写真-2-(完)
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問題文
(ししょうは、「きょうはここまでにしようか」といってかたをすくめた。)
師匠は、「今日はここまでにしようか」と言って肩を竦めた。
(おれもなんだかよくわからないけれど、じぶんのいえにかえりたかった。)
俺もなんだかよくわからないけれど、自分の家に帰りたかった。
(へやちゅうにちらばったしゃしんをかたづけようとして、さっきふせた)
部屋中に散らばった写真を片付けようとして、さっき伏せた
(にまいのしゃしんのまえでてがとまる。「おなじものがうつっている」といった)
2枚の写真の前で手が止まる。「同じものが写っている」と言った
(ししょうのことばもきになるが、「みないほうがいい」というだいろっかんがはたらく。)
師匠の言葉も気になるが、「見ないほうがいい」という第6感が働く。
(そのとき、ししょうがみょうにうれしそうなかおをしてゆかのうえをみまわした。)
その時、師匠が妙に嬉しそうな顔をして床の上を見回した。
(「にんげんにはむいしきかのじこぼうえいほんのうってやつがあるんだなあ、)
「人間には無意識下の自己防衛本能ってヤツがあるんだなあ、
(とじっかんするよ」なにをいいだしたんだろう。)
と実感するよ」なにを言い出したんだろう。
(「どうぶつえんってなにするところ?」はなしがとびすぎでいみがわからない。)
「動物園ってなにするところ?」話が飛びすぎで意味がわからない。
(「どうぶつをみにいくところだとおもいますけど」)
「動物を見に行くところだと思いますけど」
(「たしかに、ぼくらはおかねをはらってどうぶつえんにいき、それぞれのおりのまえに)
「たしかに、僕らはお金を払って動物園に行き、それぞれの檻の前に
(たってなかのどうぶつをみてあるく。しかしどうぶつからするとどうだ。)
立って中の動物を見て歩く。しかし動物からするとどうだ。
(おりのなかにいるだけで、いろとりどりのふくをきたさるたちが、)
檻の中にいるだけで、色とりどりの服を着たサルたちが、
(たのみもしないのにつぎつぎとすがたをみせにくる」)
頼みもしないのに次々と姿を見せに来る」
(どうぶつをしんれいしゃしんにおきかえればいいのだろうか。)
動物を心霊写真に置き換えればいいのだろうか。
(なんとなくいいたいことがわかってきた。)
なんとなく言いたいことが分かってきた。
(ゆかをみながらししょうはひとりごとのようにつぶやいた。)
床を見ながら師匠は独り言のように呟いた。
(「やみをのぞくものは、ひとしくやみにのぞかれることをおそれなくてはならない」)
「闇を覗く者は、等しく闇に覗かれることを畏れなくてはならない」
(「にーちぇですか?」「いや、ぼくだ」ししょうはどこまでほんきかわからないかおで、)
「ニーチェですか?」「いや、僕だ」師匠はどこまで本気かわからない顔で、
(ゆかにちらばったしゃしんをゆびさした。「どうしてふせたんだ」)
床に散らばった写真を指差した。「どうして伏せたんだ」
(それをきいたとき、しんぞうがどくんとなった。さっきのにまいだけではない。)
それを聞いたとき、心臓がドクンと鳴った。さっきの2枚だけではない。
(むすうのしゃしんのなかで、なんまいかのしゃしんがふせられている。)
無数の写真の中で、何枚かの写真が伏せられている。
(まったくいしきはしてなかった。まったくいしきはしてなかったのだ。)
全く意識はしてなかった。全く意識はしてなかったのだ。
(しゃしんはすべておもてむいていたはずなのに。ぼくがふせたんだろうか。)
写真はすべて表向いていたはずなのに。僕が伏せたんだろうか。
(さむけがしてぜんしんがふるえた。「かいぶつをたおそうとするものは、)
寒気がして全身が震えた。「怪物を倒そうとするものは、
(みずからがかいぶつになることをおそれなくてはならない」)
自らが怪物になることを畏れなくてはならない」
(やっぱりにーちぇじゃないですか。)
やっぱりニーチェじゃないですか。
(おれはそういうきりょくもなく、かいぶつをたおすどころかしゃしんをめくるゆうきもなかった。)
俺はそう言う気力もなく、怪物を倒すどころか写真をめくる勇気もなかった。