緋のエチュード 28

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タグ小説 文学
シャーロックホームズシリーズ第一弾

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問題文

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(こういうざったなしゅうだんのあいだを、)

こういう雑多な集団の間を、

(じゅくれんのわざをもったきしゅをせにしたいっとうのうまがぬうようにすすんでいた。)

熟練の技を持った騎手を背にした一頭の馬が縫うように進んでいた。

(うまをかけあしではしらせていたのはるーしーふぇりあーだった。)

馬を駆け足で走らせていたのはルーシー・フェリアーだった。

(うつくしいかおはうんどうでほてり、くりいろのながいかみはうしろになびいていた。)

美しい顔は運動で火照り、栗色の長い髪は後ろになびいていた。

(かのじょはちちからまちでのしごとをいらいされていた。)

彼女は父から街での仕事を依頼されていた。

(そしてたのまれたしごとをきちんとおわらせたいいっしんで、)

そして頼まれた仕事をきちんと終わらせたい一心で、

(それまでなんどとなくこなしてきたつかいとおなじように、)

それまで何度となくこなしてきた使いと同じように、

(まったくおそれをしらないわかさでうまをとばしていた。)

まったく恐れを知らない若さで馬を飛ばしていた。

(たびによごれたぼうけんしゃたちは、おどろいてかのじょをみおくった。)

旅に汚れた冒険者達は、驚いて彼女を見送った。

(けがわのふくをきてたびをする、ひょうじょうをおもてにださないいんでぃあんでさえ、)

毛皮の服を着て旅をする、表情を表に出さないインディアンでさえ、

(このいろじろのじょせいのうつくしさにきょうたんし、ふだんのへいせいさをくずした。)

この色白の女性の美しさに驚嘆し、普段の平静さを崩した。

(かのじょはまちのはずれにまでとうちゃくしていた。そのときかのじょは、)

彼女は街の外れにまで到着していた。その時彼女は、

(あらっぽいふうさいのぼくふがろくにんがかりでひきつれている)

荒っぽい風采の牧夫が六人がかりで引き連れている

(おおきなうしのむれがみちをふさいでいるのにきづいた。いらだったかのじょは、)

大きな牛の群れが道を塞いでいるのに気づいた。苛立った彼女は、

(すきまがあいたようにみえたばしょにうまをすすめて)

隙間が開いたように見えた場所に馬を進めて

(このしょうがいぶつをとおりぬけようとした。)

この障害物を通り抜けようとした。

(しかしほとんどまえにすすめないうちに、うしろからもうしがちかづいてきて、)

しかしほとんど前に進めないうちに、後ろからも牛が近づいてきて、

(あらあらしいめをしたつののながいおうしのながれのなかに)

荒々しい目をした角の長い牡牛の流れの中に

(かんぜんにとりかこまれてしまった。かのじょはうしをあつかうのになれていたので、)

完全に取り囲まれてしまった。彼女は牛を扱うのに慣れていたので、

(こんなじょうきょうになってもたすけをよばず、)

こんな状況になっても助けを呼ばず、

など

(いろいろなちゃんすをたくみにかつようして、うまをまえにすすめ、)

色々なチャンスを巧みに活用して、馬を前に進め、

(ぎょうれつをとおりぬけようとした。ぐうぜんかこいかわからないが、)

行列を通り抜けようとした。偶然か故意か分からないが、

(ふこうにもいっとうのうしのつのがうまのわきばらをはげしくつき、うまはしょうきをうしなった。)

不幸にも一頭の牛の角が馬の脇腹を激しく突き、馬は正気を失った。

(そのしゅんかん、うまはいかりのはないきあらく、うしろあしでたちあがってとびはねた。)

その瞬間、馬は怒りの鼻息荒く、後ろ足で立ち上がって飛び跳ねた。

(じゅくれんののりてでなかったらなげだされていたにちがいない。)

熟練の乗り手でなかったら投げ出されていたに違いない。

(ぜったいぜつめいのじょうきょうだった。こうふんしたうまがつっこむたびに、)

絶体絶命の状況だった。興奮した馬が突っ込むたびに、

(またつのにぶつかり、よけいにきょうらんすることになった。)

また角にぶつかり、余計に狂乱する事になった。

(じょせいにできたことはただ、くらにつかまっていることだけだった。)

女性にできたことはただ、鞍に捕まっていることだけだった。

(もしすべりおちれば、)

もし滑り落ちれば、

(おそれおののいてせいぎょふのうになったどうぶつのひづめにふまれる)

恐れおののいて制御不能になった動物の蹄に踏まれる

(おそろしいしがまっていた。とつぜんのひじょうじたいになれていなかったので、)

恐ろしい死が待っていた。突然の非常事態に慣れていなかったので、

(かのじょはあたまがくらくらし、たづなをにぎるてがゆるんだ。まいあがるすなぼこりと、)

彼女は頭がクラクラし、手綱を握る手が緩んだ。舞い上がる砂埃と、

(もがくうまのねっきでいきができなくなってきた。もし、)

もがく馬の熱気で息が出来なくなってきた。もし、

(すぐとなりからやさしいこえがきこえて、たすけがきたことにきづいていなければ、)

すぐ隣から優しい声が聞こえて、助けが来た事に気づいていなければ、

(かのじょはぜつぼうしてふんとうするのをあきらめていたかもしれなかった。)

彼女は絶望して奮闘するのを諦めていたかもしれなかった。

(そのこえとどうじに、)

その声と同時に、

(すじばったかっしょくのてがおそれおののくうまのくつわをつかみ、)

筋張った褐色の手が恐れおののく馬のくつわをつかみ、

(むれのなかをむりやりにすすませて、)

群れの中を無理やりに進ませて、

(まもなくうしのすがたがまばらになるところまでかのじょをつれていった。)

まもなく牛の姿がまばらになる所まで彼女を連れて行った。

(「けががなければいいが、おじょうさん」きゅうじょにんはれいぎただしくいった。)

「怪我がなければいいが、お嬢さん」救助人は礼儀正しく言った。

(かのじょはそのおとこのくろいせいかんなかおをみあげ、げんきよくわらった。)

彼女はその男の黒い精悍な顔を見上げ、元気よく笑った。

(「ほんとうにこわかったわ」かのじょはむじゃきにいった。)

「本当に怖かったわ」彼女は無邪気に言った。

(「ぽんちょがうしのむれをこわがるなんて、だれがそうぞうしたでしょう?」)

「ポンチョが牛の群れを怖がるなんて、誰が想像したでしょう?」

(「くらからおちなくて、たすかったな」おとこがしんけんにいった。)

「鞍から落ちなくて、助かったな」男が真剣に言った。

(かれはせのたかいそやなかんじのせいねんで、ちからづよいあしげのうまにまたがり、)

彼は背の高い粗野な感じの青年で、力強い葦毛の馬にまたがり、

(あらっぽいかりうどのふくにみをつつみ、ながいらいふるじゅうをせおっていた。)

荒っぽい狩人の服に身を包み、長いライフル銃を背負っていた。

(「じょんふぇりあーのむすめさんとみたが」かれはいった。)

「ジョン・フェリアーの娘さんと見たが」彼は言った。

(「そのうまはおとうさんのうまだろう。おとうさんにあったら、)

「その馬はお父さんの馬だろう。お父さんに会ったら、

(せんとるいすのじぇふぁーそんほーぷいっかをおぼえているか)

セントルイスのジェファーソン・ホープ一家を覚えているか

(きいてみてくれ。もしおれのおもっているふぇりあーさんなら、)

聞いてみてくれ。もし俺の思っているフェリアーさんなら、

(おれのちちときみのおとうさんはすごくしたしかったはずだ」)

俺の父と君のお父さんはすごく親しかったはずだ」

(「うちにきてじぶんできいたほうがよくない?」かのじょはえんりょがちにたずねた。)

「家に来て自分で聞いたほうが良くない?」彼女は遠慮がちに尋ねた。

(せいねんはこのていあんがうれしかったようで、くろいめがよろこびにかがやいた。)

青年はこの提案が嬉しかったようで、黒い目が喜びに輝いた。

(「そうしよう」かれはいった。「やまににかげつもはいっていたので、)

「そうしよう」彼は言った。「山に二ヶ月も入っていたので、

(とてもたずねていけるじょうたいじゃない。)

とても訪ねていける状態じゃない。

(ありのままのおれをみてもらうしかないな」)

ありのままの俺を見てもらうしかないな」

(「おとうさんはうんとかんしゃするわ。わたしもだけど」かのじょはこたえた。)

「お父さんはうんと感謝するわ。私もだけど」彼女は答えた。

(「おとうさんはとてもわたしをあいしているの。)

「お父さんはとても私を愛しているの。

(もしあのうしたちにふみつけられていたら、)

もしあの牛達に踏みつけられていたら、

(きっとたちなおれなかったでしょう」)

きっと立ち直れなかったでしょう」

(「おれもだ」おとこがいった。)

「俺もだ」男が言った。

(「あなたが!どちらにしてもあなたにはたいしたもんだいじゃないとおもうけど。)

「あなたが!どちらにしてもあなたにはたいした問題じゃないと思うけど。

(あなたはわたしたちのしりあいでもないし」)

あなたは私たちの知り合いでもないし」

(このへんとうをきいて、)

この返答を聞いて、

(ひにやけたわかいかりうどがひじょうにしょげたかおをしたので、)

日に焼けた若い狩人が非常にしょげた顔をしたので、

(るーしーふぇりあーはおおごえでわらいだした。)

ルーシー・フェリアーは大声で笑いだした。

(「じょうだんよ」かのじょはいった。「もちろん、あなたはもうともだちよ。)

「冗談よ」彼女は言った。「もちろん、あなたはもう友達よ。

(ぜひきてね。さあいそがなきゃ。)

ぜひ来てね。さあ急がなきゃ。

(おとうさんがわたしをしんようしてしごとにつかってくれなくなるわ。さようなら」)

お父さんが私を信用して仕事に使ってくれなくなるわ。さようなら」

(「さようなら」かれはそんぶれろをかかげて、)

「さようなら」彼はソンブレロを掲げて、

(かのじょのちいさなてにかがみこんでこたえた。かのじょはうまをまわしてむちをくれ、)

彼女の小さな手にかがみ込んで答えた。彼女は馬を回して鞭をくれ、

(もうもうとすなぼこりをまいあげてひろいみちをかけだしていった。)

もうもうと砂埃を舞い上げて広い道を駆け出していった。

(じぇふぁーそんほーぷは、いんきでむくちななかまたちとうまをはしらせていた。)

ジェファーソン・ホープは、陰気で無口な仲間達と馬を走らせていた。

(かれらはぎんをもとめてねばださんみゃくにわけいっていた。)

彼らは銀を求めてネバダ山脈に分け入っていた。

(そしてはっけんしたこうみゃくをほるしきんをあつめようとして)

そして発見した鉱脈を掘る資金を集めようとして

(そるとれいくしてぃにもどるところだった。かれは、)

ソルトレイクシティに戻るところだった。彼は、

(このとつぜんのじけんによってかんがえがべつのほうこうをむくまで、)

この突然の事件によって考えが別の方向を向くまで、

(だれよりもこうざんのしごとにねっちゅうしていた。)

誰よりも鉱山の仕事に熱中していた。

(やまのかぜのようにそっちょくでけんこうそうなうつくしいわかいじょせいをめにして、)

山の風のように率直で健康そうな美しい若い女性を目にして、

(かれはこれまできづかなかったこころのおくそこまではげしくかんじょうをみだされた。)

彼はこれまで気づかなかった心の奥底まで激しく感情を乱された。

(かのじょがしかいからきえたとき、)

彼女が視界から消えた時、

(かれはじゅうだいなじんせいのてんかんてんがおとずれたことにきづいた。ぎんにたいするとうきも、)

彼は重大な人生の転換点が訪れた事に気付いた。銀に対する投機も、

(それいがいのどんなもんだいも、いまおとずれたこのだいじけんにくらべれば、)

それ以外のどんな問題も、今訪れたこの大事件に比べれば、

(それほどじゅうようではなくなった。かれのこころにとつぜんうまれたあいは、)

それほど重要ではなくなった。彼の心に突然生まれた愛は、

(しょうねんにありがちなとつぜんのきまぐれではなく、)

少年にありがちな突然の気まぐれではなく、

(つよいけついとじそんしんをもったおとこの、はげしくあらあらしいしょうどうだった。かれは、)

強い決意と自尊心を持った男の、激しく荒々しい衝動だった。彼は、

(てがけたことはぜんぶせいこうするのになれていた。かれはこころのなかでちかった。)

手がけた事は全部成功するのに慣れていた。彼は心の中で誓った。

(もしどりょくとにんたいでせいこうがえられるなら、ぜったいにそうしてみせると。)

もし努力と忍耐で成功が得られるなら、絶対にそうしてみせると。

(かれはそのよるじょんふぇりあーをたずねた。)

彼はその夜ジョン・フェリアーを訪ねた。

(そしてそれからなんどとなくほうもんするうち、)

そしてそれから何度となく訪問するうち、

(かれはいえのいちいんのようにしたしくなった。)

彼は家の一員のように親しくなった。

(じょんはこのたににとじこもってしごとにぼっとうしており、)

ジョンはこの谷に閉じこもって仕事に没頭しており、

(この12ねんかんそとのせかいのできごとをしるちゃんすはほとんどなかった。)

この12年間外の世界の出来事を知るチャンスはほとんどなかった。

(じぇふぁーそんほーぷはなんでもしっており、)

ジェファーソン・ホープは何でも知っており、

(るーしーとどうようちちもかれにきょうみをひかれた。)

ルーシーと同様父も彼に興味を引かれた。

(かれはかりふぉるにあのかいたくしゃで、あらっぽいふるきよきじだいに、)

彼はカリフォルニアの開拓者で、荒っぽい古きよき時代に、

(やまをあてたり、)

山を当てたり、

(よにげしたりするおかしなはなしをいくらでもすることができた。)

夜逃げしたりするおかしな話をいくらでもする事が出来た。

(かれはていさつへいもしていた。りょうしも、ぎんのやましも、)

彼は偵察兵もしていた。猟師も、銀の山師も、

(そしてのうじょうけいえいもやったことがあった。どんなばしょでも、)

そして農場経営もやったことがあった。どんな場所でも、

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