「悪魔の紋章」18 江戸川乱歩

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江戸川乱歩の小説「悪魔の紋章」のタイピングです。
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1 123 6174 A++ 6.4 96.3% 702.9 4513 173 67 2024/11/03

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問題文

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(おばけたいかい むなかたはかせが、ごみぐるまのとりっくをはっけんしたのがはちじさんじゅっぷんごろ、)

お化け大会 宗像博士が、塵芥車のトリックを発見したのが八時三十分頃、

(けいしちょうのなかむらそうさかかりちょうが、おくればせにかけつけたのが、それからまた)

警視庁の中村捜査係長が、おくればせに駈けつけたのが、それから又

(じゅっぷんほどもあとであった。 なかむらけいぶは、むなかたはかせからいさいをききとると、)

十分ほども後であった。 中村警部は、宗像博士から委細を聞き取ると、

(そうさてはいのために、すぐさまけいしちょうにひきかえしたが、あらためてぜんしのけいさつしょ、)

捜査手配のために、すぐさま警視庁に引返したが、あらためて全市の警察署、

(はしゅつしょ、こうばんなどに、はんにんたいほのしれいがとんだことはいうまでもない。)

派出署、交番などに、犯人逮捕の指令が飛んだことは云うまでもない。

(こんどははんにんときょうはんしゃのふうていもよくわかっているのだし、そのうえ、)

今度は犯人と共犯者の風体もよく分っているのだし、その上、

(ごみぐるまというおおきなおにもつがあるのだから、はっけんはよういである。)

塵芥車という大きなお荷物があるのだから、発見は容易である。

(だが、かれらがにげだしてからすでにいちじかん、なにしろまじゅつしのような)

だが、彼等が逃出してから既に一時間、何しろ魔術師のような

(すばやいやつのことだから、まさかいまごろまで、もとのそうじにんぷのすがたで)

素早い奴のことだから、まさか今頃まで、元の掃除人夫の姿で

(ごみぐるまをひっぱって、のろのろまちをあるいているはずはない。おそらくは、)

塵芥車を引っぱって、ノロノロ町を歩いている筈はない。恐らくは、

(じゃまなごみぐるまはどこかへすてて、ふうていをかえ、たえこさんをさらって、)

邪魔な塵芥車はどこかへ捨てて、風体を変え、妙子さんを攫って、

(すがたをくらましてしまったにちがいない。とすると、せっかくのひじょうしれいも)

姿をくらましてしまったに違いない。とすると、折角の非常指令も

(あとのまつりである。からっぽのごみぐるまでもはっけんするのがせきのやまであろう。)

あとの祭である。空っぽの塵芥車でも発見するのが関の山であろう。

(あんのじょう、それからさんじゅっぷんほどもすると、しゅじんをなぐさめるためにかわでていにいのこっていた)

案の定、それから三十分程もすると、主人を慰める為に川手邸に居残っていた

(むなかたはかせのところへ、けいしちょうのなかむらかかりちょうからでんわがあって、)

宗像博士のところへ、警視庁の中村係長から電話があって、

(ごみぐるまがはっけんされたというしらせである。 ばしょは、かわでていから)

塵芥車が発見されたという知らせである。 場所は、川手邸から

(さんちょうとははなれていない、じんじゃのもりのなかだという。ああ、なんということだ。)

三町とは離れていない、神社の森のなかだという。アア、何ということだ。

(ぞくはかわでていをでたかとおもうと、もうくるまをすててしまったのだ。)

賊は川手邸を出たかと思うと、もう車を捨ててしまったのだ。

(では、たえこさんは?まさかもりのなかへすてたわけではあるまい。)

では、妙子さんは?まさか森の中へ捨てた訳ではあるまい。

(いったいどうして、どこへはこびさったというのであろう。 はかせとこいけじょしゅとは、)

一体どうして、どこへ運び去ったというのであろう。 博士と小池助手とは、

など

(ともかくげんばへいってみることにした。 くるまをよぶまでもなく、おしえられたみちを、)

兎も角現場へ行って見ることにした。 車を呼ぶまでもなく、教えられた道を、

(はしるようにしてふたつみっつまがると、もうそこがじんじゃのもりであった。)

走るようにして二つ三つ曲ると、もうそこが神社の森であった。

(そのへんは、あざぶくないでも、しちゅうともおもわれぬばすえめいたかんじで、)

その辺は、麻布区内でも、市中とも思われぬ場末めいた感じで、

(ふきんにはひろいあきちなどもあり、こどもたちのあそびばしょになっている。)

附近には広い空地などもあり、子供達の遊び場所になっている。

(じんじゃのもりのなかへはいってみると、ごみぐるまはもうけいさつしょへ)

神社の森の中へ入って見ると、塵芥車はもう警察署へ

(はこびさられたということで、そのあとにめじるしのちいさなくいがたてられ、)

運び去られたということで、そのあとに目印の小さな杭が立てられ、

(そばにせいふくのわかいけいかんがたっていた。 はかせはめいしをだして、けいかんにはなしかけた。)

側に制服の若い警官が立っていた。 博士は名刺を出して、警官に話しかけた。

(「けいしちょうのなかむらけいぶからきいてやってきたのです。なかむらくんもじきあとから、)

「警視庁の中村警部から聞いてやって来たのです。中村君もじきあとから、

(ここへくるといっていました」 「あ、そうですか。おなまえはよく)

ここへ来ると云っていました」 「ア、そうですか。お名前はよく

(しょうちしております。こんどのじけんにはごかんけいになっているんだそうですね」)

承知して居ります。今度の事件には御関係になっているんだそうですね」

(わかいけいかんは、ゆうめいなみんかんたんていのかおを、まぶしそうにみて、ていねいなくちをきいた。)

若い警官は、有名な民間探偵の顔を、まぶしそうに見て、丁寧な口を利いた。

(「で、ごみぐるまのほかになにかはっけんはありませんでしたか」 「さいぜんから、ひととおり)

「で、塵芥車の外に何か発見はありませんでしたか」 「さい前から、一通り

(このもりのなかをそうさくしたのですが、まったくなんのてがかりもありません。)

この森の中を捜索したのですが、全く何の手掛りもありません。

(ごらんのとおりのいしころみちで、あしあとはありませんし、ひがいしゃをどこかへ)

ごらんの通りの石ころ道で、足跡はありませんし、被害者をどこかへ

(かくしたのではないかということですが、そういうようすもみえません。)

隠したのではないかということですが、そういう様子も見えません。

(せまいけいだいのことですから、つちをほったりすれば、すぐわかるはずですし、)

狭い境内のことですから、土を掘ったりすれば、すぐ分る筈ですし、

(しゃでんのなかやえんのしたなどもしらべたのですが、これというはっけんもありませんでした」)

社殿の中や縁の下なども調べたのですが、これという発見もありませんでした」

(「きみひとりでおしらべになったのですか」 「いいえ、しょのものがごにんほどで)

「君独りでお調べになったのですか」 「イイエ、署の者が五人程で

(てわけをして、しらべたのです」 「いや、ありがとう。ぼくはこのあたりをすこし)

手分けをして、調べたのです」 「イヤ、有難う。僕はこの辺を少し

(ぶらついてみますから、なかむらくんがこられたら、そうおつたえください」)

ぶらついて見ますから、中村君が来られたら、そうお伝え下さい」

(はかせはけいかんにあいさつをして、こいけじょしゅといっしょにじんじゃをでると、)

博士は警官に挨拶をして、小池助手と一緒に神社を出ると、

(どこというあてもなく、ぶらぶらとあるきだした。 「おや、こいけくん、)

どこという当てもなく、ブラブラと歩き出した。 「オヤ、小池君、

(あすこにみせものがでているようだね」 しばらくいくと、はかせがそれにきづいて、)

あすこに見世物が出ているようだね」 暫らく行くと、博士がそれに気附いて、

(じょしゅをかえりみた。 「ええ、そのようですね。のぼりがたっていますよ。)

助手を顧みた。 「エエ、そのようですね。のぼりが立っていますよ。

(ああ、おばけたいかいとかいてあります。れいのばけものやしきのみせものでしょう」)

アア、お化け大会と書いてあります。例の化物屋敷の見世物でしょう」

(「ほう、みょうなものがでているね。いってみようじゃないか。ばけものやしきなんて、)

「ホウ、妙なものが出ているね。行って見ようじゃないか。化物屋敷なんて、

(ずいぶんひさしぶりだ。とうきょうにもこんなみせものがかかるのかねえ」)

随分久し振りだ。東京にもこんな見世物がかかるのかねえ」

(「ちかごろなかなかりゅうこうしているんです。むかしはばけものやしきとかやわたのやぶしらずとか)

「近頃なかなか流行しているんです。昔は化物屋敷とか八幡の藪知らずとか

(いったようですが、このごろはおばけたいかいとかいしょうして、いろいろ)

云ったようですが、この頃はお化け大会と改称して、色々

(しんくふうをこらしているそうです」 はなしながらあるくうちに、ふたりはおおきな)

新工夫をこらしているそうです」 話しながら歩く内に、二人は大きな

(てんとばりのこやがけのまえにきていた。 こやのぜんめんは、はりこのいわぐみと、)

テント張りの小屋掛けの前に来ていた。 小屋の前面は、張り子の岩組みと、

(いちめんのたけやぶになっていて、そのあいだから、きつねごうしのつじどうなどがのぞいている。)

一面の竹藪になっていて、その間から、狐格子の辻堂などが覗いている。

(さもものすごいかざりつけである。じょうぶにはずらっとどくどくしいえかんばんがならび、)

さも物凄い飾りつけである。上部にはズラッと毒々しい絵看板が並び、

(それには、ありとあらゆるようかいへんげのすがたが、いまにもとびついてきそうに、)

それには、ありとあらゆる妖怪変化の姿が、今にも飛びついて来そうに、

(ものおそろしくえがいてある。 まえにはくろやまのひとだかりだ。そのぐんしゅうのあたまのうえに、)

物恐ろしく描いてある。 前には黒山の人だかりだ。その群衆の頭の上に、

(だいにのったきどばんのわかもののむねからうえがみえている。わかものはくちに)

台にのった木戸番の若者の胸から上が見えている。若者は口に

(めがふぉんをあてて、しわがれごえをふりしぼり、むちゅうになってきゃくよせのこうじょうを)

メガフォンを当てて、嗄声をふりしぼり、夢中になって客寄せの口上を

(どなっている。 だんだんちかづいてみると、きどのうえに、おおきなはりがみをして、)

呶鳴っている。 段々近づいて見ると、木戸の上に、大きな貼紙をして、

(へたなじで、なにかごたごたとかいてある。 だいけんしょう)

下手な字で、何かゴタゴタと書いてある。 大懸賞

(ほんおばけたいかいいりぐちよりでぐちまでぶじごつうかなされしおきゃくさまには、)

本お化け大会入口より出口まで無事御通過なされしお客様には、

(にゅうじょうりょうきんをぜんぶへんきゃくのうえ、しょうきんごえんをぞうていいたします。)

入場料金を全部返却の上、賞金五円を贈呈致します。

(「おや、へんなみせものだねえ。ごじゅっせんのにゅうじょうりょうで、ごえんのしょうきんを)

「オヤ、変な見世物だねえ。五十銭の入場料で、五円の賞金を

(だしていたんじゃ、こうぎょうぬしはそんばかりしていなけれゃなるまい」)

出していたんじゃ、興行主は損ばかりしていなけれゃなるまい」

(はかせがおもわずひとりごとのようにいうと、ぐんしゅうのなかのひとりのろうじんが、)

博士が思わず独言のように云うと、群衆の中の一人の老人が、

(それをききつけて、はなしかけた。 「それが、そうじゃねえんですよ。)

それを聞きつけて、話しかけた。 「それが、そうじゃねえんですよ。

(ざもとはまるもうけでさあ。ほら、ごらんなさい。いりぐちからああしてぞろぞろ)

座元は丸儲けでさあ。ホラ、ごらんなさい。入口からああしてゾロゾロ

(けんぶつがでてくるでしょう。みんなちゅうとでひきかえすんでさあ。)

見物が出て来るでしょう。みんな中途で引返すんでさあ。

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