「悪魔の紋章」5 江戸川乱歩

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江戸川乱歩の小説「悪魔の紋章」のタイピングです。

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問題文

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(かわでしはついにたまらなくなって、このことをけいしちょうにうったえでた。)

川手氏は遂に堪らなくなって、このことを警視庁に訴え出た。

(だがけいしちょうでは、しょかつけいさつしょへよくはなしておくからというようなへんじを)

だが警視庁では、所轄警察署へよく話して置くからというような返事を

(したまま、いっこうとりあってくれないので、つぎにはみんかんたんていをぶっしょくし、まず)

したまま、一向取合ってくれないので、次には民間探偵を物色し、先ず

(あけちこごろうのじむしょへつかいをだしたが、あけちしはあるじゅうだいはんざいじけんのために、)

明智小五郎の事務所へ使を出したが、明智氏はある重大犯罪事件の為に、

(ちょうせんにしゅっちょうちゅうで、きゅうにかえらないというへんじであった。そこで、こんどは)

朝鮮に出張中で、急に帰らないという返事であった。そこで、今度は

(あけちたんていとならびしょうせられるむなかたはかせにはんにんそうさをいらいしたところ、)

明智探偵と並び称せられる宗像博士に犯人捜査を依頼したところ、

(はかせのじょしゅのきじまというわかいたんていがたずねてきて、いちぶしじゅうをききとったうえ、)

博士の助手の木島という若い探偵が訪ねて来て、一伍一什を聞き取った上、

(そうさにちゃくしゅしたのであった。 それからとおかあまりのゆうべ、)

捜査に着手したのであった。 それから十日余りの昨夜、

(かわでしはとつぜんなかむらそうさかかりちょうのほうもんをうけ、むなかたたんていじむしょの)

川手氏は突然中村捜査係長の訪問を受け、宗像探偵事務所の

(きじまじょしゅへんしのしだいをきかされ、いまさらのようにふるえあがった。 そして、そのよるは)

木島助手変死の次第を聞かされ、今更のように震え上った。 そして、その夜は

(さんめいのしふくけいじが、てっしょうのないがいのみはりをしてくれることになったが、)

三名の私服刑事が、徹宵邸の内外の見張りをしてくれることになったが、

(しかし、このけいしちょうのこういはもうておくれであった。)

しかし、この警視庁の好意はもう手おくれであった。

(ゆうこくからともだちをほうもんするといってでかけたじじょのゆきこさんが、じゅうじをすぎ)

夕刻から友達を訪問するといって出かけた次女の雪子さんが、十時を過ぎ

(じゅういちじをすぎ、しんやとなってもかえらなかった。ともだちのいえはもとより、)

十一時を過ぎ、深夜となっても帰らなかった。友達の家は元より、

(こころあたりというこころあたりをでんわやつかいでさがしまわったが、ともだちのいえをじきょしたのが)

心当りという心当りを電話や使いで探し廻ったが、友達の家を辞去したのが

(はちじごろとわかったばかりで、そのごのしょうそくはようとしてしれなかった。)

八時頃と分ったばかりで、その後の消息は杳として知れなかった。

(ふあんのいちやがあけてよくあさ、あざぶくのたかだいにあるかわでていは、きゅうをきいて)

不安の一夜が明けて翌朝、麻布区の高台にある川手邸は、急を聞いて

(はせつけたしんせきちきのひとびとで、ひろいていないもひとかたならぬこんざつをていしていたが、)

馳せつけた親戚知己の人々で、広い邸内も一方ならぬ混雑を呈していたが、

(そのなかに、だいいちごうおうせつしつのようまには、なかむらそうさかかりちょうとむなかたはかせと)

その中に、第一号応接室の洋間には、中村捜査係長と宗像博士と

(しゅじんかわでしょうたろうしのさんにんが、あおざめたかおをみあわせて、ぜんごのしょちを)

主人川手庄太郎氏の三人が、青ざめた顔を見合せて、善後の処置を

など

(きょうぎしていた。かかりちょうとはかせとは、じけんのほうこくをうけると、)

協議していた。係長と博士とは、事件の報告を受けると、

(とるものもとりあえず、そうちょうからかわでていをほうもんしたのである。)

取るものも取りあえず、早朝から川手邸を訪問したのである。

(かわでしははんぱくのとうはつをごぶがりにして、はんぱくのくちひげをたくわえ、こいまゆ、おおきなめ、)

川手氏は半白の頭髪を五分刈りにして、半白の口髭を貯え、濃い眉、大きな目、

(でっぷりとふとった、いかにもじゅうやくがたのしんしであったが、いつもつやつやと)

デップリと太った、如何にも重役型の紳士であったが、いつも艶々と

(あからんでいるほうきょうも、きょうはいろをうしなっているようにみえた。)

赤らんでいる豊頬も、今日は色を失っているように見えた。

(どうしはいちねんほどまえふじんにさきだたれたまま、のちぞいもめとらず、ふたりのむすめと)

同氏は一年程前夫人に先立たれたまま、後添いも娶らず、二人の娘と

(みずいらずのかていをたのしんでいたのだが、そのあいじょうのひとりが、なにものともしれぬ)

水入らずの家庭を楽しんでいたのだが、その愛嬢の一人が、何者とも知れぬ

(さつじんきのしゅちゅうにうばいさられたかとおもうと、さすがのかわてしもろうばいしないでは)

殺人鬼の手中に奪い去られたかと思うと、流石の川手氏も狼狽しないでは

(いられなかった。 かわでしとむなかたはかせはしょたいめんであった。)

いられなかった。 川手氏と宗像博士は初対面であった。

(かわでしは、きじまじょしゅへんしのくやみをのべ、いぞくにたいして)

川手氏は、木島助手変死の悔みを述べ、遺族に対して

(できるだけのことをしたいともうしいで、はかせのほうでは、このじゅうだいじけんを、)

出来るだけのことをしたいと申出で、博士の方では、この重大事件を、

(じょしゅまかせにしておいたておちをわびた。 「うけたまわると、はんにんはみょうなさんじゅうのうずまきの)

助手任せにして置いた手落ちを詫びた。 「承わると、犯人は妙な三重の渦巻の

(しもんをもったやつだということですが・・・・・・」 かわでしはそれを)

指紋を持った奴だということですが・・・・・・」 川手氏はそれを

(ききしっていた。 「そうです。みっつのうずまきがうえにふたつ、したにひとつと)

聞き知っていた。 「そうです。三つの渦巻が上に二つ、下に一つと

(さんかくけいにかさなっているのです。もしや、ふるいおしりあいに、そんなしもんを)

三角形に重なっているのです。若しや、古いお知合いに、そんな指紋を

(もっているじんぶつのおこころあたりはないでしょうか」 はかせがたずねると、)

持っている人物のお心当りはないでしょうか」 博士が訊ねると、

(かわでしはかぶりをふって、 「それがまったくこころあたりがないのです。)

川手氏は頭を振って、 「それが全く心当りがないのです。

(しもんなどというやつは、いくらしたしくつきあっていても、きのつかぬばあいが)

指紋などという奴は、いくら親しくつき合っていても、気のつかぬ場合が

(おおいものですからね」 「しかし、これほどのふくしゅうをくわだてているのですから、)

多いものですからね」 「しかし、これ程の復讐を企てているのですから、

(あなたによほどふかいうらみをもっているやつにちがいありません。そういうてんで、)

あなたに余程深い恨みを持っている奴に違いありません。そういう点で、

(なにかおこころあたりがなければならないとおもうのですが」 むなかたはかせは、やはりすこし)

何かお心当りがなければならないと思うのですが」 宗像博士は、やはり少し

(あおざめたかおをして、じっとかわでしをみた。そこから、このしさんかのきゅうあくを)

青ざめた顔をして、じっと川手氏を見た。そこから、この資産家の旧悪を

(さぐりだそうとでもするように、するどいめであいてのひょうじょうをみつめた。)

探り出そうとでもするように、鋭い目で相手の表情を見つめた。

(「いや、そりゃ、わたしをうらんでいるにんげんがないとはもうしません。)

「イヤ、そりゃ、わたしを恨んでいる人間がないとは申しません。

(しかし、これほどのふくしゅうをうけるおぼえはないのです。そんなあいてはまったく)

しかし、これ程の復讐を受ける覚えはないのです。そんな相手は全く

(こころあたりがないのです」 かわでしは、はかせのうたがいぶかいしつもんに、)

心当りがないのです」 川手氏は、博士の疑い深い質問に、

(すこしいかりをあらわしてこたえた。 「ですがね、うらみというやつは、うらまれるほうでは)

少し怒りをあらわして答えた。 「ですがね、恨みという奴は、恨まれる方では

(さほどにおもわなくても、うらむがわにはなんそうばいもつよくかんじられるばあいが、)

左程に思わなくても、恨む側には何層倍も強く感じられる場合が、

(おうおうあるものですからね」 「なるほど、そういうこともあるでしょうね。)

往々あるものですからね」 「なる程、そういうこともあるでしょうね。

(さすがごしょうばいがら、はんざいしゃのきもちはよくごしょうちでいらっしゃる。)

さすが御商売柄、犯罪者の気持はよく御承知でいらっしゃる。

(しかし、わたしには、どうかんがえてみても、そんなこころあたりはありませんね」)

しかし、わたしには、どう考えて見ても、そんな心当りはありませんね」

(かわでしはますますふかいらしくいいはなった。 「あなたのほうにおこころあたりが)

川手氏は益々不快らしく云い放った。 「あなたの方にお心当りが

(ないとしますと、れいのしもんが、いまのところ、ゆいいつのてがかりですね。)

ないとしますと、例の指紋が、今のところ、唯一の手掛りですね。

(じつはさくやのうちに、けいしちょうのしもんげんしをじゅうぶんしらべさせたのですが、)

実は昨夜のうちに、警視庁の指紋原紙を十分調べさせたのですが、

(じゅうごねんきんぞくのしもんしゅにんも、さんじゅうのかじょうもんなんてみたこともきいたこともない。)

十五年勤続の指紋主任も、三重の渦状紋なんて見たことも聞いたこともない。

(しもんげんしのうちには、むろんそんなものはないということでした」 「ばけものだ」)

指紋原紙の内には、無論そんなものはないということでした」 「化け物だ」

(むなかたはかせが、なにかいみありげに、ひくいこえでつぶやいた。それをきくと、)

宗像博士が、何か意味ありげに、低い声で呟いた。それを聞くと、

(かわでしはおびえたように、きょろきょろとあたりをみまわした。)

川手氏は脅えたように、キョロキョロとあたりを見廻した。

(さりげなくよそおっているけれど、こころのそこでは、なにものかおもいあたるじんぶつが)

さりげなく装っているけれど、心の底では、何者か思い当る人物が

(あるらしくみえる。 「なかむらさん、むなかたさんも、なんとかしてむすめを)

あるらしく見える。 「中村さん、宗像さんも、何とかして娘を

(とりもどしてくださるわけにはいかんでしょうか。ひようはいくらかかっても、)

取戻して下さる訳には行かんでしょうか。費用はいくらかかっても、

(すっかりわたしがふたんします。けんしょうをつけてもよろしい。そうだ、)

すっかりわたしが負担します。懸賞をつけてもよろしい。そうだ、

(はんにんをはっけんし、むすめをとりかえしてくださったかたには、ごせんえんのしょうきんをかけましょう。)

犯人を発見し、娘を取返して下さった方には、五千円の賞金を懸けましょう。

(けいさつのかたでも、みんかんのかたでもかまいません。むすめをあんぜんにとりもどしてくだされば)

警察の方でも、民間の方でも構いません。娘を安全に取戻して下されば

(いいのです。わたしはいちびょうでもはやくむすめのぶじなかおがみたいのです」)

いいのです。わたしは一秒でも早く娘の無事な顔が見たいのです」

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