「悪魔の紋章」9 江戸川乱歩

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江戸川乱歩の小説「悪魔の紋章」のタイピングです。
順位 名前 スコア 称号 打鍵/秒 正誤率 時間(秒) 打鍵数 ミス 問題 日付
1 123 6448 S 6.6 97.5% 484.6 3206 81 47 2024/10/27

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問題文

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(「えっ、しょうこひんだって?」 はかせもなかむらけいぶも、おもわずひざをのりだして、)

「エッ、証拠品だって?」 博士も中村警部も、思わず膝を乗り出して、

(あいてのかおをみつめた。 「そうです。ごらんください。このすてっきです」)

相手の顔を見つめた。 「そうです。ごらん下さい。このステッキです」

(こいけはそういいながら、へやのすみにたてかけてあったこくたんのすてっきを)

小池はそう云いながら、部屋の隅に立てかけてあった黒檀のステッキを

(もってきて、ふたりのまえにさしだした。みれば、そのにぎりのぶぶんぜんたいに、)

持って来て、二人の前にさし出した。見れば、その握りの部分全体に、

(あつがみをまるくしてかぶせてある。 「しもんだね」)

厚紙を丸くして被せてある。 「指紋だね」

(「そうです。きえないように、じゅうぶんようじんしてきました」 まるめたあつがみをとると、)

「そうです。消えないように、十分用心して来ました」 丸めた厚紙をとると、

(したからぎんのにぎりがあらわれてきた。 「ここです。ここをごらんください」)

下から銀の握りが現われて来た。 「ここです。ここをごらん下さい」

(こいけはにぎりのうちがわをゆびさしながら、ぽけっとからかくだいきょうをとりだして)

小池は握りの内側を指さしながら、ポケットから拡大鏡を取出して

(はかせにわたした。はかせはそれをうけとって、しめされたぶぶんにあててみる。)

博士に渡した。博士はそれを受取って、示された部分に当てて見る。

(けいぶがむごんでよこからそれをのぞきこむ。 「おお、さんじゅうかじょうもんだ!」)

警部が無言で横からそれを覗き込む。 「オオ、三重渦状紋だ!」

(きじまじょしゅがもちかえったくつべらにのこっていたのと、すんぶんたがわぬおばけのかおが)

木島助手が持帰った靴箆に残っていたのと、寸分違わぬお化けの顔が

(わらっていた。 「このすてっきは?」)

笑っていた。 「このステッキは?」

(「そのくろめがねのおとこがわすれていったのです」 「そいつはあとらんちすの)

「その黒眼鏡の男が忘れて行ったのです」 「そいつはアトランチスの

(じょうれんかね」 「いいえ、まったくはじめてのきゃくだったそうです。きじまくんがかえると、)

定連かね」 「イイエ、全く初めての客だったそうです。木島君が帰ると、

(まもなくそいつもみせをでていったそうですが、けさになっても、すてっきを)

間もなくそいつも店を出て行ったそうですが、今朝になっても、ステッキを

(とりにこないということです。たぶんえいきゅうにとりにこないかもしれません」)

取りに来ないということです。多分永久に取りに来ないかも知れません」

(ああ、こがらできゃしゃなくろめがねのおとこ。そいつこそきたいのふくしゅうきなのだ。)

アア、小柄で華奢な黒眼鏡の男。そいつこそ稀代の復讐鬼なのだ。

(おばけのようなさんじゅううずまきのかいしもんをもったあくまなのだ。)

お化けのような三重渦巻の怪指紋を持った悪魔なのだ。

(「とりあえず、それだけごほうこくしようとおもって。それから、このすてっきを)

「とりあえず、それだけ御報告しようと思って。それから、このステッキを

(せんせいにおしらべねがいたいとおもいまして、いそいでやってきたのです。もうふうさいが)

先生にお調べ願いたいと思いまして、急いでやって来たのです。もう風采が

など

(わかったからには、なんとしてでも、そいつのあしどりをしらべてみます。そして、)

分ったからには、何としてでも、そいつの足取りを調べて見ます。そして、

(あくまのそうくつをつきとめないでおくものですか。では、ぼく、これでしつれいします」)

悪魔の巣窟を突きとめないで置くものですか。では、僕、これで失礼します」

(「うん、ぬけめなくやってくれたまえ」 はかせにはげまされて、わかいこいけじょしゅは)

「ウン、抜け目なくやってくれ給え」 博士に励まされて、若い小池助手は

(いそいそとちんれつかんをでていった。 それからまもなく、したいちんれつじけんの)

いそいそと陳列館を出て行った。 それから間もなく、死体陳列事件の

(とりしらべもおわり、そこにあつまっていたひとびとは、それぞれひきとることになったが、)

取調べも終り、そこに集っていた人々は、それぞれ引取ることになったが、

(むなかたはかせはなかむらかかりちょうのしょうだくをえて、こくたんのすてっきをけんきゅうしつにもちかえり、)

宗像博士は中村係長の承諾を得て、黒檀のステッキを研究室に持帰り、

(かくだいきょうによってめんみつなけんさをしたけれど、ごくありふれたやすもののすてっきで、)

拡大鏡によって綿密な検査をしたけれど、ごくありふれた安物のステッキで、

(せいぞうしょのまーくもなく、れいのかいしもんのほかにはこれというてがかりも)

製造所のマークもなく、例の怪指紋の外にはこれという手掛りも

(えられなかった。 ゆきこさんのしたいはただちにだいがくにはこばれ、よくじつかいぼうに)

得られなかった。 雪子さんの死体は直ちに大学に運ばれ、翌日解剖に

(ふされたが、そのけっかをここにしるしておくと、かのじょのしいんは、やはりどくぶつの)

附されたが、その結果をここに記して置くと、彼女の死因は、やはり毒物の

(えんかによることがあきらかとなった。のみならず、ちょうどそのぜんじつ、きじまじょしゅの)

嚥下によることが明かとなった。のみならず、丁度その前日、木島助手の

(したいもおなじばしょでかいぼうされたのだが、そのないぞうからけんしゅつされたどくぶつと、)

死体も同じ場所で解剖されたのだが、その内臓から検出された毒物と、

(ゆきこさんのそれとが、まったくおなじせいしつのものであったこともはんめいした。)

雪子さんのそれとが、全く同じ性質のものであったことも判明した。

(これによって、ゆきこさんときじまじょしゅのさつがいはんにんがどういつにんであることは、)

これによって、雪子さんと木島助手の殺害犯人が同一人であることは、

(いっそうめいりょうになったわけである。 なお、ゆきこさんのしたいをろうにんぎょうとしてしゅっぴんした)

一層明瞭になった訳である。 なお、雪子さんの死体を蝋人形として出品した

(にんぎょうこうじょうについては、なかむらかかりちょうじしんそのこうじょうにでむいて、げんじゅうに)

人形工場については、中村係長自身その工場に出向いて、厳重に

(とりしらべたところ、こうじょうぬしは、そういうかたちのがらすばこはまったくおぼえがない、)

取調べたところ、工場主は、そういう形のガラス箱は全く覚えがない、

(おそらくなにものかがこうじょうのなをかたってのうにゅうしたのであろうとしゅちょうした。)

恐らく何者かが工場の名を騙って納入したのであろうと主張した。

(そして、それにはいちいちたしかなよりどころがあったので、かかりちょうもたちまち)

そして、それには一々確かな拠り所があったので、係長もたちまち

(ぎねんをはらし、はんにんのよういしゅうとうさにおどろくばかりであった。)

疑念をはらし、犯人の用意周到さに驚くばかりであった。

(したいいりのがらすばこをちんれつかんにはこびいれたうんそうてんがしらべられたことは)

死体入りのガラス箱を陳列館に運び入れた運送店が調べられたことは

(いうまでもない。しかし、それもなんらえるところなくしておわった。)

云うまでもない。しかし、それも何等得る所なくして終った。

(やはりあるうんそうてんのながかたられていた。それをうけとったちんれつかんいんの)

やはりある運送店の名が騙られていた。それを受取った陳列館員の

(きおくによると、にんぷはつごうさんにんで、にたようなきたならしいおとこであったが、)

記憶によると、人夫は都合三人で、似たような汚らしい男であったが、

(なかでもおやぶんらしいおくりじょうにはんをとっていったにんぷは、ひだりのめがわるいらしく、)

中でも親分らしい送状に判を取って行った人夫は、左の目が悪いらしく、

(しかくくたたんだがーぜにひもをつけて、そこにあてていたということであった。)

四角く畳んだガーゼに紐をつけて、そこに当てていたということであった。

(てがかりといえば、それがゆいいつのてがかりであった。)

手掛りといえば、それが唯一の手掛りであった。

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