「悪魔の紋章」6 江戸川乱歩

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江戸川乱歩の小説「悪魔の紋章」のタイピングです。
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1 ねね 4517 C++ 4.6 97.8% 880.2 4067 91 61 2024/02/28

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問題文

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(かわでしはかんじょうのはげしいせいかくとみえて、しゃべっているうちにだんだんこうふんして、)

川手氏は感情の激しい性格と見えて、喋っているうちに段々興奮して、

(ついにははんきょうらんのていであった。 「なるほど、けんしょうとはよいおもいつきですが、)

遂には半狂乱の体であった。 「なる程、懸賞とはよい思いつきですが、

(わるくするとておくれかもしれませんね。・・・・・・ぼくはさっきから、)

悪くすると手遅れかも知れませんね。・・・・・・僕はさっきから、

(あのまどのしたにおちているふうとうがきになってしかたがないのだが・・・・・・」)

あの窓の下に落ちている封筒が気になって仕方がないのだが・・・・・・」

(むなかたはかせはいっぽうのまどのしたのゆかを、いみありげにみつめながら、ひとりごとのように)

宗像博士は一方の窓の下の床を、意味ありげに見つめながら、独言のように

(いった。 そのこえに、なにかぞっとさせるようなひびきがこもっていたので、)

云った。 その声に、何かゾッとさせるような響きがこもっていたので、

(あとのふたりはおどろいて、そのほうへめをやった。いかにもいっつうのようふうとうが)

あとの二人は驚いて、その方へ目をやった。如何にも一通の洋封筒が

(おちている。 それをひとめみると、かわでしのかおいろがさっとかわった。)

落ちている。 それを一目見ると、川手氏の顔色がサッと変った。

(「おや、おかしいぞ。ついいましがたまで、あんなものはおちて)

「オヤ、おかしいぞ。つい今し方まで、あんなものは落ちて

(いなかったのですよ。それに、わたしのいえには、あんなかたのふうとうは)

いなかったのですよ。それに、わたしの家には、あんな型の封筒は

(なかったはずだ」 いいながら、つかつかとまどのそばへたっていって、)

なかった筈だ」 云いながら、ツカツカと窓の側へ立って行って、

(そのふうとうをひろいあげ、きみわるそうにながめていたが、いきなりよびりんをおして)

その封筒を拾い上げ、気味悪そうに眺めていたが、いきなり呼鈴を押して

(じょちゅうをよんだ。 「おまえ、けさここをそうじしたんだね。このまどのしたに)

女中を呼んだ。 「お前、今朝ここを掃除したんだね。この窓の下に

(こんなものがおちてたんだが」 じょちゅうがかおをだすと、かわでしはしかりつけるように)

こんなものが落ちてたんだが」 女中が顔を出すと、川手氏は叱りつけるように

(ききただした。 「いいえ、あの、わたくし、じゅうぶんちゅういして)

聞きただした。 「イイエ、アノ、わたくし、十分注意して

(そうじしましたけれど、なにもおちてなんかいませんでございました」)

掃除しましたけれど、何も落ちてなんかいませんでございました」

(「たしかかね」 「ええ、ほんとうになにも・・・・・・」)

「確かかね」 「エエ、本当に何も・・・・・・」

(わかいじょちゅうは、いかめしいふたりのきゃくのすがたにおびえて、ほほをあからめながら、しかし、)

若い女中は、いかめしい二人の客の姿におびえて、頬を赤らめながら、しかし、

(きっぱりとこたえた。 「だれかが、まどのそとからなげこんでいったのでは)

キッパリと答えた。 「誰かが、窓の外から投げ込んで行ったのでは

(ありませんか」 なかむらけいぶがふあんらしくまたたきしながらいった。)

ありませんか」 中村警部が不安らしく瞬きしながら云った。

など

(「いや、そんなはずはありません。ごらんのとおりこちらがわのまどは)

「イヤ、そんな筈はありません。ごらんの通りこちら側の窓は

(しめきってあります。ふうとうをさしいれるようなすきまもありません。)

閉め切ってあります。封筒をさし入れるような隙間もありません。

(それに、このそとはうちにわですから、いえのものしかとおることはできないのです」)

それに、この外は内庭ですから、家のものしか通ることは出来ないのです」

(かわでしはまじゅつでもみたように、おびえきっていた。 「ふうとうがここへはいってきた)

川手氏は魔術でも見たように、脅え切っていた。 「封筒がここへ入って来た

(けいろはともかくとして、なかをあらためてみようじゃありませんか」)

経路は兎も角として、中を改めて見ようじゃありませんか」

(むなかたはかせはひとりれいせいであった。 「おしらべください」)

宗像博士は一人冷静であった。 「お調べ下さい」

(かわでしは、みずからかいふうするゆうきがなく、ふうとうをはかせのほうへさしだした。)

川手氏は、自ら開封する勇気がなく、封筒を博士の方へさし出した。

(はかせはうけとって、ちゅういぶかくふうをひらき、いちまいのようしをひろげた。)

博士は受取って、注意深く封を開き、一枚の用紙を拡げた。

(「おや、これはなんのいみでしょう」 そこには、ただごもじ、)

「オヤ、これは何の意味でしょう」 そこには、ただ五文字、

(えいせいてんらんかい としるしてあるばかり、さすがのはかせも、そのいみを)

衛生展覧会 と記してあるばかり、さすがの博士も、その意味を

(かいしかねたようにみえた。 「おお、いつものふうとうです。いつものようしです。)

解し兼ねたように見えた。 「オオ、いつもの封筒です。いつもの用紙です。

(はんにんからのつうしんにちがいありません」 かわでしが、やっときづいたようにさけんだ。)

犯人からの通信に違いありません」 川手氏が、やっと気附いたように叫んだ。

(「はんにんのてがみですって、それじゃこれは・・・・・・」 「なかむらくん、)

「犯人の手紙ですって、それじゃこれは・・・・・・」 「中村君、

(いってみよう。これからすぐいってみよう」 はかせはなにをおもったのか、)

行って見よう。これからすぐ行って見よう」 博士は何を思ったのか、

(なかむらけいぶのうでをとらんばかりにして、あわただしくうながすのだ。)

中村警部の腕を取らんばかりにして、惶しく促すのだ。

(「いくって、どこへです」 「きまっているじゃないか。えいせいてんらんかいへですよ」)

「行くって、どこへです」 「極っているじゃないか。衛生展覧会へですよ」

(「しかし、えいせいてんらんかいなんて、どこにひらかれているんです」)

「しかし、衛生展覧会なんて、どこに開かれているんです」

(「uこうえんのかがくちんれつかんさ。ぼくは、あすこのやくいんになっているので、それを)

「U公園の科学陳列館さ。僕は、あすこの役員になっているので、それを

(しっているんだが、いまえいせいてんらんかいというのがひらかれているはずなんです。)

知っているんだが、今衛生展覧会というのが開かれている筈なんです。

(さあ、すぐにいってみましょう」 なかむらかかりちょうにも、おぼろげにはかせのかんがえが)

サア、すぐに行って見ましょう」 中村係長にも、おぼろげに博士の考えが

(わかってきた。このしろうとたんていはなんというおそろしいことをかんがえるのだろうと、)

分って来た。この素人探偵は何という恐ろしいことを考えるのだろうと、

(ほとんどあっけにとられるほどであったが、ともかくぐずぐずしているばあいでないと)

殆んどあっけに取られる程であったが、兎も角愚図愚図している場合でないと

(おもったので、はかせとともに、もんぜんにまたせてあったけいしちょうのじどうしゃにのりこんで、)

思ったので、博士と共に、門前に待たせてあった警視庁の自動車に乗り込んで、

(uこうえんのかがくちんれつかんへはしらせた。 かわでしはりょうにんのきちがいめいたしゅっぱつを、)

U公園の科学陳列館へ走らせた。 川手氏は両人の気違いめいた出発を、

(あっけにとられてながめていたが、ゆきこのゆくえふめいとえいせいてんらんかいとを、)

あっけに取られて眺めていたが、雪子の行方不明と衛生展覧会とを、

(どうかんがえてもむすびつけることができず、しかし、わからなければ)

どう考えても結びつけることが出来ず、しかし、分らなければ

(わからないだけに、なんともえたいのしれぬきみわるさが、こくうんのようにしんちゅうに)

分らないだけに、何ともえたいの知れぬ気味悪さが、黒雲のように心中に

(わきおこってきて、ふあんとしょうりょに、いてもたってもいられぬこころもちであった。)

湧き起って来て、不安と焦慮に、居ても立ってもいられぬ心持であった。

(じどうしゃがかがくちんれつかんへつくと、むなかたはかせとなかむらそうさかかりちょうとは、ちんれつかんの)

自動車が科学陳列館へ着くと、宗像博士と中村捜査係長とは、陳列館の

(しゅにんにじじょうをはなし、そのあんないで、さんかいぜんたいをしめるえいせいてんらんかいじょうへ、)

主任に事情を話し、その案内で、三階全体を占める衛生展覧会場へ、

(あわただしくのぼっていった。 そうちょうのこととて、ひろいじょうないには、かんらんしゃのすがたもなく、)

惶しく昇って行った。 早朝のこととて、広い場内には、観覧者の姿もなく、

(こんくりーとのはしら、みがきあげたりのりゅーむ、そこにならべられただいしょうさまざまの)

コンクリートの柱、磨き上げたリノリューム、そこに並べられた大小様々の

(がらすばりのちんれつだいが、まるでみずのそこにしずんでいるように、ひえびえと)

ガラス張りの陳列台が、まるで水の底に沈んでいるように、冷えびえと

(しずまりかえっていた。 じょうないのいっぱんにはいりょうきかい、いっぱんにはきかいなかいぼうもけいや、)

静まり返っていた。 場内の一半には医療器械、一半には奇怪な解剖模型や、

(ぎしゅぎそくや、しっぺいもけいのろうにんぎょうなどがちんれつしてある。さんにんはそれらの)

義手義足や、疾病模型の蝋人形などが陳列してある。三人はそれらの

(ちんれつだなのあいだを、ぐるぐるといそがしくあるきまわった。 どくどくしくあかとあおでぬられた、)

陳列棚の間を、グルグルと急がしく歩き廻った。 毒々しく赤と青で塗られた、

(しとだるほどもあるしんぞうもけい、ふといけっかんでちばしったふっとぼーるほどのがんきゅうもけい、)

四斗樽ほどもある心臓模型、太い血管で血走ったフットボールほどの眼球模型、

(むすうのかいこがはいまわっているようなのうずいもけい、とうしんだいのろうにんぎょうをからたけわりにした)

無数の蚕が這い廻っているような脳髄模型、等身大の蝋人形を韓竹割にした

(ないぞうもけい、ながくみつめているとはきけをもよおすような、それらのまがまがしい)

内蔵模型、長く見つめていると吐き気を催すような、それらのまがまがしい

(ろうざいくのあいだを、さんにんはわきめもふらずあるいていく。めざすところは、)

蝋細工の間を、三人は傍目もふらず歩いて行く。目ざすところは、

(しっぺいもけいのろうにんぎょうなのだ。)

疾病模型の蝋人形なのだ。

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