「悪魔の紋章」16 江戸川乱歩

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江戸川乱歩の小説「悪魔の紋章」のタイピングです。

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問題文

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(そうじにんぷ もんぜんにでてみると、せびろにとりうちぼうのめのするどいおとこが、)

掃除人夫 門前に出て見ると、背広に鳥打帽の目の鋭い男が、

(たばこをふかしながら、じろじろとまちのひとどおりをながめていた。)

煙草をふかしながら、ジロジロと町の人通りを眺めていた。

(「きみ、そのご、ふしんなじんぶつはでいりしなかったでしょうね。なにかおおきなにもつを)

「君、その後、不審な人物は出入りしなかったでしょうね。何か大きな荷物を

(もったやつが、ここからでたというようなことはなかったですか」)

持った奴が、ここから出たという様なことはなかったですか」

(はかせがいきなりたずねると、けいじはふいをうたれて、めをぱちぱちさせた。)

博士がいきなり訊ねると、刑事は不意を打たれて、目をパチパチさせた。

(このけいじは、そうちょうていないのだいそうさくがおわったあと、まんいちはんにんがていないにひそんでいて、)

この刑事は、早朝邸内の大捜索が終ったあと、万一犯人が邸内に潜んでいて、

(にげだすようなことがあってはと、ねんのためにみはりを)

逃げ出すようなことがあってはと、念の為めに見張りを

(めいぜられていたのだから、もしふしんのじんぶつがでいりすれば、)

命ぜられていたのだから、若し不審の人物が出入りすれば、

(みのがすはずはなかった。 「いいえ、だれもとおりませんでした。)

見逃す筈はなかった。 「イイエ、誰も通りませんでした。

(あなたがたのほかにはだれも」 けいじは、むなかたはかせがかれらのうわやくなかむらそうさかかりちょうの)

あなた方の外には誰も」 刑事は、宗像博士が彼等の上役中村捜査係長の

(ゆうじんであることを、よくしっていた。 「まちがいないでしょうね。ほんとうにだれも)

友人であることを、よく知っていた。 「間違いないでしょうね。本当に誰も

(とおらなかったのですか」 はかせはみょうにうたがいぶかくききかえす。)

通らなかったのですか」 博士は妙に疑い深く聞き返す。

(「けっしてまちがいありません。ぼくはそのためにみはりをしていたのです」)

「決して間違いありません。僕はその為めに見張りをしていたのです」

(けいじはすこしどきをふくんでこたえた。 「たとえばしんぶんはいたつとか、ゆうびんはいたつとか)

刑事は少し怒気を含んで答えた。 「例えば新聞配達とか、郵便配達とか

(いうようなものは?」 「え、なんですって?そういうれんちゅうまでうたがわなければ)

いうようなものは?」 「エ、何ですって?そういう連中まで疑わなければ

(ならないのですか。それは、ゆうびんはいたつも、しんぶんはいたつもとおりました。)

ならないのですか。それは、郵便配達も、新聞配達も通りました。

(しかし、はんにんがそういうものにへんそうしてにげだすことはできませんよ。)

しかし、犯人がそういうものに変装して逃げ出すことは出来ませんよ。

(かれらはみなそとからはいってきて、ようじをすませると、すぐでていったのですからね」)

彼等は皆外から入って来て、用事をすませると、すぐ出て行ったのですからね」

(「しかし、ねんのためにおもいだしてください。そのほかにそとからはいったものは)

「しかし、念の為めに思い出して下さい。その他に外から入ったものは

(なかったですか」 けいじは、なんというつまらないことをたずねるのだと)

なかったですか」 刑事は、何というつまらない事を訊ねるのだと

など

(いわんばかりに、じろじろとはかせをみあげみさげしていたが、)

云わんばかりに、ジロジロと博士を見上げ見下げしていたが、

(やがてなにごとかおもいだしたらしく、いきなりわらいだしながら、)

やがて何事か思い出したらしく、いきなり笑い出しながら、

(「おお、そういえば、まだありましたよ。ははははははは、そうじにんぷです。)

「オオ、そういえば、まだありましたよ。ハハハハハハハ、掃除人夫です。

(ごみぐるまをひっぱって、ごみばこのそうじにきましたよ。ははははははは、)

塵芥車を引っぱって、塵芥箱の掃除に来ましたよ。ハハハハハハハ、

(そうじにんぷのことまでもうしあげなければならないのですか」)

掃除人夫のことまで申上げなければならないのですか」

(「いや、たいへんさんこうになります」 はかせはけいじのやゆをきにもとめず、)

「イヤ、大変参考になります」 博士は刑事の揶揄を気にもとめず、

(きまじめなひょうじょうでこたえた。 「で、そのごみばこというのは、ここから)

生真面目な表情で答えた。 「で、その塵芥箱というのは、ここから

(みえるところにあるのですか」 「いや、ここからはみえません。そうじにんぷは)

見えるところにあるのですか」 「イヤ、ここからは見えません。掃除人夫は

(もんをはいってみぎのほうへまがっていきましたから、たぶんかってもとのちかくに)

門を入って右の方へ曲って行きましたから、多分勝手元の近くに

(おいてあるのでしょう」 「それじゃ、きみは、そこでそうじにんぷが)

置いてあるのでしょう」 「それじゃ、君は、そこで掃除人夫が

(なにをしていたか、すこしもしらないわけですね」 「ええ、しりません。)

何をしていたか、少しも知らない訳ですね」 「エエ、知りません。

(ぼくはそうじにんぷのかんとくはめいじられていませんからね」 けいじはひどく)

僕は掃除人夫の監督は命じられていませんからね」 刑事はひどく

(ふきげんであった。なにをつまらないことを、くどくどとたずねているのだと)

不機嫌であった。何をつまらないことを、クドクドと訊ねているのだと

(いわぬばかりである。ゆうべのてつやで、しんけいがいらだっているのだ。)

云わぬばかりである。昨夜の徹夜で、神経がいらだっているのだ。

(「で、そのにんぷは、ここからまたでていったのでしょうね」)

「で、その人夫は、ここから又出て行ったのでしょうね」

(はかせはがまんづよく、そうじにんぷのことにこだわっている。いったいごみぐるまと)

博士は我慢強く、掃除人夫のことにこだわっている。一体塵芥車と

(ゆうべのはんざいとに、どんなかんけいがあるというのだろう。 「むろんでていきました。)

昨夜の犯罪とに、どんな関係があるというのだろう。 「無論出て行きました。

(ごみをはこびだすのがしごとですからね」 「そのごみぐるまにはふたが)

塵芥を運び出すのが仕事ですからね」 「その塵芥車には蓋が

(してあったのですか」 「さあ、どうですかね。たぶんふたが)

してあったのですか」 「サア、どうですかね。多分蓋が

(してあったとおもいます」 「にんぷはひとりでしたか」)

してあったと思います」 「人夫は一人でしたか」

(「ふたりでした」 「どんなおとこでしたか。なにかとくちょうはなかったですか」)

「二人でした」 「どんな男でしたか。何か特徴はなかったですか」

(そこまでもんどうがすすむと、ぶっちょうづらでこたえていたけいじのかおに、ただならぬ)

そこまで問答が進むと、仏頂面で答えていた刑事の顔に、ただならぬ

(ふあんのいろがあらわれた。はかせがなぜこんなことを、ねほりはほりたずねるのか、)

不安の色が現われた。博士がなぜこんなことを、根掘り葉掘り訊ねるのか、

(そのいみがおぼろげにわかってきたのだ。かれはしばらくこくびをかしげて)

その意味がおぼろげに分って来たのだ。彼は暫らく小首をかしげて

(かんがえていたが、やがてそれをおもいだしたらしく、こんどはしんけんなちょうしでこたえた。)

考えていたが、やがてそれを思い出したらしく、今度は真剣な調子で答えた。

(「ひとりはひじょうにこがらな、こどもみたいなやつで、くろめがねをかけていました。)

「一人は非常に小柄な、子供みたいな奴で、黒眼鏡をかけていました。

(もうひとりは、ああ、そうだ、どっちかのめにしかくながーぜのがんたいをあてた)

もう一人は、アア、そうだ、どっちかの目に四角なガーゼの眼帯を当てた

(よんじゅうぐらいのおおおとこでした。ふたりともとりうちぼうをかぶって、うすよごれたしゃつに、)

四十ぐらいの大男でした。二人とも鳥打帽を冠って、薄汚れたシャツに、

(かーきいろのずぼんをはいていたとおもいます」 それをきくと、こいけじょしゅははっと)

カーキ色のズボンをはいていたと思います」 それを聞くと、小池助手はハッと

(かおいろをかえて、いまにもつかみかからんばかりのようすで、けいじをにらみつけたが、)

顔色を変えて、今にも掴みかからんばかりの様子で、刑事を睨みつけたが、

(むなかたはかせはべつにさわぐいろもなく、 「きみははんにんのとくちょうを、なかむらくんから)

宗像博士は別に騒ぐ色もなく、 「君は犯人の特徴を、中村くんから

(きいていなかったのですか」 とおだやかにたずねた。すると、けいじのほうが)

聞いていなかったのですか」 と穏やかに訊ねた。すると、刑事の方が

(まっさおになって、にわかにあわてだした。 「そ、それはきいていました。)

真青になって、俄かに慌て出した。 「そ、それは聞いていました。

(あとらんちす・かふぇへあらわれたやつは、くろめがねをかけた)

アトランチス・カフェへ現われた奴は、黒眼鏡をかけた

(こがらなおとこだったということは、きいていました。しかし・・・・・・」)

小柄な男だったということは、聞いていました。しかし・・・・・・」

(「それから、えいせいてんらんかいへろうにんぎょうをもちこんだおとこのふうていは?」)

「それから、衛生展覧会へ蝋人形を持込んだ男の風体は?」

(「そ、それも、いま、おもいだしました。ひだりのめにがんたいをあてたやつです」)

「そ、それも、今、思い出しました。左の目に眼帯を当てた奴です」

(「すると、ふたりのそうじにんぷははんにんとはんにんのあいぼうとにそっくりじゃありませんか」)

「すると、二人の掃除人夫は犯人と犯人の相棒とにソックリじゃありませんか」

(「しかし、しかし、まさかそうじにんぷがはんにんだなんて、・・・・・・)

「しかし、しかし、まさか掃除人夫が犯人だなんて、・・・・・・

(それに、あいつらはそとからはいってきたのです。ぼくはなかからにげだすやつばかり)

それに、あいつらは外から入って来たのです。僕は中から逃げ出す奴ばかり

(みはっていたものですから。・・・・・・ぐうぜんのいっちじゃないでしょうか」)

見張っていたものですから。・・・・・・偶然の一致じゃないでしょうか」

(けいじは、ひたすらじぶんのおちどにならないことをねがうのであった。)

刑事は、ひたすら自分の落度にならないことを願うのであった。

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