「悪魔の紋章」20 江戸川乱歩

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江戸川乱歩の小説「悪魔の紋章」のタイピングです。
順位 名前 スコア 称号 打鍵/秒 正誤率 時間(秒) 打鍵数 ミス 問題 日付
1 123 6433 S 6.5 97.9% 708.2 4651 95 73 2024/11/13

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問題文

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(あるばしょでは、しんにせまったくびつりおんなが、けんぶつのあたまのうえから、)

ある場所では、真に迫った首吊り女が、見物の頭の上から、

(すーっとそのかたにおぶさって、りょうてでしがみつき、いやなこえで)

スーッとその肩に負ぶさって、両手でしがみつき、いやな声で

(わらいだすしかけもあった。 だが、それらのにんぎょうが、どれほどたくみに、)

笑い出す仕掛けもあった。 だが、それらの人形が、どれほど巧みに、

(いやらしくできていたとしても、くっきょうのおとこをはしらせるほどのきょうふは)

いやらしく出来ていたとしても、屈強の男を走らせる程の恐怖は

(かんじられなかった。よくみているとこっけいでこそあれ、こころからこわいというような)

感じられなかった。よく見ていると滑稽でこそあれ、心から怖いというような

(ものではなかった。 「せんせい、つまらないじゃありませんか。)

ものではなかった。 「先生、つまらないじゃありませんか。

(ちっともこわくなんかありゃしない。どうしてこんなものをみて)

ちっとも怖くなんかありゃしない。どうしてこんなものを見て

(にげだすんでしょうね」 「まあ、おわりまでみなければわからないよ。)

逃げ出すんでしょうね」 「マア、終りまで見なければ分らないよ。

(それにぼくたちはただなぐさみにはいってきたんじゃない。だいじなさがしものがあるんだ。)

それに僕達はただ慰みに入って来たんじゃない。大事な探しものがあるんだ。

(にんぎょうひとつでもみのがすわけにはいかないよ」 ふたりはそんなことを)

人形一つでも見逃す訳には行かないよ」 二人はそんなことを

(こごえにいいかわしながら、おばけやゆうれいにでくわすとは、たちどまりたちどまり、)

低声に云い交しながら、お化けや幽霊に出くわすとは、立止り立止り、

(あるいているうちに、やがてたけやぶのめいろをぬけて、くろいたべいのようなものに)

歩いている内に、やがて竹藪の迷路を抜けて、黒板塀のようなものに

(つきあたった。 「おや、またふくろこうじかな。いやいや、そうじゃない。)

突き当った。 「オヤ、また袋小路かな。イヤイヤ、そうじゃない。

(ここにちいさなくぐりどがある。あけておはいりくださいと、はりがみがしてある」)

ここに小さな潜り戸がある。開けてお入りくださいと、貼り紙がしてある」

(いかにも、くろいたべいのうえに、ひどくへたなじのはりがみがみえる。)

如何にも、黒板塀の上に、ひどく下手な字の貼り紙が見える。

(「きみ、すこしすごくなってきたじゃないか。まっくらななかでとをあけてはいるというのは、)

「君、少し凄くなって来たじゃないか。真暗な中で戸を開けて入るというのは、

(なんだかきみのわるいものだね」 「そうですね。ひとりきりだったら、)

何だか気味の悪いものだね」 「そうですね。一人きりだったら、

(ちょっといやなきもちがするかもしれませんね」 しかし、ふたりはまだこころのなかでは)

一寸いやな気持がするかも知れませんね」 しかし、二人はまだ心の中では

(くすくすわらっていた。なんてこけおどしなまねをするんだろうと、)

クスクス笑っていた。なんてこけおどしな真似をするんだろうと、

(おかしくてしかたがなかった。 はかせをさきに、ふたりはとをひらいてなかにはいった。)

おかしくて仕方がなかった。 博士を先に、二人は戸を開いて中に入った。

など

(だが、そこにはべつにおそろしいものがいるわけではなく、ただあやめもわかぬ)

だが、そこには別に恐ろしいものがいる訳ではなく、ただ文目もわかぬ

(やみがあるばかりであった。てんじょうもさゆうのかべも、いたをかさねたうえにくろぬのが)

闇があるばかりであった。天井も左右の壁も、板を重ねた上に黒布が

(はってあるらしく、はりのさきほどのひかりもささぬにょほうあんやである。)

張ってあるらしく、針の先程の光もささぬ如法暗夜である。

(めのまえになにかむらむらとけむりのようなものがうごいたり、ねおん・さいんのように)

目の前に何かムラムラと煙のようなものが動いたり、ネオン・サインのように

(あざやかなあおやあかのわがあらわれたりきえたりした。つくりもののばけものなどよりは、)

鮮かな青や赤の環が現われたり消えたりした。造りものの化物などよりは、

(このもうまくのいたずらのほうが、かえってぶきみなほどであった。)

この網膜のいたずらの方が、却って不気味な程であった。

(「こりゃくらいですね。あるけやしない」 ふたりはてをかべにあてて、あしでじめんを)

「こりゃ暗いですね。歩けやしない」 二人は手を壁に当てて、足で地面を

(さぐりながらあるいていった。 「むかしぱのらまというみせものがあってね、)

さぐりながらあるいて行った。 「昔パノラマという見世物があってね、

(そのぱのらまへはいるつうろが、やっぱりこんなだったよ。このやみが、つまり)

そのパノラマへ入る通路が、やっぱりこんなだったよ。この闇が、つまり

(げんじつせかいとのえんをたつしかけなんだ。そうしておいて、まったくべつのゆめのせかいを)

現実世界との縁を立つ仕掛けなんだ。そうして置いて、全く別の夢の世界を

(みせようというのだね。ぱのらまのはつめいしゃは、うまくにんげんのしんりを)

見せようというのだね。パノラマの発明者は、うまく人間の心理を

(つかんでいた」 てさぐりでごけんほどもすすむと、ひだりがわのやみに、なにかしろいものが)

掴んでいた」 手探りで五間程も進むと、左側の闇に、何か白いものが

(かんじられた。やっぱりもうまくのいたずらかとうたがったが、)

感じられた。やっぱり網膜のいたずらかと疑ったが、

(どうもそうではないらしい。なにかがうずくまっているのだ。 「なあんだ。)

どうもそうではないらしい。何かが蹲まっているのだ。 「ナアンだ。

(がいこつですよ。がいこつがあぐらをかいているんですよ」 こいけはそのそばにちかづいて、)

骸骨ですよ。骸骨が胡坐をかいているんですよ」 小池はその側に近づいて、

(こっかくにさわってみた。えではない。にんげんがぬいぐるみをきているのでもない。)

骨格に触って見た。絵ではない。人間が縫包を着ているのでもない。

(ほんもののこっかくもけいである。 なにもみえぬこくあんあんのなかに、このよのたったひとつの)

本物の骨格模型である。 何も見えぬ黒暗々の中に、この世のたった一つの

(いきもののように、しろいほねがうきあがって、ぽつんとあぐらをかいているありさまは、)

生きもののように、白い骨が浮き上って、ポツンと胡坐をかいている有様は、

(こわいというよりも、いようになぞめいてぶきみであった。 だが、ふたりがたちどまって)

怖いというよりも、異様に謎めいて不気味であった。 だが、二人が立止って

(みているうちに、みょうなことがおこった。がいこつがすーっとたちあがったのである。)

見ているうちに、妙なことが起った。骸骨がスーッと立上ったのである。

(そして、いきなりみぎてをふたりのほうへつきだした。そのてにかみのたばを)

そして、いきなり右手を二人の方へ突き出した。その手に紙の束を

(もっているのが、どうやらみわけられた。 とどうじに、がいこつのくちが)

持っているのが、どうやら見分けられた。 と同時に、骸骨の口が

(ぱっくりとひらいて、かちかちとはをかみあわした。 みょうなしわがれごえで)

パックリと開いて、カチカチと歯を噛み合した。 妙な嗄れ声で

(わらっているのだ。どこかにらうど・すぴーかーがあって、とおくから)

笑っているのだ。どこかにラウド・スピーカーがあって、遠くから

(こえをきかせているのにちがいない。 それがきどばんのいった)

声を聞かせているのに違いない。 それが木戸番の云った

(しょうこのかみふだであることは、すぐにわかったが、きのよわいものは、こくあんあんのなかで、)

証拠の紙札であることは、すぐに分ったが、気の弱いものは、黒暗々の中で、

(がいこつのてからそれをうけとるゆうきがなくて、にげだしてしまうかもしれない。)

骸骨の手からそれを受取る勇気がなくて、逃げ出してしまうかも知れない。

(いわばこれがだいいちのせきしょであった。 はかせとこいけじょしゅとは、むろん)

謂わばこれが第一の関所であった。 博士と小池助手とは、無論

(こわがるようなことはなく、いちまいずつそれをうけとって、さらにぜんぽうへの)

怖がるようなことはなく、一枚ずつそれを受け取って、さらに前方への

(てさぐりあしさぐりをはじめた。 それからすこしいくとしょうめんのかべにつきあたった。)

手さぐり足さぐりをはじめた。 それから少し行くと正面の壁に突き当った。

(みぎにもひだりにもみちはない。いきどまりになっているのだ。)

右にも左にも道はない。行き止りになっているのだ。

(「へんだね、あとへもどるのかしら」 「そのへんに、またとが)

「変だね、あとへ戻るのかしら」 「その辺に、又戸が

(あるんじゃないでしょうか。やっぱりくろいいたべいのようじゃありませんか」)

あるんじゃないでしょうか。やっぱり黒い板塀のようじゃありませんか」

(「そうかもしれない」 はかせはしょうめんのいたをしきりとなでまわしていたが、)

「そうかも知れない」 博士は正面の板をしきりとなで廻していたが、

(まもなく、 「ああ、あった、あった。どあになっているんだよ。)

間もなく、 「アア、あった、あった。ドアになっているんだよ。

(おせばあくんだ」 とつぶやきながら、そのどあをおしてなかへはいっていった。)

押せば開くんだ」 と呟きながら、そのドアを押して中へ入って行った。

(そのひょうしに、なにかしらまぐねしゅうむでもたいたような、ぎらぎらしたこうせんが、)

その拍子に、何かしらマグネシュウムでも焚いたような、ギラギラした光線が、

(ぱっとこいけじょしゅのめをくらませたが、それもいっしゅんで、)

パッと小池助手の目をくらませたが、それも一瞬で、

(どあはばねじかけのように、かれのはなさきにぴったりとざされてしまった。)

ドアはバネ仕掛けのように、彼の鼻先にピッタリ閉されてしまった。

(はかせをおってなかへはいろうと、おしこころみたが、どうしたことか、)

博士を追って中へ入ろうと、押しこころみたが、どうしたことか、

(どあはだれかがおさえてでもいるように、びくともうごかない。 「せんせい、とが)

ドアは誰かがおさえてでもいるように、びくとも動かない。 「先生、戸が

(あかなくなってしまいました。そちらからあきませんか」 そのこえがどあを)

開かなくなってしまいました。そちらから開きませんか」 その声がドアを

(もれてかすかにきこえてきたが、はかせのほうではそれどころではなかった。まっくらやみから)

漏れて幽かに聞えて来たが、博士の方ではそれどころではなかった。真暗闇から

(とつぜんたいようのようなひかりのなかへほうりだされて、くらくらとめまいがしそうに)

突然太陽のような光の中へ放り出されて、クラクラと目眩がしそうに

(なっていたのだ。 なにかしらぎらぎらとめをいる、ひじょうなあかるさであった。)

なっていたのだ。 何かしらギラギラと目を射る、非常な明るさであった。

(しばらくはやみとひかりとのてんかんのあまりのはげしさに、もうまくがまひしたようになって、)

暫らくは闇と光との転換の余りの激しさに、網膜が麻痺したようになって、

(なにがなんだかすこしもわからなかったが、もやがうすれていくように、めのまえの)

何が何だか少しも分らなかったが、靄が薄れて行くように、目の前の

(ぎらぎらしたごこうみたいなものがきえていくと、そのむこうに、めをおおきく)

ギラギラした後光みたいなものが消えて行くと、その向うに、目を大きく

(みひらいて、くちをあけ、だらしのないかっこうでたっているひとりのおとこがあらわれてきた。)

見開いて、口を開け、だらしのない格好で立っている一人の男が現われて来た。

(「おやっ、あれはおれじゃないか」 ぎょっとしてみなおすと、そのおとこはもう)

「オヤッ、あれは俺じゃないか」 ギョッとして見直すと、その男はもう

(よそゆきのとりすましたかおになっていたが、めがねといい、くちひげといい、)

他所行きの取りすました顔になっていたが、眼鏡といい、口髭といい、

(さんかくのあごひげといい、もーにんぐといい、むなかたはかせじしんと)

三角の顎髭といい、モーニングといい、宗像博士自身と

(いちぶいちりんも、ちがわないおとこであった。)

一分一厘も、違わない男であった。

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