ドッペルゲンガー-2-

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師匠シリーズ
マイタイピングに師匠シリーズが沢山あったと思ったのですが、なくなってまっていたので、作成しました。

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問題文

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(「おまえのはどうだろうな。はくちゅうむでもみたんじゃないのか」)

「おまえのはどうだろうな。白昼夢でも見たんじゃないのか」

(そうであってほしい。あんなものにうろちょろされたら、しんぞうにわるすぎる。)

そうであってほしい。あんなものにうろちょろされたら、心臓に悪すぎる。

(「しかしきになるのは、そのおんなともだちがみたというおまえだ。)

「しかし気になるのは、その女友達が見たというおまえだ。

(おまえとどっぺるげんがーのふたりをみたようなかんじでもない。)

おまえとドッペルゲンガーの二人を見たような感じでもない。

(はなしぶりからするとおまえといっしょにあるいていたのはおんなだな。)

話しぶりからするとおまえと一緒に歩いていたのは女だな。

(ほんとうにこころあたりがないのか」うなずく。「じゃあ、どっぺるげんがーが)

本当に心あたりがないのか」頷く。「じゃあ、ドッペルゲンガーが

(だれかおんなとあるいていたのか。おまえのしらないところで」)

だれか女と歩いていたのか。おまえの知らないところで」

(「こんどきいておきます。すなみさんがどこでおれをみたのか」)

「こんど聞いておきます。角南さんがどこで俺を見たのか」

(おれはちゅうもんしたおれんじじゅーすをのみながらそういった。)

俺は注文したオレンジジュースを飲みながらそう言った。

(そういいながら、きょうすけさんのようすがいつもとちがうのをいぶかしくおもっていた。)

そう言いながら、京介さんの様子がいつもと違うのを訝しく思っていた。

(あの、ひょうひょうとしたかんじがない。)

あの、飄々とした感じがない。

(ひっぱくかんとでもいうのか、こえがうわずるようなけはいさえある。)

逼迫感とでもいうのか、声がうわずるような気配さえある。

(どっぺるげんがーだな、といったそのことばからしてそうだった。)

ドッペルゲンガーだな、と言ったその言葉からしてそうだった。

(「どうしたんですか」とうとうくちにした。)

「どうしたんですか」とうとう口にした。

(きょうすけさんは「うん?」といってめをすこしふせた。)

京介さんは「うん?」と言って目を少し伏せた。

(そしてためいきをついて、「らしくないな」とはなしはじめた。)

そして溜息をついて、「らしくないな」と話し始めた。

(きょうすけさんがもうひとりのじぶんにきづいたのはしょうがくせいのときだった。)

京介さんがもう一人の自分に気づいたのは小学生のときだった。

(はじめは、ふとしたひょうしにしせんのはしにうつるにんげんのかおをみて)

はじめは、ふとした拍子に視線の端に映る人間の顔を見て

(おばけだとおもったという。しかいのいちばんすみ。)

オバケだと思ったという。視界のいちばん隅。

(そこをいしきしてみようとしてもみえない。)

そこを意識して見ようとしても見えない。

など

(なにかいる、とおもったのはあるいはもっとむかしからだったかもしれない。)

なにかいる、と思ったのはあるいはもっと昔からだったかも知れない。

(でもしせんのはしのしろっぽいそれがひとのかおだとわかり、)

でも視線の端の白っぽいそれが人の顔だとわかり、

(おばけだとおもったすぐあと、「あ、じぶんのかおだ」ときづいてしまった。)

オバケだと思ったすぐあと、「あ、自分の顔だ」と気づいてしまった。

(それはむひょうじょうだった。りったいかんもなかった。そこにいるようなそんざいかんもなかった。)

それは無表情だった。立体感もなかった。そこにいるような存在感もなかった。

(かおをそちらにむけると、しぜんとそれもしせんにあわせていどうした。)

顔をそちらに向けると、自然とそれも視線に合わせて移動した。

(まるでにげるように。いつもいるわけではなかった。)

まるで逃げるように。いつもいるわけではなかった。

(けれどつかれたときや、なにかふあんをかかえているときにはよくみえた。)

けれど疲れたときや、なにか不安を抱えているときにはよく見えた。

(こわくはなかった。ちゅうがくせいのとき、どっぺるげんがーというなまえをしった。)

怖くはなかった。中学生のとき、ドッペルゲンガーという名前を知った。

(そのほんには、どっぺるげんがーをみたひとはしぬとかいてあった。)

その本には、ドッペルゲンガーを見た人は死ぬと書いてあった。

(そんなのはうそっぱちだとおもった。そのころには、それはかおだけではなかった。)

そんなのは嘘っぱちだと思った。そのころには、それは顔だけではなかった。

(とるそーのようにじょうはんしんまでみえた。)

トルソーのように上半身まで見えた。

(ただそのひきているじぶんのふくとおなじではなかったようにおもう。)

ただその日着ている自分の服と同じではなかったように思う。

(どうしてそんなものがみえるのか、ふしぎにおもったけれど)

どうしてそんなものが見えるのか、不思議に思ったけれど

(だれかにはなそうとはおもわなかった。じぶんと、じぶんだけのひみつ。)

だれかに話そうとは思わなかった。自分と、自分だけの秘密。

(こうこうせいのとき、じこぞうげんしというびょうきをしった。せいしんのびょうきらしい。)

高校生のとき、自己像幻視という病気を知った。精神の病気らしい。

(うそっぱちだとはおもわなかった。どっぺるげんがーにしても、)

嘘っぱちだとは思わなかった。ドッペルゲンガーにしても、

(じこぞうげんしにしても、けっきょくじぶんにしかみえないならおなじことだ。)

自己像幻視にしても、結局自分にしか見えないなら同じことだ。

(そういうびょうきだとしても、おなじことなのだった。)

そういう病気だとしても、同じことなのだった。

(そのころには、ぜんしんがみえていた。しせんのすみにひっそりとたつじぶん。)

そのころには、全身が見えていた。視線の隅にひっそりと立つ自分。

(ひょうじょうはなく、かたまっているようにうごかない。そして、それがいるばしょを)

表情はなく、固まっているように動かない。そして、それがいる場所を

(だれかほかのひとがとおると、まるでほろぐらむのように)

だれか他の人が通ると、まるでホログラムのように

(とうかしてしまいゆらぎもなくまたそのままそこにたっているのだった。)

透過してしまい揺らぎもなくまたそのままそこに立っているのだった。

(ぜんしんがみえるようになると、それからはとくにへんかはないようだった。)

全身が見えるようになると、それからは特に変化はないようだった。

(あいかわらずつかれたときや、せいしんてきにぴんちのときにはよくみえた。)

相変わらず疲れたときや、精神的にピンチのときにはよく見えた。

(だからといって、どうともおもわない。)

だからといって、どうとも思わない。

(ただそういうものなのだとおもうだけだった。それが、である。)

ただそういうものなのだと思うだけだった。それが、である。

(さいきんになってへんかがあらわれた。)

最近になって変化があらわれた。

(あるひをさかいに、それの「そこにいるかんじ」がつよくなった。)

ある日を境に、それの「そこにいる感じ」が強くなった。

(ともすればものくろにもみえたそれが、きゅうにあざやかないろをもつようになった。)

ともすればモノクロにも見えたそれが、急に鮮やかな色を持つようになった。

(そしてそのりったいかんもました。)

そしてその立体感も増した。

(だれかがそこをとおると「あ。ぶつかる」といっしゅんおもってしまうほどだった。)

だれかがそこを通ると「あ。ぶつかる」と一瞬思ってしまうほどだった。

(ただやはりほかのひとにはふれないし、みえないのであった。)

ただやはり他の人には触れないし、見えないのであった。

(ところが、あるひへやでじーんずをはこうとしたとき、それがうごいた。)

ところが、ある日部屋でジーンズを履こうとしたとき、それが動いた。

(じーんずをはこうとするしぐさではなく、いみふめいのうごきではあったが)

ジーンズを履こうとする仕草ではなく、意味不明の動きではあったが

(たしかにそれのてがうごいていた。それから、それはしばしばどうさを)

確かにそれの手が動いていた。それから、それはしばしば動作を

(みせるようになった。けっしてじぶんじしんとおなじうごきをするわけではないが、)

見せるようになった。けっして自分自身と同じ動きをするわけではないが、

(なにかこう、もうひとりのじぶんとしてかんぜんなものなろうとしているような、)

なにかこう、もう一人の自分として完全なものなろうとしているような、

(そんないしのようなものをかんじてきみがわるくなった。)

そんな意思のようなものを感じて気味が悪くなった。

(あいかわらずむひょうじょうで、じぶんにしかにんしきできなくて、じぶんではあるけれど)

相変わらず無表情で、自分にしか認識できなくて、自分ではあるけれど

(すこしわかいようにもみえるそれが、はじめてこわくなったという。)

少し若いようにも見えるそれが、はじめて怖くなったという。

(きょうすけさんのどくはくをききおえて、おれはなんともいえない)

京介さんの独白を聞き終えて、俺はなんとも言えない

(おいつめられたようなきぶんになっていた。)

追い詰められたような気分になっていた。

(にげてきたさきが、いきどまりだったような。そんなきぶん。)

逃げてきた先が、行き止まりだったような。そんな気分。

(「あるひをさかいにって、いつですか」なにげなくきいたつもりだった。)

「ある日を境にって、いつですか」なにげなく聞いたつもりだった。

(「あのひだ」「あのひっていつですか」)

「あの日だ」「あの日っていつですか」

(きょうすけさんはぐーでおれのあたまをなぐり、「またそれをいわせるのかこいつ」といった。)

京介さんはグーで俺の頭を殴り、「またそれを言わせるのかこいつ」と言った。

(おれはそれですべてをりかいし、すみませんといったあとがくがくとふるえた。)

俺はそれですべてを理解し、すみませんと言ったあとガクガクと震えた。

(「どうかんがえても、むかんけいじゃないな」おまえのもふくめて。)

「どう考えても、無関係じゃないな」おまえのも含めて。

(きょうすけさんはさいごのとーすとをくちにほうりこみこーひーでながしこんだ。)

京介さんは最後のトーストを口に放り込みコーヒーで流し込んだ。

(おれはそのときには、きょうすけさんのへやへたりすまんをかえしにいったときの)

俺はそのときには、京介さんの部屋へタリスマンを返しに行った時の

(いわかんのしょうたいにきがついてしまっていた。)

違和感の正体に気がついてしまっていた。

(「へやのよすみにあったおきものはどうしたんです」)

「部屋の四隅にあった置物はどうしたんです」

(あのひ、けっかいだといったよっつのてっせいのぶったい。)

あの日、結界だと言った4つの鉄製の物体。

(それがいっしゅうかんまえにはへやのなかにみあたらなかった。)

それが1週間前には部屋の中に見当たらなかった。

(「こわれた」そのひとことで、おれののみのしんぞうはどうにかなりそうだった。)

「壊れた」その一言で、俺の蚤の心臓はどうにかなりそうだった。

(「それって、」しゃくりあげるように、おれがくちばしろうとしたそのことばを)

「それって、」しゃくり上げるように、俺が口走ろうとしたその言葉を

(きょうすけさんがてでむりやりふさいだ。「こんなところでそのなまえをだすな」)

京介さんが手で無理やり塞いだ。「こんなところでその名前を出すな」

(おれはふるえながらうなずく。「どっぺるげんがーっていうのは、)

俺は震えながら頷く。「ドッペルゲンガーっていうのは、

(おおきくわけてにしゅるいある。じぶんにしかみえないものと、たにんにも)

大きくわけて2種類ある。自分にしか見えないものと、他人にも

(みえるもの。ぜんしゃはせいしんしっかんによるものがほとんどだ。あるいは)

見えるもの。前者は精神疾患によるものがほとんどだ。あるいは

(いっかせいのげんしか。そしてこうしゃはただのにてるじんぶつか、あるいは)

一過性の幻視か。そして後者はただの似てる人物か、あるいは

(いきりょうのようなちょうじょうげんしょうか。どちらにしても、いじょうなげんしょうにしては)

生霊のような超常現象か。どちらにしても、異常な現象にしては

(ごうりてきなにげみちがある。わたしがぜんしゃでおまえがこうしゃだが、それが)

合理的な逃げ道がある。私が前者でおまえが後者だが、それが

(おなじできごとにふれたふたりにあらわれたというのは、しかしぐうぜんにしてはできすぎだ」)

同じ出来事に触れた二人に現れたというのは、しかし偶然にしては出来すぎだ」

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