「悪魔の紋章」15 江戸川乱歩

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江戸川乱歩の小説「悪魔の紋章」のタイピングです。

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問題文

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(「ここにかくしぶたがあるんです。ほらね、これをひらけばなかはひろいはこのように)

「ここに隠し蓋があるんです。ホラネ、これを開けば中は広い箱のように

(なっています」 しーつをめくりあげて、べっどのそくめんをつよくおすと、)

なっています」 シーツをめくり上げて、ベッドの側面を強く圧すと、

(それはこうみょうなかくしどになっていて、はばいっしゃく、ながさいっけんほどの、)

それは巧妙な隠し戸になっていて、幅一尺、長さ一間程の、

(ほそながいくちがあいた。つまり、べっどのくっしょんのぶぶんを、)

細長い口が開いた。つまり、ベッドのクッションの部分を、

(じょうぶのさんぶんのいちほどの、うすいぶぶんにとどめて、そのかぶはぜんたいがひとつの)

上部の三分の一程の、薄い部分にとどめて、その下部は全体が一つの

(がんじょうなはこのようにつくられているのだ。むろんにんげんがひそんでいるためだ。)

頑丈な箱のように作られているのだ。無論人間が潜んでいるためだ。

(そのひろさはふたりのにんげんをかくすにじゅうぶんである。 「うまくつくりやがったな。)

その広さは二人の人間を隠すに十分である。 「巧く作りやがったな。

(そとからみたんでは、ふつうのべっどとちっともちがやしない」)

外から見たんでは、普通のベッドとちっとも違やしない」

(こいけじょしゅがかんしんしたようにさけんだ。 よくみれば、ふつうのべっどよりは、)

小池助手が感心したように叫んだ。 よく見れば、普通のベッドよりは、

(いくらかあつみがあるようであったが、しかし、そのそくめんにはふくざつなひだのある)

いくらか厚味があるようであったが、しかし、その側面には複雑な襞のある

(けおりもので、たくみにさっかくをおこさせるようなかむふらーじゅがほどこされ、)

毛織物で、巧みに錯覚を起させるようなカムフラージュが施され、

(ちょっとみたのではすこしもわからないようにできていた。 おそらく、ふくしゅうきは、)

一寸見たのでは少しも分らないように出来ていた。 恐らく、復讐鬼は、

(かぐやからはこばれるとちゅうで、べっどをよこどりして、あらかじめつくらせておいた)

家具屋から運ばれる途中で、ベッドを横取りして、予め造らせて置いた

(このにせものをもちこんだのにちがいない。 「すると、これがはこびこまれたときから、)

この偽物を持ち込んだのに違いない。 「すると、これが運び込まれた時から、

(あいつは、ちゃんとこのなかにかくれていたのでしょうか」)

あいつは、ちゃんとこの中に隠れていたのでしょうか」

(かわでしが、もうおどろくちからもつきはてたように、なげやりなちょうしでたずねる。)

川手氏が、もう驚く力も尽き果てたように、投げやりな調子で訊ねる。

(「そうかもしれません。あるいはあとからしのびこんだのかもしれません。)

「そうかも知れません。或はあとから忍び込んだのかも知れません。

(いずれにせよ、ゆうべは、はやくからこのなかにみをひそめていたにちがいありません。)

いずれにせよ、昨夜は、早くからこの中に身を潜めていたに違いありません。

(おじょうさんは、それともしらず、あくまといたいちまいをへだてて、)

お嬢さんは、それとも知らず、悪魔と板一枚を隔てて、

(ここへおやすみになったのです」 はかせはむじひないいかたをした。)

ここへお寝みになったのです」 博士は無慈悲な云い方をした。

など

(「そして、あいつはまよなかに、そこからしのびだし、あなたをあんなめに)

「そして、あいつは真夜中に、そこから忍び出し、あなたをあんな目に

(あわせたうえ、おじょうさんをこのはこのなかへおしこみ、じぶんもここへはいって、)

あわせた上、お嬢さんをこの箱の中へ押し込み、自分もここへ入って、

(にげだすじこくのくるのを、がまんづよくまっていたのです」)

逃げ出す時刻の来るのを、我慢強く待っていたのです」

(「では、けさになってから・・・・・・」 「そうです。ぼくたちはひじょうなしっさくを)

「では、今朝になってから・・・・・・」 「そうです。僕達は非常な失策を

(しました。まさかぞくとおじょうさんとが、このへやのなかにかくれているとは)

しました。まさか賊とお嬢さんとが、この部屋の中に隠れているとは

(おもわないものですから、ここはあけっぱなしにして、にわのそうさくなど)

思わないものですから、ここは開けっ放しにして、庭の捜索など

(やっていたのです。ぞくはそのあいだに、ろうかやげんかんにだれもいないおりをみすまして、)

やっていたのです。賊はその間に、廊下や玄関に誰もいない折を見すまして、

(おじょうさんをだいて、ここからにげだしたのにちがいありません」)

お嬢さんを抱いて、ここから逃げ出したのに違いありません」

(「しかし、にげだすといって、どこへですか。いっぽこのていをでれば、)

「しかし、逃げ出すと云って、どこへですか。一歩この邸を出れば、

(ひとどおりがあります。まさかあかるいまちを、おんなをだいてはしることはできますまい。)

人通りがあります。まさか明るい町を、女を抱いて走ることは出来ますまい。

(それに、けいじさんたちも、まだもんのそとにみはりをつづけていたんだし__」)

それに、刑事さん達も、まだ門の外に見張りをつづけていたんだし__」

(かわでしがふにおちぬていではんもんした。 「そうです。ぼくもそれをかんがえて)

川手氏が腑に落ちぬ体で反問した。 「そうです。僕もそれを考えて

(あんしんしていたのですが、ぞくのほうでは、このにじゅうのほういをだっしゅつする、)

安心していたのですが、賊のほうでは、この二重の包囲を脱出する、

(なにかおもいもよらぬけいりゃくがあったのかもしれません。いや、ひょっとすると、)

何か思いもよらぬ計略があったのかも知れません。イヤ、ひょっとすると、

(あいつは、まだていないのどこかにせんぷくしているんじゃないか。)

あいつは、まだ邸内のどこかに潜伏しているんじゃないか。

(よるをまつためにですね。しかし・・・・・・」 はかせもかくしんはないらしく)

夜を待つ為めにですね。しかし・・・・・・」 博士も確信はないらしく

(みえた。 「だが、たえこはどうしてすくいをもとめなかったのだ」)

見えた。 「だが、妙子はどうして救いを求めなかったのだ」

(かわでしははっとそこへきづいたらしく、まっさおになって、おびえきっためで)

川手氏はハッとそこへ気づいたらしく、真青になって、脅え切った目で

(むなかたはかせをみつめた。 「たえこはわしとおなじようにさるぐつわをはめられて)

宗像博士を見つめた。 「妙子はわしと同じように猿轡をはめられて

(いたのでしょうか。それとも・・・・・・」 「なんとももうせません。)

いたのでしょうか。それとも・・・・・・」 「何とも申せません。

(しかし、すくなくともむざんなきょうこうがえんじられなかったことはたしかですよ。)

しかし、少くとも無惨な兇行が演じられなかったことは確かですよ。

(どこにも、けっこんなどはみあたらないのですから。しかし、おじょうさんのせいしは)

どこにも、血痕などは見当らないのですから。しかし、お嬢さんの生死は

(ほしょうできません。ただごぶじをいのるばかりです」 はかせはしょうじきにいった。)

保証出来ません。ただ御無事を祈るばかりです」 博士は正直に云った。

(かわでしのものぐるわしいのうりを、たえこさんがぞくのためにこうさつされているこうけいや、)

川手氏の物狂わしい脳裏を、妙子さんが賊の為めに絞殺されている光景や、

(どくやくのちゅうしゃをされているありさまなどが、うかんではきえていった。)

毒薬の注射をされている有様などが、浮かんでは消えて行った。

(「もしていのなかにかくれているとすれば、もういちどそうさくしてくださる)

「若し邸の中に隠れているとすれば、もう一度捜索して下さる

(わけには・・・・・・」 「ぼくもそれをかんがえているのです。しかし、ねんのために、)

訳には・・・・・・」 「僕もそれを考えているのです。しかし、念の為めに、

(もんぜんにみはりをしているけいじに、よくたずねてみましょう。まだふたりだけ)

門前に見張りをしている刑事に、よく訊ねて見ましょう。まだ二人だけ

(しふくがいのこっているはずです」 そういうと、はかせはもうへやのそとへ)

私服が居残っている筈です」 そういうと、博士はもう部屋の外へ

(はしりだしていた。こいけじょしゅとかわでしとが、あわただしくそのあとにつづく。)

走り出していた。小池助手と川手氏とが、慌しくそのあとにつづく。

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