『朝』太宰治2【完】

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プレイ回数1039難易度(4.5) 2984打 長文
酒と女に溺れた男の話
※分かりやすくする為、表記等を一部改変しております

↓のURLからの続きですので、未プレイの方はプレイしてから
こちらのタイピングをしてください
https://typing.twi1.me/game/293599
順位 名前 スコア 称号 打鍵/秒 正誤率 時間(秒) 打鍵数 ミス 問題 日付
1 てんぷり 5414 B++ 5.6 96.4% 522.3 2936 108 57 2024/10/03

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問題文

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(あしをすこしうごかして、じぶんがたびをはいているままでねているのにきづいて、)

足を少し動かして、自分が足袋を履いているままで寝ているのに気づいて、

(はっとした。しまった。いけねえ。)

はっとした。しまった。いけねえ。

(ああ、このようなけいけんを、わたしはこれまでなんびゃっかい、なんぜんかい、くりかえしたことか。)

ああ、このような経験を、私はこれまで何百回、何千回、繰り返した事か。

(わたしは、うなった。さむくありませんかと、きくちゃんがくらやみのなかでいった。)

私は、唸った。寒くありませんかと、キクちゃんが暗闇の中で言った。

(わたしとちょっかくに、こたつにあしをつっこんでねているようである。)

私と直角に、コタツに足を突っ込んで寝ているようである。

(「いや、さむくない」わたしはじょうはんしんをおこして、)

「いや、寒くない」私は上半身を起こして、

(まどからしょうべんしてもいいかねといった。)

窓から小便してもいいかねと言った。

(「かまいませんわ、そのほうがかんたんでいいわ」)

「構いませんわ、そのほうが簡単でいいわ」

(「きくちゃんも、ときどきやるんじゃねえか」)

「キクちゃんも、時々やるんじゃねえか」

(わたしはたちあがって、でんとうのすいっちをひねった。つかない。)

私は立ち上って、電灯のスイッチをひねった。つかない。

(ていでんですのと、きくちゃんがこごえでいった。)

停電ですのと、キクちゃんが小声で言った。

(わたしはてさぐりで、そろそろまどのほうにいき、きくちゃんのからだにつまずいた。)

私は手探りで、そろそろ窓のほうに行き、キクちゃんの体につまずいた。

(きくちゃんは、じっとしていた。)

キクちゃんは、じっとしていた。

(こりゃいけねえと、わたしはひとりごとのようにつぶやき、)

こりゃいけねえと、私は独り言のようにつぶやき、

(やっとまどのかーてんにさわって、まどをすこしあけ、りゅうすいのおとをたてた。)

やっと窓のカーテンに触って、窓を少し開け、流水の音をたてた。

(「きくちゃんのつくえのうえに、くれーヴのおくがたというほんがあったね」)

「キクちゃんの机の上に、クレーヴの奥方という本があったね」

(わたしはまたさっきとおなじように、からだをよこたえながらいう。)

私はまたさっきと同じように、体を横たえながら言う。

(「あのころのきふじんはね、きゅうでんのおにわや、またろうかのかいだんのしたのくらいところなどで、)

「あの頃の貴婦人はね、宮殿のお庭や、また廊下の階段の下の暗い所などで、

(へいきでしょうべんをしたものなんだ。まどからしょうべんをするということも。)

平気で小便をしたものなんだ。窓から小便をするという事も。

(だから、ほんらいはきぞくてきなことなんだ」)

だから、本来は貴族的な事なんだ」

など

(「おさけをおのみになるんだったら、ありますわ。)

「お酒をお飲みになるんだったら、ありますわ。

(きぞくは、ねながらのむんでしょう」)

貴族は、寝ながら飲むんでしょう」

(のみたかった。しかし、のんだらあぶないとおもった。)

飲みたかった。しかし、飲んだら危ないと思った。

(「いや、きぞくはあんこくをいとうものだ、がんらいがおくびょうなんだからね。)

「いや、貴族は暗黒をいとうものだ、元来が臆病なんだからね。

(くらいと、こわくてだめなんだ。ろうそくがないかね。)

暗いと、怖くて駄目なんだ。蝋燭が無いかね。

(ろうそくをつけてくれたら、のんでもいい」)

蝋燭をつけてくれたら、飲んでもいい」

(きくちゃんはだまっておきた。そうして、ろうそくにひをつけた。わたしは、ほっとした。)

キクちゃんは黙って起きた。そうして、蝋燭に火をつけた。私は、ほっとした。

(もうこれでこんやは、なにごともしでかさずにすむとおもった。)

もうこれで今夜は、何事もしでかさずにすむと思った。

(「どこへおきましょう」「しょくだいはたかきにおけ、とばいぶるにあるから、)

「どこへ置きましょう」「燭台は高きに置け、とバイブルにあるから、

(たかいところがいい。そのほんだなのうえはどうだろう」「おさけは、こっぷでのみますか」)

高い所がいい。その本棚の上はどうだろう」「お酒は、コップで飲みますか」

(「しんやのさけは、こっぷにそそげ、とばいぶるにある」)

「深夜の酒は、コップにそそげ、とバイブルにある」

(わたしはうそをいった。きくちゃんは、にやにやわらいながら、)

私は嘘を言った。キクちゃんは、にやにや笑いながら、

(おおきいこっぷにおさけをなみなみとそそいで、もってきた。)

大きいコップにお酒をなみなみとそそいで、持って来た。

(「まだ、もういっぱいぶんくらいございますわ」「いや、これだけでいい」)

「まだ、もう一杯分くらいございますわ」「いや、これだけでいい」

(わたしはこっぷをうけとって、ぐいぐいのんで、のみほし、あおむけにねた。)

私はコップを受け取って、ぐいぐい飲んで、飲みほし、仰向けに寝た。

(「さあ、もうひとねむりだ。きくちゃんもおやすみ」)

「さあ、もう一眠りだ。キクちゃんもおやすみ」

(きくちゃんもあおむけに、わたしとちょっかくにねて、そうしてまつげのながいおおきいめを、)

キクちゃんも仰向けに、私と直角に寝て、そうしてまつげの長い大きい目を、

(しきりにぱちぱちさせてねむりそうもない。)

しきりにパチパチさせて眠りそうもない。

(わたしはだまってほんだなのうえの、ろうそくのほのおをみた。ほのおはいきもののように、のびたり)

私は黙って本棚の上の、蝋燭の炎を見た。炎は生き物のように、伸びたり

(ちぢんだりして、うごいている。みているうちにわたしは、)

縮んだりして、動いている。見ているうちに私は、

(ふとあることにおもいいたり、きょうふした。「このろうそくはみじかいね。)

ふとある事に思いいたり、恐怖した。「この蝋燭は短いね。

(もうすぐ、なくなるよ。もっとながいろうそくはないのかね」「それだけですの」)

もうすぐ、なくなるよ。もっと長い蝋燭は無いのかね」「それだけですの」

(わたしはだまった。てんにいのりたいきもちであった。)

私は黙った。天に祈りたい気持ちであった。

(あのろうそくがつきないうちにわたしがねむるか、)

あの蝋燭が尽きないうちに私が眠るか、

(またはこっぷいっぱいのよいがさめてしまうか、どちらかでないと、)

またはコップ一杯の酔いが覚めてしまうか、どちらかでないと、

(きくちゃんがあぶない。ほのおはちろちろもえて、すこしずつすこしずつ)

キクちゃんが危ない。炎はチロチロ燃えて、少しずつ少しずつ

(みじかかくなってゆくけれども、わたしはちっともねむくならず、)

短かくなってゆくけれども、私はちっとも眠くならず、

(またよいもさめるどころか、ごたいをあつくして、ずんずんわたしを)

また酔いもさめるどころか、五体を熱くして、ずんずん私を

(だいたんにするばかりなのである。おもわずわたしは、ためいきをもらした。)

大胆にするばかりなのである。思わず私は、ため息をもらした。

(「たびをおぬぎになったら」「なぜ」「そのほうが、あたたかいわよ」)

「足袋をおぬぎになったら」「なぜ」「そのほうが、あたたかいわよ」

(わたしはいわれるがままにたびをぬいだ。これはもういけない。)

私は言われるがままに足袋を脱いだ。これはもういけない。

(ろうそくがきえたらそれまでだ。わたしはかくごしかけた。)

蝋燭が消えたらそれまでだ。私は覚悟しかけた。

(ほのおはくらくなり、それからみもだえするようにさゆうにうごいて、)

炎は暗くなり、それから身悶えするように左右に動いて、

(いっしゅんおおきくあかるくなり、それからじじとおとをたてて、)

一瞬大きく明るくなり、それからジジと音を立てて、

(みるみるちいさくなって、きえた。だんだんとよるがあけていたのである。)

みるみる小さくなって、消えた。段々と夜が明けていたのである。

(へやはうすあかるく、もはやくらやみではなかったのである。)

部屋は薄明るく、もはや暗闇ではなかったのである。

(わたしはおきて、かえるみじたくをした。)

私は起きて、帰る身支度をした。

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