「悪魔の紋章」7 江戸川乱歩

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江戸川乱歩の小説「悪魔の紋章」のタイピングです。
順位 名前 スコア 称号 打鍵/秒 正誤率 時間(秒) 打鍵数 ミス 問題 日付
1 123 6363 S 6.5 96.6% 638.8 4213 148 60 2024/10/27

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問題文

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(なになにどらっぐしょうかいのれいのぶきみなろうにんぎょうは、もともとえいせいてんらんかいなどの)

何々ドラッグ商会の例の不気味な蝋人形は、もともと衛生展覧会などの

(ろうにんぎょうのこうかからおもいついたものであった。しっぺいのろうにんぎょうというものには、)

蝋人形の効果から思いついたものであった。疾病の蝋人形というものには、

(それほどのすりるがあるのだ。おそろしいびょうどくのふきでもの、にこちんやあるこーるの)

それ程のスリルがあるのだ。恐ろしい病毒の吹出物、ニコチンやアルコールの

(ちゅうどくで、きいろくふくれあがったしんぞうのもけいなどは、けんこうしゃをたちまちびょうにんに)

中毒で、黄色くふくれ上った心臓の模型などは、健康者を忽ち病人に

(してしまうほどの、おそろしいしんりてきこうかをもっている。 それらのちんれつだなのなかに、)

してしまう程の、恐ろしい心理的効果を持っている。 それらの陳列棚の中に、

(ひときわめだつおおきながらすばこがあった。じょうぶとしほうとをぜんめんがらすばりとした)

一際目立つ大きなガラス箱があった。上部と四方とを全面ガラス張りとした

(ちょうほうけいのちんれつだいである。 むなかたはかせは、とおくからそのがらすばこをみつけると、)

長方形の陳列台である。 宗像博士は、遠くからそのガラス箱を見つけると、

(まっすぐにそのほうへちかづいていった。そして、さんにんはそのねがんのような)

真直ぐにその方へ近づいて行った。そして、三人はその寝棺のような

(がらすばこのまえにたった。 がらすばこのなかには、とうしんだいのわかいおんなが、ようぶを)

ガラス箱の前に立った。 ガラス箱の中には、等身大の若い女が、腰部を

(はくふにおおわれて、ぜんらのすがたをさらしていた。とおいまどからのうすぐらいこうせんでは、)

白布に蔽われて、ぜんらの姿を曝していた。遠い窓からの薄暗い光線では、

(じゅうぶんみわけられないほどであるが、しかし、なんとなくいきているような)

十分見分けられない程であるが、しかし、何となく生きているような

(ろうにんぎょうである。 「どうして、こんなものをちんれつするのですか。べつにびょうきの)

蝋人形である。 「どうして、こんなものを陳列するのですか。別に病気の

(もけいらしくもないじゃありませんか。びじゅつてんらんかいのちょうこくしつへもっていったほうが、)

模型らしくもないじゃありませんか。美術展覧会の彫刻室へ持って行った方が、

(ふさわしいくらいだ」 はかせがしゅにんをかえりみてたずねた。すると、しゅにんはいかにも)

ふさわしい位だ」 博士が主任を顧みて訊ねた。すると、主任は如何にも

(きょうしゅくしたていで、おずおずと、 「いつのてんらんかいにも、こういうかんぜんなにんぎょうが)

恐縮した体で、オズオズと、 「いつの展覧会にも、こういう完全な人形が

(ひとつくらいまぎれこむものです。もけいしのどうらくなんですね。このにんぎょうもけさ)

一つ位まぎれ込むものです。模型師の道楽なんですね。この人形も今朝

(くらいうちにはこびこまれたばかりで、ついいましがたおおいぬのをとってみて)

暗い内に運び込まれたばかりで、つい今し方蔽い布を取って見て

(おどろいたくらいなんです。もしなんでしたら、べつのもけいとおきかえることに)

驚いた位なんです。若しなんでしたら、別の模型と置き換えることに

(いたしますが」 とべんかいしながら、なかむらけいぶをちろちろとよこめでながめた。)

致しますが」 と弁解しながら、中村警部をチロチロと横目で眺めた。

(「いや、それにもおよばないだろうが、しかし、このにんぎょうはじつに)

「イヤ、それにも及ばないだろうが、しかし、この人形は実に

など

(よくできているね。それにひじょうなびじんだ。このちちのふくらみなんか、)

よく出来ているね。それに非常な美人だ。この乳のふくらみなんか、

(しょくにんのしごととはおもわれぬほどですね」 はかせとなかむらけいぶとは、ねっしんに)

職人の仕事とは思われぬ程ですね」 博士と中村警部とは、熱心に

(がらすばこのなかをのぞきこんでいたが、やがて、なにをはっけんしたのか、けいぶが)

ガラス箱の中を覗き込んでいたが、やがて、何を発見したのか、警部が

(とんきょうなこえをたてた。 「おやっ、このにんぎょうにはうぶげがはえている。)

頓狂な声を立てた。 「オヤッ、この人形には産毛が生えている。

(ほら、あごのところをごらんなさい。うでにも、ももにも」 ようやくうすぐらいこうせんに)

ホラ、顎のところをごらんなさい。腕にも、腿にも」 ようやく薄暗い光線に

(なれたひとびとは、らたいにんぎょうのぜんしんに、ぎんいろにひかる、めにみえないほどのうぶげを)

慣れた人々は、裸体人形の全身に、銀色に光る、目に見えない程の産毛を

(みわけることができた。 さんにんはあまりのうすきみわるさに、だまりかえって)

見分けることが出来た。 三人は余りの薄気味悪さに、黙りかえって

(かおをみかわすばかりであったが、むなかたはかせは、ふとなにかにきづいたらしく、)

顔を見交すばかりであったが、宗像博士は、ふと何かに気づいたらしく、

(ぽけっとからかくだいきょうをとりだして、がらすばこのひょうめんのあるいってんをのぞきこんだ。)

ポケットから拡大鏡を取出して、ガラス箱の表面の或る一点を覗き込んだ。

(「なかむらくん、ちょっとここをのぞいてごらんなさい」 いわれるままに、)

「中村君、一寸ここを覗いてごらんなさい」 云われるままに、

(れんずをうけとって、がらすのひょうめんをのぞいたかかりちょうは、のぞくがいなや、)

レンズを受取って、ガラスの表面を覗いた係長は、覗くが否や、

(はじきかえされたように、そのそばをはなれて、しゃがれたこえでさけんだ。)

はじき返されたように、その側を離れて、嗄れた声で叫んだ。

(「ああ、さんじゅうかじょうもんだ」 いかにも、そのがらすのひょうめんには、)

「アア、三重渦状紋だ」 如何にも、そのガラスの表面には、

(ゆうべげんとうでみたのとそっくりのおばけしもんが、まざまざと)

昨夜幻燈で見たのとソックリのお化け指紋が、まざまざと

(あらわれていたのである。 「きみ、このふたをあけてください」)

現われていたのである。 「君、この蓋を開けて下さい」

(はかせがどなるまでもなく、しゅにんもそれにきづいて、もうまっさおになりながら、)

博士が呶鳴るまでもなく、主任もそれに気づいて、もう真青になりながら、

(ぽけっとのかぎで、がらすばこのふたをひらいた。 「にんぎょうのはだにさわってごらんなさい」)

ポケットの鍵で、ガラス箱の蓋を開いた。 「人形の肌に触ってごらんなさい」

(しゅにんはおずおずと、ひとさしゆびをにんぎょうにちかづけ、そのふくぶにさわってみた。)

主任はオズオズと、人差指を人形に近づけ、その腹部に触って見た。

(さわったかとおもうと、ひめいのようなさけびごえをたてて、とびのいた。 にんぎょうのはだは、)

触ったかと思うと、悲鳴のような叫び声を立てて、飛びのいた。 人形の肌は、

(まるでくさったかじつのようにぶよぶよとやわらかかったからである。)

まるで腐った果物のようにブヨブヨと柔かかったからである。

(そしてこおりのようにつめたかったからである。)

そして氷のように冷たかったからである。

(くろめがねのおとこ さんにんはしばらくのあいだことばもなくぼうぜんとかおをみあわせていた。)

黒眼鏡の男 三人は暫くの間言葉もなく茫然と顔を見合せていた。

(したいをがらすばこにいれて、しゅうじんのめにさらすという、あまりにもきかいなちゃくそうに、)

死体をガラス箱に入れて、衆人の目に曝すという、余りにも奇怪な着想に、

(さすがのはんざいせんもんかたちもあっけにとられてしまったのだ。 「ごらんなさい。)

流石の犯罪専門家達もあっけにとられてしまったのだ。 「ごらんなさい。

(このしたいにはぜんしんにけしょうがほどこしてある。くちびるなんかもねんいりにるーじゅが)

この死体には全身に化粧が施してある。唇なんかも念入りにルージュが

(ぬってある。ろうにんぎょうらしくするのに、こんなてすうをかけたのですね」)

塗ってある。蝋人形らしくするのに、こんな手数をかけたのですね」

(なかむらかかりちょうがかんにたえたようにくちをきった。 いかにもそれはしたいとは)

中村係長が感に堪えたように口を切った。 如何にもそれは死体とは

(かんがえられぬほどなまめかしいいろつやであった。はんにんはしたいげしょうによって、そこにひとつの)

考えられぬ程艶めかしい色艶であった。犯人は死体化粧によって、そこに一つの

(げいじゅつひんをそうぞうしたのだ。かれがひとなきへや、ほのぐらきとうかのしたで、したいと)

芸術品を創造したのだ。彼が人なき部屋、ほの暗き燈火の下で、死体と

(たったふたりのさしむかい、ぎらぎらとめをひからせ、くちびるをなめずりながら、)

たった二人のさし向かい、ギラギラと目を光らせ、唇をなめずりながら、

(えふでをとって、あくまのびじゅつひんせいさくによねんのないありさまが、まざまざと)

絵筆を執って、悪魔の美術品製作に余念のない有様が、まざまざと

(まぶたのうらにうかんでくるようにかんじられた。 はかせもけいぶも、かわでゆきこのかおを)

瞼の裏に浮かんで来るように感じられた。 博士も警部も、川手雪子の顔を

(しらなかったけれど、しゅじゅのじじょうをかんがえあわせて、このなまめかしいしたいこそ、)

知らなかったけれど、種々の事情を考え合わせて、この艶めかしい死体こそ、

(そうさくちゅうのゆきこさんであることはあきらかであった。なによりのしょうこは、)

捜索中の雪子さんであることは明かであった。何よりの証拠は、

(がらすばこのひょうめんにのこされていたあくまのしもんである。あのかいぶつのかおのように)

ガラス箱の表面に残されていた悪魔の指紋である。あの怪物の顔のように

(みえるさんじゅうかじょうもんである。こんなきちがいめいたかいしもんをもったやつが、)

見える三重渦状紋である。こんな気違いめいた怪指紋を持った奴が、

(ほかにあるはずはないからだ。 「おそろしいはんざいだ。ぼくはながねんはんざいを)

外にある筈はないからだ。 「恐ろしい犯罪だ。僕は永年犯罪を

(てがけてきたけれど、こんなのははじめてですよ。きちがいざただ。)

手がけて来たけれど、こんなのは初めてですよ。気違い沙汰だ。

(このはんにんはふくしゅうにこりかたまって、せいしんにいじょうをきたしているとしか)

この犯人は復讐にこり固まって、精神に異状を来たしているとしか

(かんがえられませんね」 なかむらけいぶがちんつうなおももちでつぶやいた。)

考えられませんね」 中村警部が沈痛な面持で呟いた。

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