「悪魔の紋章」10 江戸川乱歩

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江戸川乱歩の小説「悪魔の紋章」のタイピングです。
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1 kanta 4971 B 5.1 96.0% 792.5 4111 171 60 2024/02/26

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問題文

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(だいさんのえじき さいあいのゆきこさんをうしなったかわでしのひたんが、どれほど)

第三の餌食 最愛の雪子さんを失った川手氏の悲歎が、どれほど

(ふかいものであったかは、それからよっかののち、ゆきこさんのそうぎのひに、)

深いものであったかは、それから四日の後、雪子さんの葬儀の日に、

(あのよくふとっていたひとが、げっそりとやせて、はんぱくのかみが、さらにいっそう)

あのよく肥っていた人が、げっそりと痩せて、半白の髪が、更に一層

(しろさをましていたことによっても、じゅうぶんさっすることができた。)

白さを増していたことによっても、十分察することが出来た。

(さかんなつやがふたばん、きょうはごぜんからていないさいごのどきょうとしょうこうがおこなわれ、)

盛んな通夜が二晩、今日は午前から邸内最後の読経と焼香が行われ、

(しょうごごろにはゆきこさんのむくろをおさめたきんぴかのそうぎしゃが、かわでけのもんないに)

正午頃には雪子さんの骸を納めた金ピカの葬儀車が、川手家の門内に

(かそうばへのしゅっぱつをまちかまえていた。げんかんまえのひろばを、もーにんぐや)

火葬場への出発を待ち構えていた。玄関前の広場を、モーニングや

(はおりはかまのひとびとがうおうさおうするなかに、むなかたはかせとこいけじょしゅのすがたがみえた。)

羽織袴の人々が右往左往する中に、宗像博士と小池助手の姿が見えた。

(ゆきこさんのほごをいらいされながらこのようなけっかとなったおわびごころに、)

雪子さんの保護を依頼されながらこのような結果となったお詫び心に、

(ふたりはしんせきちきにまじって、かそうばまでみおくりをするつもりなのだ。)

二人は親戚知己に混って、火葬場まで見送りをするつもりなのだ。

(こいけじょしゅはそのご、れいのあとらんちすのきかいなきゃくのそうさくをつづけていたが、)

小池助手はその後、例のアトランチスの奇怪な客の捜索をつづけていたが、

(きょうまでのところ、まだそのゆくえをつきとめることはできないのだ。)

今日までのところ、まだその行方をつきとめることは出来ないのだ。

(むなかたはかせは、あつまっているひとびとにしりあいもなく、てもちぶさたなままに、)

宗像博士は、集っている人々に知合いもなく、手持無沙汰なままに、

(きんぴかそうぎしゃのすぐうしろにたたずんで、みるともなくそのかんのんびらきのとびらを)

金ピカ葬儀車のすぐうしろに佇んで、見るともなくその観音開きの扉を

(ながめていたが、やがて、なにをみつけたのか、はかせのかおがにわかにきんちょうのいろを)

眺めていたが、やがて、何を見つけたのか、博士の顔が俄かに緊張の色を

(たたえ、そうぎしゃのとびらにかおをつけんばかりにせっきんして、そのくろぬりのひょうめんを)

たたえ、葬儀車の扉に顔を着けんばかりに接近して、その黒塗りの表面を

(ぎょうししはじめた。 「こいけくん、このうるしのひょうめんにはっきりひとつのしもんが)

凝視し始めた。 「小池君、この漆の表面にハッキリ一つの指紋が

(あらわれているんだよ。みたまえ、これだ。きみはどうおもうね」 はかせがささやくと、)

現われているんだよ。見たまえ、これだ。君はどう思うね」 博士が囁くと、

(こいけじょしゅは、ゆびさされたかしょをまじまじとみていたが、みるみるそのかおいろが)

小池助手は、指さされた箇所をまじまじと見ていたが、見る見るその顔色が

(かわっていった。 「せんせい、なんだかあれらしいじゃありませんか。うずまきがみっつ)

変って行った。 「先生、なんだかあれらしいじゃありませんか。渦巻が三つ

など

(あるようですぜ」 「ぼくにもそうみえるんだ。ひとつしらべてみよう」)

あるようですぜ」 「僕にもそう見えるんだ。一つ調べて見よう」

(はかせはもーにんぐのうちぽけっとから、つねにしんぺんをはなさぬたんていななつどうぐの)

博士はモーニングの内ポケットから、常に身辺を離さぬ探偵七つ道具の

(かわさっくをとりだし、そのなかのこがたかくだいきょうをひらいて、とびらのひょうめんにあてた。)

革サックを取出し、その中の小型拡大鏡を開いて、扉の表面に当てた。

(つやつやとしたくろうるしのひょうめんにうすじろくよどんでいるしもんがごばいほどにかくだいされて、)

艶々とした黒漆の表面に薄白く淀んでいる指紋が五倍程に拡大されて、

(のぞきこむふたりのめのまえにうきあがった。 「やっぱりそうだ。)

覗き込む二人の目の前に浮上った。 「やっぱりそうだ。

(くつべらのとまったくおなじです」 こいけじょしゅがおもわずこわだかにつぶやいた。)

靴箆のと全く同じです」 小池助手が思わず声高に呟いた。

(ああ、またしてもあのえたいのしれぬおばけのかおがあらわれたのだ。)

アア、又してもあのえたいの知れぬお化けの顔が現われたのだ。

(ふくしゅうきのしゅうねんは、どこまでもはなれようとはしないのだ。 「このかいそうしゃのなかに、)

復讐鬼の執念は、どこまでも離れようとはしないのだ。 「この会葬者の中に、

(あいつがまぎれこんでいるんじゃないでしょうか。なんだか、すぐしんぺんに)

あいつがまぎれ込んでいるんじゃないでしょうか。なんだか、すぐ身辺に

(あいつがいるようなきがしてしかたがありません」 こいけじょしゅはきょろきょろと、)

あいつがいるような気がして仕方がありません」 小池助手はキョロキョロと、

(あたりのひとぐんをみまわしながら、あおざめたかおでささやいた。 「そうかもしれない。)

あたりの人群を見廻しながら、青ざめた顔で囁いた。 「そうかも知れない。

(だが、あいつがこのなかにまじっているとしても、ぼくらにはとても)

だが、あいつがこの中に混っているとしても、僕等には迚も

(みわけられやしないよ。まさかあのめじるしになるくろめがねなんか)

見分けられやしないよ。まさかあの目印になる黒眼鏡なんか

(かけてはいないだろうからね。それに、このしもんは、くるまがここへくるまでに)

かけてはいないだろうからね。それに、この指紋は、車がここへ来るまでに

(ついたとかんがえるほうがしぜんだ。そうだとすると、とてもしらべはつきやしないよ。)

着いたと考える方が自然だ。そうだとすると、迚も調べはつきやしないよ。

(がいろでしんごうまちのていしゃをしているあいだに、じてんしゃのりのこぞうが、)

街路で信号待ちの停車をしている間に、自転車乗りの小僧が、

(うしろからてをふれることだって、たびたびあるだろうし、だれにも)

うしろから手を触れることだって、度々あるだろうし、誰にも

(みとがめられぬように、ここへしもんをつけることなど、わけはないんだからね」)

見とがめられぬように、ここへ指紋をつけることなど、訳はないんだからね」

(「そういえばそうですね。しかし、あいつなんのために、こんなところへ)

「そう云えばそうですね。しかし、あいつ何の為に、こんなところへ

(しもんをつけたんでしょう。まさかもういちどしたいをぬすみだそうというんじゃ)

指紋をつけたんでしょう。まさかもう一度死体を盗み出そうというんじゃ

(ないでしょうね」 「そんなことができるもんか。ぼくたちがこうして)

ないでしょうね」 「そんなことが出来るもんか。僕達がこうして

(みはっているじゃないか。そうじゃないよ。はんにんのもくてきは、ただぼくへのちょうせんさ。)

見張っているじゃないか。そうじゃないよ。犯人の目的は、ただ僕への挑戦さ。

(ぼくがそうぎしゃのとびらにめをつけるだろうとさっして、ぼくにみせつけるために、)

僕が葬儀車の扉に目をつけるだろうと察して、僕に見せつける為に、

(しもんをおしておいたのさ。なんてしばいけたっぷりなやつだろう」)

指紋を捺して置いたのさ。なんて芝居気たっぷりな奴だろう」

(むなかたはかせはこともなげにわらったが、あとになってかんがえてみると、はんにんのしんいは)

宗像博士は事もなげに笑ったが、あとになって考えて見ると、犯人の真意は

(かならずしもそんなたんじゅんなものではなかった。このそうぎしゃのしもんは、おなじひの)

必ずしもそんな単純なものではなかった。この葬儀車の指紋は、同じ日の

(ごごにおこるべき、あるきかいじのぶきみなぜんちょうをいみしていたのであった。)

午後に起るべき、ある奇怪事の不気味な前兆を意味していたのであった。

(それはさておき、とうじつのそうぎは、きわめてせいだいにとどこおりなくおこなわれていった。)

それはさて置き、当日の葬儀は、極めて盛大に滞りなく行われて行った。

(そうぎしゃとそれにしたがうみおくりのひとびとのじゅうすうだいのじどうしゃが、かわでていをしゅっぱつしたのが)

葬儀車とそれに従う見送りの人々の十数台の自動車が、川手邸を出発したのが

(ごごいちじ、でんきろによるかそう、こつあげとじゅんじょよくはこんで、ごごさんじには、)

午後一時、電気炉による火葬、骨上げと順序よく運んで、午後三時には、

(ゆきこさんのみたまは、もうこくべつしきかいじょうのaさいじょうにあんちされていた。)

雪子さんの御霊は、もう告別式会場のA斎場に安置されていた。

(じぎょうかいになをしられたかわでしのことゆえ、こくべつしきさんぱいしゃのかずもおびただしく、)

事業界に名を知られた川手氏のこと故、告別式参拝者の数も夥しく、

(よていのいちじかんではれいはいしきれないほどのこんざつであったが、さいじょうのないじんに)

予定の一時間では礼拝しきれない程の混雑であったが、斎場の内陣に

(せいれつして、さんぱいしゃたちにあいさつをかえしているかぞくやしんせききゅうちのひとびとのなかに、)

整列して、参拝者達に挨拶を返している家族や親戚旧知の人々の中に、

(ひときわさんぱいしゃのちゅういをひいたのは、さいあいのいもうとにしべつしてなみだもとめあえぬ)

一際参拝者の注意を惹いたのは、最愛の妹に死別して涙も止めあえぬ

(かわでたえこさんのかれんなすがたであった。 たえこさんはこじんとはひとつちがいのおねえさん、)

川手妙子さんの可憐な姿であった。 妙子さんは故人とは一つ違いのお姉さん、

(かわでしにとって、いまではたったひとりのあいじょうである。かおだちもゆきこさんに)

川手氏にとって、今ではたった一人の愛嬢である。顔立ちも雪子さんに

(そっくりのびじん、ぼうしから、くつしたから、なにからなにまでくろいっしょくのようそうで、)

そっくりの美人、帽子から、靴下から、何から何まで黒一色の洋装で、

(はんかちをめにあてながら、いまにもくずおれんばかりのすがたは、)

ハンカチを目に当てながら、今にもくずおれんばかりの姿は、

(さんぱいしゃたちのなみだをそそらないではおかなかった。)

参拝者達の涙をそそらないではおかなかった。

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