田舎 中編-1-

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師匠シリーズ
マイタイピングに師匠シリーズが沢山あったと思ったのですが、なくなってまっていたので、作成しました。

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問題文

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(そもそものはじまりは、だいがくいっかいせいのあきにじつにはんぱなながさの)

そもそもの始まりは、大学1回生の秋に実に半端な長さの

(しけんやすみなるものがぽっこりとしゅつげんしたことによる。)

試験休みなるものがぽっこりと出現したことによる。

(そのやすみに、ずいぶんひさしかったははかたのいなかへのきせいりょこうをおもいついたのだが、)

その休みに、随分久しかった母方の田舎への帰省旅行を思いついたのだが、

(それがどういうわけかししょう、cocoさん、きょうすけさんというさんにんのせんぱいを)

それがどういうわけか師匠、CoCoさん、京介さんという3人の先輩を

(ひきつれてのみちゆきとなってしまった。たのしみではあったが、)

引き連れての道ゆきとなってしまった。楽しみではあったが、

(そこはかとないふあんがどんよりとみちのさきにあるのを)

そこはかとない不安がどんよりと道の先にあるのを

(おれはみてみぬふりをしていたのだった。)

俺は見て見ぬ振りをしていたのだった。

(えきまでむかえにきてくれたおじのくるまはななにんのりだったが、)

駅まで迎えに来てくれた伯父の車は7人乗りだったが、

(じょしゅせきにおじのいえでかっているしばいぬがまるまってねていたので)

助手席に伯父の家で飼っている柴犬が丸まって寝ていたので

(きょうすけさんとcocoさん、おれとししょうというならびでそれぞれちゅうぶざせき、)

京介さんとCoCoさん、俺と師匠という並びでそれぞれ中部座席、

(こうぶざせきにおさまっていた。おれとしては、そのしばいぬがまだいきていたことに)

後部座席に収まっていた。俺としては、その柴犬がまだ生きていたことに

(まずおどろいた。みみのかたちにみおぼえのあるとくちょうがあったので、)

まず驚いた。耳の形に見覚えのある特徴があったので、

(そのこどもかとおもったのだが「りゅう」ほんにんなのだという。)

その子供かと思ったのだが「リュウ」本人なのだという。

(20さいはかくじつにこえているはずだ。おじにりゅうのとしをきくと、)

20歳は確実に超えているはずだ。伯父にリュウの歳を聞くと、

(「わすれた」といってわらうだけだった。「こいつはどらいぶがすきでなあ、)

「忘れた」と言って笑うだけだった。「こいつはドライブが好きでなあ、

(むかしゃようつれてったもんじゃけんど、さいきんはぜんぜんでたがらん)

昔ゃよう連れてったもんじゃけんど、最近は全然出たがらん

(なっちょったがよ。きょうはめずらしい」きょうすけさんがうなずきながらてをのばし、)

なっちょったがよ。今日は珍しい」京介さんが頷きながら手を伸ばし、

(まえのざせきでねそべっているりゅうのおしりのあたりをなでる。)

前の座席で寝そべっているリュウのお尻のあたりを撫でる。

(りゅうはちらっとだけしせんをむけて、またしずかにめをとじた。)

リュウはちらっとだけ視線を向けて、また静かに目を閉じた。

(くるまはかいちょうにこくどうをとばしていた。さんかんのみちをひたすらにひがしへすすむ。)

車は快調に国道をとばしていた。山間の道をひたすらに東へ進む。

など

(みぎてにかわがあらわれて、ごつごつしたきょだいないわがしかいにはいっては)

右手に川が現れて、ゴツゴツした巨大な岩が視界に入っては

(すぐにこうほうへとびさっていった。)

すぐに後方へ飛び去っていった。

(「なんちゃあないろう」なにもないところだろう。)

「なんちゃあないろう」何もないところだろう。

(そういうおじのことばにはへんにかざったところも、ひくつなところもなく、)

そういう伯父の言葉には変に飾ったところも、卑屈なところもなく、

(きもちがよかった。cocoさんがとちのことなどあれこれをきき、)

気持ちが良かった。CoCoさんが土地のことなどあれこれを聞き、

(きょうすけさんもいつになくくちがなめらかだった。おじがいったじょうだんに)

京介さんもいつになく口が滑らかだった。伯父が言った冗談に

(ししょうがやたらうけてわらいごえをあげ、そのよいんでたのしそうに)

師匠がやたらウケて笑い声をあげ、その余韻で楽しそうに

(となりのおれのかたをたたきながらかおをよせて、ひょうじょうとまったくちがうさめたちょうしで)

隣の俺の肩を叩きながら顔を寄せて、表情とまったく違う冷めた調子で

(「ところで」といった。「ぼくがいまみているものを、つたえてもいいか」)

「ところで」と言った。「僕が今見ているものを、伝えてもいいか」

(おれにしかきこえないくらいのちいさなささやきこえに、)

俺にしか聞こえないくらいの小さな囁き声に、

(いきなりれいすいをかけられたようなきぶんになった。)

いきなり冷水をかけられたような気分になった。

(ひざしのつよかったはずのまどのそとがきゅうにくらくなり、こくどうのすぐよこを)

日差しの強かったはずの窓の外が急に暗くなり、国道のすぐ横を

(ながれているかわはやみにきえるようにすいめんもみえなくなった。)

流れている川は闇に消えるように水面も見えなくなった。

(そしてあたりからおとがきえ、くるまのふろんとがらすのむこうにはくろいきりが)

そしてあたりから音が消え、車のフロントガラスの向こうには黒い霧が

(うずをまいている。やがてかわぞいのがーどれーるのあたりに、)

渦を巻いている。やがて川沿いのガードレールのあたりに、

(こおりついたようなあおじろいひとのかおがいくつもならびはじめた。)

凍りついたような青白い人の顔がいくつも並びはじめた。

(くらくてくびからしたはみえない。かおだけがのっぺりとうかびあがっている。)

暗くて首から下は見えない。顔だけがのっぺりと浮かび上がっている。

(おとこのかおもあればおんなのかおもある。それも、おとながどうろぶちにたっているような)

男の顔もあれば女の顔もある。それも、大人が道路ぶちに立っているような

(たかさのものもあれば、そのはんぶんのたかさのもの、)

高さのものもあれば、その半分の高さのもの、

(はるかみあげるようないちにあるもの、じめんにおちているもの、)

はるか見上げるような位置にあるもの、地面に落ちているもの、

(さまざまなかおが、しかしどれもむひょうじょうでこちらをみているのだった。)

様々な顔が、しかしどれも無表情でこちらを見ているのだった。

(そしてむひょうじょうのまま、そのかおたちはそれぞれくちをかすかにひらいている。)

そして無表情のまま、その顔たちはそれぞれ口を微かに開いている。

(おともなくくるまのまどがらすごしにしかいははしり、てをのばせばとどきそうなきょりに、)

音もなく車の窓ガラス越しに視界は走り、手を伸ばせば届きそうな距離に、

(あらいやみにうかぶかおがまるでじょうげにうねるようなれんぞくたいとなってみえた。)

暗闇に浮かぶ顔がまるで上下にうねる様な連続体となって見えた。

(それぞれのくちのかたちは、れんぞくすることによっていくつかのたんごをのうりに)

それぞれの口の形は、連続することによっていくつかの単語を脳裏に

(きょうせいてきにおもいおこさせようとしていた。)

強制的に想起させようとしていた。

(じぶんのしんぞうのおとだけがひびき、おれはくらいまどのそとからめをはなせないでいる。)

自分の心臓の音だけが響き、俺は暗い窓の外から目を離せないでいる。

(「なにをふきこんでるんだ」きょうすけさんのそのこえに、ふいにわれにかえった。)

「なにを吹き込んでるんだ」京介さんのその声に、ふいに我に返った。

(せかいに、おとがもどってきた。くらかったしかいもいっしゅんのうちにきりがはれたように)

世界に、音が戻ってきた。暗かった視界も一瞬のうちに霧が晴れたように

(もとにもどり、あすふぁるとのてりかえしがめにとびこんでくる。)

元に戻り、アスファルトの照り返しが目に飛び込んでくる。

(ししょうがすぅっ、とちかづけていたかおをとおざける。「べつに、なにも」)

師匠がすぅっ、と近づけていた顔を遠ざける。「別に、なにも」

(きょうすけさんがこちらをにらむ。「あと30ふんくらいでつくきに」)

京介さんがこちらを睨む。「あと30分くらいで着くきに」

(おじがのうてんきなこえでそういった。きょうすけさんがまえにむきなおると、)

伯父が能天気な声でそう言った。京介さんが前に向き直ると、

(ししょうはまたかおをよせてきて「こわいな、あいつ」という。)

師匠はまた顔を寄せてきて「怖いな、アイツ」と言う。

(おれはさっきのたいけんをはんすうして、どうやら「ししょうがみているもの」のせつめいを)

俺はさっきの体験を反芻して、どうやら「師匠が見ているもの」の説明を

(きかされているうちに、まるではくちゅうむのようにりあるなさいこうちくを)

聞かされているうちに、まるで白昼夢のようにリアルな再構築を

(のうないでおこなってしまったとけつろんづける。もちろん、さいみんじゅつをかじっているという)

脳内で行ってしまったと結論づける。もちろん、催眠術をかじっているという

(ししょうのいたずらにはちがいない。)

師匠のイタズラには違いない。

(そのししょうが「ぼくのみているせかいはどうだった」ときいてくる。)

その師匠が「僕の見ている世界はどうだった」と聞いてくる。

(「あのかおはなんですか」とささやきかえす。)

「あの顔はなんですか」と囁き返す。

(あのまぼろしからは”きょぜつ”というたしかなあくいがかんじられた。)

あの幻からは”拒絶”という確かな悪意が感じられた。

(ところがししょうは、それをおばけともあくりょうともよばなかった。)

ところが師匠は、それをお化けとも悪霊とも呼ばなかった。

(「かみさまだよ」さいのかみ。なじみぶかいことばでいえばさいのかみ。)

「神様だよ」塞の神。馴染み深い言葉でいえば道祖神。

(そんなことばがみみもとにながれてくる。「おとこのかおも、おんなのかおもあっただろう。)

そんな言葉が耳元に流れてくる。「男の顔も、女の顔もあっただろう。

(そうたいさいのかみといって、それほどめずらしくもないだんじょについのみちのかみさまだ。)

双体道祖神といって、それほど珍しくもない男女2対の道の神様だ。

(つじやみちのはしにありたびびとのあんぜんをきがんするとどうじに、むらやしゅうらくといった)

辻や道の端にあり旅人の安全を祈願すると同時に、村や集落といった

(きょうどうたいへのいぶつのしんにゅうをふせぐやくわりをはたしている。)

共同体への異物の侵入を防ぐ役割を果たしている。

(たぶんこのどうろぞいのどこかにいしにほられたものがあったはずだ」)

たぶんこの道路沿いのどこかに石に彫られたものがあったはずだ」

(「・・・・・・いぶつってなんですか」おれのといにししょうはおかしそうにささやいた。)

「……異物ってなんですか」俺の問いに師匠は可笑しそうに囁いた。

(「えきびょうとかあくりょうとか、そとからもたらされるがいあくのみなもと。)

「疫病とか悪霊とか、ソトからもたらされる害悪の源。

(おにはそと、ふくはうちってね。さいわいをもたらすものはかんげいし、)

鬼はソト、福はウチってね。幸いをもたらすものは歓迎し、

(わざわいをもたらすものはきょぜつする。)

災いをもたらすものは拒絶する。

(さいのかみはそのせんびきをする、かだんなせいかくのかみさまだね」)

道祖神はその線引きをする、果断な性格の神様だね」

(もちろんうちにいるものにとっては、なにもきにするひつようのない、)

もちろんウチにいる者にとっては、何も気にする必要のない、

(むがいなかみさまさ。ししょうはそういってうれしそうにつづける。)

無害な神様さ。師匠はそう言って嬉しそうに続ける。

(「ぼくくらい、いろんなびょーきをもってそとからやってくるにんげんはべつだけど」)

「僕くらい、いろんなビョーキを持ってソトからやってくる人間は別だけど」

(びょーき。ここではなんのいんごなのか、すごくきになるところだったが)

ビョーキ。ここではなんの隠語なのか、すごく気になるところだったが

(ししょうはきょうすけさんのしせんをかんじたらしく、またじぶんのすわりいちにもどっていった。)

師匠は京介さんの視線を感じたらしく、また自分の座り位置に戻っていった。

(くるまはこくどうからはなれ、そんどうだかけんどうだかのやまみちへとはいっていった。)

車は国道から離れ、村道だか県道だかの山道へと入っていった。

(まどのそといっぱいにひろがるみどりのきぎをしかいのはしにとらえながら、)

窓の外いっぱいに広がる緑の木々を視界の端に捕らえながら、

(おれのあたまのなかには「ぼくのみているせかい」というたんごがへばりつくように)

俺の頭の中には『僕の見ている世界』という単語がへばりつく様に

(はなれないでいた。ししょうはいつも、あんなそこびえのするようなあくいのなかを)

離れないでいた。師匠はいつも、あんな底冷えのするような悪意の中を

(いきているのだろうか。おじがまたなにかじょうだんをいってcocoさんが)

生きているのだろうか。伯父がまたなにか冗談を言ってCoCoさんが

(わらいごえをあげたとき、ししょうがふいにかおをよせ、ささやいた。)

笑い声をあげたとき、師匠がふいに顔を寄せ、囁いた。

(「あんなにつよいのはめずらしい。これもとちがらかな」くるまが、ようやくとまった。)

「あんなに強いのは珍しい。これも土地柄かな」車が、ようやく止まった。

(おもったよりはやくついた。みちがよくなったのだろうか。)

思ったより早く着いた。道がよくなったのだろうか。

(つれてこられたことしかないじぶんにはよくわからなかった。)

連れてこられたことしかない自分にはよくわからなかった。

(「さあおりとうせ」というおじのこえに、おれたちはそとにでる。)

「さあ降りとうせ」という伯父の声に、俺たちは外に出る。

(みわたすかぎりのやまのなかだ。めをあげると、たにをへだてたやまむこうのみねはなおたかい。)

見渡す限りの山の中だ。目を上げると、谷を隔てた山向こうの峰はなお高い。

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