田舎 中編-7-
順位 | 名前 | スコア | 称号 | 打鍵/秒 | 正誤率 | 時間(秒) | 打鍵数 | ミス | 問題 | 日付 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
1 | tetsumi | 5148 | B+ | 5.3 | 97.2% | 963.0 | 5104 | 146 | 88 | 2024/10/13 |
2 | daifuku | 3583 | D+ | 3.8 | 93.7% | 1292.9 | 4965 | 332 | 88 | 2024/10/27 |
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問題文
(ゆきおがげんつきにのってやってきたのは、あさのじゅうじすぎだった。)
ユキオが原付に乗ってやって来たのは、朝の10時過ぎだった。
(「おー、りゅう。おでむかえとはめずらしいにゃあ」)
「おー、リュウ。お出迎えとは珍しいにゃあ」
(そういいながら、のきさきにすわっているりゅうのあたまをなでた。)
そう言いながら、軒先に座っているリュウの頭を撫でた。
(おれもあさがた、めしをたべにのそのそといぬごやからはいでてきたりゅうのかおを)
俺も朝方、飯を食べにノソノソと犬小屋から這い出てきたリュウの顔を
(じっくりとかんさつしたが、きおくのヴぇーるは「じしんないけど、)
じっくりと観察したが、記憶のヴェールは「自信ないけど、
(りゅうらしい」というていどにしか、しんじつにちかよらせてくれなかった。)
リュウらしい」という程度にしか、真実に近寄らせてくれなかった。
(「じゃあさっそくいこう」)
「じゃあさっそく行こう」
(ゆきおがげんつきでせんどうし、おれたちはししょうのうんてんで)
ユキオが原付で先導し、俺たちは師匠の運転で
(おじにかりたくるまにのってついていった。)
伯父に借りた車に乗ってついていった。
(さいしょきょうすけさんがうんてんせきにのろうとすると、ししょうが「しょしんしゃまーくは)
最初京介さんが運転席に乗ろうとすると、師匠が「初心者マークは
(おとなしくうしろにのってろ」というようなことをいって、)
大人しく後ろに乗ってろ」というようなことを言って、
(「そっちもたいしたうでじゃないくせに」といいかえされ、)
「そっちも大した腕じゃないくせに」と言い返され、
(けんあくなむーどになりかけたことをいいそえておく。)
険悪なムードになりかけたことを言い添えておく。
(ゆきおの「せんせい」は、ほんとうにがっこうのせんせいだったらしい。)
ユキオの「先生」は、本当に学校の先生だったらしい。
(ゆきおはしょうがっこうのころにおそわったことがあるそうだ。)
ユキオは小学校の頃に教わったことがあるそうだ。
(ていねんになり、こどもたちがひとりだちするとやまおくにとちをかって)
定年になり、子供たちが独り立ちすると山奥に土地を買って
(すまいをかまえておくさんとふたりでくらしているとのことだった。)
住まいを構えて奥さんと二人で暮らしているとのことだった。
(「こんないなかでこうむいんなんてやってると、でんとーってのを)
「こんな田舎で公務員なんてやってると、デントーってのを
(まもるぎむからにげれんがよ」でかけにゆきおはそういったが、)
守る義務から逃げれんがよ」出掛けにユキオはそう言ったが、
(かぐらをならっていることじたいはまんざらいやでもないようすだった。)
神楽を習っていること自体はまんざら嫌でもない様子だった。
(「せんせいはちょっときむつかしいき、へんなこというてもきぃわるうせんとってください」)
「先生はちょっと気難しいき、変なこと言うても気ぃ悪うせんとって下さい」
(おれはおさないころにみたしろしょうぞくのたゆうさんのしんぴてきなよこがおをすがたをおもいうかべた。)
俺は幼い頃に見た白装束の太夫さんの神秘的な横顔を姿を思い浮かべた。
(くるまはいちどこくどうにでてからかわぞいをはしり、ふたたびやまがわへおれると)
車は一度国道に出てから川沿いを走り、再び山側へ折れると
(そこからはえんえんとやまみちをあがっていった。)
そこからは延々と山道を上って行った。
(みちはわるく、われたいわのかけらのようなものが)
道は悪く、割れた岩のかけらのようなものが
(あすふぁるとのうえのそこかしこにころがっている。)
アスファルトの上のそこかしこに転がっている。
(「これってらくせきじゃないのか」とししょうはぶつぶついいながらも)
「これって落石じゃないのか」と師匠はぶつぶつ言いながらも
(しんちょうにいしをさけていく。きのうよりいくぶんひざしはおだやかで、くるまのまどをあけると)
慎重に石を避けていく。昨日より幾分日差しは穏やかで、車の窓を開けると
(かぜがはいってちょうどいいすずしさだ。やまのしゃめんにへびのくろいどうたいをみたきがして)
風が入ってちょうどいい涼しさだ。山の斜面に蛇の黒い胴体を見た気がして
(みをのりだしたとき、こうぶざせきのcocoさんがふいにくちをあいた。)
身を乗り出した時、後部座席のCoCoさんがふいに口を開いた。
(「ばいくから、はなれないほうがいい」)
「バイクから、離れない方がいい」
(さっきまでとなりのきょうすけさんをいみなくくすぐってさわいでいたのに、)
さっきまで隣の京介さんを意味なくくすぐって騒いでいたのに、
(いっぺんしてしんけんなひびきのこえだったのでおもわずぜんぽうにしせんをうつす。)
一変して真剣な響きの声だったので思わず前方に視線をうつす。
(ゆきおをみうしないそうになっているのかとおもったが、てきどなきょりをたもったまま)
ユキオを見失いそうになっているのかと思ったが、適度な距離を保ったまま
(くるまはついていけている。どういういみだったのだろうと)
車はついていけている。どういう意味だったのだろうと
(cocoさんのほうをふりかえろうとしたとき、ふしぎなことがおこった。)
CoCoさんの方を振り返ろうとした時、不思議なことが起こった。
(ゆきおのげんつきがかそくしたようすもないのにするするとさきへさきへと)
ユキオの原付が加速した様子もないのにスルスルと先へ先へと
(とおざかっていくのだ。さかみちでこっちのくるまのそくどがおちたのかといっしゅんおもったが、)
遠ざかって行くのだ。坂道でこっちの車の速度が落ちたのかと一瞬思ったが、
(そうではない。そくどめーたーはおなじいちをさしたままだ。)
そうではない。速度メーターは同じ位置を指したままだ。
(なにがおこっているのかりかいできないうちにくるまはげんつきからはなされ、)
何が起こっているのか理解できないうちに車は原付から離され、
(ゆきおのしろいへるめっとはこちらをふりむきもしないでまがりくねる)
ユキオの白いヘルメットはこちらを振り向きもしないで曲がりくねる
(やまみちのおくへときえていこうとしていた。)
山道の奥へと消えて行こうとしていた。
(「あくせる」きょうすけさんがするどくいったが、ししょうは「ふんでる」とだけこたえて)
「アクセル」京介さんが鋭く言ったが、師匠は「踏んでる」とだけ答えて
(しんけんにしょうめんをみすえている。こちらがおそくなったわけでも、)
真剣に正面を見据えている。こちらが遅くなったわけでも、
(げんつきがはやくなったわけでもない。)
原付が早くなったわけでもない。
(おれのめにはみちがのびていっているようにみえた。)
俺の目には道が伸びていっているように見えた。
(しゅういをみまわすが、おなじようなさんちゅうのけしきがくりかえされるだけで、)
周囲を見回すが、同じような山中の景色が繰り返されるだけで、
(いったいどこが「ゆがんで」いるのかわからない。)
一体どこが「歪んで」いるのかわからない。
(そうしているうちにかんぜんにゆきおのげんつきをみうしなった。みちはいっぽんみちだ。)
そうしているうちに完全にユキオの原付を見失った。道は一本道だ。
(おいつくまでは、このまますすむしかない。)
追いつくまでは、このまま進むしかない。
(ししょうはいちどぎあをおとしたが、かいてんおんがはでになるだけでこうかがない。)
師匠は一度ギアを落としたが、回転音が派手になるだけで効果がない。
(「まずいなあ」ぎあをもどしながらつぶやく。「これって、なんのたたり?」)
「まずいなあ」ギアを戻しながら呟く。「これって、なんの祟り?」
(ししょうのかるいちょうしに、きょうすけさんは「しらない」とつきはなす。)
師匠の軽い調子に、京介さんは「知らない」と突き放す。
(おれはいまおきていることをしんじられずに、ひたすらめをきょろきょろさせていた。)
俺は今起きていることを信じられずに、ひたすら目をキョロキョロさせていた。
(まだごぜんちゅうのはやいじかんたいだ。すべてがじょうだんのようにおもえる。「じつにまずい」)
まだ午前中の早い時間帯だ。すべてが冗談のように思える。「実にまずい」
(ぜんぽうにめをむけると、みちがますますせまくなっているようなきがした。)
前方に目を向けると、道がますます狭くなっているような気がした。
(かーぶもきつくなっていて、ふろんとがらすのむこうがわのけしきは)
カーブもきつくなっていて、フロントガラスの向こう側の景色は
(いちめんにきつりつするき、き、き。)
いちめんに屹立する木、木、木。
(みどりいろとやまのくろいじはだがかべとなってせまってくるかのようだ。)
緑色と山の黒い地肌が壁となって迫ってくるかのようだ。
(ぎりぎりにしゃせんのはばが、いまはかんぜんにいっしゃせんになっている。がーどれーるもき)
ギリギリ二車線の幅が、今は完全に一車線になっている。ガードレールも
(えさってしまった。みぎがわはけいこくだ。てんらくしたらまず、いのちはない。)
消えさってしまった。右側は渓谷だ。転落したらまず、命はない。
(はんのうをみるかぎり、おれがみているものをほかのさんにんもみているのはまちがいない。)
反応を見る限り、俺が見ているものを他の3人も見ているのは間違いない。
(しゅうだんげんかく?そんなことばがあたまをよぎる。)
集団幻覚?そんな言葉が頭をよぎる。
(しかし、くるまのあくせるのこうかまでそんなものにそくばくされてしまうのだろうか。)
しかし、車のアクセルの効果までそんなものに束縛されてしまうのだろうか。
(「なあ」とししょうがcocoさんによびかけた。「これって、ゆめじゃない?」)
「なあ」と師匠がCoCoさんに呼びかけた。「これって、夢じゃない?」
(cocoさんはくびをよこにふる。ししょうはすこしたってからうなずく。きみょうなやりとりだ。)
CoCoさんは首を横に振る。師匠は少し経ってから頷く。奇妙なやりとりだ。
(「なにかほかにいへんがおきてくれれば、ひんとになるんだけどな。)
「なにか他に異変が起きてくれれば、ヒントになるんだけどな。
(たとえばきのえだに」にんげんがつりさがっているとか・・・・・・)
たとえば木の枝に」人間がつりさがっているとか……
(ささやくようなししょうのくちょうに、おもわずみをすくめる。)
囁くような師匠の口調に、思わず身を竦める。
(ほんとうにしゅういのさんりんのなかにそんなぶきみなこうけいがあらわれるようなきがして、)
本当に周囲の山林のなかにそんな不気味な光景が現れるような気がして、
(ちりちりとうなじのけがさかだつ。まえへのびるみちとうしろへのびるみち。)
チリチリとうなじの毛が逆立つ。前へ伸びる道と後ろへ伸びる道。
(そのりょうたんが、まがりくねるやまのどこかでつながっているようないめーじが)
その両端が、曲がりくねる山のどこかで繋がっているようなイメージが
(あたまをかすめ、ぞくりとした。)
頭を掠め、ゾクリとした。
(ししょうはせまってくるするどいかーぶにきわどくはんどるをきりつづけている。)
師匠は迫ってくる鋭いカーブに際どくハンドルを切り続けている。
(まるでとまることをおそれているようだった。いへん、いへん。そんなふれーずが)
まるで止まることを畏れているようだった。異変、異変。そんなフレーズが
(あたまのなかでくりかえされていると、しせんのなかに)
頭の中で繰り返されていると、視線の中に
(みおぼえのあるものがちらっとうつったきがした。)
見覚えのあるものがチラッと映った気がした。
(やまのしゃめんにめをこらすが、あっというまにとおりすぎる。)
山の斜面に目を凝らすが、あっと言う間に通り過ぎる。
(すこしして、ぜんぽうにもういちどおなじものがあらわれた。それをみたしゅんかんおれはさけんだ。)
少しして、前方にもう一度同じものが現れた。それを見た瞬間俺は叫んだ。
(「へびが!」ししょうがすばらしいはんのうでぶれーきをかける。)
「蛇が!」師匠が素晴らしい反応でブレーキを掛ける。
(くるまはかーぶするしゃめんになかばすりそうになりがらとまった。)
車はカーブする斜面に半ば擦りそうになりがら止まった。
(きょうすけさんがこうぶざせきのどあをあけてとびおりる。)
京介さんが後部座席のドアを開けて飛び降りる。
(そしてすぐさまきのねっこをよじのぼり、やまはだによこたわったくろいへびのすがたを)
そしてすぐさま木の根っこをよじ登り、山肌に横たわった黒い蛇の姿を
(とらえた。おれたちもくるまからおりてちかづく。)
とらえた。俺たちも車から降りて近づく。
(みると、そのくろいあたまにはながいくぎがしんしんとつきとおっている。)
見ると、その黒い頭には長い釘が深々と突き通っている。
(あたまからあごまでつらぬかれてじめんにぬいつけられ、へびはしんでいた。)
頭から顎まで貫かれて地面に縫い付けられ、蛇は死んでいた。
(たけのみじかいくさのなかにのたうつそのからだが、ちかすいのようにわきでた)
丈の短い草の中にのたうつその体が、地下水のように湧き出た
(どすぐろいちのようにみえる。)
どす黒い血のように見える。