「こころ」1-18 夏目漱石
順位 | 名前 | スコア | 称号 | 打鍵/秒 | 正誤率 | 時間(秒) | 打鍵数 | ミス | 問題 | 日付 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
1 | ヌル | 5638 | A | 6.1 | 92.8% | 394.1 | 2407 | 185 | 47 | 2024/09/26 |
2 | どんぐり | 5572 | A | 6.1 | 91.7% | 397.5 | 2435 | 220 | 47 | 2024/10/02 |
3 | mame | 5097 | B+ | 5.3 | 95.7% | 452.8 | 2415 | 107 | 47 | 2024/11/03 |
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問題文
(せんせいはだいがくしゅっしんであった。これははじめからわたくしにしれていた。)
先生は大学出身であった。これは始めから私に知れていた。
(しかしせんせいのなにもしないであそんでいるということは、)
しかし先生の何もしないで遊んでいるという事は、
(とうきょうへかえってすこしたってからはじめてわかった。)
東京へ帰って少し経ってから始めて分った。
(わたくしはそのときどうしてあそんでいられるのかとおもった。)
私はその時どうして遊んでいられるのかと思った。
(せんせいはまるでせけんになまえをしられていないひとであった。)
先生はまるで世間に名前を知られていない人であった。
(だからせんせいのがくもんやしそうについては、せんせいとみっせつのかんけいをもっている)
だから先生の学問や思想については、先生と密接の関係をもっている
(わたくしよりほかにけいいをはらうもののあるべきはずがなかった。)
私より外に敬意を払うもののあるべきはずがなかった。
(それをわたくしはつねにおしいことだといった。)
それを私は常に惜しい事だといった。
(せんせいはまた「わたしのようなものがよのなかへでて、くちをきいてはすまない」)
先生はまた「私のようなものが世の中へでて、口を利いては済まない」
(とこたえるぎりで、とりあわなかった。)
と答えるぎりで、取り合わなかった。
(わたくしにはそのこたえがけんそんすぎてかえってせけんをれいひょうするようにもきこえた。)
私にはその答えが謙遜過ぎてかえって世間を冷評するようにも聞こえた。
(じっさいせんせいはときどきむかしのどうきゅうせいでいまちょめいになっているだれかれをとらえて、)
実際先生は時々昔の同級生で今著名になっている誰彼を捉えて、
(ひどくぶえんりよなひひょうをくわえることがあった。)
ひどく無遠慮な批評を加える事があった。
(それでわたくしはろこつにそのむじゅんをあげてうんぬんしてみた。)
それで私は露骨にその矛盾を挙げて云々してみた。
(わたくしのせいしんははんこうのいみというよりも、せけんがせんせいをしらないで)
私の精神は反抗の意味というよりも、世間が先生を知らないで
(へいきでいるのがざんねんだったからである。)
平気でいるのが残念だったからである。
(そのときせんせいはしずんだちょうしで、)
その時先生は沈んだ調子で、
(「どうしてもわたしはせけんにむかってはたらきかけるしかくのないおとこだから)
「どうしても私は世間に向かって働き掛ける資格のない男だから
(しかたありません」といった。)
仕方ありません」といった。
(せんせいのかおにはふかいいっしゅのひょうじょうがありありときざまれた。)
先生の顔には深い一種の表情がありありと刻まれた。
(わたくしにはそれがしつぼうだか、ふへいだか、ひあいだか、わからなかったけれども、)
私にはそれが失望だか、不平だか、悲哀だか、解らなかったけれども、
(なにしろにのくのつげないほどにつよいものだったので、)
何しろ二の句の継げないほどに強いものだったので、
(わたくしはそれぎりなにもいうゆうきがでなかった。)
私はそれぎり何もいう勇気が出なかった。
(わたくしがおくさんとはなしているあいだに、もんだいがしぜんせんせいのことからそこへおちてきた。)
私が奥さんと話している間に、問題が自然先生の事からそこへ落ちて来た。
(「せんせいはなぜああやって、うちでかんがえたりべんきょうをしたりなさるだけで、)
「先生はなぜああやって、宅で考えたり勉強をしたりなさるだけで、
(よのなかへでてしごとをなさらないんでしょう」)
世の中へ出て仕事をなさらないんでしょう」
(「あのひとはだめですよ。そういうことがきらいなんですから」)
「あの人は駄目ですよ。そういう事が嫌いなんですから」
(「つまりくだらないことだとさとっていらっしゃるんでしょうか」)
「つまり下らない事だと悟っていらっしゃるんでしょうか」
(「さとるのさとらないのって、ーーそりゃおんなだからわたくしにはわかりませんけれど、)
「悟るの悟らないのって、ーーそりゃ女だからわたくしには解りませんけれど、
(おそらくそんないみじゃないでしょう。やっぱりなにかやりたいのでしょう。)
おそらくそんな意味じゃないでしょう。やっぱり何かやりたいのでしょう。
(それでいてできないんです。だからきのどくですわ」)
それでいてできないんです。だから気の毒ですわ」
(「しかしせんせいはけんこうからいって、べつにどこもわるいところは)
「しかし先生は健康からいって、別にどこも悪いところは
(ないようじゃありませんか」)
ないようじゃありませんか」
(「じょうぶですとも。なんにもじびょうはありません」)
「丈夫ですとも。何にも持病はありません」
(「それでなぜかつどうができないんでしょう」)
「それでなぜ活動ができないんでしょう」
(「それがわからないのよ、あなた。それがわかるくらいならわたしだって、)
「それが解らないのよ、あなた。それが解るくらいなら私だって、
(こんなにしんぱいしやしません。わからないからきのどくでたまらないんです」)
こんなに心配しやしません。わからないから気の毒でたまらないんです」
(おくさんのごきにはひじょうにどうじょうがあった。それでもくちもとだけには)
奥さんの語気には非常に同情があった。それでも口元だけには
(びしょうがみえた。そとがわからいえば、わたくしのほうがむしろまじめだった。)
微笑が見えた。外側からいえば、私の方がむしろ真面目だった。
(わたくしはむずかしいかおをしてだまっていた。)
私はむずかしい顔をして黙っていた。
(するとおくさんがきゅうにおもいだしたようにまたくちをひらいた。)
すると奥さんが急に思い出したようにまた口を開いた。
(「わかいときはあんなひとじゃなかったんですよ。わかいときはまるでちがっていました。)
「若い時はあんな人じゃなかったんですよ。若い時はまるで違っていました。
(それがまったくかわってしまったんです」)
それが全く変わってしまったんです」
(「わかいときっていつごろですか」とわたくしがきいた。)
「若い時っていつ頃ですか」と私が聞いた。
(「しょせいじだいよ」)
「書生時代よ」
(「しょせいじだいからせんせいをしっていらっしゃったんですか」)
「書生時代から先生を知っていらっしゃったんですか」
(おくさんはきゅうにうすあかいかおをした。)
奥さんは急に薄赤い顔をした。