「悪魔の紋章」25 江戸川乱歩
順位 | 名前 | スコア | 称号 | 打鍵/秒 | 正誤率 | 時間(秒) | 打鍵数 | ミス | 問題 | 日付 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
1 | 123 | 6340 | S | 6.5 | 97.1% | 647.3 | 4226 | 122 | 63 | 2024/11/20 |
2 | pechi | 5871 | A+ | 6.6 | 89.6% | 648.9 | 4310 | 500 | 63 | 2024/09/26 |
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問題文
(くろいかげ あばらやのえんがわにあがって、ふるかやをまくると、てんじょうにしかけた)
黒い影 荒屋の縁側に上って、古蚊帳をまくると、天井に仕掛けた
(あおいまめでんとうのかすかなひかりをうけて、ぜんらのびじょが、まるでみずのそこのにんぎょのように)
青い豆電燈の幽かな光を受けて、ぜんらの美女が、まるで水の底の人魚のように
(よこたわっていた。ふたりははうようにして、そのなまなましいいきにんぎょうのそばへ)
横たわっていた。二人は這うようにして、その生々しい生人形の側へ
(ちかづいていった。 「どうもそうらしいね」)
近づいて行った。 「どうもそうらしいね」
(「ええ、このかおはたえこさんにそっくりです」 こいけじょしゅのはなのさきに、)
「エエ、この顔は妙子さんにそっくりです」 小池助手の鼻の先に、
(ふっくらとしたびじょのかたがもりあがっていた。かれはおずおずとそのあおざめた)
ふっくらとした美女の肩がもり上っていた。彼はオズオズとその青ざめた
(はだにゆびをあててみた。 つめたい。こおりのようなつめたさが、ゆびのさきからしんぞうまで)
肌に指を当てて見た。 冷い。氷のような冷さが、指の先から心臓まで
(つたわってくるようにかんじられた。それをがまんしながら、ぐっとおしてみると、)
伝わって来るように感じられた。それを我慢しながら、グッと押して見ると、
(びじょのかたが、えくぼのようにへこんでいった。やわらかいのだ。ごむのようにやわらかいのだ。)
美女の肩が、靨のように凹んで行った。柔かいのだ。ゴムのように柔かいのだ。
(はかせは、はんかちをとりだして、べっとりとびじょのむねをそめたくろいものに)
博士は、ハンカチを取り出して、ベットリと美女の胸を染めた黒いものに
(おしあて、それをめのまえにもってきてながめたり、においをかいだりしていた。)
押し当て、それを目の前に持って来て眺めたり、匂を嗅いだりしていた。
(はんかちにはくろいえきたいがにじんでいる。 「きみ、かいちゅうでんとうをつけてごらん」)
ハンカチには黒い液体が滲んでいる。 「君、懐中電燈をつけてごらん」
(こいけじょしゅはぽけっとから、こがたのかいちゅうでんとうをとりだして、すいっちをおし、)
小池助手はポケットから、小型の懐中電燈を取り出して、スイッチを押し、
(そのひかりをはかせのはんかちにあてた。 いままでのあおいでんとうのしたで、くろくみえていた)
その光を博士のハンカチに当てた。 今までの青い電燈の下で、黒く見えていた
(はんかちのしみが、あかぐろいちのいろにかわった。 はかせはむごんのまま、)
ハンカチの汚点が、赤黒い血の色に変った。 博士は無言のまま、
(はんかちをじょしゅにわたすと、むねのきずあとをしらべた。 「しんぞうをえぐられている。)
ハンカチを助手に渡すと、胸の傷痕を調べた。 「心臓を刔られている。
(だが・・・・・・」 はかせはしゅっけつりょうがあんがいすくないことをふしんにおもっているらしく、)
だが・・・・・・」 博士は出血量が案外少いことを不審に思っているらしく、
(なおしたいのぜんしんをながめまわしていたが、 「ああ、やっぱりしめころされていたんだ。)
なお死体の全身を眺め廻していたが、 「アア、やっぱり絞殺されていたんだ。
(そして、ここへはこんできてから、ぶたいこうかをだすために、しんぞうを)
そして、ここへ運んで来てから、舞台効果を出すために、心臓を
(えぐったのにちがいない」 と、ひとりごとのようにつぶやいた。)
抉ったのに違いない」 と、独言のように呟いた。
(「さくや、しんしつでしめころされたのでしょうか」 「そうらしい。でなければ、)
「昨夜、寝室で絞殺されたのでしょうか」 「そうらしい。でなければ、
(あんなにやすやすとべっどのなかへかくしたり、ごみばこのなかへかくしたり)
あんなに易々とベッドの中へ隠したり、塵芥箱の中へ隠したり
(できないはずだからね。・・・・・・はんにんは、けさまだうすぐらいうちに、)
出来ない筈だからね。・・・・・・犯人は、今朝まだ薄暗い内に、
(これをごみぐるまにのせて、そこのじんじゃのもりのなかへひっぱってきた。それから、)
これを塵芥車にのせて、そこの神社の森の中へ引っぱって来た。それから、
(したいをかついで、ばけものやしきのてんとにしのびこみ、このかやのなかのいきにんぎょうと)
死体を担いで、化物屋敷のテントに忍び込み、この蚊帳の中の生人形と
(おきかえたのだ。しんぞうをえぐったのは、ここへきてからにちがいない。むろん、)
置き換えたのだ。心臓を抉ったのは、ここへ来てからに違いない。無論、
(さいしょからここへしたいをかくすつもりで、けんとうをつけておいたのだろう。)
最初からここへ死体を隠すつもりで、見当をつけて置いたのだろう。
(このばめんをえらんだのは、でんとうもうすぐらいし、かやのなかといううまいじょうけんが)
この場面を選んだのは、電燈も薄暗いし、蚊帳の中といううまい条件が
(そろっていたからだ。このなかへおけば、われわれのようにかやをまくってみる)
揃っていたからだ。この中へ置けば、我々のように蚊帳をまくって見る
(けんぶつなんかありやしないから、きゅうにはっけんされるしんぱいはないとおもったのだ」)
見物なんかありやしないから、急に発見される心配はないと思ったのだ」
(「それに、たいていのけんぶつは、ここまでこないで、にげかえってしまうのですからね」)
「それに、大抵の見物は、ここまで来ないで、逃げ帰ってしまうのですからね」
(・・・・・・でも、みせものごやのひとたちに、よくみつからなかったものですね」)
・・・・・・でも、見世物小屋の人達に、よく見つからなかったものですね」
(「はんにんがここへきたころは、まだよがあけたばかりで、みんなねていたのだろう。)
「犯人がここへ来た頃は、まだ夜が明けたばかりで、みんな寝ていたのだろう。
(それに、なにもしょうめんのいりぐちからはいらなくても、このばめんのすぐうしろから、)
それに、何も正面の入口から入らなくても、この場面のすぐうしろから、
(てんとのすそをまくってしのびこめば、わけはないんだからね」)
テントの裾をまくって忍び込めば、訳はないんだからね」
(「さっそく、かわでさんとなかむらかかりちょうにしらせなければなりませんね」)
「早速、川手さんと中村係長に知らせなければなりませんね」
(「うん、でんわをかけることにしよう。・・・・・・だが、こいけくん、)
「ウン、電話をかけることにしよう。・・・・・・だが、小池君、
(ちょっとまちたまえ。さいぜんわたされたにまいのかみふだがなんだかきになるんだ。)
ちょっと待ち給え。さい前渡された二枚の紙札が何だか気になるんだ。
(かいちゅうでんとうをつけたついでにしらべておこう」 かみふだというのは、れいのくらやみのなかの)
懐中電燈をつけた序に調べて置こう」 紙札というのは、例の暗闇のなかの
(がいこつと、くさむらをはいだしてきたなまうでとからうけとった、ばけものやしきつうかしょうとでも)
骸骨と、叢を這い出して来た生腕とから受取った、化物屋敷通過証とでも
(いうべきかみきれである。 はかせはそのにまいのかみきれを、ぽけっとからとりだし、)
いうべき紙片である。 博士はその二枚の紙片を、ポケットから取り出し、
(こいけじょしゅのかざすでんとうのひかりのなかで、ていねいにしらべてみた。)
小池助手のかざす電燈の光の中で、丁寧に調べて見た。
(かみきれはにまいともどうしつどうけいで、そのひょうめんには、それぞれ「だいいちひきかえけん」)
紙片は二枚とも同室同形で、その表面には、夫々「第一引換券」
(「だいにひきかえけん」とふでぶとにしるされ、そのまんなかに「まるはなこうぎょうぶのしるし」という)
「第二引換券」と筆太に記され、その真中に「丸花興行部之印」という
(おおきなあかいはんが、べったりとおしてある。 にまいともひょうめんをしらべおわると、)
大きな赤い判が、ベッタリと捺してある。 二枚とも表面を調べ終ると、
(はかせはそれをうらがえして、かいちゅうでんとうのひかりにてらしてみた。)
博士はそれを裏返して、懐中電燈の光に照らして見た。
(「ああ、やっぱりそうだ。きみ、これをみたまえ」 にまいとも、かみきれのまんなかに、)
「アア、やっぱりそうだ。君、これを見たまえ」 二枚とも、紙片の真中に、
(くろいしもんがはっきりとあらわれていた。ぐうぜんについたのではなくて、)
黒い指紋がハッキリと現われていた。偶然についたのではなくて、
(ゆびのはらにすみをつけて、わざとおしたしもんである。 はかせはむねのぽけっとから、)
指の腹に墨をつけて、態と捺した指紋である。 博士は胸のポケットから、
(こがたかくだいきょうをだして、かみきれのうえにあててみた。 「さんじゅうかじょうもんだ、)
小型拡大鏡を出して、紙片の上に当てて見た。 「三重渦状紋だ、
(あくまのもんしょうだ」 「れいのいたずらですね」)
悪魔の紋章だ」 「例のいたずらですね」
(「われわれをちょうしょうしているのだよ」 「しかし、あのがいこつや、にんぎょうのうでが、)
「我々を嘲笑しているのだよ」 「しかし、あの骸骨や、人形の腕が、
(これをもっていたのはへんですね。ちょうどぼくらのうけとったふだに、あいつのしもんが)
これを持っていたのは変ですね。丁度僕らの受取った札に、あいつの指紋が
(おしてあるというのは。・・・・・・もしや、あいつ、まだこのなかに)
捺してあるというのは。・・・・・・若しや、あいつ、まだこの中に
(うろうろしているんじゃないでしょうか」 こいけじょしゅはいようにこえをひくくして、)
ウロウロしているんじゃないでしょうか」 小池助手は異様に声を低くして、
(じっとはかせのかおをみつめた。 「そうかもしれない。きみ、あれはなんだろう。)
じっと博士の顔を見つめた。 「そうかも知れない。君、あれは何だろう。
(あのやぶのなかにいるくろいものは・・・・・・」 はかせのめは、かやをとおして、)
あの藪の中にいる黒いものは・・・・・・」 博士の目は、蚊帳を通して、
(あばらやのうしろのたけやぶにそそがれていた。 「えっ、くろいものですって?」)
荒屋のうしろの竹藪に注がれていた。 「エッ、黒いものですって?」
(「ほら、あすこだ。うみぼうずのようなまっくろなやつだ、まさか、こんなひとのめに)
「ホラ、あすこだ。海坊主のような真黒な奴だ、まさか、こんな人の目に
(つかぬところに、ばけもののにんぎょうがおいてあるはずはない」 はかせは、あばらやのうしろの)
つかぬところに、化物の人形が置いてある筈はない」 博士は、荒屋の背後の
(たけやぶのなかを、めでしらせながらささやいた。ほとんどこうせんのとどかぬやみのなかだ。)
竹藪の中を、目で知らせながら囁いた。殆ど光線の届かぬ闇の中だ。
(そういわれてみると、なにかそこに、やみよりもこいかげのようなものが、)
そう云われて見ると、何かそこに、闇よりも濃い影のようなものが、
(もうろうとたっているようにかんじられる。)
朦朧と立っているように感じられる。