一塊の土 4/4

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投稿者投稿者鳴きウサギ(鹿の声)いいね1お気に入り登録
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芥川龍之介

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(おすみはおもわずめをひらいた。まごはかのじょのすぐとなりにたあいのないねがおをあおむけていた。)

お住は思はず目を開いた。孫は彼女のすぐ隣に多愛のない寝顔を仰向けてゐた。

(おすみはそのねがおをみているうちにだんだんこういう かのじょじしんをなさけないにんげんにかんじ)

お住はその寝顔を見てゐるうちにだんだんかう云ふ彼女自身を情ない人間に感じ

(だした。どうじにまたかのじょとあくえんをむすんだせがれのにたろうやよめのおたみもなさけないにんげんにかんじ)

出した。同時に又彼女と悪縁を結んだ倅の仁太郎や嫁のお民も情ない人間に感じ

(だした。そのへんかはみるみるくねんかんのにくしみやいかりをおしながした。いや、)

出した。その変化は見る見る九年間の憎しみや怒りを押し流した。いや、

(かのじょをなぐさめていたしょうらいのこうふくさえおしながした。かれらおやこはさんにんともことごとくなさけない)

彼女を慰めてゐた将来の幸福さへ押し流した。彼等親子は三人とも悉く情ない

(にんげんだった。が、そのなかにたったひとりいきはじをさらしたかのじょじしんはもっともなさけないにんげん)

人間だつた。が、その中にたつた一人生恥を曝した彼女自身は最も情ない人間

(だった。「おたみ、おまえなぜしんでしまっただ?」ーーおすみはわれしらずくちのうちに)

だつた。「お民、お前なぜ死んでしまつただ?」ーーお住は我知らず口のうちに

(こうしんぼとけへはなしかけた。するときゅうにとめどもなしにぽたぽたなみだがこぼれ)

かう新仏へ話しかけた。すると急にとめどもなしにぽたぽた涙がこぼれ

(はじめた。・・・・・・)

はじめた。……

(おすみはよじをきいたあと、やっとひろうしたねむりにはいった。しかしもうそのときには)

お住は四時を聞いた後、やつと疲労した眠りにはひつた。しかしもうその時には

(このいっかのかややねのそらもひややかにあかつきをむかえだしていた。・・・・・・)

この一家の茅屋根の空も冷やかに暁を迎へ出してゐた。……

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