家鳴り-2-

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師匠シリーズ
マイタイピングに師匠シリーズが沢山あったと思ったのですが、なくなってまっていたので、作成しました。
順位 名前 スコア 称号 打鍵/秒 正誤率 時間(秒) 打鍵数 ミス 問題 日付
1 tetsumi 5137 B+ 5.2 97.2% 879.6 4650 131 81 2024/09/29
2 daifuku 3604 D+ 3.8 93.6% 1174.7 4543 309 81 2024/10/04
3 daifuku 3466 D 3.7 93.3% 1216.6 4543 326 81 2024/08/29

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問題文

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(ししょうもおなじようにむかいのそふぁにすわり、らんぷのかぼそげなあかりを)

師匠も同じように向かいのソファに座り、ランプのかぼそげな明かりを

(はさんでむかいあった。さっきまでねぐるしかったというのに、)

挟んで向かい合った。さっきまで寝苦しかったというのに、

(ここはくうきはつめたい。おそるおそるしゅういをみまわすと、しほうのかべに)

ここは空気は冷たい。恐る恐る周囲を見回すと、四方の壁に

(みくろねしあだかぽりねしあだかのげんじゅうみんをおもわせるくろいかめんがかかっている。)

ミクロネシアだかポリネシアだかの原住民を思わせる黒い仮面が掛かっている。

(ほかにもゆうれいえとおぼしきかけじくや、なにかがいちめんにかかれたおうぎなどが)

ほかにも幽霊画と思しき掛け軸や、何かが一面に書かれた扇などが

(ほうそくせいもなくかべにちりばめられていた。「ここがかくれがですか」)

法則性もなく壁にちりばめられていた。「ここが隠れ家ですか」

(ししょうはしずかにうなずく。「どうしてわざわざよるまでまったんです」)

師匠は静かに頷く。「どうしてわざわざ夜まで待ったんです」

(ふーっと、ふかいためいきをついてからかべのいってんをみつめて、ししょうはくちをひらいた。)

ふーっと、深い溜息をついてから壁の一点を見つめて、師匠は口を開いた。

(「このじかんが、すきなんだ」)

「この時間が、好きなんだ」

(しせんのさきには、おおきなはしらどけいがくらいかげをおとしていた。)

視線の先には、大きな柱時計が暗い影を落としていた。

(らんぷのあわいひかりにうかびあがるように、もじばんがかろうじてよめる。)

ランプの淡い光に浮かび上がるように、文字盤がかろうじて読める。

(ちょうしんはにじはんのあたりをさしていた。)

長針は2時半のあたりをさしていた。

(がらすばりになっているしたはんぶんに、ふりこがみえる。)

ガラス張りになっている下半分に、振り子が見える。

(しかしそれはうごいておらず、このとけいがもはや)

しかしそれは動いておらず、この時計がもはや

(きのうしていないことをしめしていた。)

機能していないことを示していた。

(うでどけいをかくにんするが、ちょうどそのくらいのじかんだ。)

腕時計を確認するが、ちょうどそのくらいの時間だ。

(ふりこがとまっているだけで、もしかしてとけいじたいはこわれては)

振り子が止まっているだけで、もしかして時計自体は壊れては

(いないのだろうか、とおもっているとししょうがことばをついだ。)

いないのだろうか、と思っていると師匠が言葉を継いだ。

(「そのうでどけいはすすんでるか?おくれているか?」)

「その腕時計は進んでるか?遅れているか?」

(ふられて、またじぶんのうでどけいにめをおとすが、はたしてどうだっただろう。)

振られて、また自分の腕時計に目を落とすが、はたしてどうだっただろう。

など

(たしかいち、にふんすすんでたきがするが。)

たしか1、2分進んでた気がするが。

(「どんなせいみつなとけいでも、かんぺきにせいかくなじかんをさしつづけることは)

「どんな精密な時計でも、完璧に正確な時間をさしつづけることは

(できない。100おくぶんの1びょうなんていうたんいではまるでごさがないように)

できない。100億分の1秒なんていう単位ではまるで誤差がないように

(みえたとしても、その100おくぶんの1では?さらにその100おくぶんの1では?)

見えたとしても、その100億分の1では?さらにその100億分の1では?

(さらにその100おくの100おくじょうぶんの1では?」)

さらにその100億の100億乗分の1では?」

(らんぷのあかりがかすかなきりゅうにゆれているようなさっかくに、)

ランプの明かりがかすかな気流に揺れているような錯覚に、

(おれはししょうのかおをみながらめをする。)

俺は師匠の顔を見ながら目を擦る。

(「とけいは、つくられたしゅんかんから、せいかくなじかんというたったひとつのとくいてんから)

「時計は、作られた瞬間から、正確な時間というたった一つの特異点から

(とおざかっていくんだ。それはぶすいなでんぱとけいのようにがいぶからの)

遠ざかって行くんだ。それは無粋な電波時計のように外部からの

(しゅうせいそうちでもそんざいしないかぎり、どんなとけいにもひとしくあたえられた)

修正装置でも存在しない限り、どんな時計にも等しく与えられた

(うんめいといえる」ところが、とししょうはわずかにみをおこした。)

運命といえる」ところが、と師匠はわずかに身を起こした。

(「このこわれたはしらどけいは、こわれているというまさにそのことのために、)

「この壊れた柱時計は、壊れているというまさにそのことのために、

(ふつうのとけいにはたどりつけないしんじつのしゅんかんにてがとどくんだ」)

普通の時計にはたどり着けない真実の瞬間に手が届くんだ」

(おれはおもわず、とけいのもじばんをみあげた。)

俺は思わず、時計の文字盤を見上げた。

(ちょうしんとたんしんが、90どよりわずかにひろいかくどでこおりついたままうごかない。)

長針と短針が、90度よりわずかに広い角度で凍りついたまま動かない。

(「いちにちのうち、たったいちど、かんぺきにただしいじかんをさす。そのしゅんかんは)

「一日のうち、たった一度、完璧に正しい時間をさす。その瞬間は

(けいじじょうがくてきなせつなのあいだだとしても、たったいちど、かならずさすんだ」)

形而上学的な刹那の間だとしても、たった一度、必ずさすんだ」

(とうぜんとしたひょうじょうで、ししょうはとけいをみている。)

陶然とした表情で、師匠は時計を見ている。

(それがよるまでまってこのじかんにわざわざきたりゆうか。)

それが夜まで待ってこの時間にわざわざ来た理由か。

(おれはいじわるく、ことばのあげあしをとりにいった。)

俺は意地悪く、言葉の揚げ足をとりに行った。

(「にどですよ。いちにちのうち、よるのにじはんと、ひるまの14じはんのにどです」)

「2度ですよ。一日のうち、夜の2時半と、昼間の14時半の2度です」

(ところがししょうは、そのぶえんりょなひはんにはなんのかちもないというように)

ところが師匠は、その無遠慮な批判にはなんの価値もないというように

(くびをふって、ひとことひとことたしかめるようにいった。)

首を振って、一言一言確かめるように言った。

(「いちどだけだよ。このとけいがさしているのは、いまの、このじかんなんだ」)

「1度だけだよ。この時計がさしているのは、今の、この時間なんだ」

(いっしゅんあたまをひねったが、そのことばになんのごうりてきかいしゃくもなかった。)

一瞬頭を捻ったが、その言葉になんの合理的解釈もなかった。

(ただししょうはなんのうたがいもないこえで、そうだんげんするのだった。)

ただ師匠はなんの疑いもない声で、そう断言するのだった。

(ぱきんというおとがひびいた。やなりだ。おれはみをかたくする。)

パキンという音が響いた。家鳴りだ。俺は身を硬くする。

(てんじょうのあたりをこわごわみあげるが、ひらやどくとくのくらくひろいくうかんとはりがあるだけだ。)

天井のあたりを恐々見上げるが、平屋独特の暗く広い空間と梁があるだけだ。

(みし・・・・・・みし・・・・・・)

ミシ・・・・・・ミシ・・・・・・

(というもくざいがきしむおとがきこえてくる。)

という木材が軋む音が聞こえてくる。

(じっかにいたころはよくなっていたが、いまのあぱーとにこしてからは)

実家にいたころはよく鳴っていたが、今のアパートに越してからは

(そざいがちがうせいかほとんどきくことはなかったおとだ。)

素材が違うせいかほとんど聞くことはなかった音だ。

(まるで、はしらどけいがほんらいのじかんとこうさするのをまっていたかのように、)

まるで、柱時計が本来の時間と交差するのを待っていたかのように、

(やなりはつづいた。ばきん、というおおきなおとにおもわずみをすくませる。)

家鳴りは続いた。バキン、という大きな音に思わず身を竦ませる。

(たしかしっけをふくんだそざいなどが、くうきがかんそうしきおんのさがるよなかにちぢみはじめ、)

たしか湿気を含んだ素材などが、空気が乾燥し気温の下がる夜中に縮み始め、

(それがゆかやかべ、はしらなどのこうぞうぶつどうしのわずかなずれをうんで、)

それが床や壁、柱などの構造物どうしのわずかなズレを生んで、

(ぶきみなおとをたてるげんしょうのはずだ。ただのいえではない。)

不気味な音を立てる現象のはずだ。ただの家ではない。

(この、どんなおどろおどろしいものがあるのかわからないうすきみのわるいいえで、)

この、どんなおどろおどろしい物があるのか分からない薄気味の悪い家で、

(たよりないらんぷのきいろいひかりにてらされているみでは、)

頼りないランプの黄色い光に照らされている身では、

(このおとをただのやなりだときらくにかまえるきにはなれない。)

この音をただの家鳴りだと気楽に構える気にはなれない。

(むかいにすわるししょうをみると、めをとじてまるでおんがくをきくように)

向かいに座る師匠を見ると、目を閉じてまるで音楽を聴くように

(くちのはをどこかたのしげにゆがませている。)

口の端をどこか楽しげに歪ませている。

(おれもそふぁにねがはえたようにうごかず、ただひたすらこのふるいいえに)

俺もソファに根が生えたように動かず、ただひたすらこの古い家に

(だんぞくてきにひびくおとをきいていた。)

断続的に響く音を聞いていた。

(どれほどじかんがたったのか、ふいにししょうがちょっとまっててといいおいて、)

どれほど時間が立ったのか、ふいに師匠がちょっと待っててと言い置いて、

(たったひとつのあかりとともにろうかのほうへきえていった。)

たった一つの明かりとともに廊下の方へ消えていった。

(りびんぐにやみのちょうがすーっとおりてきて、)

リビングに闇の帳がスーッと下りてきて、

(ばしん・・・・・・ぱきん・・・・・・というやなりがやけにりったいてきになって)

バシン・・・・・・パキン・・・・・・という家鳴りがやけに立体的になって

(くうかんちゅうにひびきわたる。こころぼそくなってきたころ、ようやくししょうが)

空間中に響き渡る。心細くなってきたころ、ようやく師匠が

(こわきになにかをかかえるようにしてもどってきた。)

小脇になにかを抱えるようにして戻ってきた。

(てーぶるのまんなかにそれをおき、らんぷをかざした。えだった。)

テーブルの真ん中にそれを置き、ランプを翳した。絵だった。

(それも、みたしゅんかん、りゆうもわからないままとりはだがたつような、)

それも、見た瞬間、理由も分からないまま鳥肌が立つような、

(ほんのうにちょくせつとどく、きみのわるいえだった。なぜこんなえがこわいのかわからない。)

本能に直接届く、気味の悪い絵だった。なぜこんな絵が怖いのか分からない。

(きゃんぱすいちめんのくろじにただいってん、まんなかからすこしずれたあたりに)

キャンパス一面の黒地にただ一点、真ん中から少しずれたあたりに

(きいろいしみのようないろがぽつんとおいてある。そんなえだった。)

黄色い染みのような色がぽつんと置いてある。そんな絵だった。

(「このいえのもとのしょゆうしゃはね、ようがかだったんだ」)

「この家の元の所有者はね、洋画家だったんだ」

(それも、ばんねんにきのふれたがかだった。ししょうはつぶやくようにいう。)

それも、晩年に気の触れた画家だった。師匠は呟くように言う。

(「じぶんのえがいたえをみて、「だれか、なかに、いた」といっておびえる、)

「自分の描いた絵を見て、『誰か、中に、いた』と言って怯える、

(そんなひとだったらしい。このえも、じぶんでえがいておきながら)

そんな人だったらしい。この絵も、自分で描いておきながら

(「これはなんのえだろう」といったかとおもうと、)

『これはなんの絵だろう』と言ったかと思うと、

(そのままなんしゅうかんもなんかげつもかんがえこんでいたそうだ」ばきっ、とかべがないた。)

そのまま何週間も何ヶ月も考え込んでいたそうだ」バキッ、と壁が泣いた。

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