「悪魔の紋章」22 江戸川乱歩

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江戸川乱歩の小説「悪魔の紋章」のタイピングです。
順位 名前 スコア 称号 打鍵/秒 正誤率 時間(秒) 打鍵数 ミス 問題 日付
1 123 6264 S 6.4 97.0% 645.9 4175 129 64 2024/11/13

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問題文

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(さいぜんどあがすばやくしまったのにはりゆうがあったのだ。あのどあには、)

さい前ドアが素早く閉まったのには理由があったのだ。あのドアには、

(ひとりだけなかにはいると、あとからけんぶつがはいらぬよう、あるじかん、おしてもひいても)

一人だけ中に入ると、あとから見物が入らぬよう、ある時間、押しても引いても

(あかなくなってしまうしかけがしてあるのだ。そして、ひとりぼっちで)

開かなくなってしまう仕掛けがしてあるのだ。そして、一人ぼっちで

(このまのへやのきょうふをあじわわせようというわけなのだ。 「こいけくん、こいつは)

この魔の部屋の恐怖を味わせようという訳なのだ。 「小池君、こいつは

(きみがわるいよ。かがみのへやなんだ。それにでぐちがどこにあるんだかわからない。)

気味が悪いよ。鏡の部屋なんだ。それに出口がどこにあるんだか分らない。

(そのどあをもういちどおしてごらん」 はかせはそとのやみのなかにいるこいけじょしゅに、)

そのドアをもう一度押してごらん」 博士は外の闇の中にいる小池助手に、

(おおごえによびかけた。 「どうしてもあかないんです。さっきから)

大声に呼びかけた。 「どうしても開かないんです。さっきから

(おしつづけているんですけれど」 「こいけくん、きみここへはいっても)

押しつづけているんですけれど」 「小池君、君ここへ入っても

(おどろいちゃいけないよ。ぼくはなにもしらずにとびこんだものだから、)

驚いちゃいけないよ。僕は何も知らずに飛び込んだものだから、

(ひどくめんくらってしまった。どこもかもかがみばかりなんだ。このへやには)

ひどく面喰ってしまった。どこもかも鏡ばかりなんだ。この部屋には

(ぼくとおなじやつがせんにんいじょうもうようよしているんだぜ。そして、ぼくとおなじように、)

僕と同じ奴が千人以上もウヨウヨしているんだぜ。そして、僕と同じように、

(いまものをいっているんだ。はははははははは、ああ、ぼくがわらうと、)

今物を云っているんだ。ハハハハハハハハ、アア、僕が笑うと、

(やつらもくちをひらいてわらうんだ」 「へえ、きみがわるいですね。そして、でぐちが)

奴らも口を開いて笑うんだ」 「ヘエ、気味が悪いですね。そして、出口が

(わからないのですか。このとはどっかくるったのじゃないでしょうか。)

分らないのですか。この戸はどっか狂ったのじゃないでしょうか。

(いりぐちへもどって、ひとをよんできましょうか」 「あっ、あいた。あいた。)

入口へ戻って、人を呼んで来ましょうか」 「アッ、開いた。開いた。

(きみ、やっとかがみのかべがくちをひらいたよ。じゃぼくはさきにでてまっているからね」)

君、やっと鏡の壁が口を開いたよ。じゃ僕は先に出て待っているからね」

(いかにも、ろっかくけいのひとつのめんが、きかいしかけでくるっとかいてんして、)

如何にも、六角形の一つの面が、機械仕掛でクルッと廻転して、

(ひとひとりとおりぬけられるほどのすきまができた。そのむこうがわはれいによって、)

人一人通り抜けられる程の隙間が出来た。その向う側は例によって、

(こくあんあんのやみである。 はかせはそこをでようとして、ちゅうちょした。もしこいけじょしゅが)

黒暗々の闇である。 博士はそこを出ようとして、躊躇した。若し小池助手が

(はいってきたら、こんなぶきみなへやへひとりのこしておかないで、いっしょにむこうへ)

入って来たら、こんな不気味な部屋へ一人残して置かないで、一緒に向うへ

など

(でようとかんがえたからである。 しかし、ばけものやしきのこうあんしゃは、)

出ようと考えたからである。 しかし、化物屋敷の考案者は、

(そこにぬかりがなかった。 「ぼくのほうはあきませんよ。どうしたんだろう」)

そこに抜かりがなかった。 「僕の方は開きませんよ。どうしたんだろう」

(こいけじょしゅがいりぐちのどあを、そとからどんどんとたたくおとがした。しかし、いっかな)

小池助手が入口のドアを、外からドンドンと叩く音がした。しかし、いっかな

(あきはしないのである。 しかたがないので、はかせはさきにかがみのへやをでて、)

開きはしないのである。 仕方がないので、博士は先に鏡の部屋を出て、

(そとのくらやみにはいったが、すると、いままであいていたすきまが、)

外の暗闇に入ったが、すると、今まで開いていた隙間が、

(かたんというおとをたて、しぜんにふさがされてしまった。そして、ほとんどそれと)

カタンという音を立て、自然に塞がされてしまった。そして、殆んどそれと

(どうじに、へやのなかからかすかなこいけじょしゅのこえがきこえてきた。)

同時に、部屋の中から幽かな小池助手の声が聞えて来た。

(「せんせい、どこにいらっしゃるのです。あきましたよ。どあがあきましたよ」)

「先生、どこにいらっしゃるのです。開きましたよ。ドアが開きましたよ」

(「でぐちはここだ。しかし、しぜんにひらくのをまつほかはないのだ。しかたがない、)

「出口はここだ。しかし、自然に開くのを待つ外はないのだ。仕方がない、

(しばらくそこにがまんしていたまえ」 はかせはいまでたあたりのかべをこつこつと)

暫くそこに我慢していたまえ」 博士は今出たあたりの壁をコツコツと

(たたいてきかせながら、おおごえにどなるのであった。)

叩いて聞かせながら、大声に呶鳴るのであった。

(れきししゃのくび やみのなかにたたずんでしばらくまっていると、やっとめのまえのかべがあいて、)

轢死者の首 闇の中に佇んで暫らく待っていると、やっと目の前の壁が開いて、

(こいけじょしゅがふらふらとにげだしてきた。 「おどろきました。)

小池助手がフラフラと逃げ出して来た。 「驚きました。

(じつにいやなきもちですね。ぼくははんぶんはめをつむってましたよ。)

実にいやな気持ですね。僕は半分は目をつむってましたよ。

(そうでないと、いまにもきがへんになるようなきがして」 「なるほど。これじゃ、)

そうでないと、今にも気が変になるような気がして」 「なる程。これじゃ、

(みんながにげてかえるはずだ。すすめばすすむほど、ものすごくなるんだからね」)

みんなが逃げて帰る筈だ。進めば進む程、物凄くなるんだからね」

(ふたりはぼそぼそとささやきかわしながら、またしてもかべづたいにやみのなかをあるきだした。)

二人はボソボソと囁き交しながら、またしても壁伝いに闇の中を歩きだした。

(しんのやみというものは、ひとのこえをひくくするものである。そこにただようなにかしら)

真の闇というものは、人の声を低くするものである。そこに漂う何かしら

(いんびなかたまりがたかばなしをおさえつけて、ささやきごえにしてしまうものである。)

隠微な塊が高話を抑えつけて、囁き声にしてしまうものである。

(「どうです?すこしおどろいたでしょう。だが、これはまだほんのじょのくちですよ。)

「どうです?少し驚いたでしょう。だが、これはまだホンの序の口ですよ。

(ほんとうにこわいのはこれからです。ひきかえしたほうがおためですぜ。)

本当に怖いのはこれからです。引返した方がおためですぜ。

(きぜつなんかされちゃこまりますからね」 やみのなかからひくいしわがれごえがひびいてきた。)

気絶なんかされちゃ困りますからね」 闇の中から低い嗄れ声が響いて来た。

(おそらくはがいこつのばあいとおなじように、どこかにらうど・すぴーかーがあって、)

恐らくは骸骨の場合と同じように、どこかにラウド・スピーカーがあって、

(だれかがとおくからしゃべっているのであろうが、やみのなかだけに、ついはなのさきに)

誰かが遠くから喋っているのであろうが、闇の中だけに、つい鼻の先に

(まっくろなやつがうずくまってでもいるようなきがして、ふたりはおもわずたちどまった。)

真黒な奴が踞まってでもいるような気がして、二人は思わず立止った。

(「はははははは、ひどくおどかすねえ。それに、かえれかえれっていうのは、)

「ハハハハハハ、ひどくおどかすねえ。それに、帰れ帰れっていうのは、

(すこしひきょうじゃないか」 「そうですね。ひとをくったものですね」)

すこし卑怯じゃないか」 「そうですね。人を喰ったものですね」

(だいたすうのけんぶつは、このへんでとどめをさされて、いよいよひっかえすきに)

大多数の見物は、この辺でとどめを刺されて、愈々引返す気に

(なるのであろうが、はかせたちはひきかえさなかった。かがみのへやのけいけんで、)

なるのであろうが、博士達は引返さなかった。鏡の部屋の経験で、

(これがよのつねのばけものやしきでないことがわかったけれど、このふたりは、)

これが世の常の化物屋敷でないことが分ったけれど、この二人は、

(ぶきみであればあるほど、かえってこうきしんをおこすがわのひとびとであった。)

不気味であればある程、却って好奇心をおこす側の人々であった。

(それに、かんじんのしたいそうさくというだいもくてきがあるのだから、じょうないをいちじゅんしないでは)

それに、肝腎の死体捜索という大目的があるのだから、場内を一巡しないでは

(いみをなさぬわけだ。なみなみのみせものでなくて、おとなのふたりにも、)

意味をなさぬ訳だ。並々の見世物でなくて、大人の二人にも、

(かなりのすりるをかんじさせるのは、いわばよきしなかったもうけものであった。)

かなりのスリルを感じさせるのは、謂わば予期しなかった儲けものであった。

(てさぐりあしさぐりであるくほどに、やがてじょじょにあたりがほのあかるくなってきた。)

手探り足探りで歩く程に、やがて徐々にあたりがほの明るくなって来た。

(「またたけやぶがあるようだね」 いかにも、くろぬののとんねるのような)

「また竹藪があるようだね」 如何にも、黒布のトンネルのような

(つうろをでると、またしてもうっそうたるたけやぶのほそみちであった。)

通路を出ると、またしても鬱蒼たる竹藪の細道であった。

(そこをがさがさいわせながらたどっていくうちに、ひょいとみぎがわをみると、)

そこをガサガサが云わせながら辿って行く内に、ヒョイと右側を見ると、

(そのたけやぶにきれめがあって、はばいっけんおくゆきにけんほどの、やぶにかこまれた)

その竹藪に切れ目があって、幅一間奥行二間ほどの、藪に囲まれた

(あきちがあった。そのぶぶんだけうすあおいでんとうがついているので、)

空地があった。その部分だけ薄青い電燈がついているので、

(はっきりみえるのだが、あきちのまんなかにおおきなじゅうじかがたっていて、)

ハッキリ見えるのだが、空地の真中に大きな十字架が建っていて、

(そこにひとりのおんながだいのじにしばりつけられている。あおいごくいのような)

そこに一人の女が大の字にしばりつけられている。青い獄衣のような

(ものをきて、そのむねのぶぶんだけが、まえにくくりあわされ、りょうわきからちちのあたりまで、)

ものを着て、その胸の部分だけが、前に括り合わされ、両腋から乳の辺まで、

(はだがあらわれている。 「はりつけにんぎょうですね」)

肌が現われている。 「磔刑人形ですね」

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