山本周五郎 赤ひげ診療譚 三度目の正直 12
順位 | 名前 | スコア | 称号 | 打鍵/秒 | 正誤率 | 時間(秒) | 打鍵数 | ミス | 問題 | 日付 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
1 | zero | 6359 | S | 6.5 | 97.4% | 413.1 | 2699 | 72 | 62 | 2024/12/16 |
2 | LINK | 5046 | B+ | 5.2 | 95.9% | 521.6 | 2749 | 117 | 62 | 2024/12/21 |
3 | baru | 3787 | D++ | 4.2 | 89.7% | 631.5 | 2701 | 309 | 62 | 2024/11/21 |
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問題文
(「あっしはできるだけそっぽをむいてました」とうきちはさかずきをぐっとあおった、)
「あっしはできるだけそっぽを向いてました」藤吉は盃をぐっと呷った、
(「けれども、つまるところはこっちのまけです、)
「けれども、つまるところはこっちの負けです、
(しんぼうくらべではてんでしょうぶにはならねえ、あっしはいなばへかけあいにいきました」)
辛抱比べではてんで勝負にはならねえ、あっしはいなばへ掛合いにいきました」
(それはふしんのひきわたしをするにさんにちまえのことで、おせいはしょうちをし、)
それは普請の引渡しをする二三日まえのことで、おせいは承知をし、
(いのとふたりではなしたいといった。)
猪之と二人で話したいと云った。
(おせいのほうでもいのがすきで、)
おせいのほうでも猪之が好きで、
(いのさんのようなひととならくろうをしてみたいと、)
猪之さんのような人となら苦労をしてみたいと、
(「まえからかたおもいにおもっていたんですよ」などというのであった。)
「まえから片想いに想っていたんですよ」などと云うのであった。
(ーーいいつらのかわだ。とうきちはそのはなしをいのにつげてからいった。)
ーーいい面の皮だ。藤吉はその話を猪之に告げてから云った。
(まるでひとののろけのつかいをするようなもんだ、)
まるで人ののろけの使いをするようなもんだ、
(じぶんでじぶんのおひとよしにあいそがつきたぜ。)
自分で自分のお人好しにあいそがつきたぜ。
(ーーすまねえ、といのはあたまをさげた。)
ーー済まねえ、と猪之は頭をさげた。
(ーーごあいさつだな、それっきりか。)
ーー御挨拶だな、それっきりか。
(ーーまったくすまねえ。)
ーーまったく済まねえ。
(みるといのはしらけたかおで、はずんだようなようすはすこしもかんじられなかった。)
見ると猪之はしらけた顔で、はずんだようなようすは少しも感じられなかった。
(いってはなしてこい、ととうきちはいった。)
いって話して来い、と藤吉は云った。
(もうにさんにちするとえどへひきあげるんだ、いそがねえとおいてっちまうぜ。)
もう二三日すると江戸へ引揚げるんだ、いそがねえと置いてっちまうぜ。
(うん、そうしよう、といのはこたえた。)
うん、そうしよう、と猪之は答えた。
(そうしよう、いってあいつとはなしてこよう。)
そうしよう、いってあいつと話して来よう。
(「いのはでかけてゆきましたが、はんときばかりするとかえってきて、)
「猪之はでかけてゆきましたが、半刻ばかりすると帰って来て、
(おれはこれからすぐ、ひとあしさきにえどへたつ、といいだしました」)
おれはこれからすぐ、一と足先に江戸へ立つ、と云いだしました」
(とうきちはあっけにとられた。)
藤吉はあっけにとられた。
(ーーあいつがいっしょにえどへゆくっていうんだ、)
ーーあいつがいっしょに江戸へゆくって云うんだ、
(じょうだんじゃあねえ、といのはそわそわしながらいった。)
冗談じゃあねえ、と猪之はそわそわしながら云った。
(ねこをつがわせやあしめえし、)
猫を番(つが)わせやあしめえし、
(そうおいそれとせおわされてたまるかってんだ、)
そうおいそれと背負わされて堪るかってんだ、
(じょうだんじゃあねえ、まっぴらごめんだ。)
冗談じゃあねえ、まっぴら御免だ。
(ーーおい、おちついてわけをはなせ、いったいどういうことなんだ。)
ーーおい、おちついてわけを話せ、いったいどういうことなんだ。
(そんなひまはない、といのはこたえた。)
そんな暇はない、と猪之は答えた。
(わけはえどへかえってからはなす、おせいのやつおこってたから、)
わけは江戸へ帰ってから話す、おせいのやつ怒ってたから、
(ここへおしかけてくるかもしれない。)
ここへ押しかけて来るかもしれない。
(もしやってきたらおいかえしてくれ、ともかくおれはさきにたたせてもらうから。)
もしやって来たら追い返してくれ、ともかくおれは先に立たせてもらうから。
(そういいながらさっとみじたくをし、)
そう云いながらさっと身支度をし、
(わらじのおもろくさましめずにとびだしていった。)
草鞋(わらじ)の緒もろくさましめずにとびだしていった。
(そして、とうきちがおこるにもおこれず、すわったままうなっていると、)
そして、藤吉が怒るにも怒れず、坐ったまま唸っていると、
(ひきかえしてきたいのがとぐちからのぞき、)
引返して来た猪之が戸口から覗き、
(べそをかくようなあいそわらいをして、さった。)
べそをかくようなあいそ笑いをして、去った。
(ーーあにき、えどへかえったらおれを、きのすむまでぶんなぐってくれ。)
ーーあにき、江戸へ帰ったらおれを、気の済むまでぶん殴ってくれ。
(おせいはこなかった。)
おせいは来なかった。
(おしかけてはこなかったが、しょくにんがのみにいったら、)
押しかけては来なかったが、職人が飲みにいったら、
(よっぱらってさんざんにどくづいたそうである。)
酔っぱらってさんざんに毒づいたそうである。
(あんなやつはおとこではないからはじまって、)
あんなやつは男ではないから始まって、
(えどのにんげんぜんたいをどろまみれにし、こなごなにし、)
江戸の人間ぜんたいを泥まみれにし、粉ごなにし、
(「どそくでふみにじるようなあんばいだった」ということであった。)
「土足で踏みにじるようなあんばいだった」ということであった。
(「これでひととおりのはなしはおわりです」ととうきちはにほんめのとっくりをとって、)
「これでひととおりの話は終りです」と藤吉は二本めの徳利を取って、
(てじゃくでそそぎながらいった、「えどへかえってからまもなく、)
手酌で注ぎながら云った、「江戸へ帰ってからまもなく、
(あっしのほうのえんだんがきゅうにすすんで、ごがつのすえにおちよをもらい、)
あっしのほうの縁談が急に進んで、五月の末におちよを貰い、
(あっしたちはさくまちょうのいまのうちへうつりました」)
あっしたちは佐久間町のいまのうちへ移りました」
(「その」とのぼるがきいた、「みとのおせいとはどういうことがあったんだ」)
「その」と登が訊いた、「水戸のおせいとはどういうことがあったんだ」
(「なんにもなかったんです」ととうきちはこたえた、)
「なんにもなかったんです」と藤吉は答えた、
(「いのがはなしにゆくと、おくにこべやがあるんですが、おせいはそこへあんないして、)
「猪之が話しにゆくと、奥に小部屋があるんですが、おせいはそこへ案内して、
(いきなりうれしいわとだきついた、)
いきなりうれしいわと抱きついた、
(もうすぐえどへかえるそうだけれど、そのときいっしょにつれていってくれ、)
もうすぐ江戸へ帰るそうだけれど、そのときいっしょに伴れていってくれ、
(だますとしょうちしないといったそうです」)
騙すと承知しないと云ったそうです」
(「それでまたいやになったのか」)
「それでまたいやになったのか」
(「まったくりくつにあやあしねえ」ととうきちはいった、)
「まったく理屈に合やあしねえ」と藤吉は云った、
(「こっちからほれていて、かみさんにほしいとまでおもいこんでいながら、)
「こっちから惚れていて、かみさんに欲しいとまで思いこんでいながら、
(あいてがちょっとなにかいうと、)
相手がちょっとなにか云うと、
(ーーそれもあいじょうがいわせるごくあたりまえなことなのに、)
ーーそれも愛情が云わせるごくあたりまえなことなのに、
(そのひとことでがらっとかわっちまう、)
その一と言でがらっと変っちまう、
(おぞけをふるうほどきらいになっちまうんですから、)
おぞ毛をふるうほど嫌いになっちまうんですから、
(あっしにはそのきもちがどうしてもわかりません」)
あっしにはその気持がどうしてもわかりません」