「悪魔の紋章」28 江戸川乱歩

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江戸川乱歩の小説「悪魔の紋章」のタイピングです。

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問題文

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(かがみのまじゅつ なかむらそうさかかりちょうがせいふくしふくあわせてじゅうにめいのぶかをひきつれ、)

鏡の魔術 中村捜査係長が制服私服合せて十二名の部下を引連れ、

(さんだいのじどうしゃをとばしてかけつけたのは、それからにじゅっぷんほどのちであった。)

三台の自動車を飛ばして駈けつけたのは、それから二十分程のちであった。

(かかりちょうはむなかたはかせからいさいをききとると、びんそくにきょうぞくたいほのじんようをととのえた。)

係長は宗像博士から委細を聞き取ると、敏速に兇賊逮捕の陣容を整えた。

(はんすうのけいかんはぞくがてんとをもぐってとうそうするのをふせぐために、こやがけの)

半数の警官は賊がテントを潜って逃走するのを防ぐ為に、小屋掛けの

(しほうのみはりにたて、のこるはんすうをにたいにわけ、こやのいりぐちとでぐちとから、)

四方の見張りに立て、残る半数を二隊に分け、小屋の入口と出口とから、

(めんみつなそうさをしながらちゅうしんちてんにすすませることにした。 ばけものやしきぜんたいを)

綿密な捜査をしながら中心地点に進ませることにした。 化物屋敷全体を

(うすぐらくしているてんじょうのくろぬのは、こやのものにめいじて、ただちにとりはずさせることに)

薄暗くしている天井の黒布は、小屋の者に命じて、直ちに取り外させることに

(したので、みるみるいんうつなこやのなかがあかるくなっていった。それにつれて、)

したので、見る見る陰鬱な小屋の中が明るくなって行った。それにつれて、

(じょうないのちみもうりょうは、ひるまのばけものとなって、いたるところにこっけいなむくろを)

場内の魑魅魍魎は、昼間の化物となって、至る所に滑稽なむくろを

(さらしはじめた。 たけやぶのめいろも、いきどまりのふくろこうじがぜんぶきりはらわれ、)

曝しはじめた。 竹藪の迷路も、行き止りの袋小路が全部切り払われ、

(どこをとおってもでぐちにたっすることができるようになった。けいかんたいと)

どこを通っても出口に達することができるようになった。警官隊と

(じゅうすうめいのこやのわかいものとが、たいごをくんで、きりひらかれたはくちゅうのやぶのあいだを)

十数名の小屋の若い者とが、隊伍を組んで、切り開かれた白昼の藪の間を

(すすんでいった。 うらぐちからはいったいったいは、むざんにんぎょうのばめんを、ひとつずつめんみつに)

進んで行った。 裏口から入った一隊は、無残人形の場面を、一つずつ綿密に

(そうさくしながら、ぜんしんしたが、てんじょうのくろぬのがとりはらわれてみると、どのばめんも)

捜索しながら、前進したが、天井の黒布が取り払われて見ると、どの場面も

(いたずらにどくどくしくしゅうかいなばかりで、すごみなどほとんどかんじられなかった。)

いたずらに毒々しく醜怪なばかりで、凄味など殆んど感じられなかった。

(うらぐちからみっつめのぶたいは、れいのれきしおんなのばめんであったが、ちちゅうにみをひそめた)

裏口から三つ目の舞台は、例の轢死女の場面であったが、地中に身を潜めた

(いけるなまくびは、どこへにげさったのか、かげもなく、そのくびのはえていたぶぶんに、)

生ける生首は、どこへ逃げ去ったのか、影もなく、その首の生えていた部分に、

(ぽっかりとくろいあながあいていた。 「おい、あのおくになんだかいるようだぜ」)

ポッカリと黒い穴があいていた。 「オイ、あの奥に何だかいるようだぜ」

(ひとりのけいかんがどうりょうをかえりみてささやいた。ゆびさすのをみると、そこにはれいの)

一人の警官が同僚を顧みて囁いた。指さすのを見ると、そこには例の

(もぞうあかれんがのとんねるがまっくろなくちをひらいているのだ。 てんじょうからひかりが)

模造赤煉瓦のトンネルが真黒な口を開いているのだ。 天井から光が

など

(さすとはいっても、とんねるのなかはまっくらだし、そのへんいったいは、)

射すとは云っても、トンネルの中は真暗だし、その辺一体は、

(たけやぶのしげみになっていて、なんとなくいんきである。 さんにんのけいかん、)

竹藪の茂みになっていて、何となく陰気である。 三人の警官、

(それにこやのわかものよにん、しちにんのどうぜいが、てをつながんばかりにして、)

それに小屋の若者四人、七人の同勢が、手をつながんばかりにして、

(おずおずとさくをのりこえ、きしゃのせんろをつたって、ころがっているにんぎょうのてやあしを)

オズオズと柵を乗り越え、汽車の線路を伝って、転がっている人形の手や足を

(けちらしながら、とんねるのくちにむかってちかよっていった。 「このとんねるは)

蹴ちらしながら、トンネルの口に向って近よって行った。 「このトンネルは

(いっけんばかりでいきどまりになっているんですから、どこにもにげみちは)

一間ばかりで行き止りになっているんですから、どこにも逃げ道は

(ありやしませんよ」 わかものがけいかんたちにささやく。)

ありやしませんよ」 若者が警官達に囁く。

(やがて、ひとびとはとんねるのまえにけんほどにちかづくと、くらいあなのなかをのぞきこんだ。)

やがて、人々はトンネルの前二間程に近づくと、暗い穴の中を覗き込んだ。

(とんねるのないぶは、すっかりくろいとりょうでぬりつぶしてあるのだが、)

トンネルの内部は、すっかり黒い塗料で塗りつぶしてあるのだが、

(そのいきあたりのかべのなかに、ほそいふたつのめがひかっていた。よくみると、)

その行き当たりの壁の中に、細い二つの目が光っていた。よく見ると、

(かべとおなじいろをしたかげぼうしのようなものが、そこにつったっているのだ。)

壁と同じ色をした影法師のようなものが、そこに突立っているのだ。

(それをみると、ひとびとはおもわずぎょっとたちどまった。 「あぶないっ、ぴすとるを)

それを見ると、人々は思わずギョッと立止った。 「危いッ、ピストルを

(もっているぞっ」 ひとびとのひるむまえに、くろいかいぶつは、うきだすように)

持っているぞッ」 人々のひるむ前に、黒い怪物は、浮き出すように

(ぜんしんしてきた。みぎてにはゆだんなくぴすとるをかまえながら、くっくっくっと)

前進して来た。右手には油断なくピストルを構えながら、クックックッと

(れいのぶきみなわらいごえをたてながら。 とんねるをでると、だいたんふてきにも、)

例の不気味な笑い声を立てながら。 トンネルを出ると、大胆不敵にも、

(じりじりとけいかんのほうへにじりよってくる。しちにんのほうがかえっておされぎみである。)

ジリジリと警官の方へにじり寄って来る。七人の方が却って押され気味である。

(かいぶつのあしがせんろをこえた。こんどはさくのほうへと、かにのようによこあるきをはじめる。)

怪物の足が線路を越えた。今度は柵の方へと、蟹のように横歩きを始める。

(ぴすとるはしちにんのまんなかにねらいをさだめたままだ。 あっ、さくをこえた。)

ピストルは七人の真中に狙いを定めたままだ。 アッ、柵を越えた。

(こえたかとおもうと、くるりとうしろむきになった。そして、つうろを)

越えたかと思うと、クルリとうしろ向きになった。そして、通路を

(ひとなきほうへと、やのようにはしりだした。 「うぬ、まてっ」)

人なき方へと、矢のように走り出した。 「ウヌ、待てッ」

(「にがすもんか、ちくしょう」 かけごえだけはいさましく、にげるひとりをおうしちにん、)

「逃がすもんか、畜生」 かけ声だけは勇ましく、逃げる一人を追う七人、

(すさまじいおっかけがはじまった。 「くっくっくっ・・・・・・」)

すさまじい追っ駈けが始まった。 「クックックッ・・・・・・」

(かいぶつははしりながらも、まだちょうしょうをやめなかった。 むざんにんぎょうのいくばめんをすぎて、)

怪物は走りながらも、まだ嘲笑をやめなかった。 無残人形の幾場面を過ぎて、

(かいぶつはりょうがわをくろぬのではったほそいつうろへとびこんでいった。そのしょうめんには、)

怪物は両側を黒布で張った細い通路へ飛び込んで行った。その正面には、

(れいのかがみのへやがあるのだ。 そのつうろも、てんじょうのおおいがとりさってあるので、)

例の鏡の部屋があるのだ。 その通路も、天井の蔽いが取去ってあるので、

(かいぶつのおどるようなくろいすがたがよくみえる。かれはそこをひといきにかけぬけて、)

怪物の躍るような黒い姿がよく見える。彼はそこを一息に駈け抜けて、

(いきあたりのくろいたべいのどあをひきあけ、とうとうかがみのへやにすべりこんだ。)

行き当りの黒板塀のドアを引きあけ、とうとう鏡の部屋に辷り込んだ。

(しちにんのおってはたちまちどあのまえにさっとうしたが、そこでまたたちすくんでしまった。)

七人の追手は忽ちドアの前に殺到したが、そこで又立ちすくんでしまった。

(どあがほそめにひらいて、かいぶつのしろいめがじっとこちらをにらみつけていたからだ。)

ドアが細目に開いて、怪物の白い目がじっとこちらを睨みつけていたからだ。

(いや、めだけではない。ぴすとるのつつぐちが、いまにもひをはくぞとばかり、)

イヤ、目だけではない。ピストルの筒口が、今にも火を吐くぞとばかり、

(ぶきみにのぞいていたからだ。 「むこうのでぐちからまわって、はさみうちにしたら)

不気味に覗いていたからだ。 「向うの出口から廻って、はさみ撃ちにしたら

(どうでしょう」 ひとりのわかものがささやきごえで、みょうあんをもちだした。)

どうでしょう」 一人の若者が囁き声で、妙案を持出した。

(「よし、それじゃ、きみはむこうへまわって、あちらにいるけいかんに、このことを)

「よし、それじゃ、君は向うへ廻って、あちらにいる警官に、この事を

(つたえてくれ。でぐちのほうをかためてくれるようにね」 これもあわただしい)

伝えてくれ。出口の方を固めてくれるようにね」 これも惶しい

(ささやきごえのさしずだ。わかものはつうろのかべをおしやぶって、かがみのへやのうしろがわへ)

囁き声の指図だ。若者は通路の壁を押し破って、鏡の部屋のうしろ側へ

(とびだしていった。 いよいよかいぶつはふくろのねずみとなった。かれはいま、なにもしらないで、)

飛び出して行った。 愈々怪物は袋の鼠となった。彼は今、何も知らないで、

(とのすきまからけいかんたちをいかくしているけれど、やがてはいごのいりぐちから、)

戸の隙間から警官達を威嚇しているけれど、やがて背後の入口から、

(べつのけいかんたいがさっとうするのだ。ふくはいにてきをうけては、いかなきょうぞくも)

別の警官隊が殺到するのだ。腹背に敵を受けては、いかな兇賊も

(うんのつきにちがいない。もしまんいち、どうかしてこのかがみのへやはにげだすことが)

運の尽きに違いない。若し万一、どうかしてこの鏡の部屋は逃げ出すことが

(できたとしても、こやのそとにはろくにんのけいかんがみはりをしているばかりか、)

出来たとしても、小屋の外には六人の警官が見張りをしているばかりか、

(じけんをききつけてつどったやじうまのたいぐんが、てんとのまわりをぐるっと)

事件を聞きつけて集った野次馬の大群が、テントのまわりをグルッと

(とおまきにしてけんぶつしているのだ。そのなかを、どうにげおわせることが)

遠巻きにして見物しているのだ。その中を、どう逃げ終せることが

(できるものか。 あとにのこったろくにんのおっては、じっとぴすとるのつつぐちを)

出来るものか。 あとに残った六人の追手は、じっとピストルの筒口を

(にらみつけながら、いきをころしてときのくるのをまちかまえていた。)

睨みつけながら、息を殺して時の来るのを待ち構えていた。

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