家鳴り-1-

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師匠シリーズ
マイタイピングに師匠シリーズが沢山あったと思ったのですが、なくなってまっていたので、作成しました。

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問題文

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(だいがくにかいせいのなつのこと。おれはしんれいしゃしんのようなものをゆうじんにもらったので、)

大学2回生の夏のこと。俺は心霊写真のようなものを友人にもらったので、

(それをせんもんかにみてもらおうとおもった。)

それを専門家に見てもらおうと思った。

(せんもんかといってもおれのさーくるのせんぱいであり、)

専門家と言っても俺のサークルの先輩であり、

(おかるとのどうではししょうにあたるへんじんである。)

オカルトの道では師匠にあたる変人である。

(かれのあぱーとにおじゃまするとさっそくしゃしんをとりだしたのであるが、)

彼のアパートにお邪魔するとさっそく写真を取り出したのであるが、

(それをてにとるやいなやはなでわらって、「にじゅうろこう」とのひとことでつきかえしてきた。)

それを手に取るやいなや鼻で笑って、「2重露光」との一言でつき返してきた。

(ゆうじんのおじいちゃんがあいけんとうつっているそのうしろに、)

友人のおじいちゃんが愛犬と写っているその後ろに、

(ぼやっとひとかげらしきものがうかびあがっているのであるが、)

ぼやっと人影らしきものが浮かび上がっているのであるが、

(ししょうはそれをあっさりとさつえいみすであるといいきったのだ。)

師匠はそれをあっさりと撮影ミスであると言い切ったのだ。

(おれはなっとくいかないおもいで、「それならいつかみせてもらったしゃしんにだって)

俺は納得いかない思いで、「それならいつか見せてもらった写真にだって

(にたようなのあったでしょう」といった。そのすじのぎょうしゃからかった)

似たようなのあったでしょう」と言った。その筋の業者から買った

(というしんれいしゃしんをやまほどししょうはもっているのだ。ところがくびをふって)

という心霊写真を山ほど師匠は持っているのだ。ところが首を振って

(「いまここにはない」という。おれはせまいあぱーとのへやをみまわした。)

「今ここにはない」と言う。俺は狭いアパートの部屋を見回した。

(そのとき、ふとこれまでにみせてもらったうすきみのわるい)

そのとき、ふとこれまでに見せてもらった薄気味の悪い

(おかるとあいてむがどこにもないことにきがついたのだ。)

オカルトアイテムがどこにもないことに気がついたのだ。

(いくつかはおしいれにはいっているのかもしれない。)

いくつかは押入れに入っているのかもしれない。

(しかし、いちどみたものが、またへやにころがっているということが)

しかし、一度見たものが、また部屋に転がっているということが

(なかったのをおもいだす。「どこにかくしてるんです」)

なかったのを思い出す。「どこに隠してるんです」

(ししょうはきみわるくわらって、「しりたい?」とくびをかしげた。)

師匠は気味悪く笑って、「知りたい?」と首をかしげた。

(すなおに「はい」というと、「じゃあよるになるまでまとうな」といって)

素直に「はい」と言うと、「じゃあ夜になるまで待とうな」と言って

など

(ししょうはいきなりふとんをしいてねはじめた。)

師匠はいきなり布団を敷いて寝始めた。

(おれはあっけにとられて、いちどいえにかえろうとしたがなんだか)

俺はあっけにとられて、一度家に帰ろうとしたがなんだか

(めんどくさくなり、そのままゆかにころがってやがてねむりについた。)

めんどくさくなり、そのまま床に転がってやがて眠りについた。

(きがつくとくらいへやのなかに、ぼうっとあわいひかりをはなつきみょうなかたちのぶつぞうが)

気がつくと暗い部屋の中に、ぼうっと淡い光を放つ奇妙な形の仏像が

(ひしめいていて、ししょうがくるまっているふとんがへやのまんなかにうかんでいる。)

ひしめいていて、師匠が包まっている布団が部屋の真ん中に浮かんでいる。

(という、なんともこうとうむけいなゆめをみてうなされ、おれはめをさました。)

という、なんとも荒唐無稽な夢を見てうなされ、俺は目を覚ました。

(あつさとねぐるしさのためか、うっすらあせをかいている。)

暑さと寝苦しさのためか、うっすら汗をかいている。

(とうぜんへやにはぶつぞうや、ししょうのおかるとこれくしょんのるいは)

当然部屋には仏像や、師匠のオカルトコレクションの類は

(しゅつげんしておらず、へやのぬしもゆかのうえのふとんでねているのだった。)

出現しておらず、部屋のヌシも床の上の布団で寝ているのだった。

(「もうよるですよ」とゆりおこすと、まどのそとをぼうっとみて)

「もう夜ですよ」と揺り起こすと、窓の外をぼうっと見て

(「おお、いいかんじのじかん」とぶつぶつつぶやき、ししょうはふとんから)

「おお、いいカンジの時間」とぶつぶつ呟き、師匠は布団から

(はいでてきた。「ぼきぼき」とくちでいいながらせのびをしたあと、)

這い出てきた。「ボキボキ」と口で言いながら背伸びをしたあと、

(ししょうはきがえもせずにおれをあぱーとのそとへつれだった。しんやである。)

師匠は着替えもせずに俺をアパートの外へ連れ立った。深夜である。

(とくににもつらしきものももっていない。ぼろけいよんにひがはいる。)

特に荷物らしきものも持っていない。ボロ軽四に火が入る。

(じょしゅせきで「どこいくんすか」ととうと、あくせるをふみながら)

助手席で「どこ行くんスか」と問うと、アクセルを踏みながら

(「かくれが」という。「え」それがそんざいすることはそうぞうはついていたことだが、)

「隠れ家」と言う。「え」それが存在することは想像はついていたことだが、

(ついにしょうたいしてくれるほどのしんらいをえられたらしい。)

ついに招待してくれるほどの信頼を得られたらしい。

(そもそもぬすむほどのものがないといって、やちん9000えんのぼろあぱーとに)

そもそも盗むほどのものがないと言って、家賃9000円のボロアパートに

(かぎもかけずにでかけたりするひとなのに、かんさいのぎょうしゃからかった)

鍵も掛けずに出かけたりする人なのに、関西の業者から買った

(などといっては、おどろおどろしいいつわのあるふるどうぐなどをうれしそうに)

などと言っては、おどろおどろしい逸話のある古道具などを嬉しそうに

(じまんすることがたたあった。)

自慢することが多々あった。

(なるほど、それらをかくしているばしょがべつにあったわけである。)

なるほど、それらを隠している場所が別にあったわけである。

(きたへきたへとくるまはむかい、すれちがうらいともほとんどないやまみちを)

北へ北へと車は向かい、すれ違うライトもほとんどない山道を

(だこうしながら、おれはあるかんかくにおそわれていた。)

蛇行しながら、俺はある感覚に襲われていた。

(ふつふつとはだがあわだつようなさむけである。げんいんはわかっている。)

ふつふつと肌が粟立つような寒気である。原因はわかっている。

(たんじゅんにこわいのだ。)

単純に怖いのだ。

(にんげんのうらみやあくいがこったかたまりが、このむかうさきにある。)

人間の恨みや悪意が凝った塊が、この向かう先にある。

(こころのじゅんびもできていない。しせんのはしのきょうかいめんに、しろいもやのような、ゆれるひとかげ)

心の準備も出来ていない。視線の端の境界面に、白いもやのような、揺れる人影

(のようなものがとおりすぎては、またたくようにきえていくようなさっかくがあり、)

のようなものが通り過ぎては、瞬くように消えていくような錯覚があり、

(おれはめをとじる。)

俺は目を閉じる。

(ししょうもなにもいわない。ただたいやがあすふぁるとをするおとと、)

師匠もなにも言わない。ただタイヤがアスファルトを擦る音と、

(そのたびにからだをさゆうにひっぱられるかんかくだけがつづいた。)

そのたびに体を左右に引っ張られる感覚だけが続いた。

(やがて「ついた」というこえとともにくるまがとまり、うながされてそとにおりる。)

やがて「ついた」という声とともに車が止まり、促されて外に降りる。

(さんかんのいっけんやというおもむきのくろいかげがめのまえにたっている。すこししゃめんを)

山間の一軒屋という趣の黒い影が目の前に立っている。少し斜面を

(おりたあたりにべつのいえのあかりがある。)

降りたあたりに別の家の明かりがある。

(しかしすくなくともはんけい20めーとるいないにはひとのけはいはない。)

しかし少なくとも半径20メートル以内には人の気配はない。

(とりのこされたいえ、ということばがふいにうかび、)

取り残された家、という言葉がふいに浮かび、

(ますますそのぶきみさがましたきがした。)

ますますその不気味さが増した気がした。

(「やちんは1まん1000えん」)

「家賃は1万1000円」

(といいながらげんかんのまえにたち、ししょうはらいおんのかおのかたちをした)

と言いながら玄関の前に立ち、師匠はライオンの顔の形をした

(のっかーをさもとうぜんのようにたたく。にぶいきんぞくおんがした。)

ノッカーをさも当然のように叩く。鈍い金属音がした。

(なかからはなんのいらえもない。)

中からは何のいらえもない。

(そのおとのよいんがきえるまでまってから「じょうだんだよ」といって、)

その音の余韻が消えるまで待ってから「冗談だよ」と言って、

(ししょうはかぎをまわしそのようふうのどあをあけた。)

師匠は鍵を回しその洋風のドアを開けた。

(ひらやでかなりふるびているとはいえ、まともないっけんやである。)

平屋でかなり古びているとはいえ、まともな一軒屋である。

(やちん1まん1000えんというのは、どんなつてでかりたのか)

家賃1万1000円というのは、どんなツテで借りたのか

(ひじょうにきょうみがあったが、なんとなくこたえてくれそうにない)

非常に興味があったが、なんとなく答えてくれそうにない

(きがしてだまっていた。いえのちかくにがいとうのるいもなく、)

気がして黙っていた。家の近くに街灯の類もなく、

(ほとんどまっくらやみだったのが、いえのなかにはいるととうぜんあかりが)

ほとんど真っ暗闇だったのが、家の中に入ると当然明かりが

(つくだろうとおもっていた。ところがげんかんからおくへきえたししょうが)

点くだろうと思っていた。ところが玄関から奥へ消えた師匠が

(ごそごそとなにかをうごかしているおとだけがしていたかとおもうと、)

ゴソゴソとなにかを動かしている音だけがしていたかと思うと、

(あわいらんぷのひかりがゆらゆらとひとだまのようにあらわれた。「でんききてないから」)

淡いランプの光がゆらゆらと人魂のように現れた。「電気きてないから」

(らんぷをもったししょうらしきひとかげが、ほこりっぽいろうかをあんないする。)

ランプを持った師匠らしき人影が、ほこりっぽい廊下を案内する。

(すりっぱをはいて、きしむいたばりのゆかをあしおとをころしながらなかばてさぐりで)

スリッパを履いて、軋む板張りの床を足音を殺しながら半ば手探りで

(おいかけるおれは「ほんとにかりてるのかこのひと。ふほうしんにゅうじゃないのか」)

追いかける俺は「ほんとに借りてるのかこの人。不法侵入じゃないのか」

(というあらぬぎねんにとらわれていた。)

というあらぬ疑念にとらわれていた。

(りヴぃんぐだ、というこえがしてらんぷがへやのちゅうおうの)

リヴィングだ、という声がしてランプが部屋の中央の

(てーぶるらしきもののうえにおかれる。くらいしつないをたんさくするきりょくもないおれは、)

テーブルらしきものの上に置かれる。暗い室内を探索する気力もない俺は、

(すなおにらんぷのそばのそふぁにこしかけた。)

素直にランプのそばのソファに腰掛けた。

(もとはしつのいいものなのかもしれないが、いまはくうきがぬけたように)

もとは質のいいものなのかもしれないが、今は空気が抜けたように

(がさがさして、すわりごこちというものはない。)

ガサガサして、座り心地というものはない。

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