田舎 中編-9-(完?)

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師匠シリーズ
マイタイピングに師匠シリーズが沢山あったと思ったのですが、なくなってまっていたので、作成しました。

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問題文

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(「まあつけやきばなのはみとめますが。ぼくがしりたいのは)

「まあ付け焼刃なのは認めますが。僕が知りたいのは

(じつはいぬかみすじについてなのです」「わしらにはかんけいない」)

実は犬神筋についてなのです」「わしらには関係ない」

(せんせいはたんたんとかえす。)

先生は淡々と返す。

(「まあきいてください。ごぞんじでしょうが、いぬかみすじというのは)

「まあ聞いてください。ご存知でしょうが、犬神筋というのは

(しこくにひろくぶんぷするでんしょうです」ししょうはせいざしたままかたった。)

四国に広く分布する伝承です」師匠は正座したまま語った。

(いわく、いぬかみをはらうことのできるわざのつたわるばしょには、)

曰く、犬神を祓うことのできるわざの伝わる場所には、

(それゆえにいぬかみがしゃかいのしんそうにひそむよちがあるのだと。)

それゆえに犬神が社会の深層に潜む余地があるのだと。

(ましてそんなぎほうがひびのせいかつのなかにおりこまれているこのちでは、)

ましてそんな技法が日々の生活の中に織り込まれているこの地では、

(いぬかみもまたにちじょうのすぐとなりにそんざいしている。)

犬神もまた日常のすぐ隣に存在している。

(「ここにくるとちゅう、あたまをくぎでつらぬかれたへびをみました。)

「ここに来る途中、頭を釘で貫かれた蛇を見ました。

(あきらかにのろいをかけるためのどうぐだてです。)

明らかに呪いをかけるための道具立てです。

(もしかりに、だれかのつかっているいぬかみの、そのどうたいをうめてあるひみつのばしょを)

もし仮に、誰かの使っている犬神の、その胴体を埋めてある秘密の場所を

(みつけられてしまったとしたら、そのだれかはいったいどうするのでしょうか」)

見つけられてしまったとしたら、その誰かは一体どうするのでしょうか」

(ししょうがことばをとぎれさせたそのしゅんかん、みんなのてもとにおいてあるゆのみが)

師匠が言葉を途切れさせたその瞬間、みんなの手元に置いてある湯飲みが

(いっせいにかたかたとなりはじめた。じしんかとおもい、とっさにでんとうのひもをみる。)

一斉にカタカタと鳴りはじめた。地震かと思い、とっさに電灯の紐を見る。

(ひもはわずかにゆれていて、そとからひかりのさすしょうじのしろいかみもかすかにしんどうしていた。)

紐はわずかに揺れていて、外から光の射す障子の白い紙も微かに振動していた。

(こぼれたおちゃのしずくをきょうすけさんがゆびですくい、じっとみつめている。)

こぼれたお茶の雫を京介さんが指で掬い、じっと見つめている。

(おれはどうやらただのびじゃくなじしんらしいとおもってなお、)

俺はどうやらただの微弱な地震らしいと思ってなお、

(えたいのしれないむなさわぎがした。)

得体の知れない胸騒ぎがした。

(ゆれがおさまってからせんせいはゆっくりとくちをひらく。「いね」)

揺れが収まってから先生はゆっくりと口を開く。「いね」

など

(え?とといかえすししょうに、「かえれ、というほうげんです」とみみうちする。)

え? と問い返す師匠に、「帰れ、という方言です」と耳打ちする。

(「それは、このちをさるほかないということですか」)

「それは、この地を去るほかないということですか」

(ししょうはきゅうにたちあがり、しょうじにちかづくとほねにてをかける。)

師匠は急に立ち上がり、障子に近づくと骨に手をかける。

(さーっときがすれるここちよいおととともに、まぶしいひかりがとびこんできた。)

サーッと木が擦れる心地よい音とともに、眩しい光が飛び込んできた。

(えんがわのむこうでは、にわにつくられたかきねのなかでにわとりがじめんをついばんでいる。)

縁側の向こうでは、庭につくられた垣根の中で鶏が地面をついばんでいる。

(そのようすをみながら、ししょうがぼそっといった。「ぜんぜんさわぎませんでしたね」)

その様子を見ながら、師匠がボソっと言った。「全然騒ぎませんでしたね」

(さっきのじしんのことをいっているのだときづくまで、すこしかかった。)

さっきの地震のことを言っているのだと気づくまで、少しかかった。

(たしかににわとりのさわぐおとはしなかった。「なんとかなりませんか」)

確かに鶏の騒ぐ音はしなかった。「なんとかなりませんか」

(ししょうのことばに、せんせいはくびをよこにふるだけだった。)

師匠の言葉に、先生は首を横に振るだけだった。

(ゆきおはよくわからないままにおろおろしているようにみえた。)

ユキオはよくわからないままにオロオロしているように見えた。

(「どうもぼくはここではやたらきらわれてるみたいだなあ。)

「どうも僕はここではやたら嫌われてるみたいだなあ。

(ふぃーるどわーくのためにきょうどしけんきゅうかだとかみんぞくがくのけんきゅうしゃが)

フィールドワークのために郷土史研究家だとか民俗学の研究者が

(たずねてくることだってあるでしょうに。)

訪ねてくることだってあるでしょうに。

(そんなぶがいしゃもみんなおいかえすんですか」)

そんな部外者もみんな追い返すんですか」

(「ひとじゃのうてまものがやってくりゃあ、つぶてでおいはらうががつねじゃ」)

「人じゃのうて魔物がやってくりゃあ、つぶてで追い払うががつねじゃ」

(まものときたよ。ししょうはこえになるかならぬかというこごえであしもとにこぼし、)

魔物と来たよ。師匠は声になるかならぬかという小声で足元にこぼし、

(またかおをあげた。「まものといえば、いざなぎりゅうではめにみえないまものを)

また顔を上げた。「魔物と言えば、いざなぎ流では目に見えない魔物を

(ぎしきにひっぱりだすために”ぬさ”というかみざいくをつくるそうですね。)

儀式に引っ張り出すために”幣”という紙細工を作るそうですね。

(まぐんというんですか。かわみさきだとか、すいじんめんたつだとか、)

魔群というんですか。川ミサキだとか、水神めんたつだとか、

(おろちおんたつだとか。かみさまをもしたものもおおいようですが。)

蛇おんたつだとか。神様を模したものも多いようですが。

(それぞれにきまったかたちのぬさがあって、きりかたおりかたは)

それぞれに決まった形の幣があって、切り方・折り方は

(ししょうからでしへごへいしゅうというかたちでつたえられるとききました。)

師匠から弟子へ御幣集という形で伝えられると聞きました。

(あるしりょうでなんてんかさしえをみたことがあります。)

ある資料で何点か挿絵を見たことがあります。

(やつらおだとかくつらおだとか、おどろおどろしいかいぶつも)

ヤツラオだとかクツラオだとか、おどろおどろしい怪物も

(ぬさになってしまえばずいぶんかわいらしくなってしまうとおもいました。)

幣になってしまえば随分可愛らしくなってしまうと思いました。

(・・・・・・ところで」ししょうはしょうじをしめ、いっしゅんしつないがくらくなる。)

……ところで」師匠は障子を閉め、一瞬室内が暗くなる。

(「いぬかみのぬさがないのはどうしてですか」)

「犬神の幣がないのはどうしてですか」

(だれのけはいともしれない、はっとしたくうきがただよう。)

誰の気配ともしれない、ハッとした空気が漂う。

(おれはかたずをのんでししょうをみている。)

俺は固唾を飲んで師匠を見ている。

(「どのしりょうをみてもでてこないんですよ。いぬかみをかたどったぬさが。)

「どの資料を見ても出てこないんですよ。犬神を象った幣が。

(たまたまかもしれない。あるいはみおとしかもしれない。)

たまたまかも知れない。あるいは見落としかも知れない。

(でもどこかひっかかるんです。いぬかみはふかくとちにくいこんだまもので、)

でもどこか引っかかるんです。犬神は深く土地に食い込んだ魔物で、

(しこくのかくちにいんぜんとひろがっている。いざなぎりゅうによってはらわれるたいしょうとして、)

四国の各地に隠然と広がっている。いざなぎ流によって祓われる対象として、

(どうしてもっとめだっていないんでしょうか」)

どうしてもっと目立っていないんでしょうか」

(せんせいはししょうのしせんをそらすようにてんをあおぎ、ふかくためいきをついた。)

先生は師匠の視線を逸らすように天を仰ぎ、深く溜息をついた。

(そしてそれきりめをとじて、なにもことばをはっしようとしなかった。)

そしてそれきり目を閉じて、なにも言葉を発しようとしなかった。

(「わかりました。いにますよ」いにますって、つかいかたあってるよね。)

「わかりました。いにますよ」いにますって、使い方合ってるよね。

(ししょうはおれにそういうと、せんせいにむかってあたまをさげ、とめるまもなくへやから)

師匠は俺にそう言うと、先生に向かって頭を下げ、止める間もなく部屋から

(でていってしまった。のこされたおれたちもいたたまれないふんいきになって、)

出て行ってしまった。残された俺たちもいたたまれない雰囲気になって、

(こしをあげざるをえなかった。だされたおちゃにだれひとりてもつけないままに)

腰を上げざるを得なかった。出されたお茶に誰ひとり手もつけないままに

(たいさんするはめになるとはおもわなかった。)

退散する羽目になるとは思わなかった。

(と、おれのとなりできょうすけさんがめのまえのゆのみにてをのばし、いっきにのみほした。)

と、俺の隣で京介さんが目の前の湯飲みに手を伸ばし、一気に飲み干した。

(かえれといわれたさりぎわにそんなことをするなんて、)

帰れと言われた去り際にそんなことをするなんて、

(すこしきょうすけさんのいめーじとはずれがあり、きみょうなこうどうにおもえた。)

少し京介さんのイメージとはズレがあり、奇妙な行動に思えた。

(するとたちあがりざま、おれにだけきこえるこえでこうささやくのだ。)

すると立ち上がりざま、俺にだけ聞こえる声でこうささやくのだ。

(「かしてるたりすまんはもってきたか」かぶりをふると、)

「貸してるタリスマンは持ってきたか」かぶりを振ると

(ひとりごとのように「きをつけろよ」といってへやからでていった。)

、独り言のように「気をつけろよ」と言って部屋から出て行った。

(おれはなにかよかんのようなものにおそわれて、じぶんのまえにおかれたゆのみをつかんだ。)

俺はなにか予感のようなものに襲われて、自分の前に置かれた湯飲みを掴んだ。

(つめたかった。おもわずてをはなす。だされたときはたしかにゆげがでていた。)

冷たかった。思わず手を離す。出された時は確かに湯気が出ていた。

(まちがいない。あれからほんのわずかしかじかんはたっていないというのに。)

間違いない。あれからほんのわずかしか時間は経っていないというのに。

(いっしゅんのうちにねつをうばわれたかのように、ゆのみのなかのおちゃはひえきっていた。)

一瞬のうちに熱を奪われたかのように、湯飲みの中のお茶は冷えきっていた。

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