「悪魔の紋章」19 江戸川乱歩

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江戸川乱歩の小説「悪魔の紋章」のタイピングです。

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問題文

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(あっしゃ、きのうからきをつけてみているんだが、ぶじにでぐちまでたどりついた)

あっしゃ、昨日から気をつけて見ているんだが、無事に出口まで辿りついた

(きゃくはひとりもねえ。よっぽどおっかないしかけがあるんですぜ。)

客は一人もねえ。よっぽどおっかない仕掛けがあるんですぜ。

(ちゅうとでひきかえしたひとのはなしじゃ、なかはやわたのやぶしらずで、どこをどうあるいていいか)

中途で引返した人の話じゃ、中は八幡の藪知らずで、どこをどう歩いていいか

(さっぱりけんとうがつかないうえに、まったくおもいもかけないところから、)

さっぱり見当がつかない上に、全く思いもかけないところから、

(ひょいひょいとおっそろしいばけものやゆうれいがとびだしてくる。)

ヒョイヒョイとおっそろしい化物や幽霊が飛び出してくる。

(いや、ばけものばかりならいいんだが、もっときみのわるいものがあるって)

イヤ、化物ばかりならいいんだが、もっと気味の悪いものがあるって

(いいますよ。しびとですよ。きしゃにひかれて、てあしがばらばらになって)

云いますよ。死人ですよ。汽車に轢かれて、手足がバラバラになって

(ころがっているんだとか、むねをえぐられて、くうをつかんで、くちからちを)

転がっているんだとか、胸を刔られて、空を掴んで、口から血を

(たらたらとながして、いまいきをひきとろうとしているんだとか、こわいよりも)

タラタラと流して、今息を引取ろうとしているんだとか、怖いよりも

(むねがわるくなって、とてもみちゃいられねえっていうんです」)

胸が悪くなって、迚も見ちゃいられねえっていうんです」

(えどっこらしいろうじんは、ひどくはなしずきとみえて、ききもしないのに、)

江戸っ子らしい老人は、ひどく話好きと見えて、聞きもしないのに、

(べらべらとしゃべるのだ。 「で、おじいさんはなかへはいってみないんですか」)

ベラベラと喋るのだ。 「で、お爺さんは中へ入って見ないんですか」

(こいけじょしゅがからかいがおにたずねると、ろうじんはかおのまえでてをふってみせた。)

小池助手がからかい顔に訊ねると、老人は顔の前で手を振って見せた。

(「ごめん、ごめん、ごかんもだしてむねのわるいおもいをするこたあねえからね。)

「御免、御免、五貫も出して胸の悪い思いをするこたあねえからね。

(なんなら、おまえさんかたごけんぶつなすっちゃどうだね」 すると、むなかたはかせは)

何なら、お前さん方御見物なすっちゃどうだね」 すると、宗像博士は

(なにをおもったのか、そのことばをひきとるように、 「どうだ、こいけくん、)

何を思ったのか、その言葉を引きとるように、 「どうだ、小池君、

(ひとつはいってみようじゃないか」 と、わらいもしないでいうのである。)

一つ入って見ようじゃないか」 と、笑いもしないで云うのである。

(「え、せんせいおはいりになるんですか」 はんにんのそうさくはどこへいったのだ。)

「エ、先生お入りになるんですか」 犯人の捜索はどこへ行ったのだ。

(それをすてておいて、こどもみたいにおばけのみせものをみたがるなんて、)

それを捨てて置いて、子供みたいにお化けの見世物を見たがるなんて、

(せんせいはどうかしたんじゃないかしら。こいけじょしゅはあっけにとられて、)

先生はどうかしたんじゃないかしら。小池助手はあっけに取られて、

など

(はかせのかおをまじまじとみつめた。 「すこしおもいついたことがあるんだよ。)

博士の顔をまじまじと見つめた。 「少し思いついたことがあるんだよ。

(・・・・・・まあ、だまってついてきたまえ」 はかせはそういったかとおもうと、)

・・・・・・マア、黙ってついて来たまえ」 博士はそう云ったかと思うと、

(ぐんしゅうをおしわけて、もうきどぐちのほうへあるきだしていた。)

群衆を押し分けて、もう木戸口の方へ歩き出していた。

(たちあがるがいこつ こいけじょしゅは、めいたんていともいわれるひとの、あまりのこどもらしさに、)

立上る骸骨 小池助手は、名探偵とも云われる人の、余りの子供らしさに、

(あっけにとられたが、ふときがつくと、それにはなにかわけがありそうであった。)

呆気にとられたが、ふと気がつくと、それには何か訳がありそうであった。

(はかせはひじょうにじっさいてきなきそくただしいせいかくで、いみもなくみせものなんかへ)

博士は非常に実際的な規則正しい性格で、意味もなく見世物なんかへ

(はいるひとではなかった。 「もしかすると、せんせいはこのばけものやしきのなかで、)

入る人ではなかった。 「若しかすると、先生はこの化物屋敷の中で、

(たえこさんをさがそうというのではないかしら」 このそうぞうが、こいけじょしゅを)

妙子さんを探そうというのではないかしら」 この想像が、小池助手を

(ぎょっとさせた。みせびらかすことのすきな、しばいがかりのさつじんきのことだ。)

ギョッとさせた。見せびらかすことの好きな、芝居がかりの殺人鬼のことだ。

(あるいはこのそうぞうがあたっているかもしれない。たえこさんをはこんだごみぐるまは)

或はこの想像が当っているかも知れない。妙子さんを運んだ塵芥車は

(すぐきんじょのじんじゃのけいだいに、からっぽにしてすててあったのだ。)

すぐ近所の神社の境内に、空っぽにして捨ててあったのだ。

(まだうすぐらいそうちょうとはいえ、まさかわかいおんなをだいてとおくまでにげることは)

まだ薄暗い早朝とは云え、まさか若い女を抱いて遠くまで逃げることは

(できまい、どちらのほうがくもまちつづきだから、やがてはげしくなるひとどおりのなかを、)

出来まい、どちらの方角も町続きだから、やがてはげしくなる人通りの中を、

(あやしまれないでにげおおせるものではない。というふうにかんがえてくると、)

怪しまれないで逃げおおせるものではない。という風に考えて来ると、

(いかにとっぴにみえようとも、はかせのそうぞうは、どうやらあたっているらしくも)

いかに突飛に見えようとも、博士の想像は、どうやら当っているらしくも

(おもわれる。 はかせがきどへちかづいてにゅうじょうりょうをはらうと、きどばんのわかものは)

思われる。 博士が木戸へ近づいて入場料を払うと、木戸番の若者は

(みょうなわらいがおでちゅういをあたえた。 「なかでかみふだをにどわたしますからね。)

妙な笑い顔で注意を与えた。 「中で紙札を二度渡しますからね。

(でぐちでかえしてください。それがぶじにとおりぬけたというしょうこになるのですよ。)

出口で返して下さい。それが無事に通り抜けたという証拠になるのですよ。

(にまいそろってなくちゃいけませんよ」 ふたりはそれをききながして)

二枚揃ってなくちゃいけませんよ」 二人はそれを聞き流して

(きどをはいっていった。てんとばりとはいえ、てんじょうはすっかりあついくろぬので)

木戸を入って行った。テント張りとは云え、天井はすっかり厚い黒布で

(おおってあるので、いっぽじょうないにはいると、よるもどうぜんのくらさであった。)

蔽ってあるので、一歩場内に入ると、夜も同然の暗さであった。

(そのうすぐらいなかに、みとおしもきかぬたけやぶのめいろがつづいているのだ。)

その薄暗い中に、見通しも利かぬ竹藪の迷路が続いているのだ。

(あるいはみぎにあるいはひだりに、あるいはゆきあるいはもどり、やっとひとひとりとおれるほどのほそみちが、)

或は右に或は左に、或は行き或は戻り、やっと人一人通れる程の細道が、

(なんちょうとなくつづいている。ぜんたいのめんせきはさほどではなくても、)

何町となくつづいている。全体の面積はさほどではなくても、

(ゆきつもどりつのみちのながさはおどろくばかりである。 みちがわかれているかしょにでると、)

往きつ戻りつの道の長さは驚くばかりである。 道が分れている箇所に出ると、

(こいけじょしゅはどちらをえらぼうかとまよった。もしまちがったみちに)

小池助手はどちらを選ぼうかと迷った。若し間違った道に

(はいりこんでしまったら、いつまでもどうどうめぐりをするばかりで、)

入り込んでしまったら、いつまでもどうどう廻りをするばかりで、

(はてしがないからである。 「きみ、めいろのあるきかたをしっているかい。それはね、)

果しがないからである。 「君、迷路の歩き方を知っているかい。それはね、

(みぎならみぎのてを、やぶのかきからはなさないで、どこまでもあるいていくんだ。)

右なら右の手を、藪の垣から話さないで、どこまでも歩いて行くんだ。

(そうすると、たとえむだなふくろこうじへはいっても、にどとおなじまちがいを)

そうすると、仮令無駄な袋小路へ入っても、二度と同じ間違いを

(くりかえすことがない。でたらめにあるくよりも、けっきょくはずっとはやくでられるのだよ」)

繰り返すことがない。出鱈目に歩くよりも、結局はずっと早く出られるのだよ」

(はかせはせつめいしながら、みぎてでたけやぶをつたって、さきにたって、)

博士は説明しながら、右手で竹藪を伝って、先に立って、

(ぐんぐんとあるいていく。こいけじょしゅは、なるほどそういうものかなあとおもいながら、)

グングンと歩いて行く。小池助手は、成程そういうものかなあと思いながら、

(そのあとをおうのである。 ながいたけやぶのあいだあいだには、ありとあらゆるちみもうりょうが、)

そのあとを追うのである。 長い竹藪の間々には、ありとあらゆる魑魅魍魎が、

(ほのかなかくしでんとうのひかりをうけて、あるいはよこたわり、あるいはたたずみ、あるいはうずくまり、)

ほのかな隠し電燈の光を受けて、或は横わり、或は佇み、或は蹲まり、

(あるいはそらからぶらさがっていた。あるものはからくりじかけで、)

或は空からぶら下がっていた。あるものはからくり仕掛けで、

(ゆっくりとうごいていた。こいけになぞらえたみずたまりのなかから、やせほそったてが)

ゆっくりと動いていた。小池になぞらえた水溜の中から、痩せ細った手が

(にゅーっとでて、それからじょじょに、おいわのようにかためのつぶれた)

ニューッと出て、それから徐々に、お岩のように片目のつぶれた

(おんなのゆうれいがあらわれ、みていると、そのまんまるにとびだしためから、)

女の幽霊が現われ、見ていると、そのまんまるに飛び出した目から、

(たらたらとまっかなちが、とめどもなくながれだすという、ねんのはいった)

タラタラと真赤な血が、とめどもなく流れ出すという、念の入った

(しかけもあった。 あるときはまた、けんぶつはやみのつうろで、なにかしらぐにゃぐにゃした)

仕掛けもあった。 或時はまた、見物は闇の通路で、何かしらグニャグニャした

(おおきなものをふんづけるのである。ぎょっとしてめをこらすと、)

大きなものを踏んづけるのである。ギョッとして目をこらすと、

(なにともけいようのできない、ねずみいろのいやらしいものがちじょうによこたわっているのだ。)

何とも形容の出来ない、鼠色のいやらしいものが地上に横わっているのだ。

(どうやらかおらしいぶぶんや、てあしらしいぶぶんがみえるけれど、むろんにんげんではない。)

どうやら顔らしい部分や、手足らしい部分が見えるけれど、無論人間ではない。

(といってどうぶつでもない。なにかしら、ぞーっとするような、)

と云って動物でもない。何かしら、ゾーッとするような、

(えたいのしれぬぶったいなのだ。)

えたいの知れぬ物体なのだ。

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