黒い手-4-(完)

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プレイ回数439難易度(4.5) 3394打 長文 長文モード推奨
師匠シリーズ
マイタイピングに師匠シリーズが沢山あったと思ったのですが、なくなってまっていたので、作成しました。
順位 名前 スコア 称号 打鍵/秒 正誤率 時間(秒) 打鍵数 ミス 問題 日付
1 tetsumi 5110 B+ 5.2 97.4% 663.7 3483 91 59 2024/09/17
2 じゅん 4116 C 4.2 96.5% 786.1 3357 121 59 2024/09/18

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問題文

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(ききながら、ぼくはひざがわらいはじめた。なにいってるの、このひと。)

聞きながら、僕は膝が笑い始めた。なに言ってるの、この人。

(「いっぽんじゃたりないなあ」またおしいれからおなじようななわをだしてくる。)

「一本じゃ足りないなあ」また押入れから同じような縄を出してくる。

(きーんというみみなりがした。「どうやっててにいれたかは、きくなよ」)

キーンという耳鳴りがした。「どうやって手に入れたかは、聞くなよ」

(こちらをみてにやっとわらいながら、ししょうははこをみごとなまでに)

こちらを見てニヤっと笑いながら、師匠は箱を見事なまでに

(ぐるぐるまきにしていった。そのあいだじゅう、ししょうのへやのまどがらすを)

ぐるぐる巻きにしていった。そのあいだ中、師匠の部屋の窓ガラスを

(こんこんとたたくおとがしていた。ぜったいになまみのにんげんじゃないというのは、)

コンコンと叩く音がしていた。絶対に生身の人間じゃないというのは、

(ししょうにきくまでもなくわかる。わーんわーんというはむしのむれるようなおとも、)

師匠に聞くまでもなくわかる。わーんわーんという羽虫の群れるような音も、

(てんじょうのあたりからしていた。ししょうはなにもいわず、もくもくとさぎょうをつづける。)

天井のあたりからしていた。師匠はなにも言わず、黙々と作業を続ける。

(そのうちどあをどんどんとたたくおとがくわわり、でんわまでなりはじめた。)

そのうちドアをドンドンと叩く音が加わり、電話まで鳴り始めた。

(ぼくはいっぽもうごけず、しんじられないできごとにきをうしないそうになっていた。)

僕は一歩も動けず、信じられない出来事に気を失いそうになっていた。

(ししょうがいましようとしていることにしょくはつされて、そうぞうしいものたちが)

師匠が今しようとしていることに触発されて、騒々しいものたちが

(あつまってきているような、そんなきがする。みみをふさいでもむだだった。)

集まってきているような、そんな気がする。耳を塞いでも無駄だった。

(ぎぃぎぃというどあがひらいたりしまったりするようなおとがくわわったが、)

ギィギィというドアが開いたり閉まったりするような音が加わったが、

(おそるおそるみてもどあはひらいてはいない。「うるせぇな」ししょうがぼそりといった。)

恐る恐る見てもドアは開いてはいない。「うるせぇな」師匠がボソリと言った。

(「おい、なにかしゃべってろ。なんでもいいから。こんなのは)

「おい、なにか喋ってろ。なんでもいいから。こんなのは

(しずかにしてるからうるせぇんだ。せいじゃくがみみにいたいって、あるだろう。)

静かにしてるからうるせぇんだ。静寂が耳に痛いって、あるだろう。

(あれとおなじだ」それをきいて、ぼくは「そうですね」とこたえたあと)

あれと同じだ」それを聞いて、僕は「そうですね」と答えたあと

(なぜかくくをあんしょうした。とっさにでたのだがそれだったわけだが、)

何故か九九を暗唱した。とっさに出たのだがそれだったわけだが、

(いんいちがいちいんにがに・・・・・・)

いんいちがいちいんにがに・・・・・・

(とくちにだしていると、ふしぎなことにさっきまであんなに)

と口に出していると、不思議なことにさっきまであんなに

など

(そんざいかんのあったいおんたちが、いっしゅんでせかいをへだててとおのいていくようだった。)

存在感のあった異音たちが、一瞬で世界を隔てて遠のいていくようだった。

(しかしそのなかでなぜかでんわはかんだかくなりひびきつづけていた。)

しかしその中で何故か電話は甲高く鳴り響き続けていた。

(「これはほんものじゃないですか」といっておれがあわててとろうとすると、)

「これは本物じゃないですか」と言って俺が慌てて取ろうとすると、

(ししょうが「でるな」とつよいくちょうでせいした。そのしゅんかんに、でんわはなりやんだ。)

師匠が「出るな」と強い口調で制した。その瞬間に、電話は鳴り止んだ。

(おれはじゅわきをあげようとしたかっこうのままでかたまり、ひやあせがひたいからながれおちた。)

俺は受話器を上げようとした格好のままで固まり、冷や汗が額から流れ落ちた。

(「さあ、できたぞ。どこにすてるかな」はこはなわでかんぜんにがんじがらめにされ、)

「さあ、できたぞ。どこに捨てるかな」箱は縄で完全にがんじがらめにされ、

(ところどころにめずらしいかたちのむすびめができている。)

ところどころに珍しい形の結び目ができている。

(しあんしたけっか、ししょうのけいよんでちかくのいけまでいくことにした。)

思案した結果、師匠の軽四で近くの池まで行くことにした。

(ぼくがじょしゅせきではこをかかえて、がたがたとゆられながら「なむあみだぶつ」やら)

僕が助手席で箱を抱えて、ガタガタと揺られながら「南無阿弥陀仏」やら

(「なむみょうほうれんげきょう」やら、しっているおきょうをでたらめにとなえていると、)

「南無妙法蓮華経」やら、知っているお経をでたらめに唱えていると、

(あっというまにいけについた。そこでふかいないろをしたにごった)

あっという間に池についた。そこで不快な色をした濁った

(みずのなかにふたりしてせぇの、といきおいをつけてなげいれた。)

水の中に二人してせぇの、と勢いをつけて投げ入れた。

(ぼちゃんと、いちばんふかそうなところへ。いしをまきつけていたのではこは)

ボチャンと、一番深そうな所へ。石を巻きつけていたので箱は

(ごぼごぼとくうきをはきだしながらしずんでいった。)

ゴボゴボと空気を吐き出しながら沈んでいった。

(そのいしもみみをふさぎたくなるようないつわをもっていたらしいが、ぼくはあえて)

その石も耳を塞ぎたくなるような逸話を持っていたらしいが、僕はあえて

(きかなかった。すべてをおえてぱんぱんとてをはらいながらししょうがいった。)

聞かなかった。すべてを終えてパンパンと手を払いながら師匠が言った。

(「もんだいはもういっぽんのてだけど、まあほんたいはやっつけたほうみたいだから、)

「問題はもう1本の手だけど、まあ本体はやっつけた方みたいだから、

(だいじょうぶだろう」じどうしゃのえんじんをかけながら、「それにしても」とつづける。)

大丈夫だろう」自動車のエンジンをかけながら、「それにしても」と続ける。

(「としでんせつが、じったいをもってたらはんそくだよなぁ。)

「都市伝説が、実体を持ってたら反則だよなぁ。

(しょうたいがわからないからこわいんじゃないか」ぼくにはあのはこのいみも)

正体がわからないから怖いんじゃないか」僕にはあの箱の意味も

(くろいてのいみもわからなかったので、なにもいえなかった。)

黒い手の意味もわからなかったので、なにも言えなかった。

(「まあこれでとしでんせつとしてはかんせいだ。じつぞんがしようしてめたれべるへ)

「まあこれで都市伝説としては完成だ。実存が止揚してメタレベルへ

(いたったわけだ。くろいてにであえたら、か。たしかにちょっとくーるだな。)

至ったわけだ。黒い手に出会えたら、か。確かにちょっとクールだな。

(ところで」ししょうがこっちをみた。「おまえはなにがねがいだったんだ」)

ところで」師匠がこっちを見た。「おまえはなにが願いだったんだ」

(あ、とおもった。「くろいてにであえたらねがいがかなう」)

あ、と思った。『黒い手に出会えたら願いがかなう』

(ぜんぜんいしきしてなかった。ひたすらまきこまれたかんがつよくて、)

全然意識してなかった。ひたすら巻き込まれた感が強くて、

(そんなぜんていをわすれていた。「もうかんけいないですよ」)

そんな前提を忘れていた。「もう関係ないですよ」

(そういうとししょうは「ふーん」とはなでこたえてまえをむいた。)

そう言うと師匠は「ふーん」と鼻で応えて前を向いた。

(それからちょうどいっしゅうかんめのよる。そういえばあれ、どうなった?)

それからちょうど1週間目の夜。そういえばあれ、どうなった?

(というかきこみがれいのすれっどにあった。「まだいきてるかー?」)

という書き込みが例のスレッドにあった。「まだ生きてるかー?」

(とのといかけに「なんとか」とかきこんでみる。「ねがいはかなった?」)

との問いかけに「なんとか」と書き込んでみる。「願いはかなった?」

(「なんにもおきないよ」おんきょうはあらわれない。)

「なんにも起きないよ」音響は現れない。

(「だれかはこいる?」「だってがせねたじゃん」・・・・・・)

「だれか箱いる?」「だってガセねたじゃん」・・・・・・

(もうこのすれっどにくることもないだろう、とおもう。)

もうこのスレッドに来ることもないだろう、と思う。

(ういんどうをとじようとすると、)

ウインドウを閉じようとすると、

(「ほんとに、ほんとになにもなかった?」しつこくきいてくるやつがいた。)

「ほんとに、ほんとになにもなかった?」しつこく聞いてくるやつがいた。

(ぼくにけいこくしてくれたみつあみおんなだろうとおもわれる。)

僕に警告してくれた三つ編み女だろうと思われる。

(「しりたかったら、くろいてにであえばいい」そうかいて、まどをとじた。)

「知りたかったら、黒い手に出会えばいい」そう書いて、窓を閉じた。

(それから、ただのいちどもくろいてのうわさをきかなかった。)

それから、ただの一度も黒い手の噂を聞かなかった。

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