「こころ」1-30 夏目漱石

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(上)先生と私
順位 名前 スコア 称号 打鍵/秒 正誤率 時間(秒) 打鍵数 ミス 問題 日付
1 どんぐり 5802 A+ 6.3 91.9% 296.1 1883 165 36 2024/10/14
2 mame 5141 B+ 5.3 95.5% 346.4 1868 87 36 2024/11/04
3 ぶす 4298 C+ 4.6 92.1% 395.5 1858 158 36 2024/10/15

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問題文

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(はじめてわたくしはりかいのあるにょしょうとしておくさんにたいしていた。)

始めて私は理解のある女性として奥さんに対していた。

(わたくしがそのきではなしているうちに、おくさんのようすがしだいにかわってきた。)

私がその気で話しているうちに、奥さんの様子が次第に変わって来た。

(おくさんはわたくしのずのうにうったえるかわりに、わたくしのはーとをうごかしはじめた。)

奥さんは私の頭脳に訴える代りに、私の心臓を動かし始めた。

(じぶんとおっとのあいだにはなんのわだかまりもない、またないはずであるのに、)

自分と夫の間には何の蟠りもない、またないはずであるのに、

(やはりなにかある。)

やはり何かある。

(それだのにめをあけてみきわめようとすると、やはりなんにもない。)

それだのに眼を開けて見極めようとすると、やはり何にもない。

(おくさんのくにするようてんはここにあった。)

奥さんの苦にする要点はここにあった。

(おくさんはさいしょよのなかをみるせんせいのめがえんせいてきだから、)

奥さんは最初世の中を見る先生の眼が厭世的だから、

(そのけっかとしてじぶんもきらわれているのだとだんげんした。)

その結果として自分も嫌われているのだと断言した。

(そうだんげんしておきながら、ちっともそこにおちついていられなかった。)

そう断言しておきながら、ちっともそこに落ち付いていられなかった。

(そこをわると、かえってそのぎゃくをかんがえていた。)

底を割ると、かえってその逆を考えていた。

(せんせいはじぶんをきらうけっか、とうとうよのなかまでいやになったのだろうと)

先生は自分を嫌う結果、とうとう世の中まで厭になったのだろうと

(すいそくしていた。)

推測していた。

(けれどもどうほねをおっても、そのすいそくをつきとめて)

けれどもどう骨を折っても、その推測を突き留めて

(じじつとすることができなかった。)

事実とする事ができなかった。

(せんせいのたいどはどこまでもおっとらしかった。しんせつでやさしかった。)

先生の態度はどこまでも良人らしかった。親切で優しかった。

(うたがいのかたまりをそのひそのひのじょうあいでつつんで、そっとむねのおくに)

疑いの塊りをその日その日の情合で包んで、そっと胸の奥に

(しまっておいたおくさんは、そのばんそのつつみのなかをわたくしにあけてみせた。)

しまっておいた奥さんは、その晩その包みの中を私に開けて見せた。

(「あなたどうおもって?」ときいた。)

「あなたどう思って?」と聞いた。

(「わたしからああなったのか、それともあなたのいうじんせいかんとか)

「私からああなったのか、それともあなたのいう人世観とか

など

(なんとかいうものから、ああなったのか。かくさずいってちょうだい」)

何とかいうものから、ああなったのか。隠さずいって頂戴」

(わたくしはなにもかくすきはなかった。)

私は何も隠す気はなかった。

(けれどもわたくしのしらないあるものがそこにそんざいしているとすれば、)

けれども私の知らないあるものがそこに存在しているとすれば、

(わたくしのこたえがなにであろうと、それがおくさんをまんぞくさせるはずがなかった。)

私の答えが何であろうと、それが奥さんを満足させるはずがなかった。

(そうしてわたくしはそこにわたくしのしらないあるものがあるとしんじていた。)

そうして私はそこに私の知らないあるものがあると信じていた。

(「わたくしにはわかりません」)

「私には解りません」

(おくさんはよきのはずれたときにみるあわれなひょうじょうをそのとっさにあらわした。)

奥さんは予期の外れた時に見る憐れな表情をその咄嗟に現した。

(わたくしはすぐわたくしのことばをつぎたした。)

私はすぐ私の言葉を継ぎ足した。

(「しかしせんせいがおくさんをきらっていらっしゃらないことだけはほしょうします。)

「しかし先生が奥さんを嫌っていらっしゃらない事だけは保証します。

(わたくしはせんせいじしんのくちからきいたとおりおくさんにつたえるだけです。)

私は先生自身の口から聞いた通り奥さんに伝えるだけです。

(せんせいはうそをつかないかたでしょう」)

先生は嘘を吐かない方でしょう」

(おくさんはなんともこたえなかった。しばらくしてこういった。)

奥さんは何とも答えなかった。しばらくしてこういった。

(「じつはわたしすこしおもいあたることがあるんですけれども・・・」)

「実は私すこし思いあたる事があるんですけれども…」

(「せんせいがああいうふうになったげんいんについてですか」)

「先生がああいう風になった源因についてですか」

(「ええ。もしそれがげんいんだとすれば、わたしのせきにんだけはなくなるんだから、)

「ええ。もしそれが源因だとすれば、私の責任だけはなくなるんだから、

(それだけでもわたしたいへんらくになれるんですが、・・・」)

それだけでも私大変楽になれるんですが、…」

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