「こころ」1-54 夏目漱石
順位 | 名前 | スコア | 称号 | 打鍵/秒 | 正誤率 | 時間(秒) | 打鍵数 | ミス | 問題 | 日付 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
1 | berry | 7454 | 光 | 7.6 | 97.4% | 227.1 | 1739 | 46 | 36 | 2024/09/20 |
2 | デコポン | 6946 | S++ | 7.0 | 98.0% | 246.9 | 1750 | 35 | 36 | 2024/09/11 |
3 | 饅頭餅美 | 5402 | B++ | 5.6 | 95.5% | 310.4 | 1759 | 82 | 36 | 2024/09/14 |
4 | ぶす | 4359 | C+ | 4.8 | 91.5% | 363.1 | 1745 | 162 | 36 | 2024/09/26 |
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問題文
(わたくしはせんせいといっしょに、こうがいのうえきやのひろいにわのおくではなした、)
私は先生といっしょに、郊外の植木屋の広い庭の奥で話した、
(あのつつじのさいているごがつのはじめをおもいだした。)
あの躑躅の咲いている五月の初めを思い出した。
(あのときかえりみちに、せんせいがこうふんしたごきで、わたくしにものがたったつよいことばを、)
あの時帰り途に、先生が昂奮した語気で、私に物語った強い言葉を、
(ふたたびみみのそこでくりかえした。)
再び耳の底で繰り返した。
(それはつよいばかりでなく、むしろすごいことばであった。)
それは強いばかりでなく、むしろ凄い言葉であった。
(けれどもじじつをしらないわたくしにはどうじにてっていしないことばでもあった。)
けれども事実を知らない私には同時に徹底しない言葉でもあった。
(「おくさん、おたくのざいさんはよっぽどあるんですか」)
「奥さん、お宅の財産はよっぽどあるんですか」
(「なんだってそんなことをおききになるの」)
「何だってそんな事をお聞きになるの」
(「せんせいにきいてもおしえてくださらないから」)
「先生に聞いても教えて下さらないから」
(おくさんはわらいながらせんせいのかおをみた。)
奥さんは笑いながら先生の顔を見た。
(「おしえてあげるほどないからでしょう」)
「教えて上げるほどないからでしょう」
(「でもどのくらいあったらせんせいのようにしていられるか、うちへかえって)
「でもどのくらいあったら先生のようにしていられるか、宅へ帰って
(ひとつちちにだんぱんするときのさんこうにしますからきかしてください」)
一つ父に談判する時の参考にしますから聞かして下さい」
(せんせいはにわのほうをむいて、すましてたばこをふかしていた。)
先生は庭の方を向いて、澄まして煙草を吹かしていた。
(あいてはしぜんおくさんでなければならなかった。)
相手は自然奥さんでなければならなかった。
(「どのくらいってほどありゃしませんわ。まあこうしてどうかこうか)
「どのくらいってほどありゃしませんわ。まあこうしてどうかこうか
(くらしてゆかれるだけよ、あなた。ーーそりゃどうでもいいとして、)
暮してゆかれるだけよ、あなた。ーーそりゃどうでも宜いとして、
(あなたはこれからなにかなさらなくっちゃほんとうにいけませんよ。)
あなたはこれから何か為さらなくっちゃ本当にいけませんよ。
(せんせいのようにごろごろばかりしていちゃ・・・」)
先生のようにごろごろばかりしていちゃ…」
(「ごろごろばかりしてやいないさ」)
「ごろごろばかりしてやいないさ」
(せんせいはちょっとかおだけむけなおして、おくさんのことばをひていした。)
先生はちょっと顔だけ向け直して、奥さんの言葉を否定した。
(わたくしはそのよるじゅうじすぎにせんせいのうちをじした。)
私はその夜十時過ぎに先生の家を辞した。
(に、さんにちうちにきこくするはずになっていたので、ざをたつまえにわたくしはちょっと)
二、三日うちに帰国するはずになっていたので、座を立つ前に私はちょっと
(いとまごいのことばをのべた。)
暇乞いの言葉を述べた。
(「またとうぶんおめにかかれませんから」)
「また当分お目にかかれませんから」
(「くがつにはでていらっしゃるんでしょうね」)
「九月には出ていらっしゃるんでしょうね」
(わたくしはもうそつぎょうしたのだから、かならずくがつにでてくるひつようもなかった。)
私はもう卒業したのだから、必ず九月に出て来る必要もなかった。
(しかしあついさかりのはちがつをとうきょうまできておくろうともかんがえていなかった。)
しかし暑い盛りの八月を東京まで来て送ろうとも考えていなかった。
(わたくしにはいちをもとめるためのきちょうなじかんというものがなかった。)
私には位置を求めるための貴重な時間というものがなかった。
(「まあくがつごろになるでしょう」)
「まあ九月頃になるでしょう」
(「じゃずいぶんごきげんよう。わたしたちもこのなつはことによるとどこかへいくかも)
「じゃずいぶんご機嫌よう。私たちもこの夏はことによるとどこかへ行くかも
(しれないのよ。ずいぶんあつそうだから。)
知れないのよ。ずいぶん暑そうだから。
(いったらまたえはがきでもおくってあげましょう」)
行ったらまた絵端書でも送って上げましょう」
(「どちらのけんとうです。もしいらっしゃるとすれば」)
「どちらの見当です。もしいらっしゃるとすれば」
(せんせいはこのもんどうをにやにやわらってきいていた。)
先生はこの問答をにやにや笑って聞いていた。
(「なにまだいくともいかないともきめていやしないんです」)
「何まだ行くとも行かないとも極めていやしないんです」