「悪魔の紋章」30 江戸川乱歩
順位 | 名前 | スコア | 称号 | 打鍵/秒 | 正誤率 | 時間(秒) | 打鍵数 | ミス | 問題 | 日付 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
1 | pechi | 6214 | A++ | 7.0 | 89.3% | 640.0 | 4512 | 535 | 64 | 2024/10/25 |
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問題文
(そうぎのよくそうちょう、むなかたはかせのらいほうがとりつがれた。ほかのらいきゃくはことごとく)
葬儀の翌早朝、宗像博士の来訪が取次がれた。他の来客は悉く
(ことわっているのだけれど、はかせだけにはあわぬわけにはいかぬ。)
断っているのだけれど、博士だけには会わぬ訳には行かぬ。
(いまはこのそうめいなしりつたんていだけがたよりなのだ。たえこのばあいは、さやかにたんていの)
今はこの聡明な私立探偵だけが頼りなのだ。妙子の場合は、明かに探偵の
(しっぱいであったが、たちまちにあくまのとりっくをかんぱし、したいのありかを)
失敗であったが、忽ちに悪魔のトリックを看破し、死体のありかを
(さがしあてたのは、むなかたはかせそのひとではなかったか。このひとをおいて、)
探し当てたのは、宗像博士その人ではなかったか。この人をおいて、
(あのまじゅつしのようなふくしゅうきにたいこうしうるものが、ほかにあろうとは)
あの魔術師のような復讐鬼に対抗し得る者が、外にあろうとは
(かんがえられないのだ。 おうせつまにとおされると、むなかたはかせはていちょうにくやみをのべ、)
考えられないのだ。 応接間に通されると、宗像博士は鄭重に悔みを述べ、
(かれじしんのしっさくをこころからわびるのであった。 「このもうしわけには、だいさんのふくしゅうを)
彼自身の失策を心から詫びるのであった。 「この申訳には、第三の復讐を
(みぜんにふせぐために、ぼくのぜんりょくをつくしたいとおもいます。こうなっては、)
未然に防ぐ為に、僕の全力を尽したいと思います。こうなっては、
(もうしょくぎょうとしてではありません。あなたのいらいがなくても、ぼくのめいよのために)
もう職業としてではありません。あなたの依頼がなくても、僕の名誉の為に
(たたかわなければなりません。それに、ぼくとしては、かわいいふたりのじょしゅを)
戦わなければなりません。それに、僕としては、可愛い二人の助手を
(あいつのためにうばわれているのですから、かれらのふくしゅうのためにも、こんどこそ)
あいつの為に奪われているのですから、彼らの復讐の為にも、今度こそ
(あのかいしもんのぬしをとらえないでは、ぼくじしんにもうしわけがないのです」)
あの怪指紋の主を捉えないでは、僕自身に申訳がないのです」
(「ありがとう、よくいってくだすった。わしはふたりのむすめをなくし、あなたはふたりの)
「有難う、よく云って下すった。わしは二人の娘をなくし、あなたは二人の
(じょしゅをうばわれたのですねえ。おたがいに、おなじひがいしゃだ。ひようのてんは)
助手を奪われたのですねえ。お互に、同じ被害者だ。費用の点は
(いくらかかってもぼくがふたんしますから、おもうぞんぶんにあなたのちえを)
いくらかかっても僕が負担しますから、思う存分にあなたの智慧を
(はたらかしてください。 ふたりきりのむすめがふたりとも、あんなことになってしまって、)
働かして下さい。 二人きりの娘が二人とも、あんなことになってしまって、
(わしはこのよになんのたのしみもなくなったのです。もうじぎょうにも)
わしはこの世に何の楽しみもなくなったのです。もう事業にも
(きょうみはありません。いまもそれをかんがえていたところですが、これをきかいに)
興味はありません。今もそれを考えていたところですが、これを機会に
(じぎょうかいからもいんたいしたいとおもうのです。そして、ふたりのむすめのぼだいをとむらって、)
事業界からも引退したいと思うのです。そして、二人の娘の菩提を弔って、
(よせいをおくりたいとおもっています。 ですから、むすめたちのかたきをとるためには、)
余生を送りたいと思っています。 ですから、娘達の敵を取るためには、
(わしのぜんざいさんをなげうってもおしくはありません。きみにいっさいをおまかせしますから、)
わしの全財産を擲っても惜しくはありません。君に一切をお任せしますから、
(けいしちょうのなかむらくんともれんらくをとって、できるかぎりのしゅだんをつくしてください」)
警視庁の中村君とも聯絡を取って、出来るかぎりの手段をつくして下さい」
(「おさっしいたします。おっしゃるまでもなく、ぼくはとうぶんのあいだ、ほかのしごとは)
「お察しいたします。おっしゃるまでもなく、僕は当分の間、外の仕事は
(ほうっておいて、このじけんにぜんりょくをつくすかんがえです。それについて、ひとつ)
放って置いて、この事件に全力をつくす考えです。それについて、一つ
(ごそうだんがあるのですが」 むなかたはかせはそういって、ひとひざまえにのりだすと、)
御相談があるのですが」 宗像博士はそう云って、一膝前に乗り出すと、
(ほとんどささやきごえになって、「かわでさん。いまさしあたってよぼうしなければ)
殆んど囁き声になって、「川手さん。今さし当って予防しなければ
(ならないのは、だいさんのふくしゅうです。つまりあなたにたいするきがいです。)
ならないのは、第三の復讐です。つまりあなたに対する危害です。
(それがあいつのさいしゅうさいだいのもくてきであることはわかりきっているのですからね。)
それがあいつの最終最大の目的であることは分り切っているのですからね。
(こうしておはなししているうちにも、まほうつかいのようなあいつのましゅは、)
こうしてお話ししている内にも、魔法使いのようなあいつの魔手は、
(われわれのしんぺんにせまっているかもしれません。これからぼくたちは、ひるもよるも)
我々の身辺に迫っているかも知れません。これから僕達は、昼も夜も
(たえまなく、あいつにかんしされているものとして、こうどうしなければ)
絶間なく、あいつに監視されているものとして、行動しなければ
(ならないのです。 で、ぼくはだいさんのふくしゅうをよぼうするしゅだんについて、けさから)
ならないのです。 で、僕は第三の復讐を予防する手段について、今朝から
(いちにちあたまをしぼったのですが、けっきょくあなたにみをかくしていただくいがいに、あんぜんなほうほうが)
一日頭を絞ったのですが、結局あなたに身を隠して頂く以外に、安全な方法が
(ないというけつろんにたっしたのです。 みをかくすなんていうことは、)
ないという結論に達したのです。 身を隠すなんていうことは、
(あなたもおこのみにならぬでしょうし、ぼくにしてもとりたくないしゅだんですが、)
あなたもお好みにならぬでしょうし、僕にしても採りたくない手段ですが、
(このばあいにかぎって、そうでもするよりあんぜんなみちはないのです。なにしろ、)
この場合に限って、そうでもするより安全な道はないのです。なにしろ、
(あいてがなにものであるか、どこにいるのか、すこしもわかっていないのですからね。)
相手が何者であるか、どこにいるのか、少しも分っていないのですからね。
(みえぬてきとたたかうためには、こちらもみをかくすほかはないのです。)
見えぬ敵と戦うためには、こちらも身を隠すほかはないのです。
(そうして、あなたにあんぜんなばしょへうつっていただけば、ぼくはおもうぞんぶん)
そうして、あなたに安全な場所へ移って頂けば、僕は思う存分
(はたらけるというものです。あなたのほごとぞくのたいほというにじゅうのしごとに、)
働けるというものです。あなたの保護と賊の逮捕という二重の仕事に、
(ちからをわけるひつようがなくなって、ただふくしゅうしゃのそうさくにぜんりょくをそそぐことが)
力をわける必要がなくなって、ただ復讐者の捜索に全力を注ぐことが
(できるわけですからね。 それについて、ひとつかんがえていることがあるのですが」)
出来る訳ですからね。 それについて、一つ考えていることがあるのですが」
(はかせはそこまでいって、じろじろとあたりをみまわし、いすをひきよせて、)
博士はそこまで云って、ジロジロと辺りを見廻し、椅子を引き寄せて、
(かわでしにちかづき、そのみみにくちをつけんばかりにして、いっそうこえをひくめ、)
川手氏に近づき、その耳に口をつけんばかりにして、一層声を低め、
(ほとんどききとれぬほどにささやくのであった。 「あなたのかえだまをつくるのですよ。)
殆んど聞き取れぬ程に囁くのであった。 「あなたの替玉を作るのですよ。
(かげむしゃですね、ちょうどもってこいのじんぶつがあるのです。そうとうのほうしゅうを)
影武者ですね、丁度持って来いの人物があるのです。相当の報酬を
(だしてくだされば、いのちをまとにひきうけてもいいというおとこがあるのです。)
出して下されば、命を的に引受けてもいいという男があるのです。
(じゅうどうさんだんというごうのものですよ。そのおとこをこのおやしきへ、あなたのみがわりに)
柔道三段という豪のものですよ。その男をこのお邸へ、あなたの身代りに
(おいて、いわばおとりにするわけです。そして、ちかづいてくるぞくを)
置いて、謂わば囮にする訳です。そして、近づいて来る賊を
(まちぶせしようというのです」 「そんなおとこがほんとうにあるのですか」)
待伏せしようというのです」 「そんな男が本当にあるのですか」
(かわでしはすこしおとなげないというおももちで、きのすすまぬちょうしであった。)
川手氏は少し大人げないという面持で、気の進まぬ調子であった。
(「ふしぎとあなたにそっくりなのです。まあいちどあってごらんなされば)
「不思議とあなたにそっくりなのです。マア一度会ってごらんなされば
(わかります。うまくやればめしつかいのかたたちも、かえだまとはきがつかないかもしれません」)
分ります。うまくやれば召使の方達も、替玉とは気がつかないかも知れません」
(「それにしても、わしがみをかくすばしょというのが、だいいち、もんだいじゃ)
「それにしても、わしが身を隠す場所というのが、第一、問題じゃ
(ありませんか」 「いや、それもこころあたりがあるのです。やまなしけんのかたいなかに、)
ありませんか」 「イヤ、それも心当りがあるのです。山梨県の片田舎に、
(いまちょうどうりにでているみょうないっけんやがあるのです。あるしゅせんどのようなろうじんが、)
今丁度売りに出ている妙な一軒家があるのです。ある守銭奴のような老人が、
(とうなんをおそれるあまり、そんなみょうないえをたてたのですが、ぜんたいがどぞうづくりで、)
盗難を恐れる余り、そんな妙な家を建てたのですが、全体が土蔵造りで、
(まどにもえんがわにもすっかりてっぱんばりのとがついていて、そのうえにじょうかくのような)
窓にも縁側にもすっかり鉄板張りの戸がついていて、その上に城郭のような
(たかいどべいをめぐらし、どべいのそとにはちょっとしたほりがあって、はねばしまで)
高い土塀を囲らし、土塀の外にはちょっとした堀があって、跳橋まで
(かかっているという、まるでせんごくじだいのどごうのやしきとでもいったようじんぶかい)
懸っているという、まるで戦国時代の土豪の邸とでも云った用心深い
(たてものなのです。 ぼくはそこのしゅじんがなくなるまえ、あるじけんでしりあいになって、)
建物なのです。 僕はそこの主人がなくなる前、ある事件で知合いになって、
(そのしろのようなやしきにとまったこともあるのですが、ばしょといい、たてものといい、)
その城のような邸に泊ったこともあるのですが、場所といい、建物といい、
(あなたのいちじのかくればしょにはもってこいなのです。)
あなたの一時の隠れ場所には持って来いなのです。