなくとりつくろうこともできたであろうけれど、せいねんにはだめだった。)
なんなく取り繕うこともできたであろうけれど、青年にはだめだった。
(かれはよにもすばらしいたくみさをもって、つぎからつぎへとはなしをひきだしていった。)
彼は世にもすばらしい巧みさをもって、次から次へと話を引き出して言った。
(ひとつは、ゆうべあのおそろしいできごとのあったけさであったためもあろうが、)
一つは、ゆうべあの恐ろしい出来事のあったけさであったためもあろうが、
(ひらたしはまるでじゆうをうしなったひとのように、はなしをそらそうとすればするほど、)
平田氏はまるで自由を失った人のように、話をそらそうとすればするほど、
(だんだんふかみへはまっていくのだった。そしてついには、つじどうのおんりょうにかんする)
だんだん深みへはまって行くのだった。そしてついには、辻堂の怨霊に関する
(すべてのことが、あますところなくかたりつくされてしまったのである。)
すべてのことが、あますところなく語りつくされてしまったのである。
(ききたいだけきいてしまうと、こんどは、せいねんははなしをひきだしたときにもおとらぬ、)
聞きたいだけ聞いてしまうと、今度は、青年は話を引き出した時にも劣らぬ、
(じつにたくみなわじゅつをもって、ほかのせけんばなしにうつっていった。そして、かれが)
実に巧みな話術をもって、ほかの世間話に移っていった。そして、彼が
(ちょうざをわびてへやをでていったときには、ひらたしはむりにうちあけばなしを)
長座を詫びて部屋を出て行った時には、平田氏は無理に打ち明け話を
(させられたことをふかいにかんじていなかったばかりか、そのせいねんが)
させられたことを不快に感じていなかったばかりか、その青年が
(どうやらたのもしくさえおもわれたのである。)
どうやらたのもしくさえ思われたのである。
(それからとおかほどはべつだんのこともなくすぎさった。ひらたしはもうこのとちにも)
それから十日ほどは別段のこともなく過ぎ去った。平田氏はもうこの土地にも
(あきていたけれど、あしのきずがまだいたむのと、それをむりにききょうして)
あきていたけれど、足の傷がまだ痛むのと、それを無理に帰京して
(さびしいやしきへかえるよりは、このにぎやかなやどやずまいのほうがいくらか)
淋しい屋敷へ帰るよりは、この賑やかな宿屋住まいの方がいくらか
(いごこちがよかろうとおもったのとで、ずっとたいざいをつづけていた。)
居心地がよかろうと思ったのとで、ずっと滞在をつづけていた。
(ひとつはあたらしくしりあいになったせいねんがなかなかおもしろいはなしあいてだったことも、)
一つは新らしく知り合いになった青年がなかなか面白い話し相手だったことも、
(かれをひきとめるのにあずかってちからがあった。)
彼を引き止めるのにあずかって力があった。
(そのせいねんがきょうもまたかれのへやをおとずれた。)
その青年がきょうもまた彼の部屋をおとずれた。
(そして、とつぜん、へんにわらいながらこんなことをいうのだった。)
そして、突然、変に笑いながらこんなことを言うのだった。
(「もうどこへいらっしゃってもだいじょうぶですよ。ゆうれいはでませんよ」)
「もうどこへいらっしゃっても大丈夫ですよ。幽霊は出ませんよ」
(いっしゅんかん、ひらたしはそのことばのいみがわからなくて、まごついた。)
一瞬間、平田氏はその言葉の意味がわからなくて、まごついた。
(かれのあっけにとられたようなひょうじょうのうちには、いたいところへ)
彼のあっけにとられたような表情のうちには、痛いところへ
(さわられたひとのふかいがまじっていた。)
さわられた人の不快がまじっていた。
(「とつぜんもうしあげては、びっくりなさるのもごもっともですが、けっしてじょうだんでは)
「突然申し上げては、びっくりなさるのもごもっともですが、決して冗談では
(ありません。ゆうれいはもういけどってしまったのです。これをごらんなさい」)
ありません。幽霊はもういけどってしまったのです。これをごらんなさい」
(せいねんはかたてににぎったいっつうのでんぽうをひろげてひらたしにしめした。)
青年は片手に握った一通の電報をひろげて平田氏に示した。
(そこにはこんなもんくがしるされていた。)
そこにはこんな文句がしるされていた。
(「ごすいさつのとおりいっさいじはくしたほんにんのしょちさしずこう」)
「ゴスイサツノトオリ一サイジハクシタホンニンノショチサシズコウ」
(「これはとうきょうのぼくのゆうじんからきたのですが、このいっさいじはくしたというのは、)
「これは東京の僕の友人からきたのですが、この一サイジハクシタというのは、
(つじどうのゆうれい、いやゆうれいではないいきたつじどうがじはくしたことですよ」)
辻堂の幽霊、いや幽霊ではない生きた辻堂が自白したことですよ」
(とっさのばあい、はんだんをくだすいとまもなく、ひらたしはただあっけにとられて、)
とっさの場合、判断をくだす暇もなく、平田氏はただあっけにとられて、
(せいねんのかおとそのでんぽうとをみくらべるばかりであった。)
青年の顔とその電報とを見くらべるばかりであった。
(「じつはぼくはこんなことをさがしてあるいているおとこなんですよ。)
「実は僕はこんな事を探して歩いている男なんですよ。
(このよのなかのすみずみから、なにかひみつなできごと、きかいなじけんをみつけだしては、)
この世の中の隅々から、何か秘密な出来事、奇怪な事件を見つけ出しては、
(それをといていくのがぼくのどうらくなんです」)
それを解いて行くのが僕の道楽なんです」
(せいねんはにこにこしながら、さもむぞうさにせつめいするのだった。)
青年はニコニコしながら、さも無造作に説明するのだった。
(「せんじつあなたからのあのかいだんをうけたまわったときも、そのぼくのくせで、)
「先日あなたからのあの怪談をうけたまわった時も、その僕のくせで、
(これにはなにかからくりがありやしないかとかんがえてみたんです。)
これには何かからくりがありやしないかと考えてみたんです。
(おみうけするところ、あなたはごじぶんでゆうれいをつくりだすような、)
お見受けするところ、あなたは御自分で幽霊を作り出すような、
(そんなよわいしんけいのもちぬしでないようにおもわれます。それに、ごとうにんは)
そんな弱い神経の持ち主でないように思われます。それに、ご当人は
(おきづきがないかもしれませんが、ゆうれいのあらわれるばしょがどうやら)
お気づきがないかもしれませんが、幽霊の現われる場所がどうやら
(せいげんされているではありませんか。なるほど、ごりょこうさきなどへついてくる)
制限されているではありませんか。なるほど、御旅行先などへついてくる
(ところをみると、いかにもどこへでもじゆうじざいにあらわれるようにおもわれますが、)
ところを見ると、いかにもどこへでも自由自在に現われるように思われますが、
(よくかんがえてみますと、それがほとんどおくがいにかぎられていることにきづきます。)
よく考えてみますと、それがほとんど屋外に限られていることに気づきます。
(たとえおくないのばあいがあっても、げきじょうのろうかだとか、びるでぃんぐのなかだとか、)
たとえ屋内の場合があっても、劇場の廊下だとか、ビルディングの中だとか、
(だれでもでいりできるばしょにかぎられています。ほんとうのゆうれいなら)
誰でも出入りできる場所に限られています。ほんとうの幽霊なら
(なにもふじゆうらしくそとばかりにすがたをあらわさないだって、あなたのおやしきへ)
何も不自由らしくそとばかりに姿を現わさないだって、あなたのお屋敷へ
(でたってよさそうなものではありませんか。ところがおやしきはというと、)
出たってよさそうなものではありませんか。ところがお屋敷はというと、
(れいのしゃしんとでんわのほかは、これもだれでもでいりできるもんのそばで)
例の写真と電話のほかは、これも誰でも出入りできる門のそばで
(ちょっとかおをみせたばかりです。そういうことはすこしゆうれいのしぜんに)
ちょっと顔を見せたばかりです。そういうことは少し幽霊の自然に
(はんしていやしないでしょうか。そこで、ぼくはいろいろかんがえてみたのですよ。)
反していやしないでしょうか。そこで、僕はいろいろ考えてみたのですよ。
(ちょっとめんどうなてんがあってじかんをとりましたが、でもとうとう)
ちょっと面倒な点があって時間をとりましたが、でもとうとう
(ゆうれいをいけどってしまいました」)
幽霊をいけどってしまいました」
(ひらたしはそうきいても、どうもしんじられなかった。かれもいちどはもしやつじどうが)
平田氏はそう聞いても、どうも信じられなかった。彼も一度はもしや辻堂が
(いきているのではないかとうたがって、こせきとうほんまでとりよせたのだ。)
生きているのではないかと疑って、戸籍謄本までとり寄せたのだ。
(そしてしつぼうしたのだ。いったいこのせいねんはどういうほうほうでこんなにやすやすと)
そして失望したのだ。いったいこの青年はどういう方法でこんなにやすやすと
(ゆうれいのしょうたいをつきとめることができたのであろう。)
幽霊の正体をつきとめることができたのであろう。
(「なあに、じつにかんたんなからくりなんです。それがちょっとわからなかったのは、)
「なあに、実に簡単なからくりなんです。それがちょっとわからなかったのは、
(あまりしゅだんがかんたんすぎたためかもしれませんよ。でも、あのまことしやかな)
あまり手段が簡単すぎたためかもしれませんよ。でも、あのまことしやかな
(そうしきには、あなたでなくてもごまかされそうですね。ほんやくもののたんていしょうせつでは)
葬式には、あなたでなくてもごまかされそうですね。翻訳物の探偵小説では
(あるまいし、まさかとうきょうのまんなかでそんなおしばいがえんじられようとは、)
あるまいし、まさか東京のまん中でそんなお芝居が演じられようとは、
(ちょっとそうぞうできませんからね。それからつじどうがしんぼうづよくむすことのおうらいを)
ちょっと想像できませんからね。それから辻堂が辛抱強く息子との往来を
(たっていたこと、これがひじょうにじゅうだいなてんです。ほかのはんざいのばあいでもそうですが、)
絶っていたこと、これが非常に重大な点です。他の犯罪の場合でもそうですが、
(あいてをごまかすひけつは、じぶんのかんじょうをおしころして、せけんふつうのにんじょうとは)
相手をごまかす秘訣は、自分の感情を押し殺して、世間普通の人情とは
(まるではんたいのやりかたをすることです。にんげんというやつはとかくわがみにひきくらべて)
まるで反対のやり方をすることです。人間というやつは兎角わが身に引き比べて
(ひとのこころをおしはかるもので、そのけっかいちどあやまったはんだんをくだすとなかなか)
人の心をおしはかるもので、その結果一度誤った判断をくだすとなかなか
(まちがいにきがつかぬものですよ。またゆうれいをあらわすてじゅんもうまくいって)
間ちがいに気がつかぬものですよ。又幽霊を現わす手順もうまく行って
(いました。せんじつあなたもおっしゃったとおり、ああしてこちらのいくさき、)
いました。先日あなたもおっしゃった通り、ああしてこちらの行く先、
(いくさきへついてこられては、だれだってきみがわるくなりますよ。そこへ)
行く先へついてこられては、誰だって気味がわるくなりますよ。そこへ
(もってきてこせきとうほんです。どうぐだてがよくそろっていたじゃありませんか」)
もってきて戸籍謄本です。道具立てがよくそろっていたじゃありませんか」
(「それです。もしつじどうがいきているとすれば、どうしてもふにおちないのは、)
「それです。もし辻堂が生きているとすれば、どうしても腑に落ちないのは、
(だいいちあのへんなしゃしんですが、しかしこれはまあわたしのみあやまりだったとしても、)
第一あの変な写真ですが、しかしこれはまあ私の見誤りだったとしても、
(いまおっしゃったいくさきをしっていること、それから、こせきとうほんです。)
今おっしゃった行く先を知っていること、それから、戸籍謄本です。
(まさかこせきとうほんにまちがいがあろうともかんがえられないではありませんか」)
まさか戸籍謄本に間ちがいがあろうとも考えられないではありませんか」