「悪魔の紋章」29 江戸川乱歩

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江戸川乱歩の小説「悪魔の紋章」のタイピングです。
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1 pechi 5804 A+ 6.6 88.4% 685.1 4571 594 64 2024/10/25

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問題文

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(「くっくっくっ・・・・・・」かいぶつはまたわらいだした。ああ、なにもしらないで、)

「クックックッ・・・・・・」怪物は又笑いだした。アア、何も知らないで、

(のんきらしくわらっている。 ごびょう、じゅうびょう、じゅうごびょう・・・・・・おってたちのわきのしたから)

呑気らしく笑っている。 五秒、十秒、十五秒・・・・・・追手達の腋の下から

(つめたいあせがじりじりとながれた。とつぜん、かがみのへやのなかにものおとがした。)

冷い汗がジリジリと流れた。突然、鏡の部屋の中に物音がした。

(なにものかがあるきまわっているのだ。せきばらいのおとがきこえる。 しかし、ぞくのぴすとるは)

何者かが歩き廻っているのだ。咳払いの音が聞える。 しかし、賊のピストルは

(こちらをねらったまま、すこしもうごかない。どうしたのかしら。おお、いまにも)

こちらを狙ったまま、少しも動かない。どうしたのかしら。オオ、今にも

(かくとうがはじまるのではないか。てきもみかたもかがみにうつるせんにんのすがたとなって、)

格闘が始まるのではないか。敵も味方も鏡に映る千人の姿となって、

(なんぜんにんのだいらんとうがえんじられるのではないか。 てにあせをにぎって)

何千人の大乱闘が演じられるのではないか。 手に汗を握って

(まちかまえるひとびとのまえに、かがみのへやのどあが、しずかにひらきはじめた。)

待ち構える人々の前に、鏡の部屋のドアが、静かに開き始めた。

(おやっ、おかしいぞ。かいぶつはやっぱりぴすとるをかまえたままだ。)

オヤッ、おかしいぞ。怪物はやっぱりピストルを構えたままだ。

(では、はやくもけいりゃくをさとって、ぎゃくにあいつのほうからうってでるつもりかしら。)

では、早くも計略を悟って、逆にあいつの方から打って出る積りかしら。

(ひとびとはぎょっとして、おもわずあとじさりをはじめた。 どあはだんだん)

人々はギョッとして、思わずあとじさりを始めた。 ドアは段々

(おおきくひらいていく。くろいかいぶつめ、いよいよとびだしてくるんだな。にげごしになって、)

大きく開いて行く。黒い怪物め、愈々飛び出して来るんだな。逃げ腰になって、

(じっとみつめているいちどうのまえに、ついにどあはすっかりあけはなされた。)

じっと見つめている一同の前に、遂にドアはすっかり開け放された。

(すると、おお、これはどうしたことだ。そこにたっていたのは、てきではなくて)

すると、オオ、これはどうした事だ。そこに立っていたのは、敵ではなくて

(みかたであった。みかたもみかた、とうのかいぶつのはっけんしゃのむなかたはかせそのひとであった。)

味方であった。味方も味方、当の怪物の発見者の宗像博士その人であった。

(「おや、あなたがたなにをしているんです。あいつはどうしたのですか」)

「オヤ、あなた方何をしているんです。あいつはどうしたのですか」

(はかせのことばに、けいかんたちはあいたくちがふさがらなかった。 「おお、むなかたせんせい、)

博士の言葉に、警官達は開いた口が塞がらなかった。 「オオ、宗像先生、

(あなたはそのへやで、くせものをごらんにならなかったのですか。ついいましがたまで、)

あなたはその部屋で、曲者をごらんにならなかったのですか。つい今し方まで、

(そのどあのすきまから、われわれにぴすとるをつきつけていたんですぜ」)

そのドアの隙間から、我々にピストルを突きつけていたんですぜ」

(「ぼくもここにあいつがかくれているときいたものだから、はさみうちに)

「僕もここにあいつが隠れていると聞いたものだから、はさみ撃ちに

など

(するつもりで、はいってきたのだが、はいってみるとだれもいないのです。)

する積りで、入って来たのだが、入って見ると誰もいないのです。

(ただ、このぴすとるがどあのとってにぶらさがっていたばかりでね」)

ただ、このピストルがドアの把手にぶら下がっていたばかりでね」

(はかせはそういいながら、ひもでむすびつけたぴすとるをとりあげて、いちどうにしめした。)

博士はそういいながら、紐で結びつけたピストルを取り上げて、一同に示した。

(「あなたがたは、このぴすとるのつつぐちがのぞいているのをみて、あいつじしんが、)

「あなた方は、このピストルの筒口が覗いているのを見て、あいつ自身が、

(ここにいるのだというさっかくをおこしていたのですよ。あいつはぴすとるを)

ここにいるのだという錯覚を起していたのですよ。あいつはピストルを

(ここにぶらさげて、ちょうどあなたがたのほうにつつぐちがむくようにしておいて、)

ここにぶら下げて、丁度あなた方の方に筒口が向くようにして置いて、

(すばやくにげてしまったのです」 ひとびとはあまりのことに、それにこたえるちからもなく、)

素早く逃げてしまったのです」 人々は余りのことに、それに答える力もなく、

(ぼうぜんとしてはかせのかおをみつめていた。 「しかし、おかしい。)

呆然として博士の顔を見つめていた。 「しかし、おかしい。

(ぼくはもうさいぜんから、むこうのとぐちのそとにいたんですが、だれもここから)

僕はもうさい前から、向うの戸口の外にいたんですが、誰もここから

(にげだすものをみかけなかった。ひょっとしたら、かがみのかべになにかぬけあなでも)

逃げ出すものを見かけなかった。ひょっとしたら、鏡の壁に何か抜け穴でも

(できているのじゃないかとおもうくらいです」 かいぶつのきかいなしょうしつに、またあらためて)

出来ているのじゃないかと思うくらいです」 怪物の奇怪な消失に、また改めて

(だいそうさくがくりかえされた。ひとのかくれそうなばしょは、ことごとくうちこわし、めいろのたけやぶも)

大捜索が繰返された。人の隠れそうな場所は、悉く打毀し、迷路の竹藪も

(すっかりたおしてしまって、すみからすみまで、なんどとなくさがしまわった。)

すっかり倒してしまって、隅から隅まで、何度となく探し廻った。

(しかし、ついにくろいかいぶつは、どこにもすがたをあらわさなかった。といって、)

しかし、遂に黒い怪物は、どこにも姿を現わさなかった。と云って、

(てんとのそとへにげださなかったことは、みはりのろくにんのけいかんをはじめ、)

テントの外へ逃げ出さなかったことは、見張りの六人の警官をはじめ、

(まわりをかこむぐんしゅうが、なによりのしょうにんであった。 むなかたはかせのていあんによって、)

まわりを囲む群衆が、何よりの証人であった。 宗像博士の提案によって、

(かがみのへやがとりこわされ、おおかがみがいちまいいちまいかべからはずされていった。)

鏡の部屋が取り毀され、大鏡が一枚一枚壁から外されて行った。

(しかし、そのあとには、どんなぬけみちも、どんなかくればしょもはっけんされなかった。)

しかし、そのあとには、どんな抜け道も、どんな隠れ場所も発見されなかった。

(あのぶきみなかがみのへやは、ひとりをせんにんにしてみせるばかりでなくて、)

あの不気味な鏡の部屋は、一人を千人にして見せるばかりでなくて、

(にんげんをまったくかげもかたちもないようにすいとってしまうまりょくを)

人間を全く影も形もないように吸い取ってしまう魔力を

(もっていたのであろうか。 ひとびとは、ろっかくのかがみのへやが、きじゅつしの)

持っていたのであろうか。 人々は、六角の鏡の部屋が、奇術師の

(まほうのはこのように、そこへはいったにんげんを、まずこなごなにうちくだき、)

魔法の箱のように、そこへ入った人間を、先ず粉々に打ちくだき、

(そのめにもみえぬはへんを、ろっぽうから、さーっとすいとっていくこうけいをげんそうして、)

その目にも見えぬ破片を、六方から、サーッと吸い取って行く光景を幻想して、

(ぞーっとはだざむくなるおもいをしたのであった。)

ゾーッと肌寒くなる思いをしたのであった。

(ふくしゅうだいさん そのしつようざんこくなふくしゅうきのしょうたいはすこしもわからなかった。)

復讐第三 その執拗残酷な復讐鬼の正体は少しも分らなかった。

(ふしぎなことに、ふくしゅうをうけているかわでしじしんさえ、まったくけんとうがつかないと)

不思議なことに、復讐を受けている川手氏自身さえ、全く見当がつかないと

(いっていた。 ただわかっているのは、そいつがよにもおそろしい)

云っていた。 ただ分っているのは、そいつが世にも恐ろしい

(さんじゅううずまきのしもんをもっていることであった。みっつのうずまきがさんかくけいにならんで、)

三重渦巻の指紋を持っていることであった。三つの渦巻が三角形に並んで、

(まるでおばけがわらっているようにみえるさんじゅうかじょうもん。あくまはいたるところに)

まるでお化けが笑っているように見える三重渦状紋。悪魔は至るところに

(そのかいしもんをのこしていった。ことにふくしゅうこういのちょくぜんには、さつじんのよこくででも)

その怪指紋を残して行った。殊に復讐行為の直前には、殺人の予告ででも

(あるかのように、かならずひとびとのまえにそのおばけしもんがあらわれるのであった。)

あるかのように、必ず人々の前にそのお化指紋が現われるのであった。

(ふくしゅうきはまじゅつしのようにふしぎなしゅだんによって、かわでしのにれいじょうをゆうかいし、)

復讐鬼は魔術師のように不思議な手段によって、川手氏の二令嬢を誘拐し、

(ざんさつし、しかもそのうつくしいしたいを、しゅうじんのめのまえにさらしものとした。)

惨殺し、しかもその美しい死体を、衆人の目の前に曝しものとした。

(いもうとむすめゆきこさんは、えいせいてんらんかいのじんたいもけいちんれつしつに、そのいけるがごときむくろを)

妹娘雪子さんは、衛生展覧会の人体模型陳列室に、その生けるが如きむくろを

(さらすうきめをみ、あねむすめのたえこさんは、ばしょもあろうにおばけたいかいのざんぎゃくばめんの)

曝す憂き目を見、姉娘の妙子さんは、場所もあろうにお化け大会の残虐場面の

(いきにんぎょうとおきかえられ、たけやぶにかこまれたひとつやのばめんに、むねをちだらけにして)

生人形と置き換えられ、竹藪に囲まれた一つ家の場面に、胸を血だらけにして

(たおれていた。 そして、このつぎは、いっかのさいごのひと、)

倒れていた。 そして、この次は、一家の最後の人、

(かわでしじしんのばんであった。ふくしゅうきのしんのもくてきは、かわでしにあったことは)

川手氏自身の番であった。復讐鬼の真の目的は、川手氏にあったことは

(いうまでもない。まずそのにれいじょうをざんさつしたのは、かわでしをおもうさまくるしめ)

云うまでもない。先ずその二令嬢を惨殺したのは、川手氏を思うさま苦しめ

(かなしませ、ふくしゅうをいっそうこうかてきにするためであったことは、ふくしゅうきのかつての)

悲しませ、復讐を一層効果的にする為であったことは、復讐鬼の嘗ての

(きょうはくじょうによってもさやかであった。 かわでしはあいじょうをうしなったひたんと、)

脅迫状によっても明かであった。 川手氏は愛嬢を失った悲歎と、

(わがみにせまるしのきょうふのため、さすがのじつぎょうかいのえいゆうも、まるでしこうりょくを)

我身に迫る死の恐怖の為、流石の実業界の英雄も、まるで思考力を

(うしなったかのように、なすところをしらぬのであった。ほとんどひとまかせでたえこさんの)

失ったかのように、為すところを知らぬのであった。殆んど人任せで妙子さんの

(そうぎをおわると、おくまったひとまにとじこもり、ひとをさけてものおもいにふけっていた。)

葬儀を終ると、奥まった一間にとじこもり、人を避けて物思いに耽っていた。

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