ドッペルゲンガー-1-

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師匠シリーズ
マイタイピングに師匠シリーズが沢山あったと思ったのですが、なくなってまっていたので、作成しました。
順位 名前 スコア 称号 打鍵/秒 正誤率 時間(秒) 打鍵数 ミス 問題 日付
1 Shion 3298 D 3.3 98.1% 1474.8 4960 96 86 2024/10/03

関連タイピング

問題文

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(だいがくいっかいせいのあき。)

大学1回生の秋。

(おかるとけいねっとなかまのきょうすけさんのへやに、かりていたまよけの)

オカルト系ネット仲間の京介さんの部屋に、借りていた魔除けの

(たりすまんをかえしにいったことがあった。きょうすけさんはじょせいで、)

タリスマンを返しに行ったことがあった。京介さんは女性で、

(おれよりすこしとしうえのふりーたーだった。くろまじゅつなどがすきなひとだったが)

俺より少し年上のフリーターだった。黒魔術などが好きな人だったが

(すこしもいんうつなところがなく、ぶあいそうなめんもあったがそのせいけつかんのある)

少しも陰鬱なところがなく、無愛想な面もあったがその清潔感のある

(せいかくは、いっしょにいてきもちがよかった。そのひは、かったばかりのあいしゃを)

性格は、一緒にいて気持ちが良かった。その日は、買ったばかりの愛車を

(がーどれーるにひっかけたというまぬけぶりをひやかしたりしていたのだが、)

ガードレールに引っ掛けたという間抜けぶりを冷やかしたりしていたのだが、

(これからふろにはいってばいとにいくからというりゆうであっさりとおいはらわれた。)

これから風呂に入ってバイトに行くからという理由であっさりと追い払われた。

(このところおふかいでもあわないし、なんだかさみしかったがしかたがない。)

このところオフ会でも会わないし、なんだか寂しかったが仕方がない。

(めのまえでどあをしめられるとき、なんどかおじゃましたこともある)

目の前でドアを閉められる時、何度かお邪魔したこともある

(へやのなかにわずかないわかんをかんじたのは、きのせいではなかったとおもう。)

部屋の中にわずかな違和感を感じたのは、気のせいではなかったと思う。

(なにかわすれているような。そんなぼんやりとしたふあんがあった。)

なにか忘れているような。そんなぼんやりとした不安があった。

(それからいっしゅうかんはなにごともなかった。じだらくなせいかつで、すっかりようびの)

それから1週間はなにごともなかった。自堕落な生活で、すっかり曜日の

(かんかくがなくなっていたおれが、めずらしくあさいちからだいがくのじゅぎょうに)

感覚がなくなっていた俺が、めずらしく朝イチから大学の授業に

(でようとおもい、いえをでたひのこと。こうぎとうのまえにすずなりのはずの)

出ようと思い、家を出た日のこと。講義棟の前に鈴なりのはずの

(じてんしゃが、かぞえるほどしかなかったあたりからよかんはされていたことだが、)

自転車が、数えるほどしかなかったあたりから予感はされていたことだが、

(けいじばんのまえですなみさんというともだちにあい「きょうはしゅくじつだぞ」とばかにされた。)

掲示板の前で角南さんという友達に会い「今日は祝日だぞ」とバカにされた。

(だったらそっちもなんできてるんだよ、とつっこむとわらっていたが、)

だったらそっちもなんで来てるんだよ、と突っ込むと笑っていたが、

(きゅうにみみにかおをよせて「きのうあるいてたのだれ?やるじゃん」とささやいてきた。)

急に耳に顔を寄せて「昨日歩いてたのだれ?やるじゃん」と囁いてきた。

(なんのことかわからなかったので、「どこで?」といってみると)

なんのことかわからなかったので、「どこで?」と言ってみると

など

(「うわーこいつ」とひじうちをくらい、いみのわからないまま)

「うわーこいつ」と肘うちを喰らい、意味のわからないまま

(かのじょはさっていった。おれはくびをひねりながらこうぎとうをでた。)

彼女は去っていった。俺は首を捻りながら講義棟を出た。

(きのうはたしか、えきのちかがいをあるいたはずだ。)

昨日はたしか、駅の地下街を歩いたはずだ。

(すなみさんはそのあたりのみせでばいとしているはずなので、)

角南さんはそのあたりの店でバイトしているはずなので、

(そこでみられたようだ。しかしきのうおれはひとりだった。)

そこで見られたようだ。しかし昨日俺は一人だった。

(だれかとあるいていたはずなんてない。)

だれかと歩いていたはずなんてない。

(たまたまおなじほうこうにすすんでいたひとを、つれだとおもわれたのか。)

たまたま同じ方向に進んでいた人を、連れだと思われたのか。

(なぜかきゅうにせすじがさむくなってきてふりかえったが、かんさんとしたきゃんぱすが)

なぜか急に背筋が寒くなってきて振り返ったが、閑散としたキャンパスが

(ひろがっているだけだった。おれはじてんしゃをとばして、にげるように)

広がっているだけだった。俺は自転車をとばして、逃げるように

(あぱーとへひきかえした。そのあいだうしろからだれかが)

アパートへ引き返した。そのあいだ後ろからだれかが

(ついてきているようなきがして、ときどきふりむきながらぺだるをこいだ。)

ついて来ているような気がして、ときどき振り向きながらペダルをこいだ。

(なぜかだれともすれちがわなかった。おれのあぱーとはがっこうからちかいとはいえ、)

なぜかだれともすれ違わなかった。俺のアパートは学校から近いとはいえ、

(そのとちゅうにつうこうにんのひとりもいないなんて、なんだかすすききみがわるい。)

その途中に通行人の一人もいないなんて、なんだか薄気味が悪い。

(ちゅうりんじょうにじてんしゃをとめ、かいだんをのぼり、あぱーとのへやのどあをあける。)

駐輪場に自転車を止め、階段を登り、アパートの部屋のドアを開ける。

(がくせいむけのたいしてひろくもないへやは、げんかんからりびんぐのおくまで)

学生向けのたいして広くもない部屋は、玄関からリビングの奥まで

(みとおせるつくりになっていた。はずだった。のに。きっちんにおれがいた。)

見通せるつくりになっていた。はずだった。のに。キッチンに俺がいた。

(おれはむひょうじょうで、こちらにめもむけずといれのどあをあけるとすっとなかにきえた。)

俺は無表情で、こちらに目も向けずトイレのドアを開けるとスッと中に消えた。

(ぱたんとどあがしまる。げんじつかんがない。)

パタンとドアが閉まる。現実感がない。

(げんかんでおれはくつもぬがずたちつくしていた。そしていまみたものをはんすうする。)

玄関で俺は靴も脱がず立ち尽くしていた。そして今見たものを反芻する。

(かがみではもちろんない。いきてうごいているおれが、といれのどあをあけて)

鏡ではもちろんない。生きて動いている俺が、トイレのドアを開けて

(なかにはいった。という、それだけのことだ。それをおれじしんがみているという)

中に入った。という、それだけのことだ。それを俺自身が見ているという

(いじょうなじたいでさえなければ。こわい。このこわさをわかってもらえるだろうか。)

異常な事態でさえなければ。怖い。この怖さをわかってもらえるだろうか。

(おもわずとけいをみた。まだあさのうちだ。)

思わず時計を見た。まだ朝のうちだ。

(へやのまどのかーてんごしにさすたいようのひかりがまぶしいくらいだ。)

部屋の窓のカーテン越しに射す太陽の光が眩しいくらいだ。

(だからこそ、このにげようのないあっぱくかんがあるのだろう。)

だからこそ、この逃げようのない圧迫感があるのだろう。

(よるのこわさは、あかりをつけることで。)

夜の怖さは、明かりをつけることで。

(あるいはよるがあけることでこくふくされるかもしれない。)

あるいは夜が明けることで克服されるかも知れない。

(しかしあさのへやがこわければ、どこにすくいがあるというのか。)

しかし朝の部屋が怖ければ、どこに救いがあるというのか。

(へやにはなんのおともない。といれからもなんのけはいもかんじられない。)

部屋にはなんの音もない。トイレからもなんの気配も感じられない。

(おそらくおれはじゅっぷんくらいおなじかっこうでうごけなかった。)

おそらく俺は10分くらい同じ格好で動けなかった。

(そしていまのはなんだろういまのはなんだろうと、じゅもんのようにあたまのなかで)

そして今のはなんだろう今のはなんだろうと、呪文のように頭の中で

(くりかえしつづけた。みなかったことにして、)

繰り返し続けた。見なかったことにして、

(とりあえずこんびにでもいこうかと、どれほどおもったか。)

とりあえずコンビニでも行こうかと、どれほど思ったか。

(でもにげないほうがいい。なぜかそうきめた。たぶん、げんかくだからだ。)

でも逃げないほうがいい。なぜかそう決めた。たぶん、幻覚だからだ。

(というか、げんかくじゃないとこまる。おれはおらぁとおおきなこえをだすと、)

というか、幻覚じゃないと困る。俺はオラァと大きな声を出すと、

(ずかずかとへやのなかへすすみためらいなくといれのどあをあけはなった。)

ズカズカと部屋の中へ進み躊躇なくトイレのドアを開け放った。

(あけるしゅんかんにもおらぁとわけのわからないかけごえをあげた。)

開ける瞬間にもオラァとわけのわからない掛け声をあげた。

(なかにはだれもいなかった。ほっとした、というよりおっしゃあ、とおもった。)

中にはだれもいなかった。ほっとした、というよりオッシャア、と思った。

(ねんのためにといれのなかにはいろうとしたとき、しせんのはしで)

念のためにトイレの中に入ろうとしたとき、視線の端で

(なにかがうごいたきがした。しめたはずのげんかんのどあがひらいていて、)

何かが動いた気がした。閉めたはずの玄関のドアが開いていて、

(そのすきまからおれのかおがのぞいていた。ふたたびじてんしゃをかって、きゅうじつのみちをいそぐ。)

その隙間から俺の顔が覗いていた。再び自転車を駆って、休日の道を急ぐ。

(きょうはあさいちでだいがくのこうぎにでて、すがすがしいきもちになっている)

今日は朝イチで大学の講義に出て、清清しい気持ちになっている

(はずだったのに、なんでこんなめにあっているのだろう。)

はずだったのに、なんでこんな目にあっているのだろう。

(おれはさっきまでじぶんのへやのといれにたてこもっていた。)

俺はさっきまで自分の部屋のトイレに立てこもっていた。

(なかからかぎをかけて、のぶをしっかりにぎっていた。)

中から鍵を掛けて、ノブをしっかり握っていた。

(おれがげんかんからはいってきたら、どうしよう。おらぁ)

俺が玄関から入ってきたら、どうしよう。オラァ

(とかいうこえがそとからきこえたら、しっしんしていたかもしれない。)

とかいう声が外から聞こえたら、失神していたかも知れない。

(どれほどなかにいたのかわからないが、とにかくおれはついにといれから)

どれほど中にいたのかわからないが、とにかく俺はついにトイレから

(びくびくとでてきて、でんわをした。こういうときにはやたらたよりになる)

ビクビクと出てきて、電話をした。こういう時にはやたら頼りになる

(おかるとどうのししょうにだ。しかしでない。けいたいにもつながらない。)

オカルト道の師匠にだ。しかし出ない。携帯にもつながらない。

(あせったおれはつぎにきょうすけさんへでんわをした。「はい」)

焦った俺は次に京介さんへ電話をした。「はい」

(というこえがきこえたときは、しんそこうれしかった。)

という声が聞こえたときは、心底嬉しかった。

(そしてついいっしゅうかんまえにもとおったみちを、すうばいのそくどでとばした。きょうすけさんは、)

そしてつい1週間まえにも通った道を、数倍の速度で飛ばした。京介さんは、

(すんでいるまんしょんのそばにあるきっさてんにいるということだった。)

住んでいるマンションのそばにある喫茶店にいるということだった。

(みせのがらすごし、まどぎわのせきにそのすがたをみつけたときには、)

店のガラス越し、窓際の席にその姿を見つけたときには、

(おれはうまれたばかりのしょうどうぶつのようなきもちになっていた。)

俺は生まれたばかりの小動物のような気持ちになっていた。

(がらんがらんというきっさてんのどあのおとにふりむいたきょうすけさんが、)

ガランガランという喫茶店のドアの音に振り向いた京介さんが、

(「よお」とてをあげるせきにはしっていき、おれはきょうあったことを)

「ヨオ」と手をあげる席に走って行き、俺は今日あったことを

(とにかくまくしたてた。「どっぺるげんがーだな」)

とにかく捲くし立てた。「ドッペルゲンガーだな」

(あっさりときょうすけさんはいった。「じぶんとそっくりなにんげんをみるげんしょうだ。)

あっさりと京介さんは言った。「自分とそっくりな人間を見る現象だ。

(まあほとんどはかんちがいのれべるだろうが、ほんものにあうと)

まあほとんどは勘違いのレベルだろうが、本物に会うと

(しきがちかいとかいわれるな」どっぺるげんがー。もちろんきいたことがある。)

死期が近いとか言われるな」ドッペルゲンガー。もちろん聞いたことがある。

(そうか。そういわれれば、どっぺるげんがーじゃん。)

そうか。そう言われれば、ドッペルゲンガーじゃん。

(ふしぎなもので、しょうたいふめいのものでもなまえをしっただけで)

不思議なもので、正体不明のモノでも名前を知っただけで

(きみょうなあんしんかんがうまれる。)

奇妙な安心感が生まれる。

(むしろ、そのためににんげんはかいいになまえをつけるのではないだろうか。)

むしろ、そのために人間は怪異に名前をつけるのではないだろうか。

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